単身赴任は離婚原因になりません。単身赴任は仕事の都合による正当な理由に基づく別居であり、夫婦関係の破綻を示す事情ではないためです。裁判で離婚が認められるのは、①不貞行為があった場合 ②単身赴任が実質的な別居に転じ、その状態が続いて婚姻関係が破綻したといえる場合です。実務で最も難しいのが財産分与の基準時で、対象は「別居時点」の共有財産ですが、単身赴任がいつ別居に変わったのかが曖昧になりがちです。帰省しなくなった時期、生活費の支払いが止まった時期、夫婦の連絡が途絶えた時期など、経済的な協力関係が失われた時点を基準にします。また、単身赴任中は相手の財産状況が把握しづらく、離婚を切り出す前に共有財産の資料をできる限り集めておくことが決定的に重要です。調停の申立先は相手方の住所地の家庭裁判所となるため、遠方になる点にも注意してください。
この記事のポイント
- 単身赴任は正当な理由による別居であり、それ自体は離婚原因にならない
- 離婚が認められるのは、不貞行為がある場合か、単身赴任が実質的な別居に転じて婚姻関係が破綻した場合
- 財産分与の対象は別居時点の共有財産。単身赴任が別居に転じた時期の特定が争点になりやすい
- 基準時の判断材料は、帰省しなくなった時期、生活費の支払いが止まった時期、夫婦のやり取りが途絶えた時期など経済的協力関係が失われた時点
- 離婚を切り出す前に相手方の共有財産の資料を集めておく。情報がなければ弁護士でも調査に限界がある
- 調停の申立先は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所。単身赴任では遠方になりやすく、電話会議やウェブ会議の利用を検討する
- 別居中は婚姻費用を請求できる。請求した時以降の分しか認められないため速やかに手続をとる
- 離婚の原因になりやすいのは、コミュニケーション不足、セックスレス、独身気分による不倫、生活費をめぐる金銭問題
- 合意できたら必ず合意書を作成する。養育費など継続的な支払いがあるなら強制執行認諾文言付きの公正証書にする
夫の単身赴任がきっかけで離婚を決意することはあります。その理由は様々です。
配偶者の浮気不倫もあれば、単身赴任により会う機会が減り愛情を喪失してしまうこともあります。
単身赴任中であっても、離婚原因があれば離婚することは認められますし、離婚原因がなくても、夫婦で合意できれば離婚することはできます。
しかし、離婚に際しては、財産分与、子どもの親権や養育費、面会交流といった問題を解決しなければなりません。
本記事では、単身赴任中の離婚トラブルを弁護士が詳しく解説します。
単身赴任を理由に離婚できるのか?

単身赴任中に離婚するためには、離婚原因が必ず必要というわけではありません。夫婦双方が離婚に合意出来る場合には、法定の離婚原因は必要ではありません。
ただ、相手方が離婚に応じない場合には、法定の離婚原因がなければ離婚することはできません。以下では単身赴任が離婚原因となるのかを説明します。
単身赴任は離婚原因にならない
単身赴任それ自体が離婚原因になることはありません。
もちろん、離婚原因がなくても、夫婦が離婚することに同意すれば、離婚することができます。これを協議離婚といいます。
単身赴任の場合には、夫婦が同居しないことに正当な理由があるので、たとえ単身赴任が長期間にわたったとしても、それだけでは離婚原因にはなりません。
また、単身赴任には同居しないことに正当な理由があるので、「悪意の遺棄」にも当たりません。
よって、単身赴任中に離婚する場合には、その他の離婚原因が存在していることが必要です。

妻や夫が不貞行為をした場合
単身赴任中に夫婦のどちらかが不貞行為をした場合には、離婚原因になります。
そういう意味では、同居している場合と同じです。
しかし、単身赴任の場合、独身時代に戻ったような開放的な気分になり、同居している場合よりも不貞関係に発展することが多くなるかもしれません。
単身赴任が本当の別居になった場合

単身赴任している間に、いつの間にか夫婦間の気持ちのずれが生じてしまい、それまでは連絡を取り合っていたのに連絡をしなくなったり、単身赴任先から帰宅したり単身赴任先を訪れたりしていたのにそれもなくなり、いつしか本当の別居になってしまったということもあります。
また、単身赴任期間中に夫婦関係が悪化し、単身赴任前の勤務先に戻ったのに、自宅には帰らず、賃貸住宅を借りて別居を続けるという場合もあります。
そのような別居期間が長期間にわたった場合には、婚姻関係を継続し難い重大な事由として離婚原因になります。
ただし、単身赴任が本当の別居になってしまった場合であっても、単身赴任中の期間は別居期間には含まれないと考えられます。なぜなら、単身赴任期間中は、同居しないことに正当な理由があるので、夫婦の同居義務には違反しないからです。
したがって、単身赴任期間を除く本当の別居期間の長短によって、離婚原因があるかが判断されることになります。
単身赴任と別居の違い
単身赴任とは、夫婦の一方が転勤することになった場合に、子供の学校や親の介護などの事情で、夫婦の一方のみが転勤先に異動して、夫婦のもう一方と子供が自宅に残るというような場合をいいます。
これに対し、別居とは、性格の不一致や不貞行為、DV等のために、夫婦関係が悪化し、更には夫婦関係が破綻したことにより、同居することができなくなって別々に暮らす場合をいいます。
つまり、単身赴任は同居することができるものの、何らかの事情で同居しない場合であるのに対し、別居は、夫婦関係が悪化して同居することができない場合であるといえます。
単身赴任中の離婚を招く原因・理由

単身赴任中に夫婦仲が悪くなり、離婚を招いてしまうことは少なくありません。
単身赴任により、夫婦が物理的に離れていることもあり、様々な不和を引き起こし、夫婦仲の悪化を招きます。
コミュニケーションの不足
夫婦が物理的に離れることで、夫婦のコミュニケーション不足を招くことで、夫婦仲を悪化させる要因となります。
携帯電話の普及により、メール、LINE、テレビ電話を活用することで、物理的に離れているとしても、心理的な距離は近くなりました。
しかし、そうは言っても、同居している時と比べれば、夫婦がコミュニケーションを取る機会は少なくならざるを得ません。
セックスレス
単身赴任をしている夫婦に限ったことではありませんが、単身赴任をしている間に、夫婦間の気持ちのずれが生じて、セックスレスに陥るということもあります。
セックスレスが常態化し、夫婦の関係が冷め切ってしまい、次第に夫婦仲が悪くなることはあります。
独身気分による不倫・浮気
独身気分を満喫し、不倫や浮気に手を染めることが離婚の原因になることもあります。
夫婦が物理的に離れることで、ついつい独身時代に戻ったかのような錯覚に陥ることがあります。夫婦のコミュニケーション不足とも相まって、浮気・不倫に及んでしまうことがあります。
金銭問題で夫婦仲が険悪になる
単身赴任をすると、単身赴任手当が支給されるとしても、二重生活になるためにどうしても生活費が多く掛かりがちになります。
そのため、お金のことで夫婦間に軋轢が生じることもあります。
また、自宅から単身赴任先までの交通費が支給されるとしても、毎週自宅に帰る分が支給されるわけではないことが多いようです。
そのため、単身赴任による金銭的な負担が増加することで、自宅への帰省も敬遠されるようになり、夫婦仲の悪化を招きます。

単身赴任中の離婚を予防するためには

単身赴任中の夫婦仲の悪化を防ぐためには、さまざまな対策が考えられます。
密なコミュニケーション
単身赴任中に夫婦の一方が不貞行為をしてしまうことがあるのは、単身赴任のためにどうしても夫婦間のコミュニケーションが不足がちになるためであると思われます。
したがって、単身赴任中の不貞行為を予防するためには、夫婦間のコミュニケーションを密にする必要があります。
例えば、毎晩、連絡を取り合うとか、週末にはできる限り自宅に帰るようにするとか、赴任先を訪れるようにするといったことが必要です。
過度な干渉を控える
かといって、余りにも他方の生活に干渉しすぎてしまうと、信用されていないのかと不信感を抱き、かえって夫婦関係が悪化し、ひいてはそれが不貞行為につながるおそれがあります。
したがって、過度な干渉は控える方が無難です。
生活費の分担を明確にする
単身赴任をすると、同居している場合よりも生活費が多く掛かることがあり、双方に収入がある場合であっても、一方の側のみの経済的負担が大きくなってしまい、夫婦間に軋轢が生じる場合もありあす。
そこで、一方の側のみに経済的な負担が偏ることがないように、夫婦間で生活費の分担について十分に話し合っておく必要があります。
単身赴任中に離婚する時の注意点

単身赴任中に離婚する場合にはさまざまな注意点があります。以下の注意点を踏まえながら、離婚手続を進めていくことが肝要です。
共有財産の資料を把握しておく
財産分与の対象となる共有財産の資料を収集しておくことが重要です。
単身赴任をしていると、夫婦が物理的に離れているため、配偶者がどのような財産を持っているかを十分に把握できないことがあります。
配偶者の財産の情報がなければ、たとえ弁護士であっても、その調査には限界があります。
そのため、離婚を決意する前に、配偶者の共有財産の情報を可能な限り得ておくようにします。
財産分与の基準時
財産分与の対象は、別居時点の共有財産です。
単身赴任中の離婚であれば、単身赴任が本当の別居になった時点における共有財産を分割することになります。しかし、単身赴任から別居に転じた時期が明確ではないため、財産分与の基準時を特定できないことがあります。
この場合、配偶者が帰省しなくなった時期、生活費の支払いが止まった時期または夫婦のやり取りがなくなった時期など、夫婦の経済的な協力関係が失われた時期を財産分与の基準時とするべきでしょう。
調停申立の家庭裁判所(管轄)

調停の申立てをする家庭裁判所が遠方になる可能性があります。
調停の申立先の家庭裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。
単身赴任をしている場合、通常、夫婦の住所は離れています。そのため、申立先の家庭裁判所は遠隔地となることが多いでしょう。
合意できれば合意書・公正証書を作成する
もし、離婚協議を重ねた結果、夫婦が合意に至った場合には、必ず合意書を作成しておきましょう。
財産分与や養育費、離婚慰謝料などの離婚条件を合意したにも関わらず、離婚時に合意内容を記した文書を作成しなければ、離婚後に合意内容を証明することができなくなります。
できれば、私文書ではなく公正証書を作成しておいた方が安心です。なぜなら、相手方が合意内容を守らない場合に、訴訟手続をせずに差押えをすることができるからです。
単身赴任中の離婚の流れ
単身赴任中に離婚を決意した場合、その離婚手続きの流れを解説します。
離婚原因の証拠を集める
もし相手方が不貞行為を行なっている場合には、不貞行為の調査をして、不貞行為の証拠を集める必要があります。また、DVやモラハラなどの行為がある場合には、これらを裏付ける証拠も確保しておくことが重要です。
あらかじめ離婚原因の証拠を準備しておくことで相手方に離婚を認めさせ、慰謝料を請求するなど、より有利な条件で離婚の手続きを進めることができます。
単身赴任中の不貞行為の調査
それでも不貞行為をしているのではないかと疑われる場合もあるでしょう。
そのようなときに、①単身赴任先に、あるいは自宅に様子を見に行く、②週末や土日の行動をチェックする、③SNSをチェックする、更には④探偵社に尾行調査を依頼するなどして、不貞行為の調査をすることも必要になってきます。
離婚協議を進める
夫婦間で離婚について話し合うことができるのであれば、離婚調停や離婚訴訟をする必要はありません。
また、離婚調停や離婚訴訟をする必要まではなくても、相手方との交渉を弁護士に依頼したほうが良いこともあります。
相手方との話合いでは、次の離婚条件を決めていく必要があります。
| 協議する離婚条件 |
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婚姻費用分担請求をしておく
離婚が成立するまで、配偶者に対して婚姻費用の請求をします。
離婚手続きは、時に1年を超える長丁場になることがあります。その間、生活費をもらうことができなければ、経済的に不安定な生活を余儀なくされます。
離婚が確定するまでの間は、別居していても夫婦には扶養義務がありますから、収入の少ない方が多い方に婚姻費用の分担を求めることができます。
そのため、生活の安定を得るため、婚姻費用の請求をするべきです。
離婚調停を申し立てる
夫婦間での話合い、更に弁護士に依頼しての話合いでも離婚や離婚条件についての合意ができない場合には、まず、離婚調停を申し立てることになります。
離婚調停では、家庭裁判所の調停委員が間に入って、離婚や離婚条件について話合いを進め、合意を目指します。
離婚訴訟(離婚裁判)を提起する
離婚調停でも離婚や離婚条件についての合意ができない場合には、離婚訴訟を提起して、裁判所に離婚や離婚条件について決めてもらうことになります。
離婚裁判では、原告と被告の双方が主張と立証を繰り返して行い、審理を進めていきます。審理期間は1年を超えることが多く時間を要します。
離婚届の提出
夫婦間での話合い、あるいは離婚調停、離婚訴訟で離婚や離婚条件が決まれば、離婚届を提出することになります。
協議離婚であれば、夫婦双方が署名捺印した離婚届を提出する必要があります。
調停離婚であれば調停成立時に離婚は成立します。しかし、調停成立によって直ちに戸籍上に離婚の事実が反映されるわけではありません。そのため、調停離婚でも離婚届を提出する必要はあります。ただ、調停離婚の場合、相手方や証人の署名捺印は求められません。
また、裁判離婚の場合も調停離婚と同様に離婚届の提出は必要です。
単身赴任中の離婚手続きは弁護士に相談しましょう

これまで見てきましたように、単身赴任中に夫婦関係が悪化し、離婚しなければならなくなる場合もあるようです。
離婚についての話合いは、感情的になってうまく進まないことも多いと思われます。
また、離婚原因があるかの判断や、離婚条件を決めるためには、法律の専門的な知識が必要になることも多いと思われます。
離婚をお考えの方は、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。
夫の単身赴任がきっかけで離婚を決意することはあります。その理由は様々です。配偶者の浮気不倫もあれば、単身赴任により会う機会が減り愛情を喪失してしまうこともあります。
単身赴任中であっても、離婚原因があれば離婚することは認められますし、離婚原因がなくても、夫婦で合意できれば離婚することはできます。
しかし、離婚に際しては、財産分与、子どもの親権や養育費、面会交流といった問題を解決しなければなりません。
本記事では、単身赴任中の離婚トラブルを弁護士が詳しく解説します。
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よくある質問(FAQ)
Q. 夫が単身赴任で長く離れています。これを理由に離婚できますか?
単身赴任そのものを理由に離婚することはできません。単身赴任は仕事の都合による正当な理由に基づく別居であり、夫婦関係が破綻していることを示す事情とは評価されないためです。相手が離婚に同意すれば協議離婚は可能ですが、裁判で離婚を認めてもらうには、不貞行為があるか、単身赴任が実質的な別居に転じて婚姻関係が破綻したといえる状況が必要です。
Q. 単身赴任と別居はどう区別されるのですか?
夫婦としての実質的な関係が続いているかどうかで判断されます。定期的に帰省している、生活費が継続して支払われている、日常的に連絡を取り合っているといった事情があれば単身赴任にとどまります。これに対し、帰省しなくなった、生活費の送金が止まった、連絡が途絶えたといった状態になれば、実質的な別居と評価されます。この転換点がいつだったかは、財産分与の基準時にも直結する重要な問題です。
Q. 財産分与はいつの時点の財産が対象になりますか?
別居時点の共有財産です。単身赴任のケースでは、単身赴任が実質的な別居に転じた時点が基準となります。ただしその時期が明確でないことが多いため、実務では、配偶者が帰省しなくなった時期、生活費の支払いが止まった時期、夫婦のやり取りがなくなった時期など、経済的な協力関係が失われたといえる時点を基準時とします。この時期を裏付ける通帳の記録やメッセージの履歴を残しておいてください。
Q. 離婚を切り出す前にしておくべきことはありますか?
相手方の財産に関する資料を集めておくことです。単身赴任中は物理的に離れているため、預貯金、保険、退職金、不動産といった財産の全容を把握しにくく、離婚を切り出した後では協力を得られなくなります。情報がまったくない状態では、弁護士に依頼しても調査には限界があります。通帳のコピー、保険証券、給与明細、源泉徴収票など、確認できるものは事前に控えておいてください。
Q. 調停はどこの裁判所に申し立てますか?遠方だと大変ではありませんか?
申立先は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。単身赴任では夫婦の住所が離れているため、遠方の裁判所になることが多くなります。もっとも、近年は電話会議やウェブ会議による期日への参加が広く認められており、毎回現地へ出向く必要があるとは限りません。弁護士に依頼すれば、期日への出席を代理してもらうこともできます。
Q. 別居中の生活費はどうなりますか?
婚姻費用を請求できます。夫婦は別居中もお互いを扶養する義務を負うためです。金額は裁判所の婚姻費用算定表に双方の収入を当てはめて算出します。注意すべきは請求のタイミングで、婚姻費用は原則として請求した時以降の分しか認められません。生活費の送金が止まった時点で、速やかに内容証明郵便での請求や婚姻費用分担請求調停の申立てを行ってください。






