DVによる離婚は年々増えています。
女性の離婚原因は、不倫等の異性関係よりも暴力を振るうDVの方が多くなっています。
DVを理由とした慰謝料を請求する場合、認められる慰謝料額やDVの証明方法について解説します。

1.DVとは
DVはドメスティックバイオレンスの略称です。
DVとは、配偶者、もしくは、恋人など親密な関係にある人からの暴力をいいます。
2001年には、DV防止法が制定されました。
DV防止法では、DVを、殴る蹴る等の身体的な暴力だけでなく、無視をする、暴言を吐き続ける等の精神的な暴力、避妊に協力しない、無理矢理性行為を行うといった性的な暴力も含めて定義しています。
1-1.DVは離婚原因になる
民法770条1項には、離婚原因が列記されています。
民法770条1項1号から4号は、不貞行為や悪意の遺棄といった具体的な離婚原因が定められていますが、DVは、これら具体的な離婚原因のいずれにも該当しません。
しかし、DVは、婚姻関係を継続し難い重大な事由として離婚原因になります。
ただ、配偶者からの暴力があれば、全てが離婚原因になるわけではなく、DVの内容、被害の程度、その原因等を総合的に考慮して離婚原因となるかが判断されます。
また、身体的暴力のないケースでは、DVのみでは離婚請求は認められにくい傾向にあります。
2.DVの慰謝料
DVによって、夫婦関係が破綻し離婚せざるを得なくなった場合には、DVを理由とした離婚慰謝料を請求できます。
また、DVにより怪我をした場合には、通院に伴う治療費や慰謝料を請求できます。
後遺障害の対象となれば後遺障害に伴う損害についても請求することはできます。
2-1.慰謝料額の算出方法
DVにより離婚に追い込まれた場合、離婚慰謝料を請求できます。
その金額は、
- DVの内容(身体的な暴力か暴言か)
- DVによって生じた結果(怪我を負ったか、どの程度の怪我か等)
- DVの期間や回数
- DVをする至った経緯(暴力を引き起こす言動をしていないか)
等の事情を踏まえて算出されます。
そのため、DV慰謝料額を算出する明確な基準はなく、ケースバイケースです。
2-2.慰謝料額の平均額
離婚慰謝料のうち、主な慰謝料の原因がDV等の暴力の場合、慰謝料の平均額は123万円のようです(ケース研究322号神野泰一「離婚訴訟における離婚慰謝料の動向」参照)。
ただ、DV慰謝料に関する裁判例を見ていくと、50万円とするケースもあれば、500万円とするケースもあります。
高額の慰謝料額を認容するケースでは、DVが身体的な暴力を伴い、骨折等の重症を負うなど、暴力の程度がかなり苛烈で、単発ではなく長期間に渡って執拗に行われているような事案が多いです。
3.DV慰謝料の裁判例
3-1.100万円以下の事例
東京地裁平成16年8月25日判決
金額 | 100万円 |
事案 |
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判断 | 双方が相手に対する思いやりを欠いたことを指摘し得るものの、夫の暴力等の行為によることが大きいことは否定し得ないとして、慰謝料は100万円が相当である。 |
3-2.100万円を超え200万円以下
東京地裁平成15年2月3日判決
金額 | 150万円 |
事案 |
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判断 | 夫の行為等を総合勘案すると、妻の受けた苦痛を慰謝するには、150万円が相当である。 |
東京地裁平成19年4月11日判決
金額 | 150万円 |
事案 |
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判断 | 婚姻関係の破綻が夫の側に一方的な責任があったということはできないこと、ある程度頻繁に暴力を振るうことがあったと推認できるものの、傷害の結果を与える程度の暴力を頻繁に振るっていたという事実を認めることはできないとして、慰謝料150万円の限度で認容した。 |
神戸地裁平成6年2月22日判決
金額 | 200万円 |
事案 |
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判断 | 婚姻期間、夫の暴行の態様,妻の受傷の程度等に鑑みると、本件慰謝料の額は金200万円と認めるのが相当である。 |
3-3.200万円を超え300万円以下
東京地裁平成15年7月10日判決
金額 | 300万円 |
事案 |
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判断 | 婚姻関係は、夫の妻に対する暴力行為や妻らに対する執拗な脅迫行為の反復により完全に破綻していること、これら一連の行為により妻が著しい精神的苦痛を受けていること等から、慰謝料として300万円を認定。 |
3-4.300万円を超えるケース
東京地裁平成15年6月11日判決
金額 | 500万円 |
事案 |
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判断 | 婚姻関係は、夫の妻に対する暴力行為や妻らに対する執拗な脅迫行為の反復により完全に破綻していること、これら一連の行為により妻が著しい精神的苦痛を受けていること等から、慰謝料として300万円を認定。 |
4.DVを証明する
DVを理由とした慰謝料請求をするためには、DVの存在を客観的な証拠により証明することが重要です。
客観的な証拠により、DVな存在だけでなく、その怪我の程度やDVが行われた期間を証明することができる場合があります。
4-1.傷痕の写真
配偶者から身体的な暴力を受けた場合には、その受傷した部位を写真や動画の撮影を行うようにします。
傷痕の写真によって、暴力を受けたことやその暴力の程度を証明することが可能です。
4-2.診断書等の医療記録
医療機関の通院履歴や受傷内容を裏付ける資料として、診断書や診療録があります。
医療記録には、被害者が訴える症状や怪我をするに至った経緯が詳しく記載されていることがあります。
また、受傷内容や程度(骨折、全治○○週間等)も確認することができます。
4-3.DVの動画や写真
DVを行なっている時の動画、録音もDVの証明方法として有効です。
DVが行わられる場合、人格非難するような暴言を吐いたり、物を撒き散らすことがよくあります。
DVの様子を動画や録音することができれば、DVの内容を具体的に証明することが可能となります。
4-4.日記の作成
DVの詳細を記載した日記もDVの証明方法になります。
ただ、日記の内容はできる限り具体的に記載し事実を記載するようにします。
また、過去の分をまとめて記載することは控えます。
できる限り記憶が新鮮なうちに、DVを受けた都度日記に記載するようにします。
4-5.メールやライン
DVの被害を受けている場合、家族や友人に相談していることがあります。
家族等への相談をメールやラインでしている場合には、そのメールやラインメッセージを証拠として提出することでDVを証明できる場合があります。
また、家族や友人に相談していない場合でも、自治体の運営するDVの相談窓口に相談していることもあります。
この相談窓口への相談履歴がDVの裏付けとなる場合があります。
4-6.警察等への相談記録
配偶者からの暴力が収まらず、身の危険を感じた場合、警察に通報することもあるでしょう。
また、警察に、配偶者のDV被害を相談することもあるでしょう。
この警察への通報記録や相談記録は、情報公開手続や弁護士会照会等の手続を利用することで開示してもらうことができます。
4-7.陳述書の活用
DVの客観的資料を十分に確保しておくことは容易ではありません。
しかし、これら客観的な資料が十分になくても諦める必要はありません。
被害者本人が記憶に基づいて具体的なエピソードを記載した陳述書を提出することで、DVを証明できる可能性があります。
いつ、どこで、どのような経緯で、どのような暴力を、どの程度受け、その結果どのような怪我を負ったのかを具体的にエピソードを多く挙げて丁寧に陳述してください。
陳述書の内容と当事者尋問の供述内容が真に迫るもので、先後に矛盾のない整合されたものであれば、DVの事実を認定される可能性は十分にあります。
✓裁判所のDVに関する解説はこちら |
5.証拠の確保は難しい
先ほど解説したように、DVの証拠としては、傷跡の写真や診断書、暴力の内容を綴った日記、暴力や暴言を受けている際の動画や録音です。
しかし、DVの証拠を十分に確保しておくことは、そう簡単ではありません。
DVを受けている当時から、将来の裁判を予期して、計画的にDVの証拠を保全することは可能かもしれません。
しかし、暴力を受けている当時、自らが裁判沙汰に巻き込まれるとは思いもしません。
また、DVを受けている被害者は、加害者によって精神的なコントロールをされていることも多く、証拠を確保しようと考える余裕・気力が生まれないこともあります。
その上、配偶者による暴力は、前触れなく突然起こることがほとんどです。
突然のことのため、咄嗟に記録する余裕がないこともあります。
また、DVにより骨折等の通院を必要とする怪我をすれば別ですが、これまでに至らない怪我であれば、通院を控えることもよくあります。
このような理由から、事前にDVに関する証拠を収集することができないため、DVの証明も難しくなる場合がよくあります。
5-1.証拠を保全
証拠を収集しておいても油断は禁物です。
何らかの拍子で、その証拠の存在を配偶者に知られてしまうと、配偶者によって証拠を破壊されたり隠されたりすることがあります。
せっかく確保した証拠が台無しとなってしまいます。
そこで、証拠を廃棄されないように、親族や友人に預けたり、証拠のデータをクラウドサーバーやUSBメモリー等で保管するようにしましょう。
6.弁護士に相談しよう

DVを根拠とする慰謝料請求をするためには、計画的に証拠を収集することが重要です。
その上で、この証拠を基に、DVが如何に深刻なもの、被害者の心に深い傷を負わせたかを説得的に説明していくことが非常に大事です。
DVで悩んでいる場合、1人で抱えがちです。
しかし、抱えれば抱えれる程、事案は深刻化し、証拠を収集する機会も失います。
ご自身で頑張り過ぎずに、適切に弁護士に相談することが重要です。

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