配偶者の不倫や浮気が発覚したとき、再発を防止するためには誓約書を書かせるのが有効です。
ただ、法的に有効な誓約書を書かせるためには、いくつかの注意点があります。
そこで今回は、不倫誓約書に書いてもらうべき内容や作成方法、その他の注意点について解説します。誓約書を公正証書にするメリット・デメリットなどもご紹介しますので、ぜひ参考になさってください。
不倫誓約書に書くべき内容
不倫誓約書には、不倫の事実と不倫慰謝料の内容、不倫関係の解消、違反した場合のペナルティを記載するべきです。
不倫誓約書を作成する場合、離婚する場合もありますが、離婚せずに夫婦関係の修復を目指すケースも多くあります。不倫誓約書を作成する目的に応じて書くべき内容も異なります。
以下では、不倫誓約書の意味、目的を説明した上で、不倫誓約書に書くべき内容を解説していきます。
不倫誓約書とは何か?
「不倫誓約書」とは、配偶者の不倫が発覚したときに、主に不倫の再発防止を目的として、配偶者や不倫相手が誓約する内容を記載する書面のことです。
記載する内容はさまざまですが、不倫関係を解消することをメインとして、慰謝料の支払い義務や二度と会わないこと、約束に違反した場合のペナルティなどが記載されることも多いです。
示談書との違い
示談書と不倫誓約書は、これに署名捺印をする人が加害者だけなのか、被害者も含むのかの点で違いがあります。
示談書とは、法的トラブルの当事者が話し合って問題を解決し、その際に合意した内容を書面に記載して、各当事者が署名・捺印するものです。示談書に記載された内容については、当事者双方が守らなければならない義務が生じます。
それに対して、誓約書は当事者の一方が誓約する内容を記載し、署名・捺印するものです。誓約書の作成者は記載した内容を守る義務を負いますが、受け取った側には何の義務も生じません。
不倫誓約書の3つの役割
不倫誓約書や示談書の主な役割は、以下のようなものです。
不倫の証拠を残す
不倫誓約書や示談書を作成することで、不倫の証拠を残すことができます。不倫誓約書は、不倫の内容を認め、書面に署名・捺印することで、不倫の動かぬ証拠となります。
不倫関係を解消する
不倫誓約書や示談書を作成することは、配偶者と不倫相手との再度の接触を回避することにも役立ちます。
不倫誓約書の約束を守らせるために、誓約する内容を書面に記載させて、署名・捺印させるという形式を踏むことで、「もう会わない」という決意を固めさせます。
違反時のペナルティを科す
不倫誓約書や示談書の中に、約束に違反した場合のペナルティを記載しておけば、実際に約束違反があった場合にはスムーズにペナルティを科すことが可能となります。
もし、ペナルティを記載した不倫誓約書や示談書を作成していなければ、不倫が再発した際には、離婚するのかどうか、慰謝料をいくら払うのか、などについて改めて話し合わなければなりません。
不倫誓約書に効力はあるのか
不倫誓約書は、配偶者や不倫相手に約束を守ってもらうために作成するものですが、確実に約束を守ってもらうことはできるのでしょうか。不倫誓約書の法的効力を確認しておきましょう。
慰謝料の支払いを求めることができる
慰謝料の取り決めについて記載されている場合は、その不倫誓約書に基づき慰謝料の支払いを求めることができます。
裁判になったとしても、不倫誓約書を提出すれば合意した事実と内容を容易に証明できるので、「合意に基づき慰謝料を支払え」という判決を得ることができるでしょう。
不倫をしない条項に拘束力はない
不倫誓約書に「二度と不倫をしない」と記載したとしても、その条項には強制的に不倫を禁止するという意味での拘束力はありません。
なぜなら、不倫は民事上は違法でも刑罰法規に触れるわけではなく、法律をもってしても、そのような行動を強制的に禁止することはできないからです。
「再び不倫をした場合は慰謝料○○円を支払う」という金銭債務を取り決める条項を設けて、心理的に不倫の再発を防ぐしかありません。
2度目の不倫の事実を証明する必要がある
「再び不倫をした場合は慰謝料○○円を支払う」という条項があったとしても、慰謝料の支払いを求めるためには、被害者側で2度目の不倫の事実を証明しなければならないことには注意が必要です。
なぜなら、この条項を反対解釈すると「2度目の不倫をしなければ慰謝料の支払い義務はない」ということになるからです。
相手が事実を認めない場合は、被害者側で2度目の不倫の事実を証明しなければ、慰謝料を支払わせることはできません。
不倫誓約書に記載内容とテンプレート
不倫誓約書に記載すべき事項に決まりはありません。一般的には次の5つの項目を記載します。項目ごとに簡単なテンプレートも紹介しますので、作成する際の参考になさってください。
不貞行為の事実と内容
不倫誓約書は不倫の事実があったことを前提として作成するものなので、不貞行為の事実と内容を記載します。
ポイントは、誰と誰が、いつ、どのような不貞行為をしていたのかを具体的に記載することと、「不倫」ではなく「不貞行為」という言葉を使う方が望ましいということです。
単に「不倫をしていました」と記載するだけでは内容が漠然としているため、裁判では不法行為の証拠として認められない可能性があります。
【テンプレート】 私(作成者)は、令和○年○月から令和○年○月までの間、○○さん(不倫相手)と継続的に会い、ラブホテルに行くなどして不貞行為をしていました。 |
慰謝料の金額と支払方法・支払期限
今回の不倫で慰謝料を支払ってもらう場合は、金額と支払方法、支払期限を特定して記載します。
特に、金額は明確に記載しておく必要があります。金額の記載がなければ「合意」を証明することができず、改めて話し合わなければ慰謝料を支払ってもらえない可能性もあるからです。
支払方法は、示談書では振り込みなのか手渡しなのかを記載するのが一般的です。振り込みで支払ってもらう場合は、その旨と受取口座も記載してもらった方が、スムーズに支払ってもらえる可能性が高まるといえます。
支払期限は、不倫誓約書でも記載してもらうべきでしょう。記載しておかないと、いつまでも支払われなくなるおそれがあるからです。
【テンプレート】 私(作成者)は、○○さん(不倫された被害者)に対し、令和○年○月○日限り、不貞行為の慰謝料として金○○万円を下記の銀行口座に振り込んで支払います。(口座略) |
不倫関係を解消することの誓約・接触禁止
不倫関係を解消することの誓約と再び接触することの禁止は、法的な拘束力はありませんが、記載することが多いです。特に、違反時のペナルティを記載する場合には、その前提として記載する必要があります。
【テンプレート】 私(作成者)は、○○さん(不倫相手)との不貞関係を解消し、今後は面会、電話、メール、LINE、SNS、その他方法を問わず連絡や接触をしないことを誓います。 |
口外禁止
いわゆる「口外禁止条項」は示談書に記載することが多いのですが、被害者が望む場合は不倫誓約書に記載してもらうのも良いでしょう。
口外禁止条項とは、不倫の事実や誓約・合意した内容を第三者に漏らしてはならないという取り決めのことです。
夫婦関係を続ける場合には不倫の事実を言いふらされたくはないでしょう。そんなときは、違反時のペナルティの前提とするためにも、口外禁止条項を設けるのが有効です。
【テンプレート】 私(作成者)は、本件不貞行為に関する事実及び本誓約書に記載の内容について、第三者に一切口外しないことを誓います。 |
違反時のペナルティ・違約金
取り決めごとには違反した場合のペナルティを設けておかなければ、約束を破られる可能性が大いにあります。配偶者や不倫相手に約束を守ってもらうためには、痛みを感じるような内容のペナルティを設定しておいた方が良いでしょう。
一般的には、「違約金を支払う」「離婚協議に応じる」などのペナルティを設けることが多いです。
【テンプレート】 万が一、私(作成者)が本誓約書のいずれかの条項に違反した場合は、○○さん(不倫の被害者)に対し、違約金として金○○万円を支払います。 |
【テンプレート】 万が一、私(作成者)が再び不貞行為をした場合は、離婚協議に誠実に応じます。 |
なお、「再び不倫をしたら離婚に応じる」と記載しても、法的効力は認められません。裁判で法定離婚事由が認定されない限り、離婚を強制することはできないからです。そのため、不倫誓約書にペナルティとして記載してもらう際は、「離婚協議に応じる」という文言にしておきましょう。
不倫誓約書の作成方法の注意点
不倫誓約書を作成してもらう際は、以下の点に注意しましょう。
本文は手書きである必要はない
不倫誓約書の本文は手書きする必要はなく、パソコンで作成してプリントアウトしても構いません。
さらにいえば、配偶者や不倫相手に文面を作成させる必要もなく、不倫の被害者が作成したものでも有効です。
署名・押印をする
不倫誓約書には、誓約する人の署名・押印が必要です。配偶者や不倫相手に作成を任せると、署名・押印のない念書のようなものを渡されることも多いので注意しましょう。
法律上は、記名・押印でも有効ですが、本人に自署と押印をしてもらった方が証拠価値が高まりますし、本人に与える心理的なプレッシャーも強まります。
公序良俗に違反する内容は控える
民法上、当事者が合意したことでも公序良俗に違反する内容は無効とされています。公序良俗とは、簡単にいうと社会における一般的な常識のことです。
不倫誓約書に次のような内容を記載しても、公序良俗に違反するため、効力が認められないことに注意しましょう。
・今後、配偶者の許可がなければ外出や一切交友を認めない
・24時間GPSを持ち歩くなどして、常に居場所が分かるようにする
・再び不倫をした場合は、どのような暴行を受けても抵抗しない
無効となる内容は規定しない
法的に無効となる内容を規定すると、約束を守ってもらうという目的を果たせなくなることがあります。
例えば、慰謝料や違約金として法外な金額を取り決めた場合は、その条項が無効となることがあります。不倫の慰謝料の相場は数十万円~300万円程度なので、相手の社会的地位や収入にもよりますが、一般的な会社員に1億円を支払わせるなどという内容は公序良俗に違反し、無効となるでしょう。
誓約書の署名捺印を強要しない
不倫誓約書の内容には問題がなくても、相手に署名・捺印を強要してはいけません。
誓約書は、あくまでも配偶者や不倫相手が任意で作成するものです。被害者側が文面を作成するとしても、その誓約書に署名・捺印するかどうかは相手の自由意思に委ねられます。
もし、「サインしなければ不倫をバラしてやる」などと脅したり、力づくで無理やりサインさせたりすると、民法上の「強迫」に該当する可能性が高いです。その場合は意思表示を取り消され、誓約書の効力がなくなってしまいます(民法第96条1項)。
それだけでなく、脅した場合は脅迫罪(刑法第222条)や強要罪(刑法第223条)、力づくでサインさせた場合は暴行罪(刑法第208条)や傷害罪(刑法第204条)として処罰されるおそれもあります。
不倫は悪いことですが、誓約書への署名・捺印を強要することは控えましょう。
不倫誓約書は公正証書で作成するべきか
不倫で慰謝料を支払ってもらう場合は公正証書で作成するのが有効です。しかし、再び不倫した場合に違約金の支払いを約束する場合は、公正証書で作成してもあまりメリットはありません。
公正証書とは
公正証書とは、個人や民間の法人の嘱託により公証人が作成する文書のことです。ある人が法的な意思表示をした事実と、その内容を公的に証明するために作成されるものです。
公証人という公的な立場の人が法律に従って作成する文書なので、私文書よりも強い証明力が付与されます。強制執行認諾文言が付された公正証書には、確定判決と同一の効力が認められます。
公正証書を作成するメリット
公正証書を作成するメリットは、以下のとおりです。
・裁判で強力な証拠として利用できる
・相手が約束したお金を支払わない場合、裁判なしで強制執行ができる(強制執行認諾文言を付した場合)
・相手に心理的なプレッシャーを与えることができる
今回の不倫で慰謝料を支払ってもらう場合は、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておくと、約束が守られなければ裁判なしで相手の財産を差し押さえることが可能です。
公正証書がなければ、裁判所の手続きで慰謝料の支払い義務と金額を確定させなければ差し押さえの手続きができないので、これは大きなメリットといえます。
公正証書を作成するデメリット
公正証書を作成するデメリットは、以下のとおりです。
・当事者双方が公証役場に出頭しなければならない
・公証人との打ち合わせが必要
・費用がかかる
公正証書は公証役場で作成されるので、当事者双方が公証役場に出頭する必要があります。ただし、弁護士などの代理人に委任して出頭してもらうこともできます。その場合は、相手と直接顔を合わせる必要がありません。
さらに、公正証書の作成を求める側は、事前に公証人と打ち合わせをして文面を固めておく必要があるので、手間がかかります。
また、公正証書を作成する際は、公証役場に手数料を支払わなければなりません。手数料の額は、基本的に公正証書に記載する慰謝料などの金額によって決まります。
慰謝料の金額 | 手数料 |
100万円 | 5,000円 |
200万円 | 7,000円 |
300万円 | 11,000円 |
公正証書を作成するプロセス
公正証書を作成するプロセスは、以下の流れで進みます。
①相手との話し合いで誓約内容を決める ②公証人との打ち合わせで誓約書の文面を固める ③公正証書の作成日を予約する ④予約した日時に公証役場へ出頭する ⑤公証人が文書を読み上げる ⑥公正証書に署名・捺印する |
公証役場へ出頭する際は、本人確認書類(印鑑登録証明書と実印、運転免許証と認印、マイナンバーカードと認印、など。)と費用が必要なので、準備しておきましょう。
公正証書が完成すると、原本は公証役場に保管され、当事者には正本または謄本が交付されます。
不倫相手に不倫誓約書に署名捺印してもらう方法
不倫誓約書を公正証書にしない場合は、不倫相手に署名・捺印を求める必要があります。
不倫相手に署名・捺印を求める場合には、どうすればよいのかで悩むこともあるでしょう。 不倫相手に不倫誓約書に署名・捺印してもらうためには、次の3つの方法が考えられます。
直接面会する
1つめの方法は、不倫相手と直接面会して話し合い、その場で不倫誓約書に署名・捺印してもらうことです。
ただ、不倫相手と直接面会する際には、感情的にならないように注意する必要があります。
不貞配偶者を通じて署名してもらう
2つめの方法は、不貞行為をした配偶者を通じて不倫相手に連絡を取ってもらい、署名・捺印してもらうことです。
この方法によれば不倫相手と直接顔を合わせる必要はありませんが、配偶者と不倫相手とを接触させると不倫が再発したり、何らかの口裏合わせをされるおそれもあります。そのため、あまりおすすめの方法とはいえません。
郵送で署名してもらう
3つめの方法として、不倫相手に不倫誓約書を郵送して署名・捺印してもらい、返送してもらうことも考えられます。
ただし、この方法は不倫相手に無視される可能性があります。返送してもらえない場合は、直接面会を求める必要性も出てきます。
結局、不倫相手の署名・捺印は弁護士を通じて求めるのがベストな方法といえるでしょう。
不倫誓約書にサインしない場合の対応
配偶者や不倫相手が不倫誓約書へのサインに応じない場合は、強要することはできないので、調停や訴訟といった法的措置をとることになります。
調停の申立てをする
調停は、家庭裁判所や簡易裁判所で、中立・公平な調停委員を介して相手と話し合って法的トラブルの解決を図る手続きです。
話し合いの手続きなので、相手の考えや気持ちを聞き出した上で、不倫関係の解消や二度と接触しない旨を約束してもらうことに役立ちます。
配偶者を対象とする場合は、家庭裁判所に夫婦関係調整調停を申し立てます。この調停では離婚を求めることもできますが、離婚しない場合には不倫関係の解消や慰謝料、二度と不倫しない旨の誓約などを取り決めることが可能です。
不倫相手を対象とする場合は、簡易裁判所に慰謝料を請求する民事調停を申し立てることになるでしょう。この調停でも慰謝料問題だけでなく、不倫関係の解消や二度と配偶者と接触しない旨の誓約などを取り決めることができます。
相手と合意ができたら調停が成立し、合意した内容が調停調書に記載されます。調停調書には確定判決と同一の効力があるので、慰謝料の支払いを取り決めた場合は、相手が支払わなければ改めて裁判をしなくても差し押さえが可能です。
訴訟提起する
慰謝料の支払いを求める場合には、訴訟の提起が有効です。訴訟では、不倫の事実を証拠で証明できれば、裁判所が適正な慰謝料額を判断し、判決で相手に対して支払いを命じてくれます。
判決書を受け取ってから2週間以内に控訴されなければ判決が確定するので、その後に相手が慰謝料を支払わない場合には差し押さえが可能となります。
なお、訴訟の中でも通常は1~2度、和解協議が行われます。その協議の中で、不倫関係の解消や二度と不倫しない旨の誓約などについて合意ができれば、和解調書にその旨が記載されます。和解調書にも、確定判決と同一の効力があります。
不倫誓約書の作成は弁護士に相談を
不倫問題でお悩みの方には、早めに弁護士のサポートを受けることをおすすめします。弁護士を通じて配偶者や不倫相手と話し合えば、調停や訴訟などをしなくても適切な内容で合意できる可能性が高まります。合意ができたら、不倫誓約書や示談書の作成も弁護士に任せられます。
調停や訴訟が必要となった場合にも、複雑な手続きは弁護士に一任できるので安心です。
不倫問題は一人で抱え込まず、一度、弁護士に相談してみましょう。