1つの不動産を複数の人が共有している場合、1人1人の共有者は自由に不動産を処分や活用ができません。たとえば抵当権を設定したり売却したりするには、共有者全員の合意が必要です。
共有関係を解消するには「共有物分割請求」を行わねばなりません。
この記事では共有物分割とはどういった手続きなのか?などの共有関係の解消方法を解説します。
不動産などの資産を複数人で共有している場合、ぜひ参考にしてみてください。
1.共有状態とは
共有とは、複数の人が1つのものを共同所有している状態を意味します。
たとえば、遺産分割の結果、不動産を相続人1人の単独所有とせずに、相続人全員の共有とするケースが多数です。
婚姻時に購入した家を夫婦で共有にしたけれど、離婚したために他人となった元夫婦が土地や建物を共有する状態になるケースもよくあります。
共有持分とは
各共有者には共有持分が認められます。共有持分とは、各共有者の所有権の割合です。
共有物件の場合、1人1人は完全な所者ではないので、割合的な所有権である共有持分が認められます。各共有者の共有持分は「○分の○」などで表され、すべての共有者の持分を合計すると1になります。


2.共有者ができること
各共有者ができることは制限されています。以下でパターン別に共有者ができることについて、みていきましょう。
2-1.単独でできること
各共有者が単独でできるのは保存や使用です。
たとえば老朽化した建物が倒壊するのを防ぐための修繕は「保存行為」なので単独でできます。家に住むなど物件の「使用」も単独でできる行為です。
2-2.過半数の同意が必要なこと
対象物の「管理行為」は過半数の同意がないとできません。
たとえば短期賃貸借契約の締結などは、過半数の共有者が同意すればできます。
なおこの場合の過半数は「持分の過半数」であり、共有者の人数が基準ではありません。
2-3.全員の同意が必要なこと
対象物の「処分行為」や「変更行為」については全員の合意が必要です。
たとえば物件に抵当権を設定したり売却したり処分したりするには、共有者全員が合意しなければなりません。
このように、共有者が単独でできることは限られています。共有物の持分権者となった場合、事あるごとに他の共有者と連絡を取り合って話し合いを行い、物件の管理や処分、変更などを行わねばなりません。
コミュニケーションを円滑にとれない場合、物件の適切な管理や処分が難しくなって放置されるケースも多々あります。
3.共有状態にしておく不都合性
共有物件を共有状態にしておくと、以下のような不都合が生じる可能性が高まります。
3-1.共有物を活用できない
1つには、共有物を活用できない問題があります。
たとえば物件の価値を高めるためにリフォームやリノベーションを行おうとしても、他の共有者の合意が必要です。
短期賃貸借でも過半数の同意が必要ですし、長期の賃貸借を行うには全員の合意が必要となります。他の共有者と合意を形成できなければ、こうした行為を一切行えません。
不自由さを感じる方が多いでしょう。
3-2.1人が単独使用するとトラブルになるケースがある
共有物であっても使用は単独でできます。
ただ単独で物件を使用する場合、使用者は他の共有者へ使用料を払うべきです。
ところが使用者が使用料を払わないためトラブルになるケースがよくあります。
使用料の料金を設定する際に意見が合わずにもめてしまう事例もみられます。
3-3.固定資産税などの清算でトラブルになるケースがある
共有物であってももちろん固定資産税や都市計画税などの税金がかかります。
税金については、各共有者が持分割合に応じて負担しなければなりません。
ただ、自治体からの請求は共有者の代表者のもとへ届きます。
代表者がまとめて支払いを行い、後から他の共有者との間で清算するのが一般的です。
すると、固定資産税などの税金の清算をスムーズにできずトラブルになる可能性があります。
3-4.相続が起こると混乱する
共有物件の持分権者が死亡して相続が発生すると、死亡した人の共有持分が死亡者の相続人へ引き継がれます。すると、共有持分が細分化されて、共有者が増えてしまいます。
ただでさえ共有者同士の合意形成が難しいのに、相続人が現れるとお互いに没交渉となってさらに共有物が放置される可能性が高まります。
4.共有物分割の方法
共有物は、共有者の話し合いなどの方法で分割できます。
共有物の分割方法には以下のような種類があります。
4-1.現物分割
現物分割とは、対象物件が土地の場合に分筆を行い、各持分権者が分筆後の土地をそれぞれ取得する方法です。
ただエリアによっては分筆できない土地もありますし、建物はそもそも分筆できません。
分筆できても細分化によって土地の価値が下がってしまうケースもあります。
現物分割するかどうかについては慎重に検討すべきといえるでしょう。
4-2.価額賠償
代償分割は、特定の人が対象物を受け継ぎ、他の持分権者へ対価を払って清算する分け方です。分割方法の中では現物分割よりも優先的に検討される方法になります。
たとえば3分の2の持分権者と3分の1の持分権者がいる場合に3分の2の持分権者が分権を取得するとしましょう。物件の価格は3000万円とします。
この場合、3分の2の持分権者は3分の1の持分権者へ1000万円の現金を支払って清算します。
ただ、価格賠償は、後述するとおり希望をすれば常に認められるわけではありません。
▶全面的価額賠償と部分的価額賠償
価額賠償と現物分割を組み合わせる方法を部分的価額賠償といいます。
不動産を現物分割しても、取得額が持ち分割合に等しくならないことがあります。その場合に、不足分を代償金・補償金によって補填する方法です。
他方で、共有物を一人の共有者が単独所有する代わりに、他の共有者に対して、共有持ち分に見合う対価を支払う方法が全面的価額賠償といいます。
4-3.換価分割
換価分割は、物件を第三者に対して売却して売却代金を分ける方法です。分配の割合は持分価額に応じたものとします。
たとえば3000万円の物件をAさんとBさんがそれぞれ3分の2、3分の1の割合で共有している場合、売却金額からAさんが2000万円受け取り、Bさんが1000万円受け取って清算します(実際には売却金額から経費を引いた金額によって計算します)。
判決により換価分割を行う場合には、競売手続により現金化していくため、実勢価格よりも低い金額で売却される可能性はあるため注意する必要があります。
換価分割は、現物分割と代償分割による共有物分割できない場合に選択される類型になります。
5.共有物分割の手順
次に共有物分割の手順をみてみましょう。
5-1.協議を行う
まずは共有者全員で共有物を分割するための協議を行いましょう。
全員が合意できれば、その方法で共有物分割ができます。
他の共有者を説得するには、共有状態を解消するための方法を書面などでわかりやすく示し理解を求めることが重要です。ひとりでも反対する共有者がいると協議では解決できません。
共有者全員で合意ができれば、合意内容を記載する合意書を必ず作成します。
なお共有物分割請求では、協議を飛ばしていきなり訴訟ができません。まずは裁判外の協議または調停で話し合いをする必要があります。
裁判外の協議を行って不成立となった場合、調停は必須ではありません。協議決裂後、すぐに訴訟を申し立てることも可能です。
5-2.共有物分割調停
他の共有者と話し合っても合意できない場合には、裁判所で共有物分割調停を申し立てましょう。そもそも話し合いができる状況ではない場合、協議をせずにいきなり調停を申し立ててもかまいません。
調停では、調停委員を間に挟んで共有物分割の方法を決めていきます。
調停委員から解決案を示してもらえるケースも多く、全員が合意すればその内容で共有物を分割できます。
ただし調停には強制力がありません。全員が合意できなければ不成立になって終わってしまいます。
▶調停手続の裁判所の解説はこちら
5-3.共有物分割訴訟
裁判外の協議や調停を行っても合意できない場合には、共有物分割請求訴訟を提起しましょう。
訴訟になると、裁判所が適切と考えられる共有物分割の方法を指定してくれます。
一応現物分割が原則となりますが、難しい場合には価額賠償や換価分割が選択されます。
▶分割方法の優劣
民法258条2項では、現物分割を原則としつつ、現物分割ができない場合や現物分割により不動産の価値を棄損する場合には、競売による換価分割できると規定されています。
しかし、裁判実務では、共有不動産の取得を希望する共有者がいる場合には、現物分割や換価分割よりも優先的に価額賠償が検討されることになっています。
▶訴訟の問題点
共有物分割訴訟では、物件の価値をはかるために鑑定が行われるケースもよくあります。その場合、当事者が数十万円の鑑定費用を負担しなければなりません。
また当事者が望んでいなくても競売命令(換価分割)が出る可能性があるなどのデメリットもあります。
訴訟の途中で和解を勧められるケースも多いので、可能であれば訴訟上の和解で解決するのが望ましいでしょう。
価額賠償が認められるための要件
上記のとおり共有物分割訴訟では価格賠償が優先的に検討される分割方法になります。
ただ、価額賠償を希望すれば、常に認められるものではありません。価額賠償を認めるためには、①不動産の価格が適正に評価されていること、②取得する共有者に適正な評価額を踏まえた支払能力があること、③共有者間の実質的公平を害しないことが必要となります。
不動産の適正な評価
共有分割訴訟では、不動産の評価額が大きな争点となります。持ち分を取得した共有者側としては、できるだけ低い金額を、持ち分を譲渡する共有者側としては、できるだけ高い金額を適正な金額であると主張しますから、激しい対立を生みだします。
それぞれが独自に選任した不動産鑑定士の鑑定意見書を提出して、主張する不動産の評価額を裏付けようとします。当事者間で評価額の合意ができない場合には、裁判所が選任をした不動産鑑定士による鑑定(公的鑑定)を行い、共有不動産の適正な評価額を認定します。
支払い能力
そのため、不動産の取得を希望する共有者が、持ち分を買い取るために十分な支払能力を有さない場合には、価額賠償は認められないことになります。
取得希望者は、自身の通帳や残高証明等の財産に関する資料を証拠として提出することで支払能力を有することを証明する必要があります。共有不動産ではない不動産を担保とした融資金についても、これを支払能力を基礎づける考えもあります。他方で、共有不動産を担保とした融資金については、支払能力を補充しないと考えます。
【東京地方裁判所判決平成17年12月22日】
現物取得者の支払能力について、三井住友銀行の普通預金口座には2585万6354円の普通預金残高があること、所有する土地を担保にして三井住友銀行から1000万円以上の融資が受けられる見込みがあることから、支払能力があるものと認められる。
共有物分割後の登記
共有物分割ができれば、その内容に沿って登記手続をしなければなりません。
現物分割の場合には、分筆登記をした上で、共有持分の移転登記をします。分筆登記にあたっては、土地の測量が必要となりますので、土地家屋調査士に依頼をすることが多いでしょう。
全面的価額賠償の方法であれば、共有者が取得する人に対して共有持分を移転させる登記を行います。
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