離婚をする際に、子供の親権者は必ず指定しなければなりません。
離婚を急ぐあまり、子供の親権を譲歩することはよくあります。
しかし、離婚後の親権の変更はかなり難しいのが現状です。
DV夫から一日も早く逃れたい、一日も早く離婚したいという気持ちを優先させて、とりあえず親権を相手方に譲ると、離婚後に親権の変更ができなくなる可能性が高いです。
本記事では、親権の変更をするために必要となる条件を解説しています。
離婚後に親権者は変更できる
親権とは、子供の身上監護をしたり、その財産を管理する権利または義務をいいます。
未成年の子供のいる夫婦が離婚する場合、子供の親権を決めなければ離婚することができません。
そのため、離婚をする際には必ず子供の親権者を決めなければなりません。
離婚時に決めた親権者を子供の利益のために必要がある場合には、離婚後に変更することはできます。
TIPS! 監護権とは?
監護者とは、子の身上監護権を有する親権者であり、監護権は親権の中に含まれている親権者の権利であり義務でもあります。通常、監護権は、父母の両方が親権(共同親権)を有する離婚前に問題となることがほとんどです。
親権者の変更は難しい
民法819条6項は、「子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。」と定めています。
しかし、親権者の変更はそう簡単ではなく慎重な判断により決められます。
なぜなら、親権者が指定されてから、頻繁に親権者が変更されてしまうと、その度に子供の生活環境も大きく変動し、子供の安定した生活が損なわれてしまいます。
そのため、離婚時に親権者を決めた以上、特段の事情がない限りは、親権者の変更は認めるべきではないと考えられています。
合意では変更できない
離婚時の親権者の指定は夫婦間の協議で行うことはできます。
しかし、親権者の変更は、たとえ父母間で合意が成立していても行うことはできません。調停や審判をしなければ親権者の変更はできません。
ただし、離婚後に生まれた子供を父親が認知した場合には例外的に合意のみで親権の変更ができます。
親権者の変更ができる場合
どのような場合であれば、【子の利益】のためといえるかは解釈に委ねられています。
以下のような特段の事情が親権変更の申立時点において認められることが必要と考えられます。たとえ、離婚時点において、暴力や育児放棄などの事情があっても、親権者変更の申立てをする時点において存在していることが必要となります。
子どもに対する暴力や育児放棄がある
親権者が子供に対する暴力や育児放棄を行い、子供の生活環境が劣悪なものとなっている場合には、親権者の変更が認められます。
あらゆる暴力が親権者の変更を認める事情になるわけではありません。
暴力といっても、その態様や程度は様々あります。
非行に及んだ子供に対するしつけの一環として手を挙げたものであれば、手を挙げることは望ましいものではありませんが、これのみをもって直ちに親権者を変更させるとは判断されにくいでしょう。
他方で、しつけの範囲をおよそ超える暴力が何度も行われ、虐待といえる場合には、子供の生活の平穏が脅かされているとして、親権者の変更が認められます。例えば、グーで殴ったり、膝でお腹を蹴ったりという暴力を連日のように行う場合です。
親権者の監護状況や監護能力に問題がある場合
親権者の監護状況が劣悪であったり、監護能力が欠如している場合には、親権者の変更が認められる場合があります。
例えば、離婚後も、親権者である親が子供の養育監護を行わず、むしろ親権者ではない親やその親族が親権者に代わって子供の面倒を看ているような場合です。子供の保育園の送迎をしない、保育園や幼稚園の費用を支払わない、交際男性との交際を優先して子供を親権者ではない親に預けるといった事情も親権者変更の事情になり得ます。
また、親権者が長期入院を要する心身の疾患を患い、親権者の監護能力に問題が生じた場合にも、その他の事情も考慮して親権者の変更が認められることがあります。
親権者が死亡した場合
親権者が死亡した場合、親権者の変更が認められる場合があります。
親権者が死亡すると、生存している親が当然に親権者となるわけではありません。親権者がいなくなるため、本来は未成年後見が開始するのが原則です。
しかし、生存する親が親権者となることが、子の利益となる場合には、親権者の変更が認められます。
親権者の生前、子供と親権者ではない親との接触がほとんどない場合には、親権者として指定を受けることは難しいでしょう。この場合には、未成年後見が開始し、法定代理人として未成年後見人が選任されます。
ただ、子供と生存する親が離婚後も交流があったとしても、生存する親が親権者として不適格であれば親権者となることはできません。例えば、生存する親に多額の借金があったりギャンブル依存症や浪費癖があるところ、子供が死亡した親権者の多額の遺産を相続しているような場合です。
子供の意思
子供が、親権者ではない親との生活を希望する場合には、親権者の変更が認められる場合があります。
子供の年齢が15歳である場合、その子供の意思決定は最大限尊重されなければなりません。
子供の年齢が15歳未満であっても10歳以上であれば、その子供の移行は尊重される傾向です。ただ、10歳以上であっても未成熟な面は多々ありますから、子供の真意は慎重に判断されます。
親の経済力
親権者の経済力の乏しさから、子供の養育環境が劣悪なものとなっている場合には、親の経済力は親権者の変更の事情になり得ます。
面会交流を拒否している場合
面会交流を正当な理由なく拒否している場合、親権者の変更が認められる可能性があります。
面会交流とは、親権者ではない親が子供と会って、話をしたり、食事をしたり、一緒に遊んだりして交流することです。
面会交流は、親と子の交流を離婚後も続けることで、子供の健全な成長を実現させるための重要なものです。
そのため、父母間で面会交流の内容が取り決められた場合には、その内容を守らなければなりません。
それにもかかわらず、親権者が正当な理由もなく面会交流を拒否し続けていると、面会交流を拒否する理由、現在の子供の監護状況その他の事情も考慮して、親権者の変更が子供の利益に適うと言える場合には、親権者の変更が認められるケースがあります。
ただ、面会交流の拒否を理由に親権者の変更が認められるケースは非常に珍しく、認められたしとても、親権と監護権を分ける形で認めらる可能性があります。
(参考:平成26年12月4日福岡家庭裁判所審判(判時2260・92)
親権者が再婚した場合
親権者が離婚後に再婚した場合でも、再婚によって子の養育状況が悪化しない限り、再婚しただけで直ちに親権者を変更することわけではありません。
再婚相手と養子縁組した場合
親権者が再婚した上で、再婚相手が子と養子縁組した場合、親権変更を申し立てることができなくなります。
なぜなら、親権の変更(民法819条)は、父又は母の一方が単独の親権者であることを前提として、親権者の変更を定めています。しかし、再婚相手が子どもと養子縁組をすることで、実親の単独親権ではなく、養親と実親の共同親権となります。そのため、単独親権を前提とする親権の変更が適用することができなくなるからです。
親権者らによる虐待等により子の養育状況が劣悪なものとなっている場合には、親権者の親権を喪失させる審判等の申立てを行うことで、子の保護を図ります。
親権者を変更する手続
親権者の変更は当事者間の合意だけで行うことはできません。
必ず裁判所の手続を通じて行う必要があります。
調停の申立て
家庭裁判所に対して親権者の変更を求める調停を申し立てます。
親権者変更の調停申立てに必要となる書類等は以下のとおりです。
申立てに必要な書類
- 申立書と事情説明書
- 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 相手方の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 収入印紙1200円分(子ども1人につき)
- 連絡用の郵便切手
調停の申立ては、子供の父母だけでなく、祖父母なども行うことができます。
調停手続きは、家庭裁判所の調停委員が当事者の間に入って話し合いを進めていく手続になります。
まずは、申立人と相手方の双方が、交互に親権者を変更するべき特段の事情について、主張反論を行います。
調査官による調査
家庭裁判所の調査官による監護状況の調査や子供の意向調査が行われます。
具体的には、父母からの聞き取り、子供の聞き取り、学校関係者からの聞き取り、監護補助者からの聞き取り、家庭訪問など多岐にわたります。
調査官は、調査内容やあらかじめ父母から提出された陳述書や資料を基に調査報告書を作成してこれを裁判所に提出します。
調査官の調査報告書は、裁判官の判断に非常に重要な影響を及ぼすものになります。
TIPS!調査官とは
家庭裁判所の調査官は、専門的な知見に基づき、子供の生活状況や子供の意向を調査したり、調停期日に同席し当事者の調整を図る役割を果たす、行動科学の専門家です。
▶裁判所による親権者変更調停の解説はこちら
父母の審問
裁判官が父母に対して、子供の監護状況や監護方針、監護の意欲などの事情を聴取します。この場合には、他方の当事者も立ち会うことができます。
調停成立
当事者の主張・反論、調査官による調査、審問といったプロセスを経て、裁判所を通じて当事者間が合意できれば親権者の変更に関する調停は成立します。
当事者間での話し合いが進展しなければ調停は不成立となり審判手続に移行します。
審判
裁判官が、調停や審判手続で提出された資料等を踏まえて、親権者の変更を認めるべきか否かについて終局的な判断を示します。これを審判といいます。
調停手続では、調停委員を通じた話し合いの要素が強いのですが、審判手続では、話し合いの要素は希薄となります。
裁判所の審判は、審判書を受け取った日の翌日から2週間以内に不服申立て(即時抗告)をしなければ確定します。
10日以内に市区町村役場へ届出する
調停の成立や審判の確定があった場合には、成立日または確定日から10日以内に市町村役場に親権者変更の届出をしなければなりません。
親権者変更の届出をする際には、調停調書または審判書と確定証明書も一緒に提出します。届け出先の市町村役場が、本籍地の役場ではない場合には、戸籍謄本の提出も必要となりますのであらかじめ準備しておきましょう。
子の氏の変更を行う
親権者の変更をしただけでは、親権者の戸籍に子供が当然に入籍するわけではありません。
子供を変更後の親権者の戸籍に入れるためには、子の氏の変更許可の申立てが必要となります。たとえ、子供の名字と親権者の名字が同じであっても、「氏の変更」が必要となります。
氏の変更を行うためには、子の戸籍謄本・親権者の戸籍謄本を添えて、子の住所地の家庭裁判所に申立てをする必要があります。
子が15歳以上であれば、子供本人が申立てを行い、15歳未満であれば親権者が申立を行います。
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夫からDVやモラハラを受けており1日も早く離婚を成立させたいと思います。一旦子供の親権を夫に譲って離婚成立後に親権を取り戻すことはできますか?
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親権者の変更においては、調停の申立てをした時点で親権者の変更を認めるべき事情があるかどうかがポイントです。そのため、離婚時における事情はそこまで重視されません。
よって、離婚後の子供の養育環境に問題がなければ、たとえ離婚時のDVやモラハラを受けていたとしても、親権変更の必要はないと判断される可能性が高いでしょう。
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公正証書で親権の変更はできますか?
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公正証書では、親権の変更はできません。
親権者の変更は、調停や審判といった裁判手続を通じて行わなければなりません。
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祖父母を親権者に変更することはできますか?
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祖父母が子供の親権者となることはできません。ただ、祖父母が未成年の子と養子縁組をすることで、祖父母は子供(孫)の親権者となることができます。子供が15歳以上であれば、子どものみで祖父母と養子縁組ができます。15歳未満であれば、親権者の承諾が必要となります。
親権者の変更は弁護士に相談を
親権者の変更は、離婚時の親権者の指定よりも慎重に審理がなされます。
計画的に手続を進めていくことが非常に重要になります。
親権者の変更については早い時期から弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談すれば、親権の問題だけでなく、養育費や慰謝料・財産分与といった問題も広く相談することができます。
初回相談30分を無料で実施しています。
面談方法は、ご来所、zoom等、お電話による方法でお受けしています。
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