その土地、時効取得できるかもしれません。
どんな場合に時効取得できるか、その答えを本記事で見つけてください。
他人の土地を長年にわたり占有している事例が頻繁に見受けられます。他人の土地とは知らずに占有している場合もあれば、知りながら占有しているケースもあります。
他人の土地であることを知っている場合は10年間、知っているとしても20年間占有し続ければ、その他人の土地を取得できます。
今回は土地の時効取得について解説します。
1.土地の時効取得のための要件とは?
土地の時効取得が認められるためには、民法で定められた要件を満たす必要があります。
時効取得については、民法で以下のような規定があります。
長期の時効取得
20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
短期の時効取得
10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
20年の時効取得の場合、他人の土地であることを知っていたとしても、20年間占有すれば土地の所有権を取得できます。
他方、10年の時効取得の場合、占有している土地が自分の土地であると信じていることを要件として、その土地の所有権を取得できます。
共通する要件は、所有の意思をもって平穏かつ公然と占有を開始し、その時点から一定期間継続して占有していることです。
以下では、時効取得の各要件について解説していきます。
2. 所有の意思

時効取得の要件を充たすためには、その土地を所有する意思を持って占有している事実が必要です。
所有の意思を持っているかどうかは、占有を始めた原因に基づき外形的に判断します。
例えば、その土地を賃貸借契約や使用貸借契約(無償で土地を使用する契約)を理由に使用を開始した場合、借主である以上は所有の意思を認められません。
いくら「自分の土地にしたい」と思っていたとしても、占有を開始させた契約の性質から、自主占有は否定されます。
3. 占有の継続
時効取得のためには、10年または20年間占有を継続している事実を証明する必要があります。
ですから、占有の始期である出発時に占有している事実と、そこを起点に10年または20年経過した時点で占有している事実を証明できれば、占有開始の時から時効期間の経過時点まで占有を続けていたと推定されます。
3-1.起算点
時効の起算点は、その土地の占有を開始した時点です。
その占有開始時点は、たとえ占有期間が長期に及んでいたとしても「任意に選択はできない」と理解されています。
占有開始時点については、短くても10年から20年前に占有していたことを証明しなければなりません。
3-2.建物の建築=占有開始(建築時に占有を始めた)

建物が隣地の一部に越境して建築されているような場合には、建物の建築時が占有開始時点となり得ます。
このケースでは、隣地との境界確定に関連して問題となることが多いです。そのため、建物の登記や建物図面などを根拠に占有の開始を証明します。
ですから、あなたの土地の隣に家が建つ場合には、「土地の時効取得」を主張されないように、土地の境界を越えた建築物を決して容認してはなりません。
関連記事:時効取得されないためには?時効取得を阻止するための対策を解説します
3-3.建物の建築≠占有開始(建築時が占有の開始ではない)
建物の建築後に他人の土地を物置や駐車場として占有を開始した場合、建物の建築=占有開始ではないため、別個に占有の開始を証明しなければなりません。
この場合には、物置の購入明細、駐車場利用に必要なアスファルトの敷設、空中写真、利用状況が分かる写真などの客観的な資料を収集して、占有開始を証明していきます。
ただ、占有の開始時の状況は遥か昔の事情となるケースも多いため、その当時の資料が既に散逸してしまっていることもあります。
他人の土地に越境して車庫を建造し時効取得が成立した事例
他人の土地に越境して建てられた車庫の占有期間を証明して、時効取得が成立した事例があります。車庫の購入明細、空中写真、車庫が映り込んでいる家族写真を証拠として提出することにより、土地の占有を開始させた時期を証明可能となりました。
その結果、土地の時効取得を求める当方の請求が認められて裁判上の和解が成立しました。
Tips! 空中写真については、Googleマップを利用して過去の空中写真を収集する方法もあります。 ただ、Googleマップで確認できる過去の空中写真は一部の都心部や住宅街に限られていますし、過去の写真を確認できても、何十年も前のものは見れない場合がほとんどです。 そこで、昭和時代の古い空中写真を見るために、国土地理院の地図・空中写真閲覧サービスを利用することがあります。 |
3-4. 占有の承継
前の占有者の占有期間も合算することができます。
例えば、占有開始時点の建物の所有者が他界し、その相続人が建物を相続した場合や建物の所有者が第三者に対してその建物を売却したような場合です。このように、占有を承継した場合、前の所有者の占有期間を合算して時効を主張できます。
占有の承継例 Zさんの土地にAさんが建物を建てて占有を開始しました。その後、Aさんが他界してBさんが建物を相続します。最後に、Bさんがこの建物をCさんに売却したとします。 この場合、CさんはZさんに対して、Cさん自身が購入してからの占有期間だけを主張してもいいですし、AさんとBさんの占有期間まで遡って占有を主張することもできます。 |
4. 善意無過失とは何か?
善意無過失とは、自己の土地であると信じたことに過失がない状況です。
短期の時効取得の場合、善意無過失で占有を開始させた事実が必要です。
ここでいう「善意」とは、他人に対する親切心や好意という一般的な意味とは異なります。
法律的な意味合いでの善意とは、知らないで犯した過失であり、土地の時効取得においては他に所有者がいるとは知らないで「自分の土地である」と信じることです。
無過失とは、自分の土地であると信じたことに正当な理由があり、落ち度がない場合をいいます。
土地を占有している人は、その土地を善意で占有していると推定されます。そのため、土地の占有者は、無過失であることを立証する必要があります。
長期の時効取得は自分の土地ではないことを知っている場合ですから、そもそも善意無過失を要件として求められません。
5. 土地の一部でも時効取得できる
通常、土地の所有権は一筆の土地を対象に成立します。
しかし、一筆の土地全部ではなく、その一部であっても時効取得できます。
ただ、その一部を「占有していた」と主張するためには、他者が自由に出入りできない程度に排他的に土地の一部を支配している必要があります。
5-1. 一筆の土地を取得するための登記手続
土地の一筆を時効取得する場合、時効取得するその一部分をそれ以外の部分から分筆登記をしなければなりません。
土地の所有者が登記手続きに協力してもらえれば、問題なく分筆登記を進められます。
とはいえ、所有者の損失となる手続きに協力してもらうのは非常に難しいでしょう。そのようなときにこそ弁護士が活躍します。法的な専門知識を有している弁護士が交渉した方が、登記申請に協力いただける可能性は高くなります。
土地の所有者が協力しない場合には、訴訟を提起して裁判所による判決を得る必要があります。裁判では高度な専門知識が求められ、裁判所に出廷するために毎回スケジュールを調整するのも大変ですから、弁護士に任せるのが一番です。
土地の一部の時効取得を認める判決を得られれば、所有者に代わって分筆登記を申請できます。
6. 共同相続と時効

他に相続人がいる共同相続の場合、遺産分割協議をして、法定相続分に応じた遺産の取得が行われるのが原則です。
ですが、亡くなった父親名義の土地建物に相続人のうちの1人が住み続けた場合、その相続人は他の相続人に対して時効取得を主張して、遺産を分割せずにすべての土地所有権を取得できるのでしょうか?
時効取得が認められるためには、所有の意思を持って占有する必要があり、所有の意思の有無は外形的・客観的に判断します。
相続人の1人が土地を占有していたとしても、その1人の相続分を超えて土地全体を占有しているとは認められません。
そのため、共同相続において相続人の1人が土地を占有していたとしても、時効取得は認められません。
しかし、他に共同相続人がいることを知らないため「単独で相続したと信じた」など、単独の所有権があると信じる合理的な理由がある場合には、自主占有が例外的に認められる場合があります。
7. 時効の援用
占有を継続させれば、自動的に時効取得できるわけではありません。
取得時効の要件を満たした上で、占有者が時効の援用をすることで、初めて所有権の取得を主張できます。
時効の援用とは、時効によって生じる利益を受けようとする意思表示です。
時効の援用は口頭でも行えます。しかし、口頭の場合には、いつ、どのような内容の意思表示をしたのかを事後に証明するのが難しくなります。
そのため、時効の援用をする場合は「内容証明郵便」により意思表示をするべきでしょう。
8.公示送達による手続
土地名義人が所在不明であっても、公示送達の手続により時効取得を認める判決を得ることができます。
土地名義人が、時効取得の協議に応じない場合、訴訟手続をするほかありません。
訴訟手続を行う場合、被告となる土地名義人に対して、訴状等の書類を送達しなければなりません。
訴状等を送達するためには、土地名義人の住所や就業場所の住所を特定しなければなりません。
8-1.土地名義人が死亡している場合
土地名義人が存命であれば、登記上に記録されている土地名義人の住所を手掛かりに住民票を収集します。
しかし、登記名義人が既に他界している場合には、住民票を収集できないことがあります。
登記名義人が死亡した時期が、現時点から近い時期であれば、住民票の除票を収集できることがあります。住民票の除票を手掛かりに、土地名義人の相続人を調査します。相続人が特定できれば、土地名義人の相続人を被告として訴訟提起します。
しかし、登記名義人が何年も前に死亡している場合には、住民票の保存期間の経過により、登記名義人の住民票を収集できないことがあります。
その他に所有者の戸籍謄本や住民票を収集できる手段がなければ、所有者の相続人を特定して、その住所を調査できません。
登記名義人の住民票や戸籍謄本を収集できなければ、登記名義人の住所等を特定できず、被告の住所地に訴状等を送達することができません。
しかし、土地名義人の住所やその相続人が分からない場合でも諦める必要はありません。次の項目で説明する「公示送達」という方法があります。
8-2. 公示送達により進める
所有者やその相続人が分からない場合でも、公示送達という特別な手続きを利用することで、裁判手続きを進められます。
公示送達を利用すれば、被告の住所地や就業場所が分からなかったとしても、裁判所の掲示板に訴状等を掲示することで、被告に対して訴状等を送達したものとみなされます。
公示送達を利用するためには、登記名義人である被告の住所地や就業先の調査を尽くすことが必要です。調査の結果を記載した調査報告書を作成し、これを訴状に添付します。
公示送達による手続きの場合、所有者やその相続人が裁判に出席することはほぼありませんので、被告欠席の下で淡々と審理が進みます。
通常は第一回期日で弁論が終結し、証拠をもって時効取得の要件を満たしているのであれば、後日、時効取得を認める判決が言い渡されます。
9. 土地を時効取得する際にかかる費用
土地を時効取得する際にかかる費用は下記の通りです。
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 所得税・住民税(一時所得)
- 訴訟費用
訴訟費用は勝訴した場合には以前の所有者に請求できますが、訴訟を提起する時点では原告側が支払う必要があります。費用の詳細についてはお問い合わせください。
弁護士に相談しよう

土地の時効取得は、土地の占有開始時点で土地を占有していたことを証明しなければなりません。
しかし、その証拠の収集が思うようにできないケースは多々あります。
占有開始の証拠には、さまざまな証拠を想定できます。
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