オーナーから賃貸借契約を終了させる時に問題となるのが、『正当事由』。
借家契約において、その建物が老朽化している場合、その老朽化のみを理由にして正当事由を充たすことができるのか?
結論としては「難しい」ですが、適切な準備をすれば「可能」です。
今回のコラムでは、建物の賃貸借契約における正当事由と建物の老朽化が正当事由に与える影響について解説します。
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正当事由とは?
契約は更新される
賃貸借契約書において定められた賃貸期間が到来すれば、賃貸借契約は終結すると思っていないでしょうか?

借地借家法という賃貸関係を規律する法律が適用される賃貸借契約においては、たとえ賃貸期間が定められていたとしても、賃貸期間の満了によって契約が終了することは原則ありません。
つまり、賃貸借契約は終了せず更新されます。

賃貸期間が到来するにあたって、貸主が契約の更新を拒絶した上で、その更新拒絶に正当事由が認められる場合に限り、契約は終了します。
期間が定めのない場合
建物の賃貸借契約の場合、賃貸期間を定めていない場合があります。
また、賃貸期間を定めていたとしても、契約の更新がされると、賃貸期間以外の契約内容はそのまま引き継がれますが、賃貸期間だけは期間の定めがないものとなります。
期間の定めのない賃貸借契約の場合、期間がない以上期間満了が存在しませんので、更新を拒絶するという事態も生じません。
この場合には、契約の解約申入によって契約を終了させることができます。
ただ、この解約申入についても、正当事由が存在していることが必要となります。
正当事由の中身
正当事由とは、賃貸借契約を終了させて建物の明け渡しを認めることが社会通念に照らし妥当といえる理由をいいます。
正当事由の有無は、当事者やその利害関係者の様々な事情を総合的に考慮して判断されます。


正当事由の判断
正当事由の有無を判断するにあたり、様々な事情を考慮します。
まず基本となる事情が、貸主の建物を使用する必要性と借主の建物を使用する必要性です。
この基本となる双方の建物使用の必要性を天秤にかけます。

建物使用の必要性の判断だけでは、正当事由の有無を決めきれない場合には、建物の老朽化やその他の事情も含めて判断します。
建物使用の必要性とその他の事情を考慮してもなお、正当事由が十分に満たさない場合に、不足する正当事由を補強するため、貸主が立退料を支払うことがあります。
ただ、立退料さえ払えば正当事由を満たすというわけではありませんので注意してください。
貸主の建物使用の必要性(老朽化による建替え)
自ら使用する場合
貸主の建物使用の必要性の典型的なものは、貸主自らがその建物に居住したり営業したりする必要性です。
貸主自身だけでなくその親族、従業員、 また、貸主と関係がある第三者が使用 する必要性も考慮されます。
土地の有効活用(建物の老朽化)
我が国では、阪神大震災(平成7年)、新潟県中越地震(平成16年)、東日本大震災(平成23年)、熊本地震(平成28年)などの災害を数多く経験し、建物の耐久性・安全性に対する社会的な要請が非常に強いです。
そのため、建物の安全性を確保することは建物所有者としての責務といえます。
そこで、建物が老朽化しているため、安全性の確保できる建物に建て替える場合や共同住宅等を建築して土地の有効活用を図る場合も建物利用の必要性に含まれます。
しかし、抽象的な必要性では十分ではなく、現実的で、かつ、具体的な建築計画まで策定していることが求められます。
建物の老朽化の程度、建築計画の具体性、立退料の提示の有無やその金額を踏まえながら、正当事由の有無を判断します。
ただ、建物の建替えの場合では、高額な立退料の支払いを求めるケースが非常に多いです。
東京地裁平成20年4月23日
昭和4年頃に建てられた木造3階建てのアパートについて、貸主の目的は自ら建物を使用するものではなく、不動産を有効利用するものであるところ、このような利用方法 を営利を追求する企業として合理的なものとして肯認することができると判断しています。
東京地裁平成9年2月24日
貸主が本件ビル新築計画の完成に必要な能力を有している限り、正当事由の存在を認めるのが妥当な事案であることは明らかであるけれども、本件ビル新築計画を完成する能力を有することについては、多大の疑義が残るものと言わざるを得ないとして、正当事由を否定しました。
老朽化の程度が顕著である場合
建物の基礎的部分が腐食し倒壊の危険があるような老朽化の程度が顕著な場合です。
建物が、旧借地法における朽廃の程度に達している場合には、貸主の建物使用の必要性が小さい、あるいは、無かったとしても、正当事由が認められると考えられています。
もし、老朽化が進んでいても、朽廃と呼べる程に老朽化していない場合には、貸主の建物利用の必要性を基礎に正当事由の判断を行います。
東京地判平成3年11月26日
本件建物が既に建築後60余年を経過し、老朽化が著しいばかりか、地盤崩壊等の危険性すらあること、貸主が本件建物を取り壊して今後の生活の基盤となる新しいビルを建築する必要性が高いと認められること、借主は本件建物を住居としては使用してないこと等を踏まえて正当事由を認めました。
老朽化の原因が貸主にある場合
貸主は、借主の使用目的を達成させるために、建物を修繕する義務を負っています。
しかし、貸主が、この修繕義務を怠ったことにより建物の老朽化を進行させた場合にまで正当事由を認めることは借主にあまりに酷です。
そこで、いくら建物が老朽化しているとしても、その老朽化の原因が貸主の管理運営上の問題による場合や貸主の修繕義務の不履行による場合には、正当事由が否定されることがあります。
東京地裁平22年9月30日
建物の建替えの必要性は、 仮に認められるとしても、構 造上の必要な措置が施されることなく3階部分が増築され、地上階の壁や筋交い等が一部除去されるなどしたことに起因するものであり、賃借人による 本件貸室の使用とは全く無関係であるから、これをもって本件賃貸借契約の 更新拒絶の正当事由を認めるのは、相当でない。としています。
借主の建物使用の必要性について
借主の建物利用の必要性も検討します。
建物が老朽化しているため、借主が現在建物を使用しておらず、今後も使用する計画がない場合には、正当事由が認められるでしょう。
なお、借主に建物使用の必要性が小さい、あるいは、ない場合でも、貸主側に建物使用の必要性がなければ正当事由は認められません。
正当事由の補充要素
建物使用の必要性をベースとしつつ、その他の事情も補充的要素として考慮します。
例えば、これまでの賃貸借に関する経過、建物の現況、立退料といった事情が含まれます。
建物の現況
建物の現況とは、建物それ自体が老朽化しているため、建物が老朽化しているため、建替えや改築が必要な状況を指します。
立退料
立退料とは
立退料は、正当事由が完全に満たされているわけではないものの、ある程度まで認められている場合で、金銭の支払いによって借主の経済的な不利益を補填することで正当事由を満たすものです。
建物の老朽化が激しく、建物としての利用価値がないような場合であれば、立退料の支払いは必要ありません。
しかし、そこまで老朽化が進行しているケースは非常に稀です。
老朽化していたとしても、建物利用の必要性の程度に応じて、立退料の支払いを求められることが多いでしょう。
算出方法
立退料の算出方法にはいくつかの種類があります。
・明渡しに伴って生じる移転実費・損失補償から算出する手法
・借家権価格を基礎に立退料を導く手法
・借家権価格に移転実費・損失補償を加算して算出する方法です。
借家権価格とは、
更地価格×借地権割合×借家権割合=借家権価格
という計算式で算出します。
更地価格と借地権割合は、国税庁の路線価図で確認することができます。
借家権割合は、30%とされています。
▶建物明渡調停に関する裁判所の書式はこちら
建物明渡の問題は弁護士に相談しよう
建物の老朽化を理由とした更新拒絶や解約申入は、老朽化の程度、建替え計画の有無や具体性、建物使用の必要性の程度等を総合的に考慮するとことが必要です。
更新拒絶にあたっては、十分な準備が必要です。
更新拒絶により契約を終了させたい方は、まずは弁護士に相談してみましょう。
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