コラム
最終更新日:2023.04.21

養育費の減額ができる事情の変更とは?弁護士が解説します

養育費の減額 重要な事情変更 収入減

離婚をする際には、子供の親権者を決めなければなりません。

その上で、親権者とならなかった親は、親権者となった親に対して養育費を支払う約束をすることが多いでしょう。

しかし、離婚の際には予期していなかった事情が離婚後に生じてしまい、離婚時に約束した養育費を払えなくなることがあります。

今回のコラムでは、事情の変更により養育費の減額が認められるのかについて解説します。

養育費の減額ができる場合とは

一度確定した養育費は、そう簡単には減額させることはできません。

調停や審判により養育費の内容が定められた場合、この調停や審判の内容は、確定判決と同じ効力を持ちます。

また、公正証書であっても、強制執行を可能とする文言を含む場合には、判決と同様に執行力を持ちます。

さらに、調停や公正証書がない場合でも、夫婦間の合意書や口頭による約束でも、法的な効力はあります、つまり、それぞれは合意の内容に縛られます。

そのため、一度決められた養育費の金額を減額できないのが大原則です。

事情の変更があれば例外的に減額できる

離婚当時、予期していなかった事情の変更が生じた場合には、例外的に養育費の減額が認められます。

つまり、離婚当時に予想していなかった事情が離婚後に生じ、離婚時に決めた養育費を維持することが相当ではなくなる事態は生じることがあります。

しかし、養育費の負担者や権利者にとって、その生活状況にほとんど影響を及ぼさないような軽微な事情の変更でも養育費を減額できるとなると、安定して養育費を受け取ることができなくなります。

そこで、養育費の減額は、養育費が決まった時点で、予想できなかった、相当ではない程に重要な事情の変更が生じる場合にすることができると考えられています。

そのため、軽微な事情の変更では減額されず、また、養育費が決まった時に予想できたような事情であれば、たとえ重要な事情であったとしても、減額の対象にはなりません。

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計算式による養育費の計算方法

養育費の細かい金額を算出するためには、標準的な算定方式を用います。

養育費の算定方法には、養育費算定表を用いる場合があります。

養育費算定表を用いる場合ざっくりした金額しか導くことができません。

『6〜8万円の真ん中辺りなので、7万円前後』といった具合です。

養育費算定表
参考)裁判所『養育費算定表

しかし、細かい金額を算出したり、後述する『再婚+子供が増えた』ケースにおいて養育費を計算するような場合には、養育費算定表だけでは十分ではありません。

その場合には、基礎収入割合と生活費指数などを用いた計算方式により算出する必要があります。

①義務者の基礎収入×②子供の生活費指数÷(子供と義務者の生活費指数の合計)×義務者の基礎収入/義務者と権利者の基礎収入の合計

基礎収入を計算する

養育費算定表では、給与所得であれは源泉徴収票等の支払金額を、事業所得であれば、申告書上の所得額に各控除額等を加減した金額を算定表に当てはめました。

しかし、細かい金額を算出する場合には、先程の総支給額や所得額に各控除額を加減した金額に基礎収入割合を掛けることで基礎収入というものを算出します。

基礎収入割合

例えば、養育費を支払う人がサラリーマンで給料をもらっており、源泉徴収票の支払金額が500万円の場合、210万円が基礎収入となります。

【計算式】
基礎収入:500万円×42%=210万円

生活費指数

基礎収入を計算できたら、次は生活費指数を用います。

生活費指数とは、成人が必要とする生活費を「100」とした場合に、子供が必要となる生活費の割合を定めたものです。

成人である親の生活費指数を「100」とすると、15歳未満の子の生活費指数は「62」

15歳以上の子の生活費指数は「85」となります。

養育費を負担する親と子供の生活費指数の合計のうち子供の生活費指数が占める割合を基に養育費の金額が導き出します。

権利者の収入を考慮する

養育費を受け取る権利者にも収入がある場合には、その収入を考慮する必要があります。

基礎収入に生活費指数の割合を掛け算した後、義務者と権利者の基礎収入の合計額のうち、義務者の基礎収入が占める割合を掛けることで、義務者が負担するべき養育費の金額が算出されます。

【事案】
義務者の基礎収入が210万円
子供が10歳
養育費を貰う権利者の基礎収入が100万円の場合
【計算式】

210万円×62/162(100+62)=803,703円803,703円×210万円/310万円(権利者と義務者の基礎収入の合計)=54.4万円54.4万円÷12月=4.53万円

重要な事情の変更とは?

養育費を減額できる重要な事情の変化には、以下の事情が挙げられます。

重要な事情変更

  • 収入の大幅な変化
  • 義務者の再婚
  • 権利者の再婚
  • 不相当に高額な養育費

義務者の収入が減額した場合

これまでの養育費を維持できない程に大幅な収入の減少があれば、養育費の減額を求めることができます。

養育費は父母双方の収入によって算出されます。

そのため、養育費を支払う側の収入が減額したのであれば、養育費を計算する大前提に変化が生じたことになります。

しかし、養育費の決定時と比べて僅かな収入減だけでは減額の対象とはなりません。養育費の金額が2~3割程減少させるほどの収入額の減少があれば、重要な事情の変更と認定される可能性があります。

さらに、養育費を減額させるための収入額を操作したような場合には、収入の恣意的な操作であるとして、養育費の減額が認められない可能性があります。

ただ、収入の減少により養育費の減額が認められたとしても、監護親やその子供に不測の損害が生じないよう、算定表通りの金額よりも高い金額で認定されることがあります。

【参考 山口家審平成4年12月16日】

離婚調停後に義務者の収入が3分の1まで減少した上、再婚して2人の子供が産まれた事案において、義務者である父が受取人である母に対して、3人の子の養育費を減額調停申立てをしたところ、1人当たり3万5000円を3万円に減額された。

監護する親の収入が増加した場合

監護親の収入が増加したとしても、必ず養育費が減額されるわけではありません。

確かに、監護親の収入が増加したのであれば、養育費の算定基礎に変化が生じます。

しかし、養育費の合意時点で、専業主婦であった監護親が離婚後に定職に就くことは予期することができる場合もあります。

また、収入が増加したとしても、その収入がパート収入や非正規の収入であれば、長期にわたる安定的な収入といえるかは不確定な場合もあるでしょう。

そのため、監護親の収入増加が当事者間の公平を害する程度のものといえない限りは、養育費の減額は難しい場合が多いでしょう。

義務者が再婚した場合

義務者が再婚し、扶養対象が増えた場合には養育費の減額が認められる可能性があります。

義務者が再婚をしただけでは養育費の減額は認められません。
その再婚相手に十分な収入がない場合には、扶養対象が増えるため、養育費の減額の可能性があります。
また、再婚相手との間に子供が産まれたり、再婚相手の連れ子と養子縁組する場合にも、扶養対象が増えるため養育費の減額が認められる可能性があります。
ただ、いずれにおいても、単に扶養対象が増えた事情だけでなく、義務者の収入状況や子どもの監護状況も踏まえて、重要な事情の変更といえるかがポイントとなります。

義務者の再婚による養育費の減額に関する詳しいコラムはこちら

権利者が再婚した場合

養育費の権利者側が再婚した上で、再婚相手と子供が養子縁組した場合には、義務者の養育費は無くなります。

子供が再婚相手と養子縁組することで、養親である再婚相手が子供に対して一時的な扶養義務を負います。

そのため、子供と再婚相手の養子縁組により、義務者の養育費の負担は無くなります。

他方で、権利者が再婚したものの、再婚相手と養親縁組をしなかった場合には、従前とおり、実父である義務者が子供に対する扶養義務を負い続けます。

ただ、子供が養親の収入によって事実上扶養を受けている場合には、子供の扶養状況に変化が生じます。そのため、養子縁組をしていなかったとしても、再婚相手の収入状況によっては、養育費の減額が認められる可能性があります。

権利者が再婚した場合の養育費の減額に関するコラムはこちら

合意した養育費が高額である場合

養育費算定表と比較して、合意した養育費が不相当に高額であっても、それだけでは養育費の減額は認められません。

しかし、不相当に高額な養育費を負担し続けることで、義務者が最低限の生活すら維持できなくなる場合には、養育費の減額は認められる可能性があります。

ただ、高額の養育費を合意するに至った経緯や高額の養育費を一度でも合意した事実を踏まえて、養育費を減額したとしても、算定表や算定式で導かれる養育費に幾分か加算される場合があります。

【減額肯定例】東京家庭裁判所審判平成18年6月29日
 合意した養育費の額が標準的な養育費の2倍の額
 両親からの援助が期待できなくなったこと
 借入金の返済が必要となったこと
【減額否定例】大阪高等裁判所平成19年7月17日
 公正証書による合意から3年11か月が経過
 当事者間の協議により標準的な算定式を用いずに養育費を合意している
 

計算結果とは異なる判断も

上記の計算方法により算出される養育費が、減額後の養育費として当然に認定されるわけではありません。

再婚後に子供が産まれた事情に加えて、個別のさまざまな事情を考慮しながら、養育費の金額が決定されます。

そのため、計算式により算出される養育費に近づくよう、できる限り当事者間の協議や調停手続を通じて話し合いを進めていくことが重要です。

養育費が減額される始期

養育費が減額されるのは、いつからなのでしょうか?

重要な事情の変化が生じたか否かは、養育費を受け取る側からすれば、簡単に知ることはできません。

そこで、養育費が減額される開始時期は、養育費減額を求める意思表示をした時からとされています。

養育費減額を求める意思表示をした時期が判然としない場合には、養育費減額の調停申立てをした時が減額の始期とされることが多いでしょう。

養育費減額のための手続

養育費を減額する必要のある重要な事情が生じた場合、それだけで当然に養育費が下がるわけではありません。

養育費減額のための手続を解説します。

まずは、当事者で協議する

養育費を減額する事情が生じたら、いきなり調停の申立てをするよりも、まずは相手方に対して、養育費の減額を依頼します。

内容証明郵便等により、養育費の減額を求める通知書を送付することが一般的です。

いきなり内容証明郵便を送付すると、相手も身構えてしまうため、相手方との関係性を踏まえて、LINEやメールによりソフトに養育費の減額を依頼しても良いかもしれません。

公正証書を作っておく

もし相手方との協議の結果、養育費の減額について合意できれば、必ず合意書は作成しておきましょう。

養育費の支払いは、長期間に及ぶことも多いため、養育費の内容が曖昧なままだと、問題が起きがちです。

そのため、相手方の合意内容を記した合意書を作成しておきます。

また、合意内容を公正証書にしておくことが肝要です。

特に、養育費の受取人側からすれば、単なる合意書よりも公正証書にしておくことは、養育費の回収をより確実なものにできます。

公正証書は、公証人の面前で作成される公文書で、信用性の高い文書です。

その上、公正証書の中に強制執行を認める文章を設けることで、判決や審判を得るための裁判手続をすることなく、差押え等の強制執行を進めることができます。

調停の申立てをする

当事者の協議が進まない場合には、家庭裁判所に対して調停の申立てをします。

申立てをする家庭裁判所は、相手方の居住地を管轄する裁判所となります。

法律上最初から審判の申立てをすることもできますが、裁判官の判断により調停手続に付する判断がなされることがほとんどです。

調停手続とは?

調停手続とは、家庭裁判所の調停委員の仲裁により、当事者間で話し合いを進めていく手続です。

3回から5回ほど調停手続を行い、養育費に関する条件の調整ができれば、調停が成立します。

調停が行われる日(調停期日)は1ヶ月半から2ヶ月に一回の頻度で行われます。

調停期日の当日

調停手続が行われる当日、養育費の減額を求める申立人とその相手方は、双方が対面しないように、異なる時間(例:申立人は10時、相手方は10時20分)に家庭裁判所に出向き、それぞれ別々の待合室で待機します。

調停委員(男女2人)が在室する調停室に、申立人と相手方が交代で入室します。

当事者のうち一方が入室すると、調停委員が調停事件に関係する事情一切を聴き取りします。

当事者の一方がその言い分を一通り話し終えると、専用の待合室に戻ります。

待合室に戻ると、他方の当事者が調停室に入室し、言い分を述べたり、調停委員から事情の聴き取りをされます。

これを一回の期日につき2〜3回行い、次回の調停期日が決まると、その日の調停期日は終了します。

次回の調停期日までにそれぞれの言い分を書いた主張書面や証拠を提出し、問題なっている事項を解決していきます。

何回かの調停期日を経て、養育費の金額や条件について調整ができれば、調停が成立します。

審判に移行することも

調停が不成立となれば、審判手続に移行します。

審判では、調停手続のような話し合いの要素は弱く、裁判官が、当事者の提出した主張書面や証拠に基づいて、適正な養育費の金額を判断します。

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養育費の計算には複雑な計算過程を要します。

また、養育費の計算結果がそのまま減額された養育費として認定されるわけではなく、様々な事情に基づいた法的な判断を経て減額後の養育費が認定されます。

養育費の減額を求めたい場合には、まずは弁護士な相談してみましょう。

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