離婚調停や離婚訴訟において、離婚原因として性格の不一致や価値観の相違が主張されることは多くあります。
この性格の不一致等が離婚原因になることはあるのでしょうか?
結論としては、離婚原因にはなりにくい、ただ、例外的な事案であれば性格の不一致が離婚原因になり得ます。
本コラムでは、性格の不一致について解説していきます。
離婚原因とは?
離婚原因(離婚事由)とは、民法で規定された夫婦が離婚できる理由や原因を指します。
民法では、離婚事由として、以下のような事由を列記しています。
- 配偶者に不貞な行為があったとき。
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
相手方が離婚に応じない場合に、離婚を求める配偶者がこれら離婚原因が存在する事を主張立証しなければなりません。
そのため、相手方が離婚に応じる場合には、これら離婚原因の立証は求められません。
あくまでも、相手方が離婚の申し出に異論を唱える場合に、離婚原因の証明が求められます。
性格の不一致はどの離婚事由に?
性格の不一致や価値観の相違は、先程紹介した離婚事由のうち、不貞行為、悪意の遺棄、生死不明、強度の精神病のいずれにも該当しないことは明らかです。
そのため、性格の不一致が離婚事由となるためには、婚姻関係を継続し難い事由と言えることが必要となります。
継続し難い事由とは?
離婚事由として列記されている、1号(不貞行為)から4号(強度の精神病)までのいずれの事情も存在しないものの、配偶者による暴言や暴力などの事情を理由に、夫婦関係を維持できなくなることはよくあります。
そこで、婚姻を継続し難い事由とは、夫婦関係が深刻に破綻して夫婦としての共同生活を維持できなくなるような事情とされています。
暴力や暴言等の継続的なDV、長期間にわたる別居は、この継続し難い事由に該当し得ます。
ただ、継続し難い事由にあたるかについては、不貞行為のような分かりやすい基準はありません。
そのため、さまざまな事情を組み合わせて総合的に評価して判断することになります。
具体的には、
- 婚姻中の当事者双方の行為、態度、
- 婚姻継続の意思の有無、
- 子の有無・状態
- 双方の年齢
- 別居の有無、その期間の長短
といった事情を考慮して客観的に判断します。
性格の不一致は継続し難い事由か?
具体的なエピソードを挙げる
主観的に性格が合わない、価値観が違うといった程度では離婚事由に当たりません。
当事者がいくら性格の不一致や価値観の相違を訴えかけても、第三者である裁判官にはそれを判断することはできません。
性格の不一致や価値観の相違などを主張したいのであれば、抽象的に性格の不一致等を述べるだけでなく、どのような点で性格の不一致と考えるのかを具体的なエピソードを挙げながら主張しなければなりません。
婚姻関係の修復の努力
夫婦と言えども、それぞれ生まれ育ってきた環境は通常異なるものです。
そうすると、夫婦間で生活様式や価値観などが異なることはいわば当然のことと言え、価値観等に大なり小なり相違があることは予定されているといえます。
そのため、夫婦はそれぞれに異なる部分があっても、話し合いながら、互いに譲れる部分があれば譲り合いながら夫婦関係を維持していく努力が求められます。
しかし、夫婦関係の維持のための努力の甲斐もなく、深刻な性格の不一致や価値観の相違により夫婦関係の破綻が深まれば、離婚原因になり得ます。
客観的な証拠で裏付ける
性格の不一致を離婚事由としたい場合、性格の不一致に関連する具体的なエピソードを主張した上で、これによって夫婦関係が修復できない程度に壊れてしまったことまで主張することが必要です。
さらに、性格の不一致の具体的なエピソードとこれによって夫婦関係が壊れたことを客観的な証拠によって裏付けなければなりません。
性格の不一致を証明することは難しい
性格が合わない、価値観が違うといった事情はとても主観的な事情です。
性格の合うのか合わないのかは、一見しても分かりません。
その上、多くの夫婦は、多かれ少なかれ価値観や生活様式の違いを感じます。
そのため、性格の不一致によって夫婦関係が破綻したことを説明することも非常に難しいことが多いでしょう。
客観的な証拠は何があるか?
性格の不一致や価値観の相違は、とても主観的な事情ですから、客観的な資料により証明することは簡単ではありません。
性格の不一致や価値観の相違それ自体を証拠によって直接証明することは通常できないと考えるべきです。
そのため、同居期間中に生じた具体的なエピソードを客観的な証拠により証明し、複数あるエピソードを掛け合わせて、夫婦関係を維持できないような性格の不一致や価値観の相違を証明していくことになります。
これらエピソードを証明できるものとしては、日々の日記、録音、録画、相談記録、陳述書等があります。
日記については、過去のいくつかのエピソードを思い起こして記載するよりかは、エピソードが生じた都度、記憶が新鮮なうちに書き綴ることが重要です。
これら客観的な証拠により、性格の不一致があること、これが夫婦関係を破綻に追い込んだことを、如何に説得的に説明できるかがポイントです。
その他の事情
ただ、多くの事案では、性格の不一致や価値観の相違のみで離婚が認容されることはあまりありません。
そこで、性格の不一致だけでは夫婦関係の破綻を証明できないとしても、長期間に及ぶ別居、暴言や暴力といったその他の事情と掛け合わせることで、夫婦関係が修復できない程に壊れていることを証明させることはよくあります。
過去の裁判例の紹介
紹介する裁判例をみると、以下の事情が認められる場合には離婚原因として認定されている傾向があるといえます。
①性格の不一致や価値観の相違の具体的なエピソードを十分に証明できていること
②性格の不一致等が、相手方の自己中心的な言動や無配慮を原因としていること
③離婚の意思が強いこと
東京高裁平成13年1月18日判決
[事案]
夫は、会社人間的な生活をし、家庭生活を犠牲とすることもあった。
他方、妻は、夫に対して献身的な対応をしてきましたが、病気がちで手術を繰り返して、次第に家事労働を苦痛とするようになりました。
夫は、このような状況を妻のだらしない性格が原因だとして、十分な理解を示さず、妻の立場を思いやるという心遣いに欠ける面がありました。
夫の定年後、妻が夫に対し、夫の思いやりのなさ等に耐えられず、離婚を求めました。
[判決(棄却)]
夫には格別に婚姻関係を破綻させるような行為があったわけではない。
夫婦は現在別居状態にあるものの、妻が一方的に夫との同居生活を拒否しているというべきものである。
夫は、婚姻関係の継続を強く望んでいる。
長男も、夫婦の婚姻関係の継続を望んでいる。
そこで、3年3か月にわたり別居状態にあり、妻の離婚の意向が強いことを考慮しても、現段階で、婚姻関係が完全に破綻しているとまで認めるのは相当でないというべきである。
今一度、長年にわたって形成されてきた婚姻関係につき再考し、改めるべき点は改め、子らの協力を得なから、和合のための努力が試みられるべきである。
以上のとおりであるから、第一審原告の本件離婚請求は理由がない。
名古屋地裁岡崎支部平成3年9月20日判決
[事案]
夫は仕事一筋の人間でした。
妻は、2人の子を出産し、家事育児に専念していましたが、その後、夫の業務を手伝うようになりました。
夫は、家庭の在り方を省みることが少なく、性格的に社会性・柔軟性がなく、几帳面で口やかましく、仕事を手伝わせた長男にきつく当たり過ぎた面や近親者との付き合いを軽視してきた面がありました。
昭和63年8月頃、夫の妻に対する『お前は役に立たない。』という言葉を受けて限界を感じ別居を開始した上で、離婚を請求しました。
[判決(棄却)]
経済的には安定した現在、夫としては息子や妻に対する態度を十分に反省し、性格を見直し、仕事の面より、むしろこれから先の家庭の幸福と安泰の方に目を向けるべきであろう。
一方、妻にも、屁理屈を言いふくれあがる、旅行などで家を出る時ほとんど支度をしてくれないなどの夫が言う妻の生活態度について耳を傾けるべきである。
妻としても速やかに子離れをするべきであり、夫とよく話し合い、これまで約二八年間喜びも悲しみも幾歳月夫と共に築いて来た家庭生活を改めて構築していく努力が必要である。
現在婚姻関係はこれを継続することが困難な事情にあるが、なお夫は離婚に反対しており、原告に帰ってきてほしい旨懇願している。
子供達がそれぞれ独立した現在老後を迎えるべく転換期に来ていると言えるところ、夫が前記反省すべき点を充分反省すれば、いまなお妻との婚姻生活の継続は可能と考えられる。
そこで、夫と妻、特に夫に対しての最後の機会を与え、二人して何処を探しても見つからなかった青い鳥を身近に探すべく、じっくり腰を据えて真剣に気長に話し合うよう、本訴離婚の請求を棄却する次第である。
大阪高裁平成21年5月26日判決
[事案]
妻は、平成19年ころから、夫の親戚縁者を疎んずる傾向が強くなっていました。
また、前触れもなく,自宅の仏壇に祀られていた夫の先妻の位牌を、百貨店の紙袋に包んで、前妻との子供である長男の妻の実家宅に送り付けました。
妻は,平成19年ころ,夫自身の人生史が刻まれたアルバムを大護摩の際に焼却しました。
夫は、もはや一緒に暮らしていくことは耐えられないと感じ、離婚を決意し、ワンルームマンションを借りて別居を開始しました。
[判決(認容)]
80歳に達した夫が病気がちとなり,かつてのような生活力を失って生活費を減じたのと時期を合わせるように始まった夫を軽んじる行為、長年仏壇に祀っていた先妻の位牌を取り除いて親戚に送り付け、夫の青春時代からのかけがえない想い出の品を焼却処分するなどという自制の薄れた行為は、余りにも夫の人生に対する配慮を欠いた行為である。
これら一連の行動が、夫の人生でも大きな屈辱的出来事として、その心情を深く傷つけるものであったことは疑う余地がない。
妻は、夫が受けた精神的打撃を理解しようという姿勢に欠け、今後、夫との関係の修復ひとつにしても真摯に語ろうともしない。
このことから、婚姻関係は、夫が婚姻関係を継続していくための基盤である妻に対する信頼関係を回復できない程度に失わせ、修復困難な状態に至っていると言わざるを得ない。
したがって,別居期間が1年余であることなどを考慮しても、婚姻を継続し難い重大な事由があると認められる。
札幌地判昭50年3月27日
[事案]
昭和38年4月10日、結婚をしました。
その後、夫は、昭和40年1月内科、外科等の医院を開業しました。
しかし、几帳面である夫と、どちらかと言えば、大まかな妻という両者の性格の相違とが相まって、医院の開業後、二人の間は次第に冷却し、時には反発し合うこともありました。
さらに、昭和47年7月、夫の実母が他界したことを契機に、夫婦仲はさらに悪化していき、これに悲観した妻は、自殺未遂を図りました。
その後、夫婦は別居状態となり、夫が妻に対して離婚を求めた事案です。
[判決(棄却)]
夫は、妻の長所と短所を率直に認めたうえで妻の人間性を理解し、これを包容してゆく大らかさに欠けていたものといわざるを得ず、妻の特異な行動も、もとをただせば、夫のこのような無理解に端を発したものといえない。
そのため、夫婦間の婚姻が既に破綻したものということはできない。
夫婦が今日の事態に至ったことついては、一方的に妻に原因があったのではなく、夫と妻ともに、相手を理解し合い、長短合わせて受容し合う気持を欠いていたことに大きな原因があつたということができる。
従って、将来互いに努力し合うことによりこれを克服することができると考えられるからである。
そして、夫婦は、性格的にかなり対照的であつて相互に融和しにくいきらいがあることは否定できないが、対照的であるがゆえにかえってよく融和している例もよくある。
また、いずれもいかなる努力によっても円満な婚姻生活を維持することが期待できない程、極端に偏った性格の持主であるわけではない。
夫と妻との出来事は、いかなる夫婦でもありがちな事柄の程度の域を出ず、相手の人格を根底から踏みにじったものと言うことはできない。
よって、婚姻を継続し難い重大な事由があるということはできない。
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性格の不一致が離婚原因となるためには、さまざまな準備が必要です。
性格の不一致以外の事情を掛け合わせることで離婚原因となることもあります。
性格の不一致を理由に離婚を考えている場合、弁護士に相談してみましょう。
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