コラム
更新日: 2023.12.08

子なし夫婦の相続とは?子なし・親なし・兄弟ありの相続手続きを弁護士が解説|難波みなみ法律事務所

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

像続問題 子なし夫婦の相続問題 子なし親なし兄弟ありの相続手続き

義理の兄弟との遺産分けの話し合いを回避できる方法があります。

子どもがいない夫婦の場合、夫や妻が死亡すると、その相続人に兄弟が含まれることがあります。

妻の立場からすれば、兄弟であってもあくまでも義理であるため、関係性によっては夫の財産を相続してほしくないと感じてしまうのは、おかしなことではありません。しかし、子供のいない夫婦であれば、配偶者の兄弟姉妹または甥・姪が相続人となるため、義理のきょうだいと遺産分けの話し合いをしなければなりません。特に疎遠になっている兄弟との協議には大きな負担です。このような負担を回避するためにも、生前の相続対策が非常に重要です。

本記事では、義理の兄弟との相続トラブルや相続手続きについて弁護士が解説します。

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子どもがいない場合の相続人の範囲

配偶者(妻や夫)は、必ず相続人になることができます。

被相続人との間に子どもがいれば、子どもが第1順位の相続人になるため、配偶者と共に子どもが相続人となります。子どもの法定相続分は【2分の1×子供の人数】となります。

しかし、子どもがいない場合は、第2順位である父母や祖父母(直系尊属)が相続人となり、その法定相続分は3分の1となります。とはいえ、一般的な寿命を考慮すれば、すでに被相続人の父母が亡くなっているケースがほとんどであるため、次は第3順位である被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。

夫が亡くなった妻の立場からすれば、義理の兄弟に夫の財産を渡さなければならないことは、相手との関係が希薄であればあるほど抵抗を感じてしまうものです。しかし、法律上は兄弟姉妹が法定相続人になると規定されているのが現実です。

義理の兄弟が亡くなっている場合

配偶者が亡くなった時点で、既にきょうだいが他界している場合、他界したきょうだいの子(つまり甥・姪)が代わりに相続人となります。これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)といいます。

義理の兄弟が相続開始後に亡くなった場合

配偶者が亡くなった時点で、きょうだいが存命であったものの、相続手続きを完了させる前に、きょうだいが亡くなった場合、そのきょうだいの法定相続人が配偶者の遺産に対する相続分を相続します。

例えば、配偶者が死亡した後、配偶者の弟が亡くなったところ、その弟に子供と妻がいれば、弟の妻と子供が遺産分割の当事者となります。つまり、弟の妻とも遺産分けをする必要が生じます。

義理の兄弟の相続分

法律上、法定相続人に応じて遺産を取得できる持ち分が決まっています。これを法定相続分と呼びます。

法定相続人が配偶者ときょうだいである場合、法定相続分は、配偶者である妻が4分の3、きょうだいが4分の1となります。きょうだいが3人いる場合には、きょうだい一人あたりの相続分は、12分の1となります。

代襲相続の場合、きょうだいが2人で、亡くなっているきょうだいの子供3人であれば、代襲相続する甥姪の相続分は、24分の1となります。

計算方法

 1/4×1/2×1/3=24分の1

TIPS! 義両親と協議する場合も
配偶者が無くなったときに配偶者の親(義両親)が存命である場合、配偶者と義理の両親が法定相続人となります。遺言書がなければ義理の両親と遺産分割協議をしなければなりません。この場合、配偶者の相続分は3分の2、親の相続分は3分の1となります。
関連記事|法定相続分とは?法定相続分を分かりやすく弁護士が解説します

義理の兄弟と遺産分割協議の流れ

上述したとおり、法律上は被相続人のきょうだいにも相続権が発生する場合があります。

ただ、必ず相続させなければならないわけではありません。義理の兄弟が応じてくれさえすれば、義理の兄弟は遺産を取得せずに配偶者に遺産を集中させることも可能です。

しかし、このような遺産分けをするためには遺産分割協議をしなければなりません。

遺産分割協議とは、相続人全員参加で行う相続分を分配するための話し合いを行うことをいいます。遺産分割協議を行うための流れを解説します。

関連記事|相続手続きの流れ|相続手続きの基本と流れを弁護士が詳しく解説

相続人の確定をする

遺産分割協議を行うにあたって、相続人を確定させなければなりません。相続人を確定させるためには、戸籍謄本の取り寄せをする必要があります。

  1. 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍
  2. 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍
  3. 代襲相続人(おい,めい)の場合、亡くなった兄弟の戸籍謄本
  4. きょうだいや甥・姪の現在戸籍

遺産の調査をする

相続人の確定後、被相続人の遺産を調査し、相続財産を確定させる必要があります。

預貯金であれば、銀行などの金融機関に対して死亡時の残高証明や取引履歴を取り付けます。不動産であれば、登記簿謄本や評価証明書を取得します。その他の遺産についても必要な範囲で資料の取り付けを行います。

遺産の調査が完了すれば、遺産の範囲や金額を整理させるために、遺産目録を作成するのがおすすめです。

遺産分割協議をする

遺産の確定ができれば、これを踏まえて、相続人と話し合いをします。誰がどの財産を取得するのかを交渉します。相続人がきょうだいや甥・姪であれば、義理の兄弟らと遺産分けの話し合いをしなければなりません。

また、一部の相続人が生前贈与を受けている場合には、遺産の前渡しとして考慮して具体的な相続分を確定していくことが必要となります。このような生前贈与を特別受益と呼びます。

法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産の贈与があった場合には、特別受益として持ち戻さないこととなりました。

遺産分割協議書を作成する

相続人との間で遺産分けの話し合いができれば、これを遺産分割協議書を作成します。話し合いがまとまったとしても、遺産分割協議書を作成しておかなければ、不動産の相続登記や預貯金の解約等の相続手続きができません。

関連記事|遺産分割協議書の書き方とは?テンプレートを用いて弁護士が解説

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遺産分割協議ができない場合

一方で、義理の兄弟が相続分の放棄に応じてくれないのであれば、遺産分割協議を継続することに意味はありません。また、義理の兄弟との関係が希薄すぎて、遺産の話題を持ち出すのが難しいなど、遺産分割協議ができない事情がある場合は、以下の方法を検討しましょう。

遺産分割調停

遺産分割調停とは、家庭裁判所の調停手続きを利用して、遺産分割の話し合いをする手続きです。

家庭裁判所から選任された調停委員が話し合いを先導してくれるため、スムーズな解決が期待できます。

しかし、遺産分割協議は必ず自身の思い通りの内容で成立するわけではありませんし、問題が解決しない場合は不成立となって終了してしまいます。

遺産分割調停が不成立となってしまった場合は、自動的に遺産分割審判へと移行します。

関連記事|遺産分割調停で「やってはいけないこと」と「聞かれること」

遺産分割審判

遺産分割審判とは、家庭裁判所の裁判官が強制的に結論を出してしまう手続きです。

不成立となってしまった話し合いに結論を出せるという点はメリットですが、多くのケースで法定相続分を超える遺産を取得するのは難しいのが現実です。

遺産分割審判へと移行してしまった場合、夫の財産をすべてご自身で相続するのが一気に難しくなってしまうため、あくまでも話し合いで解決させるのが重要です。

遺産分割調停を利用する際は、審判への移行も視野に入れた上で、慎重に行うようにしてください。場合によっては、調停申し立て前に弁護士に介入してもらうなど、可能な限り話し合いでの解決を試みましょう。

▶遺産分割調停に関する裁判所の解説はこちら

義理の兄弟に相続させないには

実は、義理の兄弟に相続させない方法はいくつかあります。すでに被相続人が亡くなっている場合は難しいのですが、生前であれば以下の方法で対策可能です。

義理の兄弟との相続問題を回避するには、生前から事前の準備・対策をしておくのが最も理想的です。

✓義理のきょうだいに相続させないためには

  • 遺言書の作成
  • 生命保険
  • 相続放棄
  • 養子縁組

遺言書を作成する

遺言書とは、自身の死後の遺産分割等についてまとめた書面で、被相続人が残せる最後の意思表示とされています。

この遺言書によって、「すべての財産を配偶者に相続させる」と記載しておけば、義理の兄弟との相続問題が生じる心配はありません。

ただし、自身で遺言書を記載する「自筆証書遺言」の場合、作成には厳格なルールが設けられているため、個人で行うのはあまりお勧めできません。もし、1つでも法的不備が見つかれば、無効な遺言書となってしまうため注意が必要です。作成の際は、弁護士や行政書士といった法律の専門家にサポートしてもらうのが理想的です。

公正証書遺言を作成する

より確実に遺言の内容を実行させたいのであれば、「公正証書遺言」を作成しましょう。

公正証書遺言とは、公証役場の公証人が作成をサポートしてくれる遺言書です。公証人もいわば法律の専門家であるため、遺言書に法的不備が生じる心配がありません。

また、遺言書自体も公証役場で保管してもらえることから、仮に謄本(コピー)となる遺言書を紛失してしまったとしても、公証役場にて原本が厳重に保管されているので安心です。

費用がかかってしまうというデメリットはありますが、より確実に配偶者へ自身の遺産を相続させたいという方は、積極的に利用したい方法です。

遺留分の問題は生じない

一定の法定相続人には、遺留分という権利が認められています。遺留分とは、遺産を最低限相続できる相続割合のことです。たとえば、相続人が配偶者と子どもだった場合、遺言書に「すべての財産を配偶者に相続させる」と記載しても、子どもには遺留分が認められています。

子どもが遺留分権を主張すれば、配偶者から子どもに相当額を支払わなければなりません。

しかし、兄弟姉妹には遺留分権が認められていません。よって、遺言書を作成する際も、遺留分について検討する必要がないため、すべての財産を配偶者に残すことができます。

生命保険に加入しておく

生前に生命保険に加入することで兄弟への取り分を少なくさせる方法もあります。

生命保険の保険金は、受取人固有の財産とされ、遺産とはされません。つまり、生命保険金を遺産分割する必要がないということです。そのため、預貯金に余剰がある場合には、これを預貯金として残しておくと、その預貯金のすべてが遺産として、兄弟らと遺産分けしなければなりません。

しかし、この預貯金の一部を生命保険の保険料として支払うことで、受取人に指定された配偶者は、預貯金と同じ額の生命保険金を受け取りながら、遺産額を減らすことができます。ただ、大部分の預貯金を保険料に充ててしまうと、例外的に特別受益として遺産分割において考慮される場合がありますので注意が必要です。

相続放棄してもらう

相続放棄とは、被相続人の遺産を相続する地位を放棄することを言います。相続放棄をすることで、はじめから相続人ではないことになります。

相続放棄をするためには、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に対して相続放棄の申述をする必要があります。

しかし、兄弟が複数いる場合には、兄弟の一部が相続放棄したとしても、相続放棄をしていない兄弟は相続権を持ち続けます。また、相続放棄をするか否かは、相続人の自由です。

養子縁組をする

兄弟に相続させないためには、親族等と養子縁組する場合があります。養子縁組をすることで、法定相続人は配偶者と養子となるため、きょうだいは相続人にはなりません。

ただ、兄弟に相続させないためだけに養子縁組を利用することは認められていません。親子としての実態のない養子縁組は認められていません。

相続税の問題

遺産相続でセットで生じる問題が「相続税」です。しかし、常に相続税の申告をしなければならないわけではありません。

相続税の基礎控除

遺産額が相続税の基礎控除額を超えない場合には、相続税の申告義務はありません。

相続税の基礎控除額は、【3000万円+600万円×法定相続人の人数】となります。特に、相続人が兄弟姉妹の場合には、法定相続人の人数が多くなることもあるため、基礎控除額が大きくなります。

生命保険の非課税枠

生命保険の保険金は、受取人固有の財産ですから、遺産には当たりません。しかし、相続税法の関係で、生命保険の死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税の対象となります。ただ、生命保険には「非課税枠」が設けられているため、これを超えない限り相続税の対象となりません。

生命保険の非課税枠=500万円×法定相続人の人数

相続税対策として、預貯金を用いて生命保険に加入することで、生命保険の非課税枠を活用するケースもあります。

生前贈与を活用する

相続税対策として生前贈与を活用することがあります。生前贈与により相続開始時の遺産額を減少させておくことで、相続税の節税効果を期待できます。ただ、生前贈与のうちでも、相続開始時から3年が経過していない生前贈与については、その贈与はなかったものとして相続税の対象となるため注意が必要です。また、生前贈与のうち非課税枠である110万円を超える生前贈与については、贈与税が課税されます。

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相続手続きは、戸籍謄本の取り寄せから遺産の調査に加えて、義理の兄弟との遺産分けの話し合いをした上で遺産分割協議書を作成しなければなりません。

これらのプロセスは、専門的な部分も含まれており簡単に進めることはできません。さらに、義理のきょうだいとの話し合いについても、精神的な負担を伴います。特に、長年交流のなかった義理のきょうだいや甥姪であれば、特に負担は大きくなります。

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