養育費の調停や合意ができても、相手方がこれを任意に払わない場合には、強制執行をせざるを得ません。
しかし、養育費を回収できるだけの財産が分からなければ、強制執行してもお金を取ることはできません。
今回は養育費の強制執行をしてもお金が取れないケースの解説をします。

1.養育費の強制執行とは
養育費とは、未成熟の子供が経済的・社会的に自立するまでの間に必要となる、子どもの生活費をいいます。
養育費の終期は、成人年齢の引き下げがあったとしても、従前のとおり原則として20歳までです。
養育費の金額は、両親の収入状況に応じて、所定の計算式により算出されます。
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1-1.調停や審判が必要
当事者での合意だけでは、その合意違反を理由に、すぐに義務者の財産を差押えることはできません。
養育費の強制執行をするためには、裁判手続を通じて養育費の内容が確定していることが必要です。
裁判手続には、調停、審判、離婚訴訟があります。
これら裁判手続を通じて得られた調停調書、審判書、確定判決等を専門用語で債務名義と呼びます。
また、裁判手続の他、強制執行を認める内容の公正証書も強制執行を行うことができます。
TIPS! 公正証書とは、公証役場の公証人が、当事者の要望する内容に基づいて作成する文書です。 単なる当事者間の合意書だけでは、直ちに強制執行することは出来ませんが、公正証書であれば、たとえ調停調書や審判書等の債務名義がなくても、直ちに強制執行することができます。 |
2.養育費の強制執行
養育費の義務者が養育費を支払わない場合、養育費の債務名義を有していれば、義務者の財産を差押えることができます。
2-1.預金の差押えをする場合
養育費の義務者の預貯金を差押える場合、義務者が開設している預金口座の金融機関と支店名を特定する必要があります。
口座番号の特定までは必要ありませんが、支店名を特定する必要はありますので、注意が必要です。
ゆうちょ銀行であれば、支店名までの特定は必要ありません。
そのため、義務者の金融機関や支店名を把握していなければ、預貯金の差押えをすることはできません。
2-2.給与債権の差押えをする場合
養育費の義務者が会社員の場合、義務者は勤務先に対して、給与や賞与の支払いを求める権利を持っています。
養育費の義務者が養育費の支払いを怠る場合には、養育費の債務名義を根拠に、給与や賞与の債権を差押えることができます。
勤務先の名称さえ分かれば、会社のホームページや登記情報を基に、勤務先の細かい情報を調べることはできます。
しかし、義務者の勤務先の名称すら知らない場合には、給与等を差押えることはできません。
将来の養育費も対象
養育費の差押えにおいては、既に支払期限の到来している養育費の不払いがある以上、まだ期限の到来していない将来の養育費についても、給与の差押えができます。
その上、一度、給与等の差押えをすれば、その差押えの効力は来月以降の給与にも及びます。
そのため、その都度、給与の差押えをすることはなく、養育費全額の回収ができるまで、勤務先等から、給料日の到来の都度、天引きされた給与の一部が入金されます。
TIPS! 給与の差押えは、義務者の生活を守るため、給与の手取り額の4分の1しか差押えできませんが、養育費の差押えの場合には、手取り額の2分の1まで差押えできます。 |
2-3.不動産の差押えをする場合
養育費の義務者が不動産を所有している場合、この不動産を差押えることができます。
不動産の差押えをするためには、不動産の所在や地番を把握しておく必要があります。
3.義務者の財産を調べる方法
義務者の預貯金を差押えたが、残高が少ない場合、そもそも預金口座の情報を有していない場合でも強制執行を諦める必要はありません。
また、義務者が転職を繰り返し、現在の勤務先が分からない場合も同様です。
3-1.財産開示の制度
財産開示とは、強制執行の手続を行えるように、義務者に自身の財産を開示させる制度をいいます。
財産開示は、義務者の住所を管轄する地方裁判所に対して申立てをすることで行えます。
申立てを受けた裁判所は、財産開示手続を開始させて、義務者を呼び出します。
呼び出しを受けた義務者は、裁判所から、事前に財産目録を提出するよう指示を受けます。
義務者は、裁判所から指定された日に出頭した上で、自身の財産について説明し、裁判所や権利者からの質問に対して回答しなければなりません。

財産開示のペナルティ
義務者が裁判所に出頭しない、回答しない、虚偽の回答をした場合、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金のペナルティを科されることになります。
3-2.第三者からの情報取得
義務者の財産の調査には限界があります。
財産開示についても、ペナルティが厳しくなったといえども、義務者から有益な情報を得られないケースもよくあります。
そこで、養育費の差押えを十分に行うために、第三者からの情報取得手続を利用します。
勤務先の情報を知る方法

義務者の勤務先が分からない場合、給与や賞与の差押えができません。
そこで、市町村や厚生年金保険等の実施機関である日本年金機構に対して、第三者からの情報取得の申立てをすることで、勤務先の情報を取得することができます。
なお、給与債権の情報を取得するためには、養育費等の扶養義務に関する定期金債権が対象であることが必要です。
財産開示を先行させる必要
勤務先の情報取得の申立てを行うにあたっては、差押え等の強制執行が奏功しなかったことに加えて、財産開示手続を先行して行なっていることが必要となります。
預貯金の情報を知る方法

預貯金の差押えをするためには、金融機関と支店を特定させることが必要です。
そこで、第三者からの情報取得手続を利用することで、金融機関から、預貯金債権の存否、取扱店舗、預貯金の種別、 口座番号および額の情報を取得できます。
金融機関の特定をすれば足り、支店の特定までは必要ありません。
なお、生命保険に関しては、情報取得の対象から除外されています。
申立てにあたっては、強制執行が奏功しなかったことは必要ですが、財産開示の手続を先行させる必要はありません。
弁護士会照会
養育費に関する債務名義を有している場合、弁護士会照会により預金情報を取得することができます。
弁護士会照会とは、弁護士が依頼を受けた事件について、証拠を収集し事実の調査をするために、弁護士会を通じて行う照会手続です。
ただ、弁護士会照会により預金情報を取得できる金融機関は、都市銀行等に限られているため、すべての金融機関が対象となっているわけではありません。
不動産の情報を知る方法
不動産の差押えをするためには、不動産の所在や地番といった登記情報を知らないとできません。
そこで、第三者からの情報取得手続を利用することで、東京法務局から義務者が所有する不動産の情報を取得することができます。
ただ、不動産に関する情報取得を利用するためには、財産開示の手続を先行して行う必要があります。
4.弁護士に相談しよう

養育費の内容が確定したにもかかわらず、養育費の回収ができなければ、その債務名義は絵に描いた餅です。
ただ、差押え、財産開示、第三者からの情報取得といったプロセスはいずれも専門的なプロセスなため、容易に行うことはできません。
ご自身で頑張り過ぎずに、適切に弁護士に相談することが重要です。

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