養育費の支払義務を負う元配偶者が、多重債務を理由に養育費を支払わないことがあります。
そこで、元配偶者が多重債務を理由に自己破産を選択することもあります。
しかし、養育費は、過去の分も含めて、たとえ自己破産をしたとしても免責されるものではありません。つまり、自己破産をしても、養育費の権利者は元配偶者に対して、強制執行等を通じて養育費の支払いを求めることができます。
本記事では、養育費と自己破産の関係を弁護士が詳しく解説します。
自己破産とは何か
自己破産とは、借金を負っている債務者が、裁判所の手続を通じて、借金の支払いを免除(免責)してもらう債務整理の手続を指します。
破産手続は、①弁護士等が債権者に対して受任通知を送付した後、②裁判所に対して破産申立てをし、③破産開始決定と同時に破産手続が終了し、④その約2か月後に免責決定が出されるのが一般的なプロセスです。破産手続の中でも破産申立てと同時に破産手続が終結する手続を同時廃止手続と専門用語では呼んでいます。
同時廃止とは別に管財事件という自己破産手続きがあります。管財事件は、一定額の財産を持っている場合、法人の代表者である場合、重大な免責不許可事由がある場合に選択されます。管財事件では、裁判所が選任した破産管財人によって、財産の調査や免責不許可事由の調査を行います。
免責とは
免責とは、債務の支払責任を免除されることをいいます。具体的には、裁判所の免責決定を受けることで、破産債権について、債務者の財産から強制的に支払いに充てられることが無くなります。
ただし、あらゆる債務が免責されるわけではありません。税金や国民健康保険料などの公租公課は免責の対象になりません。免責の対象から除外される破産債権を非免責債権と呼びます。
また、破産法で定められた免責不許可事由があり、債務者が不誠実な対応をする場合には、裁判所が免責を許可しないこともあります。
自己破産でも養育費は免責されない
では、自己破産した場合には養育費も免責の対象になるのかどうか見ていきましょう。
破産申立前の未払い養育費の支払義務
結論からいえば、未払い養育費については免責されません。
自己破産の申立てをして免責の対象になるのは借金等の債務です。非免責債権と呼ばれる破産債権は免責の対象から外れます。
養育費は、破産法253条4号ハで定める子の監護に関する義務にあたるため、非免責債権となります。そのため、元配偶者が破産をしたとしても、滞納している養育費を回収するために元配偶者の給与等を差押えることは可能となります。
(免責許可の決定の効力等)
第253条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
四 次に掲げる義務に係る請求権
ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
破産開始決定後の将来の養育費と自己破産による影響
破産による免責の対象は、破産開始決定時の破産債権です。
そのため、破産開始決定以後の将来の養育費は、破産の免責の対象外となります。
よって、義務者である元配偶者が破産をしたとしても、将来の養育費を請求し続けることができます。
個人再生の場合も同様
個人再生をする場合も、養育費の支払には影響が生じません。
個人再生は、借金等の債務を一定額まで圧縮させた上で、これを3~5年の期間で分割で支払う制度です。
個人再生も、自己破産と同じように裁判所を通じて行う債務整理の手続です。
たとえ、支払い義務者である元配偶者が個人再生を行ったとしても、将来分の養育費も含めて養育費が圧縮されることはありません。
離婚慰謝料や財産分与は免責される
元配偶者は、養育費に加えて、離婚慰謝料や財産分与を負担することがあります。これらの義務は、破産法上、養育費とは異なる扱いを受けます。
不貞行為の慰謝料
配偶者の一方が不貞行為を行った場合、不貞配偶者に対して慰謝料を請求することができます。しかし、不貞行為による慰謝料は、養育費とは異なり非免責債権に当たらないため、原則として免責されます。
DVの慰謝料
DVによる慰謝料については、免責されない可能性があります。
故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権については、非免責債権とされています。
DVの慰謝料のうち身体への暴力による慰謝料は、非免責債権となる可能性があります。他方で、身体への暴力ではなく精神的なDVによる慰謝料の場合、生命又は身体を害する不法行為には当たらないため、免責される可能性があります。
財産分与は免責される
財産分与の義務も破産債権として免責されます。
財産分与とは、夫婦の共有財産を離婚に際して清算する制度をいいます。
財産分与の支払義務は、その他の破産債権と同じように免責の対象となります。
偏頗弁済とならないように注意する
支払不能後に未払いの養育費を受け取ると、偏頗弁済にあたる可能性があります。
偏頗弁済(へんぱべんさい)とは、支払不能となってから特定の債権者にだけ返済する行為のことです。偏頗弁済は、免責不許可事由の一つとされています。
受任通知を送付するなど、支払不能な状況となれば、債務者は一切の返済をしてはいけません。
たとえ養育費が非免責債権であったとしても、未払いの養育費を支払不能になってから破産手続が終わるまでに回収してしまうと、偏頗弁済に該当する可能性があります。偏頗弁済に該当すると、破産管財人が養育費の支払を否認して、偏波弁済した養育費の返還を求める可能性もあります。
そのため、破産手続中に未払いの養育費を回収することは控えるのが望ましいです。
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養育費の減額を受ける可能性
自己破産によって養育費の支払義務は免責されないとしても、収入減を理由に養育費の減額を求めてくる可能性があります。
養育費減額の条件
養育費の減額には、養育費の決定当時、予期していない重大な事情の変更が生じたことが必要です。
この重大な事情の変更の一つとして予期していない収入減が挙げられます。現に、収入の減少により債務超過となり破産に至るケースも多いため、元配偶者から養育費の減額を求められることも多くあります。
ただ、自己破産したことで直ちに養育費の減額が認められるわけではないため注意が必要です。大幅な収入減など、従前の養育費を支払い続けることができない程の事情の変更が必要となります。
養育費減額の協議をする
義務者が養育費の減額を求めれば、当然に養育費が減額されるわけではありません。
義務者から養育費の減額を求められれば、養育費を減額するべき事情の変更があるのかを検討した上で、義務者と協議することになります。
調停の申立て
父母間の協議ができなければ、義務者から養育費の減額に関する調停の申立てが行われます。
調停手続は、家庭裁判所の調停委員2名が申立人と相手方の当事者を仲裁して、話し合いによる解決を目指すプロセスです。
調停手続を経てもなお、養育費の減額について合意できなければ、調停は不成立となります。
審判手続
養育費の減額の調停が不成立となれば、審判手続に移行します。
審判手続では、当事者双方が主張や反論を尽くし、審理が尽くされた段階で、裁判官が終局的な判断を下すプロセスです。調停手続のように話し合いの要素は薄い手続といえます。
義務者が生活保護を受給している場合の養育費
生活保護制度とは、困窮した人に最低限度の生活を保障するための制度です。
生活保護は、生活困窮者の資産、能力その他あらゆるものを活用しても、最低限度の生活を送れない場合に支給されるものです。
このような生活保護の目的からすると、養育費の義務を負いません。
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養育費の時効について
養育費には時効が存在します。未払いの養育費が回収できないという失敗をしないために、養育費の時効について理解しておく必要があります。
養育費の時効期間
未払いの養育費の時効期間は5年となります。滞納分の養育費を5年間放置してしまうと養育費の支払義務が消滅してしまいます。
ただし、調停や裁判によって確定した未払い養育費について10年です。
時効にならないために
養育費を時効にさせないためには、義務者である元配偶者にしっかり請求することです。
自己破産が認められても、養育費の支払い義務は残ります。そのことを理解し、適切に請求していきましょう。
請求しても払わない場合には、調停の申立てや強制執行の申立てをするなど、法的な対応をするようにしましょう。
また、速やかに義務者の給与や預金を差押えをするために、単なる合意書だけでなく公正証書を作成しておくことが望ましいです。
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養育費の問題は弁護士に問合せを
どのような事情であれ、養育費を受け取るのは子供の養育環境を万全にするために重要なことです。義務者が支払いを拒んだり正当な理由なく減額を求めたりしてきたときは、弁護士に相談しましょう。
まず、弁護士への相談や交渉してもらうことのメリットを理解しておく必要があります。
まずは、弁護士に相談した上で、計画的に進めていきましょう。
初回相談30分を無料で実施しています。
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