婚姻費用の調停手続きは多くの人にとって初めての経験です。調停手続きでは何を聞かれるのか、何をしたら不利になるのか、そもそもどのように手続きが進むのかについて、不安を抱えている方は少なくありません。
婚姻費用の問題は、夫婦が別居中に生じることが多く、夫婦仲が悪化していることも相まって、婚姻費用の金額や条件について夫婦間で対立することはよくあります。また、婚姻費用の計算の前提となる収入資料を開示しなかったり、虚偽の収入資料を提出してくることもあります。
本記事では、家庭裁判所で行われる婚姻費用調停の基本や手続きの流れ、必要な準備、聞かれる質問内容、さらに手続きを成功させるためのコツについて分かりやすく解説します。この記事を読むことで、調停に対する理解を深め、不安を乗り越えた上でスムーズに準備を進めることができます。
婚姻費用とは?
婚姻費用とは、配偶者や子どもが社会生活を維持するために必要な費用を指します。これは民法752条によって定められた夫婦間の扶養義務に基づいており、夫婦は互いに協力し助け合う責任を負うことに根拠があります。
夫婦の扶養義務は別居中においても負担し続けるため、別居中の夫婦の一方は他方に対して婚姻費用を支払う義務を負うことになります。
婚姻費用には、衣食住を基本とする生活費に加え、子どもの教育費や医療費などが含まれています。
婚姻費用の計算方法
婚姻費用を計算する方法は、婚姻費用算定表を用いる方法と標準算定方式を用いる方法があります。
算定表は、裁判所が公開している計算表で、夫婦の収入額を当てはめることで簡易的に婚姻費用を計算することができます。他方で、標準算定方式は、基礎収入割合や生活費指数を用いた計算方法であり、算定表による計算よりも複雑となる分、正確な金額を算出することができます。
婚姻費用の調停が行われるケース
婚姻費用の調停手続きは常に行われるものではありません。夫婦間で話し合いが行われて合意に至れば調停手続きは行われません。
他方で、夫婦間で婚姻費用の問題を解決することが困難な場合には、婚姻費用の調停申立てが行われることがあります。
金額や条件の合意ができない
婚姻費用の金額や支払い条件について、夫婦間で合意に至らない場合に、調停手続きへの移行が必要となることがあります。
夫婦間の話し合いが平行線をたどり、解決に至らない場合には、中立公正な立場にある家庭裁判所に仲裁を委ねることで、婚姻費用の問題が解決される可能性が高まります。
調停手続では、双方の収入状況や子供の人数・年齢を踏まえながら、適切な婚姻費用額が算出されます。また、調停手続では、中立的な立場にある調停委員が夫婦を仲裁するため、冷静な話し合いも期待できます。
婚姻費用の金額面やその他条件で合意できなければ、婚姻費用の調停を積極的に利用するべきでしょう。
相手方が応答しない
婚姻費用の支払いを求めても、相手方がこれに全く応じない、無視をする場合には、婚姻費用の調停をするしかありません。
相手方との合意ができないどころか、相手方から誠実な対応を受けられない場合には、夫婦間の話し合いは諦めざるを得ず、家庭裁判所での話し合いのステージに移行した上で、相手方に誠実な対応を求めていきます。
ただ、調停手続においても、相手方が欠席をしたり誠実な対応をしない場合には、調停による解決は期待できず、この場合には、審判手続を通じて、裁判所に婚姻費用の金額を判断してもらうことになります。
収入資料を開示しない
相手方が収入資料を開示しない場合には、婚姻費用の調停をせざるを得ません。
婚姻費用は、双方の収入額を基礎に計算します。相手方が自身の収入資料を提出しなければ、婚姻費用を計算しようがありません。また、提出したとしても、収入資料を偽造したり、一部だけ提出して全ての提出をしない場合も同様です。
婚姻費用の調停手続では、双方に収入資料の提出を求めます。理由もなく収入資料の提出がなければ、平均賃金を収入と認定されたり、裁判所を通じて勤務先に収入状況の調査を受けるリスクもあります。そのため、多くのケースでは、調停手続に移行すれば収入資料の提出を受けることができます。
婚姻費用の調停手続きの流れ
婚姻費用の調停手続きは多くの人にとって初めての経験でしょう。調停手続きの流れが分かれば、調停に対する不安も払拭されるでしょう。
申立ての準備をする
申立てを行う前に、必要な資料を準備しなければなりません。
まずは、申立書と事情説明書の必要箇所に情報を入力します。申立書と事情説明書は裁判所のホームページでダウンロードすることができます。各書式は、各家庭裁判所によって異なるため、申立てをする家庭裁判所をあらかじめ調べておきましょう。調停申立てをする家庭裁判所は、ご自身ではなく相手方の住所地を管轄する裁判所になりますので注意してください。
その他に、戸籍謄本や源泉徴収票等の収入資料、印紙と郵便切手を準備する必要があります。郵便切手については、内訳が指定されているため、それに沿って購入してください。
参考|大阪家庭裁判所書式
申立てをする
家庭裁判所に調停申立てをします。申し立てをする家庭裁判所は、申立人ではなく相手方の住所地を管轄する裁判所ですので注意をしてください。
調停申立ては、家庭裁判所の窓口に提出するか、必要書類を郵送する形で行うことが可能です。
提出に際して、あらかじめ準備した書類に漏れがないかをチェックしておきましょう。
調停申立てをすると、裁判所から1回目の調停期日の指定があります。時期や地域によりますが、申立てをした日から1か月半から2か月程先に日程が初回期日に指定されることが多い印象です。
1回目の調停期日
1回目の調停期日では、婚姻費用の合意に向けて、調停委員から様々な事項に関する聞き取りを受けます。
受付をする
まず、裁判所から指定された日時に家庭裁判所の調停受付に出向きます。受付後、裁判所の職員から指定された待合室で待機します。しばらくすると、調停委員が待合室に来て、あなたの番号を読み上げますので、調停委員と一緒に調停室に入室します。
調停室に入室
調停室に入室すると、運転免許証などの身分証明書の提示を求められ、身分確認を受けます。
その上で、調停委員から婚姻費用に関係する情報について質問を受けます。20分から30分程の聞き取りを終えると、調停室から退室して待合室で待機します。待機中に相手方が調停室に入室し、同様の質問を受けることになります。
調停期日は、一回につき1時間半から2時間ほど行われます。そのため、調停室に入室して聞き取りを受けたり意見を述べる時間は、一人当たり40分から長くても1時間となります。
次回期日の調整
双方の聞き取りを終えれば、次回の調停期日が調整されます。おおよそ1か月半から2か月先で調整されることが多いでしょう。
また、双方の聞き取りを踏まえて、対立点が明らかになれば、調停委員から次回の調停期日までの宿題が示されます。そのため、計画的に資料の準備や主張書面の作成を進めていきましょう。
2回目以降の調停期日
2回目以降の調停期日では、争点に絞って話し合いが行われます。
多くの事案では、以下の事項が争点となります。
- 双方の収入額
- 婚姻費用の金額
- 婚姻費用の始期
- 婚姻費用の既払い額
- 私学加算
調停委員の仲裁により争点となっている事項を調整していきます。調停期日で調整できなければ、主張書面や証拠の提出が求められ、双方の隔たりを埋めていきます。
婚姻費用の調停では、3回から5回ほど行うことが平均的ですが、事案によっては長期化することもあります。
調停の成立・不成立
婚姻費用の調停は、夫婦間での合意ができれば調停成立となります。調停には強制力があるため、義務者が調停調書の内容に従わない場合には、預貯金や給与などの財産の差し押さえを受けることになります。
他方で、夫婦間の合意ができなければ、婚姻費用の調停は不成立となります。
不成立であれば審判手続きに移行する
調停が不成立に終わった場合、審判手続に移行します。審判手続では、裁判所が双方の主張や証拠を踏まえて最終的な判断を示します。調停手続では、双方の合意に向けて話し合いを重ねますが、審判手続では、調停のような話し合いの要素は薄くなります。
婚姻費用の調停で聞かれること
婚姻費用の調停では、家庭裁判所の調停委員が双方の収入額や現在の生活状況を把握するために質問を行います。また、子供の有無や年齢、さらには子供の就学状況についても詳しく聞かれることがあります。
双方の収入額
婚姻費用の計算の基本となる収入状況について聞かれます。
まず、調停委員は、婚姻費用を計算するために、収入資料の提出を求められた上で、収入状況に関する質問をします。収入資料とは、直近数ヶ月分の給与明細、賞与明細、源泉徴収票などの資料を指します。自営業者であれば、確定申告書等の書類を提出することになります。産休中や育休中である場合には、休業手当の金額やその明細の提出を求められます。
住宅ローンの支払状況
現在の居住関係についても聞かれます。実家に住んでいるのか、賃貸マンションか持ち家か、持ち家である場合に、住宅ローンは誰が負担しているのかといった居住関係に関する聞き取りを受けます。
特に、住宅ローン付の持ち家に住み続けており、その住宅ローンを配偶者が負担している場合には、婚姻費用から住居関係費を控除することがあります。そのため、婚姻費用を計算する上で、住居費の負担の有無は必要な情報となります。
生活費の負担状況
生活費を負担しているか等の情報も聞かれます。具体的には、相手方に対して生活費を払っていたり、水道光熱費、通信費、保険料(掛捨て)などの費用を負担している場合には、婚姻費用の請求時から合意時までの未払いの婚姻費用からこれら既払いの費用を控除する必要があります。
そのため、既払いの生活費や費用があるかを聞かれた上で、その裏付けとなる資料の提出を求められることがあります。
子供の人数と年齢
子供の有無や年齢、そして監護者は誰かという点は、婚姻費用を決定する際の重要な判断基準となります。
婚姻費用の中には、配偶者の生活費だけでなく、未成熟の子供の生活費も含まれています。そのため、未成熟の子供を養育監護している場合には、それも踏まえた婚姻費用を算出する必要があります。
そして、子供の生活費は、子供の年齢によって増減します。具体的には、14歳以下の子どもの生活費指数は62、15歳以上の子どもの生活費指数は85といった具合で、15歳を起点に生活費が変動します。
そのため、子供の人数、年齢、誰が監護しているのかといった事項について、調停委員から聞かれるのが通常です。
別居するに至った経緯や生活状況
別居に至った経緯やその後の生活状況も聞かれることがあります。
これらの情報は、婚姻費用を計算する上で必要不可欠な情報ではありません。しかし、夫婦間の対立の原因や対立する内容を把握しておくことは、夫婦間を調整する助けになります。
また、別居の原因が配偶者の不貞行為やDVである場合には、たとえ住宅ローン付の自宅に住み続けていても住居関係費の控除が認められないことがあります。
そのため、別居に至った経緯やその後の生活状況を調停委員から聞かれることがあります。
婚姻費用調停の申立てに至った経緯
婚姻費用調停の申立てに至った経緯も聞かれることがあります。
夫婦間で婚姻費用について交渉が行われたのか、交渉が先行して行われていた場合に、何が理由で交渉が決裂したのかなどの事情を聞かれます。
希望する婚姻費用の金額や条件
婚姻費用調停において、希望する婚姻費用の金額や条件について、調停委員から質問を受けます。
双方の収入額を踏まえた合理的な金額を提示することが通常です。あまりにも合理的な理由のない高額な金額を提示することは極力控えるべきでしょう。
しかし、子供が私立学校に通学していたり、持病を抱えているために高額な医療費の負担を要する場合には、婚姻費用に一定額の加算が認められます。そのため、このような婚姻費用の加算を求める場合には、加算を求める具体的な理由とその金額を説明するようにします。
婚姻費用の調停に要する費用
婚姻費用の調停を進める際には、あらかじめ必要となる費用を把握することが重要です。
調停に関わる費用としては、印紙代や郵便切手代、戸籍謄本の取得費用、交通費などが挙げられます。
印紙代
婚姻費用の調停を申し立てる際には、申立手数料として印紙代が必要です。
収入印紙1200円を購入した上で、申立書に貼り付けて提出しましょう。
郵便切手代
婚姻費用の調停手続きにおいて、あらかじめ郵便切手を納める必要があります。郵便切手の金額や内訳は、家庭裁判所によって異なる場合があります。事前に郵便切手の金額と内訳を確認した上で、購入するようにしましょう。
大阪家庭裁判所郵便切手 合計1130円分内訳:140円×1枚,84円×5枚,50円×5枚,20円×10枚,10円×10枚,1円×20枚 |
戸籍謄本の取付費用
婚姻費用の調停申立てに際しては、夫婦関係を証明する資料として戸籍謄本(全部事項証明書)を提出する必要があります。
戸籍謄本の取り付けには、さまざまな方法がありますが、市町村役場の窓口で取り付ける場合には、1通あたり450円程度の手数料がかかるのが一般的です。郵送で取り付ける場合には、手数料に郵送費が発生します。
交通費
婚姻費用の調停では、家庭裁判所に実際に訪れる必要があるため、交通費が発生します。
調停が行われる家庭裁判所は、相手方の住所地を管轄する裁判所となります。相手方が遠方であれば、家庭裁判所も遠方となるため、交通費が高額になることもあります。
ただ、調停手続は、家庭裁判所に直接訪問する方法だけでなく、家庭裁判所の現地に赴かずに電話やウェブを使って対応する方法もあります。この場合には、交通費はかかりません。
弁護士費用
調停手続きを弁護士に委任する場合には、弁護士費用の負担が生じます。
弁護士に依頼しなければ、弁護士費用の負担は生じません。しかし、弁護士は、その専門的な知見を踏まえて依頼者の利益を最大化できるよう、あなたに代わって調停手続を対応します。そのため、専門的なサポートを受けるために弁護士に委任することは多くあります。その場合、弁護士費用としては、最初に依頼する時に生じる「着手金」と最後に発生する「報酬金」が含まれます。
法律事務所によって報酬体系は異なりますが、着手金は30万円前後、報酬金は30~60万円あたりが相場であると考えます。
婚姻費用の調停手続きを成功させるコツ
婚姻費用の問題を適切に解決させるためには、調停手続のコツを理解することが重要です。
収入資料を速やかに提出する
収入資料を速やかに提出することは、婚姻費用の調停を円滑に進めるための重要なポイントです。
給与明細や源泉徴収票などの収入資料は、婚姻費用の調停において、最も基礎となる資料です。また、収入資料を適切に提出することで、調停委員や相手方からの信頼を得ることができます。
そのため、収入資料の提出を渋ったり、提出を拒否することは、円滑な調停手続を妨げる行為であり、控えるべきでしょう。
調停をスムーズに進めるには、収入資料を速やかに準備した上で提出することが必要です。
冷静に調停委員の聞き取りに応じる
感情的にならず、冷静に話を進めることが非常に重要です。
夫婦間の対立が強いあまり、冷静さを失い感情的な対応をしてしまうことはよくあります。例えば、配偶者が一円も生活費を払わない、配偶者がかなり無茶な婚姻費用を主張している、配偶者が不貞行為をして家を出ていったなど、様々な思いを語気を強めて主張してしまうことがあります。しかし、感情的な対応は、話合いを停滞させるだけでなく、調停委員の心証も害してしまう可能性があります。
また、ついつい、調停委員が配偶者の味方になっていると勘違いしてしまい、調停委員に対して敵対的な対応をしてしまうことがあります。しかし、調停委員は中立的な立場であり、一方の配偶者の肩を持つということはありません。
夫婦間の問題ですから、感情的になることは自然なことですが、調停を自身に有利に進めるためにも冷静な対応は非常に重要です。
書面や資料の提出期限を守る
書面や資料の提出期限を守ることは、調停を有利に進める上で重要です。
各調停期日の終了時に、調停委員から主張書面や資料の提出を求められます。その際に、必ず各資料の提出期限も指定されます。提出期限は次回調停期日の1週間から10日前とされることが多いです。調停期日当日やその前日に書面を提出してしまうと、調停委員や他方当事者が書面の内容を確認することができず、調停期日当日が空転してしまい、効率的な進行を妨げてしまいます。また、書面等の提出が不十分になると、自身の主張内容が調停委員や他方当事者に十分に伝わらず、不利な結果を招くこともあります。
そのため、指定された提出期限を守り、必要な情報や資料を正確に整えて提出することを徹底させましょう。
主張内容を要点を絞って分かりやすく伝える
主張内容の要点を絞り、分かりやすく伝えることは、婚姻費用の調停において極めて重要です。
調停は限られた時間内で進行するため、調停委員に自身の主張内容を正確に理解してもらうことが有利な解決に繋がります。そのため、冗長な内容を排除し、簡潔で明確に要点をまとめた主張が求められます。
多くの人が家庭裁判所に提出する主張書面を作成する経験を持たないでしょう。ついつい、感情的な記載に終始したり、まとまりのないダラダラとした文章を書きがちです。冗長で分かりにくい書面は調停委員にしっかりと読んでもらえません。
そこで、いきなり主張書面を作り始めるのではなく、まずは文章の構成・トピックを整理した上で、トピックごとに書くべき概要を整理するなどすることが、要点を捉えた読み易い文章となります。
主張内容を簡潔に、そして論理的に伝えるよう心がけることで、婚姻費用調停の成功率も高まります。
婚姻費用調停の問題は難波みなみ法律事務所に
婚姻費用調停の基本的な概要から、具体的な手順や成功させるためのポイント、必要となる費用まで詳細に解説しました。調停手続きを有利に進めるためには、収入資料を適切に提出するとともに、自身の主張内容を明確に記載した主張書面を提出することが重要です。しかし、自身の主張を法律や実務の考えに沿って適切に主張することはそう簡単ではありません。いくら主張内容を明快に伝えていたとしても、法令や実務の考えを全く無視した内容では意味がありません。
婚姻費用の調停手続について問題を抱えている、対応に苦慮している場合には、一人で対応しようとせず、法律の専門家に相談することを推奨します。
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