コラム
公開日: 2025.05.13

手付解除でも仲介手数料はもらえる?不動産業者が知っておくべき法的根拠と実務対応

不動産取引において、予想だにしない事情により、時に売買契約を解除せざるを得ないケースもあります。特に手付放棄や手付倍返しにより契約が解除された場合、仲介手数料の扱いについて疑問を持つ方は少なくありません。

「せっかく契約したのに解除になってしまった…仲介手数料はどうなるの?」「仲介手数料を支払わなければならないのか、返金されるのか知りたい」といった悩みを抱えている方も多いでしょう。

そこで今回は、手付解除が発生した場合の仲介手数料の取り扱いについて、法的根拠や具体的な事例を交えながら、不動産業者が知っておくべき実務対応を解説します。

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手付解除の基本と成立条件

不動産売買契約において耳にする「手付解除」とは、どのようなものなのでしょうか。ここでは、手付解除の基本的な定義や、不動産売買契約におけるその位置づけを確認します。

手付解除とは?不動産売買契約における意味合い

手付金とは、不動産の売買契約において、買主が売主に交付するお金です。

この「手付金」には、いくつかの法的性質があります。一般的には、契約が成立した証としての「証約手付」、契約不履行時のペナルティとする違約手付、そして契約の解除権を留保する目的で授受される「解約手付」などがあります。

手付は、特段の合意がなければ解約手付と推定されますが、売主が宅建業者で買主が宅建業者でない場合は解約手付とみなされます。

手付解除は、契約当事者が特別な理由を示すことなく、一方的に契約を解除できる権利です。買主は支払った手付金を放棄することで、売主は手付金の2倍の金額を買主に支払う(手付倍返し)ことで、契約を解除できます。

手付解除が可能な期間と「履行の着手」とは何か

手付解除はいつでも可能なわけではなく、「相手方が契約の履行に着手するまで」という期間的な制限があります。この「履行の着手」とは、契約内容の実現に向けた初期の準備行為にとどまらず、客観的に見て契約内容の一部でも履行したり、履行の提供のために必要な行為を行うことを指します。

また、売買契約書の中で手付解除ができる期限が別途明確に定められている場合、原則としてその期限が「履行の着手」よりも優先されることになります。ただし、宅建業法は、売主が宅建業者である場合には、買主に不利な特約は無効とされます。

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手付解除が行われた場合の仲介手数料請求について

不動産売買契約が成立した後に手付解除が行われると、契約自体は解消しますが、この状況下で、仲介業者は依頼者に対し仲介手数料を請求できるのでしょうか。

契約が成立すれば仲介手数料を請求できる(原則)

不動産仲介業者にとって、媒介業務の対価である仲介手数料の請求権がいつ発生するのかは重要な問題です。 

不動産仲介業者が受け取る仲介手数料は、以下の条件を満たす場合に請求することができます。

  • 媒介契約が成立していること
  • 媒介契約に基づき媒介行為が行われたこと
  • その結果、売買契約などが有効に成立したこと

媒介行為とは、売買契約の成立のために尽力する事実行為をいいます。そのため、売買契約が成立しなければ報酬である仲介手数料は請求できませんが、一方で売買契約が成立すれば仲介業者の報酬請求権は発生すると考えられます。

宅地建物取引業法における仲介手数料の上限

先ほどの仲介手数料の成立条件を満たしたとしても、仲介手数料をいくらでも請求できるわけではありません。仲介手数料については、宅地建物取引業法によってその上限額が定められています。800万円以下の取引の場合、仲介手数料の上限額は33万円、800万円を超える取引の場合、物件価格3%+6万円+消費税」が上限となります。

手付解除された場合に仲介手数料全額を請求できるか?

不動産売買契約が一旦有効に成立すれば、仲介手数料の請求権が発生します。

しかし、売買契約が手付放棄や手付倍返しにより解除された場合には、仲介手数料全額を請求できるとは考えられません。

なぜなら、売買契約の目的、つまり、所有権を取得する、あるいは、売買代金を受け取るという目的を達成できなければ、媒介報酬を請求することはできないものと考えるのが当事者の意思に合致するため、媒介報酬に関する合意を適用できないからです。

商法512条の規定による報酬請求

手付解除された場合には、媒介契約の仲介手数料の合意が適用されないと考えられます。

ただ、仲介業者は依頼者のために媒介行為をして売買契約を成立させたわけですから、商法512条に基づいて相当な報酬を請求することができると解されています。請求できる報酬額は、取引額、仲介の難易、期間、労力その他諸般の事情を斟酌して定められます。

不動産業者が注意すべき実務上のポイントとトラブル回避策

ここまで、手付解除の基本的な考え方や、手付解除が行われた場合の仲介手数料請求に関する法的な解釈を解説してきました。これらの知識を踏まえ、手付解除と仲介手数料を巡るトラブルを未然に防ぎ、顧客との良好な関係を維持しながら円滑な業務を行うためには、不動産業者が日常業務でどのような点に留意すべきでしょうか。

手付解除時の特約を明記しておく

不動産売買契約において手付解除が発生した場合の仲介手数料に関するトラブルを未然に防ぐためには、媒介契約書に手付解除時の手数料の取り扱いについて明確な特約条項を設けることが極めて重要です。これにより、契約当事者間での誤解や認識のずれを解消し、潜在的な紛争リスクを大幅に低減できます

そこで、手付解除の場合に備えて、仲介手数料の支払について、売買契約締結時に約定の半額を、引渡し時や決済時に残額をそれぞれ支払う内容の特約を締結しておくことが重要です。または、手付解除された場合に請求できる媒介報酬額の割合を明記しておくことも一つの手かと考えます。

顧客に対する事前説明の徹底と説明義務の範囲

手付解除が発生した場合に、顧客との間で仲介手数料を巡るトラブルを避けるためには、媒介契約締結時および売買契約締結時における事前説明が非常に重要です。特に、手付解除が行われた際でも仲介手数料が発生する可能性があることやその報酬額がどの程度になるのかについて、依頼者に対して丁寧かつ分かりやすく説明する必要があります。

さらに、口頭での説明だけでなく、説明内容を書面化し、顧客から署名や押印をもらうことで、後日の紛争に備え、媒介契約の説明義務を果たしたという証拠を残すことが有効な手段となります。これにより、顧客の「聞いていなかった」といった主張を受けたとしても、明確な反証が可能となり、トラブルの発生そのものを抑止する効果も期待できます。

過去の判例から見る手付解除と仲介手数料の関係

手付解除が行われた後の仲介手数料請求については、過去の裁判でも様々な判断が示されています。以下では、最高裁の判例や高等裁判所の判断を紹介します。

最高裁判所昭和49年11月14日

仲介人が宅地建物取引業者であつて、依頼者との間で、仲介によりいつたん売買契約が成立したときはその後依頼者の責に帰すべき事由により契約が履行されなかつたときでも、一定額の報酬金を依頼者に請求しうる旨約定していた等の特段の事情がある場合は格別、一般に仲介による報酬金は、売買契約が成立し、その履行がされ、取引の目的が達成された場合について定められているものと解するのが相当である。

福岡高裁那覇支判平成15年12月25日(要約)

手付金放棄による解除の場合、手付放棄又は倍返しによる解約権が留保されていることは、仲介業者も当然認識していたはずであるから、仲介業者としては、本件売買契約には手付放棄又は倍返しによる解除の可能性があることは念頭に置くべきであるし、そのような場合に備えて報酬の額についての特約を予め本件媒介契約に明記しておくことは容易であったと考えられる。他方、依頼者としては、本件媒介契約書に上記のような特約が明記されるか、契約締結に際して特に控訴人からその旨の説明を受けたという事情でもない限り、履行に着手する以前に買主が手付金を放棄して売買契約を解除したような場合にも仲介報酬の額についての合意がそのまま適用されるとは考えないのが通常であると思われる。

手付金放棄によって売買契約が解除された場合には報酬額についての合意は適用されないと解するのが本件媒介契約の当事者の合理的意思に合致するというべきである。

そうすると、媒介契約に基づいて請求できる報酬の額については当事者間の合意が存在しないこととなるけれども、報酬について特約がない場合でも仲介業者は相当報酬額を請求できると解される(商法512条)。

手付解除時の仲介手数料の問題は難波みなみ法律事務所へ

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本記事を通じて、不動産売買契約における手付解除の基本、そしてそれに伴う仲介手数料の請求に関する法的根拠や実務上の注意点について解説いたしました。

手付解除は、契約が有効に成立した後に買主または売主の都合で契約を解消する手段ですが、仲介業者の仲介業務が契約成立という成果に結びついている以上、たとえ手付解除が行われたとしても、仲介手数料の請求権は発生します。

しかし、過去の判例等に見られるように、仲介手数料の全額を請求することは当然に認められるものではありません。そのため、手付解除のリスクやそれに伴う手数料に関する事項について、媒介契約時や売買契約締結時において丁寧な事前説明を行うことが不可欠です。その上で、媒介契約書に手付解除時の手数料に関する特約を明確に記載し、顧客の十分な理解を得ることも、トラブルを未然に防ぐ効果的な対策となります。

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