旦那が突然失踪して行方不明になることは、決して珍しいことではありません。警察庁が公表しているデータによると、令和4年に行方不明になった人の数は警察に届けられただけでも8万4,910人で、そのうち男性が5万4,259人(63.9%)とされています。
残された妻としては精神的にも経済的にも苦しい状況に追い込まれるため、旦那が帰ってこないのなら離婚したいと考えることもあるでしょう。しかし、旦那の失踪を理由として離婚できるのか、行方不明の旦那との離婚手続きをどうすればよいのかという問題があります。
この記事では、旦那が失踪する原因を踏まえて、旦那を見つけるためにやるべきことや、離婚の可否と離婚手続きの進め方について解説します。
失踪の原因
人が失踪する理由はさまざまですが、旦那が妻を残して失踪する原因としては、主に次のようなことが考えられます。
家族関係や職場ストレス
家族関係でストレスを抱えて失踪する人は少なくありません。男性には意外にデリケートな人が多いものです。妻が家事や子育てで忙しく、自分に構ってくれないだけでも強いストレスを感じてしまいます。まして、妻から邪魔者扱いをされたり、子どもからも相手にされなかったりすると、家庭に居場所がないと感じて逃げ出したくなってしまう人もいます。
また、職場で重労働を課せられたり、上司からパワハラを受けたりなどのトラブルでストレスを抱えている人も多いものです。ストレスが強度になると、家族にも言い出すことができず、すべてを投げ出したくなって失踪してしまう人もいます。
家庭でのストレスと職場でのストレスの両方が重なって失踪してしまうことは、中年男性にとって珍しいことではありません。
浮気や事件・事故の被害
旦那が浮気をして帰ってこなくなることも、よくあります。浮気が原因で失踪した場合、旦那は浮気相手と一緒に暮らしていたり、駆け落ちのようにして行方をくらませていることもあるでしょう。どちらにしても、旦那は離婚したいと考えている可能性が高いといえます。
また、旦那が事件や事故に巻き込まれる可能性もゼロではありません。交通事故や殺人事件などに巻き込まれて亡くなった場合、通常は警察が速やかに身元を確認して家族に連絡するものです。しかし、旦那が何者かに連れ去られたり、殺害されて山奥や海などに遺棄された場合は、なかなか発見されないこともあります。遺体の損傷が激しく、身元確認に時間がかかることもあるでしょう。
借金や犯罪への関与
借金苦が原因で失踪してしまう人も多いです。ギャンブルや遊びのために借金をした場合だけでなく、家族の生活のための借金であっても、妻や家族に内緒で借入をしている旦那は数多くいます。貸金業者からの借金は金利が高いために返済が思うように進まず、借りては返すという自転車操業に陥りがちです。返済できないほどに借金が膨らんでしまうと思考力も正常に働かなくなり、家族に迷惑はかけられないとの思いで失踪してしまうのでしょう。
また、旦那が何らかの犯罪に関与して帰ってこなくなることもあります。特に、借金を抱えていると闇金などの貸主から携帯電話や銀行口座の譲渡、特殊詐欺などの犯罪行為を強要されることが少なくありません。返済資金を獲得するために窃盗や横領、詐欺、強盗などの犯行に及ぶケースも実際にあります。旦那が逮捕された場合には警察から家族に連絡が入ることが多いですが、旦那が逮捕を恐れて行方をくらますことも考えられます。
病気や認知症
警察庁の統計上、失踪の動機として最も多いのは病気を抱えていることです。その中でも、うつ病などの精神疾患に苦しんで失踪したり、認知症患者が徘徊して帰れなくなるケースが多いと考えられます。
認知症を発症するのは主に高齢者ですが、50代以下で若年性認知症を発症する人も少なくありません。職場や家庭のストレスでうつ病などを発症する人も数多くいます。
旦那が病気や認知症で失踪した場合、自殺や事件・事故に巻き込まれて命を落とすことも考えられるので、早急に探し出す必要があるといえます。
失踪が疑われる場合の対応
旦那がしばらく帰らず、失踪が疑われる場合には、早めに適切な対応をとることが重要です。失踪期間が長引けば長引くほど発見が難しくなる可能性が高いので、妻としてはすぐに次のような対応をとっていきましょう。
警察への連絡
まずは、警察に連絡して事情を伝えましょう。旦那の外見的な特徴に該当する行方不明者を警察が保護している場合には、警察署などで家族が身元確認をした上で、引き渡してもらえる可能性があります。
警察に連絡をしても旦那の行方に関する手がかりがつかめない場合は、行方不明者届を提出しましょう。
行方不明者届(捜索願)の提出
行方不明者届とは、親族等が警察に行方不明者の氏名や外見上の特徴などを届け出て、警察がその人を発見した場合には保護や家族への連絡を申し出る届出のことです。以前は「捜索願」と呼ばれていましたが、現在では「行方不明者届」という名称に変更されています。
行方不明者届が受理されると警察本部のコンピュータに登録され、全国の警察に手配されます。そして、警らや巡回、さまざまな取り締まりや犯罪捜査を通じて、行方不明者の発見に努めてもらえます。
届出は全国の警察署、交番、駐在所のどこでも行えるので、最寄りのところを訪ねてみましょう。
身内や職場との連携
警察への連絡と併せて、身内や職場の方にも連絡をしましょう。旦那が実家に帰っていないか、その他の親族のところに訪れていないか、職場に出勤したり連絡したりしていないか、などを確認することです。
手がかりがつかめていない場合は、何らかの情報が入ったらすぐに連絡してくれるように頼みましょう。身内や職場の方と連携して情報を集めることで、旦那が見つかる可能性が高まります。
旦那の行きそうな場所の捜索
旦那の行きそうな場所を探してみることも有効です。
ギャンブル好きの旦那なら、近場のパチンコ店や競馬場、競輪場などに姿を現す可能性があります。その他にも、旦那の行きつけの店など、普段の行動パターンから推測して、旦那が訪れる可能性が高い場所を探してみましょう。
SNSや口座のチェック
旦那がX(旧Twitter)やFacebook、InstagramなどのSNSを利用している場合は、投稿をこまめにチェックしてみましょう。投稿内容によっては居場所が分かることがありますし、そうでなくても何らかの手がかりがつかめる可能性もあります。
「帰ってきてほしい」というメッセージを送信することも考えられますが、失踪の理由によっては妻に見られたことを察知して投稿が途絶えてしまうおそれもあります。旦那の無事が判明した場合には、慎重に見守るようにした方がよいでしょう。
旦那の口座をチェックできる場合には、お金の動きを見てみましょう。こまめにお金が引き出されている場合は、とりあえず無事でいる可能性が高いと考えられます。また、クレジットカードの利用履歴には旦那が利用した店の名称やホテル名、ETCを利用した際のインターチェンジ名などが記載されることがあります。そこから旦那の居場所や行動経路を割り出せる可能性もあるでしょう。
お金がなくなると手がかりがつかめなくなりますし、旦那が事件や事故に巻き込まれる可能性も高まります。そのため、あえて旦那の口座へ当座の生活費などを入金してお金の流れを見ていくのも、捜索活動のひとつになります。
旦那失踪後の対応
旦那が失踪し、捜索活動を尽くしても見つからない場合には、今後の妻や家族の生活のことも考える必要があります。具体的には、以下のように対応していくことをおすすめします。
探偵へ相談する
旦那の発見を諦める前に、探偵に相談してみた方がよいでしょう。
探偵は、専門的なノウハウによって行方不明者や家出人の捜索をしてくれます。警察のような強制力は持ちませんが、あらゆる合法的な手段を使って捜索してくれるので、旦那の発見を期待できます。
ただ、人探しを探偵に依頼するためには100万円程度の費用がかかる可能性があります。まずは相談してみて、費用の見積もりをとってみるのもよいでしょう。
生活保護や扶養手当の手続き
旦那がいなくなって生活費が苦しい場合は、生活保護や児童扶養手当の申請を検討しましょう。
児童扶養手当は、基本的には離婚後に18歳未満の子どもを養育する人が申請できるものです。しかし、旦那が失踪して生死不明の場合は、離婚していなくても申請できます。
それでも生活費が足りず、子育てなどのために働くことが難しい場合には、生活保護の申請が可能です。
児童扶養手当や生活保護の申請をしたいときは、まずお住まいの地域の役所に相談してみましょう。
失踪宣告と遺産相続
旦那が預貯金や不動産などの財産を残して失踪した場合は、失踪宣告を申し立てた上で妻子が財産を相続することが考えられます。
失踪宣告とは、家庭裁判所の宣告によって行方不明者が死亡したものとみなされる手続きのことです。通常は行方不明者の生死不明が7年間続いた場合に申し立て可能となります。ただし、事故や災害などの危難によって生死不明となった場合は、危難が去ってから1年が経過すれば申し立て可能です。
失踪宣告の申立先は、行方不明者の従来の住所地にある家庭裁判所です。
家庭裁判所で失踪宣告が認められると、残された家族の協議によって遺産分割ができるようになります。旦那名義の不動産を売却することも可能です。旦那を被保険者とする生命保険があれば、死亡保険金も受け取れます。
旦那の失踪は離婚原因となるのか
旦那がいない以上、協議離婚をすることはできません。しかし、民法770条1項に定められた「法定離婚事由」がある場合には、離婚が可能です。
旦那の失踪が該当する可能性のある法定離婚事由は、次の3つです。
悪意の遺棄
旦那が失踪した理由によっては、「悪意の遺棄」という法定離婚事由に該当する可能性があります。
悪意の遺棄とは、夫婦の一方が正当な理由なく同居義務や扶助義務に違反して、配偶者を見捨てることです。
旦那が浮気や、ギャンブル・遊びなどの浪費による借金を抱えて失踪し、生活費などの仕送りもしてこない場合は悪意の遺棄に該当し、離婚が認められる可能性が高いといえます。
婚姻を継続し難い重大な事由
旦那失踪が悪意の遺棄に該当しない場合でも、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性はあります。
婚姻を継続し難い重大な事由とは、浮気やDVなどのように明確な離婚原因がなくても、夫婦関係が破綻していて回復が見込めない状態のことです。
旦那が失踪して帰ってこないのであれば夫婦関係を継続することができないため、婚姻を継続し難い重大な事由があるものとして、離婚が認められる可能性があるのです。
ただし、失踪した旦那が帰ってくる可能性があるうちは、婚姻を継続し難い重大な事由があるとはいえません。旦那が帰ってくる見込みがないと認められるためには、最低でも1年以上は失踪状態が続いていることが必要です。
3年以上の生死不明
悪意の遺棄や婚姻を継続し難い重大な事由に該当しない場合でも、旦那の失踪が3年以上続いていて音信不通であれば、「3年以上の生死不明」という法定離婚事由に該当し、離婚が認められます。
ただし、離婚が認められるためには、捜索を尽くしても旦那が3年以上見つからないという状況でなければなりません。そのため、少なくとも警察に行方不明者届を提出しておくことは必須です。
失踪後の離婚手続き
失踪して連絡がとれなくなった旦那と離婚するためには、裁判手続きが必要です。具体的には、以下の流れで離婚の裁判手続きを進めていきます。
公示送達により裁判を進める
裁判を起こすためには、裁判所に必要書類を提出します。そのうちの「訴状」という書類が裁判所から送付され、相手方が受け取らなければ(「送達」といいます。)、裁判は始まりません。
しかし、旦那が行方不明であれば訴状を送達することは不可能です。このような場合には、「公示送達」という手続きを利用して裁判を進めることになります。
公示送達とは
公示送達とは、裁判の相手方に裁判書類を送達できない場合に、裁判所への申し立てにより、その書類を裁判所と市区町村の役所の掲示板に掲示する制度のことです。
掲示してから2週間が経過すると、その書類が相手方に送達されたものとみなされます。その後は、相手方不在のまま裁判を進めることが可能です。
夫の住所・居所が分からないこと
相手方にとっては、公示送達が認められると、知らないうちに裁判が行われて、離婚させられることになります。このような不意打ちの裁判はできる限り避けるべきと考えられるので、裁判所は簡単には公示送達を認めないのが実情です。
そのため、裁判を起こす側は、相手方の捜索を念入りに行ったにもかかわらず発見できなかったということを証明する必要があります。具体的には、どのような捜索を行ったのかを「調査報告書」に記載し、申立書と一緒に裁判所へ提出します。
捜索活動の内容として、警察への行方不明者届を提出しておくことは必須です。その他にもさまざまな捜索活動を行っていなければ、公示送達の申し立てが受理される可能性は低いです。
とはいえ、一般の方が念入りな捜索活動を行うのも難しいことでしょう。そんなときは探偵への調査依頼も検討してみましょう。探偵が本格的に調査しても旦那が見つからなかったということになれば、公示送達が認められる可能性が高まります。
調停前置
通常の離婚事件では、裁判(離婚訴訟)を起こす前に、必ず離婚調停を申し立てなければならないこととされています。家庭の問題については、まず当事者間の話し合いで解決を図るべきだと考えられているからです。このことを、家事事件における「調停前置主義」といいます。
しかし、旦那が失踪し、残された妻が捜索を尽くしても発見できないと認められる場合は、離婚調停を申し立てても意味がありません。このような場合には、例外的に最初から離婚訴訟を起こすことが認められる場合もあります。
離婚訴訟(離婚裁判)を提起する
離婚訴訟を提起するためには、訴状と証拠書類を家庭裁判所に提出します。提出先は、最後に判明している旦那の住所地にある家庭裁判所です。
訴状には、離婚を求めることと、その理由を記載します。離婚を求める理由としては、法定離婚事由に該当する事実を具体的に記載することになります。その事実を裏付ける証拠書類も必要です。
訴訟の提起と同時に、公示送達の申立書や調査報告書も提出します。公示送達が認められると、1~2ヶ月ほど後の日が第1回の裁判期日として指定されます。
裁判期日には原告(裁判を起こした妻)が出頭しますが、被告(失踪した旦那)が出頭することはまずありません。
通常の裁判では、被告が出頭しない場合には原告が訴状に記載したとおりの主張を認める判決が言い渡されます。しかし、公示送達による裁判では、被告不在のまま証拠調べが行われるのが一般的です。
証拠調べでは、裁判官が証拠書類を精査した後、原告の本人尋問も行われます。本人尋問では、裁判官から原告本人に対してさまざまな質問がなされます。裁判官は、原告本人の回答内容を吟味して、訴状に記載された事実に信憑性があるかどうかを判断します。
証拠調べが終わると、1~2ヶ月ほど後の日が判決言渡期日として指定されます。原告が主張する事実が認められ、法定離婚事由に該当すると判断されると、判決で離婚が命じられます。
判決書は裁判所から送付されてくるため、判決言渡期日に出頭する必要はありません。判決書を受け取ってから2週間以内に控訴されなければ判決が確定し、離婚の効力が生じます。
▶離婚調停に関する裁判所の解説はこちら
慰謝料や養育費の問題
失踪した旦那を相手として離婚裁判をする場合でも、慰謝料や養育費の請求は可能です。
旦那の浮気や、ギャンブルで借金をして家庭を顧みなかったことなどの不法行為を証明できれば、慰謝料請求が認められます。慰謝料額は事案の内容によって異なりますが、100万~300万円程度が相場です。
未成年の子どもがいる場合、離婚裁判で妻が親権者に指定されると、養育費の請求も認められます。旦那が行方不明であれば、ほぼ間違いなく妻が親権者に指定されます。養育費の金額は、裁判所が作成した「養育費算定表」に記載されている範囲内で定められることがほとんどです。
実際には旦那が見つからなければ慰謝料や養育費を支払ってもらうことはできませんが、後に旦那が見つかった場合に備えて、裁判で慰謝料や養育費も請求しておいた方がよいでしょう。
ただし、慰謝料の請求権は判決が確定してから10年で時効にかかることに注意してください。
離婚届の提出
離婚を命じる判決が確定した時点で離婚が成立しますが、戸籍を変更するために離婚届の提出が必要です。
裁判所で判決書謄本と確定証明書を取得した上で、判決確定後10日以内に市区町村の役所へ離婚届を提出しましょう。本籍地以外の市区町村に提出する場合は、婚姻中の戸籍謄本も必要です。
離婚届を作成する際、離婚日の欄には判決確定日を記載します。配偶者と証人の欄は、空欄のままで構いません。
ここまで解説してきたように、失踪した旦那との離婚には裁判手続きが必要となるため、簡単なことではありません。公示送達の手続きだけでも、非常に複雑で難解です。そのため、離婚をお考えの場合は弁護士への相談をおすすめします。
弁護士は状況に応じて最善の解決策を勧めてくれますし、依頼すれば複雑な手続きはすべて任せることができます。
旦那が失踪して、どうすればよいのかが分からない場合も、弁護士から専門的なアドバイスを受けることでよい解決策が見つかることでしょう。
夫が行方不明の場合には、弁護士に相談を
夫が所在不明であっても、3年以上待つ必要はありません。悪意の遺棄等の離婚原因に該当する可能性は多いにあります。捜索願や債権者の督促状、所在不明に至る経緯等を記した陳述書を揃えることができれば、公示送達により裁判手続きを進めることができるでしょう。
ただ、公示送達を含めた裁判手続きは、専門的な部分も多くあり、一人で抱えて行うことは得策ではありません。
まずは、弁護士に相談をして進めていくべきでしょう。
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