相続手続きで、一部の相続人と連絡が取れないことは珍しくありません。しかし、相続人と連絡を取れないからといって、この相続人を除外して遺産分割協議を進めることはできません。
連絡が取れない相続人がいなくても、不在者財産管理人の選任・失踪宣告・公示送達を用いた遺産分割審判を行うことで、相続手続きを前進させることができます。
連絡が取れないことを理由に相続手続きを放置することは避けましょう。連絡が取れないことを理由に遺産分割を諦めて放置していると、いつまで経っても、不動産や預貯金などの遺産を承継することができません。そのほかにも、相続税の申告をせずにいると、延滞税等の附帯税がかかるだけでなく、税額を軽減できる特例も利用できなくなります。
本記事では、相続人と連絡がつかない場合でも相続手続きを進めるための解決策を詳しく説明していきます。
連絡が取れない相続人を排除した遺産分割の効力
遺産の分割協議には、すべての相続人が関与する必要があります。相続人の一部と連絡が取れないからといって、その連絡が取れない相続人を排除した遺産分割は無効となります。
一部の相続人と連絡が取れない場合には、不在者財産管理人の選任や失踪宣告などの特別な手続きが求められます。連絡が取れないことを理由に相続手続自体を放置すると、後に大きな問題となる可能性があるため、速やかに対応策を講じることが重要です。
連絡が取れない相続人を探す方法
相続手続きを進める際に、遺言書がない限り、すべての相続人が遺産分割協議に参加して遺産分割を成立させる必要があります。
相続人の中に連絡が取れない相続人がいる場合に、相続手続を進めるために必要な手続を紹介します。
戸籍謄本を取り付けて相続関係を確定させる
相続手続きにおいて、戸籍謄本は相続人が誰であるかを確定させるために必須な書類です。
戸籍謄本を取得することで、被相続人の親族関係を持っていたかが詳細に把握できます。まずは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り付けた上で、各相続人の現在戸籍を取り付けます。相続人が被相続人よりも先に亡くなっていても、代襲相続により、その相続人の子供が代襲相続人となります。そのため、代襲相続の場合には、死亡している相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せます。
戸籍の附票や住民票を取り付けて住所を確認する
戸籍謄本を取り寄せて相続人が確定した後、相続人の戸籍の附票および住民票を取り寄せます。
戸籍の附票や住民票は、相続人の現在の住所を確認するための資料となります。
連絡が取れない相続人がいる時の相続手続き
相続手続きにおいて、全ての相続人が遺産分割協議に参加しなければ、遺産の承継をすることができません。しかし、時にはどうしても連絡が取れない相続人がいる場合があります。その場合でも、連絡が取れない相続人を無視することなく手続きを進めなければなりません。以下では、こうした状況における具体的な進め方を詳しく解説します。
遺言書の有無を確認する
相続において、連絡が取れない相続人がいる場合でも、遺言書の有無を確認することが重要です。遺言書が存在すれば、その内容に基づいて相続手続きを進めることが可能となり、連絡が取れない相続人がたとえいたとしても遺言の内容に沿った相続手続きを行うことができます。
自筆証書遺言が作成されている場合には、家庭裁判所にて検認の手続きをしなければなりません。
遺言の有無が定かではなければ、公証役場や法務局にて遺言の有無を確認することができますので、遺言が作成されている可能性があれば、一度確認してみましょう。
連絡が取れない相続人に手紙や内容証明を送る
遺言が作成されていない場合には、連絡が取れない相続人も含めた遺産分割協議を行う必要があります。
連絡が取れない相続人に対して手紙や内容証明を送る方法は、所在不明の相続人と接触を取る最初のプロセスといえます。
具体的には、まず手書きまたは印刷で丁寧に書かれた挨拶文を含む通知書を作成し、自分の意思を明確にするとともに、相続に関連する話し合いや手続きへの参加を要請します。
それでも、応答がなければ内容証明郵便で通知をする方法を考えます。内容証明は、どのような手紙をいつ誰に送付したかを証明するものであり、相手方に対して遺産分割に参加するよう強く求めるのに有用です。
連絡が取れない相続人宅に訪問して交渉する
連絡が取れない相続人に対して、相続手続きを進めるための方法として、その住所を直接訪問することがあります。
手紙や内容証明が相手に届かない、もしくは反応がない場合でも、直接訪問することで対面での対話ができる可能性があります。
ただし、訪問時には感情的な衝突を避け、冷静かつ適切な対応を取るために弁護士等の専門家の助言を事前に受けることが重要です。
連絡が取れない相続人がいる時の裁判所の手続き
連絡が取れない相続人がいる場合、文書の送付や自宅訪問によっても何の応答もなければ、裁判所を通じて手続きに着手せざるを得ません。
遺産分割ができない状況を解消するため、裁判所でどのような手続きが可能か具体的に解説します。これらの手続きをスムーズに進めるためには、弁護士など専門家の助言を得る、あるいは、委任をすることが重要です。
不在者財産管理人の選任を申立てる
不在者財産管理人の申立ては、行方がわからない相続人に代わって遺産分割協議を進めるための重要な手続きです。
相続人の一部が行方不明の状態では遺産分割協議が成立させることができません。時間の経過により法律関係が複雑化することもあります。そのため、不在者財産管理人を選任することは、解決策のひとつとして有効です。
不在者財産管理人とは
不在者財産管理人は、不在者の財産管理のために法律に基づいて選任される不在者の法定代理人を指します。
不在者財産管理人は家庭裁判所に対して選任申立てをすることで選任されます。申立てに際して、利害関係のない親族を候補者として立てることも多いですが、候補者を立てない場合には、弁護士や司法書士が不在者財産管理人に選任されます。
権限外行為の許可と協議書案の添付
不在者財産管理人が選任されれば、不在者財産管理人との間で遺産分割協議を行います。
ただ、不在者財産管理人の権限は、財産の現状を維持する保存行為等に限定されるため、不在者財産管理人が遺産分割協議をするためには、家庭裁判所の権限外行為の許可を得る必要があります。
権限外の許可を得ずに遺産分割協議をすると、無権代理となってしまいます。
また、権限外行為の許可を受ける際には、遺産分割協議書の案を提出する必要があります。そのため、事前に相続人全員で遺産分割協議を行い、相続人の了解を得ておくことが必要です。
遺産分割の内容
原則として不在者の法定相続分に沿った財産を取得する内容で遺産分割をすることになります。不在者財産管理人は、不在者に不利な遺産分割とならないように遺産分割協議の内容をチェックしなければなりません。
ただ、不在者が帰ってくる可能性が低く、むしろ死亡している可能性が高い場合には、不在者の法定相続分を下回る内容の遺産分割協議も認められる可能性があります。
さらに、相続人に資力があれば、不在者に特定の財産を取得させずに、不在者が帰ってきた時に代償金を支払う内容の遺産分割も認められることがあります。これを帰来時弁済型の遺産分割といいます。特に、不在者の取得財産の額が100万円以下の場合には帰来時弁済型の遺産分割も認められやすい傾向です。
失踪宣告を申し立てる
失踪宣告とは、相続人が7年以上行方不明である場合に家庭裁判所に申し立てることで、行方不明者を法律的に死亡として扱えるようになる制度です。この宣告により、その不明者は相続人としての地位を失い、遺産分割を進めやすくなります。
失踪宣告には、普通失踪と特別失踪があります。
普通失踪は、不在者の生死が7年間明らかでないときに、利害関係人の申立てにより家庭裁判所が失踪の宣告をするものです(民法30条1項)。普通失踪の場合、最後に生存確認できた日から7年の期間が満了した日に死亡したものとみなされます(民法31条)。
特別失踪とは、危難を原因とした不在者の生死について危難が去って1年間生死が明らかでないときに、利害関係人の申立てにより家庭裁判所が失踪の宣告をします(民法30条2項)。
特別失踪の場合には危難が去った日に死亡したものとみなされます(民法31条)。
失踪宣告を受けた相続人は死亡したものとみなされますが、その相続人に子供がいる場合には、代襲相続によりその子供が相続人となる場合があります。
遺産分割調停を申し立てる
遺産分割調停は、相続人間で協議がまとまらない場合に行う調停手続きです。
家庭裁判所の調停委員が中立的な立場で協議を進行するため、感情的な衝突を避けやすくなるのが特徴です。
交渉段階では相続人の一部と連絡が取れなかったとしても、その相続人が家庭裁判所から調停申立書等の資料を受け取ることで、調停期日に出頭をして話し合いが進む場合があります。
調停が不成立の場合は遺産分割審判に移行する
遺産分割調停が不成立の場合、次に家庭裁判所での遺産分割審判手続きに移行します。
相続人間で合意できない場合だけでなく、連絡の取れない相続人が調停期日に欠席する場合も、調停は不成立となります。
審判では、当事者双方の主張や証拠に基づいて裁判官が最終的な判断を示すプロセスであり、調停手続きと比べて話し合いの要素が薄い厳格な手続きといえます。
公示送達により審判手続が進行する
遺産分割協議や調停は、相続人やその代理人が手続きに参加しなければ進めることができません。一方、遺産分割審判の手続きでは、所在不明の相続人がいたとしても、公示送達という特殊な送達方法を用いることで、手続きを進めることができます。
公示送達とは、当事者の住所、居所、その他の送達場所が不明のときに、裁判所の掲示場に送達書類を掲示することで送達したものとみなす送達方法です。公示送達は原則掲示されてから2週間の経過によって送達の効力が生じます。
遺産分割をせずに放置するリスク
遺産分割の手続きが、一部の相続人と連絡が取れないことを理由に放置されると数多くの問題が発生する可能性があります。
相続手続きを放置してしまうと、他の相続人間での対立や相続関係の複雑化に繋がり、さらに財産の価値が減少するリスクもあります。こうしたリスクを回避し、スムーズな相続を進めるために、早めの対応と専門家への相談が非常に重要です。
相続登記できない
遺産分割ができずにいると、不動産の相続登記を行うことができません。
相続登記をせずに放置すると、さまざまなデメリットがあります。
まず、不動産登記法の改正により、相続登記は義務化されました。つまり、令和6年4月1日以降に、「自己のために相続が開始したことを知り」かつ「その不動産の所有権の取得を知った日」から3年以内に、相続登記の申請をしなくてはなりません(不動産登記法第76条の2)。そして、正当な理由なく相続登記の申請をせずにいると、10万円以下の過料に科されるおそれがあります(不動産登記法第164条)。
遊休不動産となり活用できない
遺産分割をせずに放置すると、遺産の一つである不動産が遊休状態になります。
遺産分割が成立して相続登記をしない限り、その不動産の売却したり、担保設定をして融資を受けることが難しくなり、不動産の有効活用ができません。
さらに、不動産が適切に管理されないため、不動産の価値を下落させるリスクもあります。
相続関係が複雑になる
遺産分割をせずに放置している間、相続人の一部が死亡してしまうと、相続関係が複雑になります。
被相続人を相続した後に相続人が死亡すると、相続人の相続人が、被相続人の遺産に対する権利を承継します。相続人が死亡することでねずみ算式に権利者が増えていき、相続関係が複雑になる可能性があります。
また、一部の相続人との連絡が取れなくなり、連絡がつかない相続人が増えるおそれもあります。
預貯金の解約ができない
遺産である預貯金を解約するためには、相続人全員の同意が必要となるのが原則です。金融機関が相続人全員の同意を条件とするため、連絡が取れない相続人がいるために相続手続きを放置していると、いつまで経っても預貯金の解約手続きを進めることはできません。
預貯金の解約できずに預貯金を放置し、2009年1月以降の最後の取引日から10年以上が経過すると、預貯金は休眠預金になります。
休眠口座の預金は、国庫に入りますが、10年の消滅時効が経過するまでは休眠口座であっても受け取ることができます。
相続税申告における不利益
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。しかし、相続手続きを放置することで、相続税の申告も放置してしまうことがあります。
相続税の申告をせずに申告期限を過ぎてしまうと、延滞税や無申告加算税といったペナルティを受けることになります。それだけでなく、期限内の申告をしない場合、小規模宅地等の特例の適用を受けられなくなり、相続税額を減らすことができなくなる可能性もあります。
遺産分割の手続きが進まない場合であっても、相続税の申告を放置することは避けましょう。10か月の申告期限までに、法定相続分で相続したものとして相続税の申告と納税をするようにします。この申告を「未分割申告」といいます。
未分割申告をしたあとに、遺産分割ができれば再度税務署に申告することになります。申告期限から3年以内に遺産分割が成立すれば、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
遺産分割の手続きは難波みなみ法律事務所に
この記事では、相続人と連絡が取れない場合について詳しく説明しました。連絡が取れないからといって、漫然と放置すると色々な不利益が生じるかもしれません。
本記事で紹介した方法を参考にし、もし相続人と連絡が取れない場合でも早めの対応を心がけましょう。ご自身だけでは対応しきれない場合には、弁護士などの専門家に相談することで、より確実な解決策を見つけられるでしょう。
当事務所では、初回相談30分を無料で実施しています。
面談方法は、ご来所、zoom等、お電話による方法でお受けしています。
お気軽にご相談ください。
対応地域は、大阪難波(なんば)、大阪市、大阪府全域、奈良県、和歌山県、その他関西エリアとなっています。