裁判所から突然訴状が届くことがあります。
銀行などの金融機関からお金を借りている、配偶者のいる人と性的な関係を持った、交通事故を起こしてしまったなど、多岐にわたります。
訴状を受領しなければ、結論としては、間違いなく「不利」になります。
受領を拒否しても、
訴訟手続は進みますし
判決は出されますし
自身に有利な主張をする機会も失いますし
この判決に基づき強制執行もされます。
このように訴状の受領拒否は、不利な事しかありません。
今回は訴状の受取拒否について、弁護士が解説していきます。
訴状の送達方法
訴状は裁判所から突然前触れなく送達されます。
その送達方法は一般の郵便方法とは異なる特別な方法となります。
仮に、訴状の受取を拒否しても、特殊な送達方法を利用されることで、送達されたものとみなされてしまいます。
特別送達によって送付される
訴状は、被告とされた人の住所宛に特別送達という方法で送られます。
特別送達とは、郵便配達員が被告となっている人の自宅住所に訴状等の書類を持参して、被告本人に直接受け取ってもらう方式の送付方法です。
本人が不在であっても、本人と同居する人が本人に代わって、訴状を受領することがあります。
仮に本人が留守で、他に誰も受け取る人がいない場合には、郵便配達員は不在票を投函します。
この場合には、被告とされた人は、指定された期限までに不在票を持って郵便局で訴状等を受け取りに行く必要があります。
もし、この指定期限までに取りに行かない場合には、訴状は裁判所に戻ってしまいます。
送達方法の種類
- 休日送達
- 就業場所送達
- 公示送達
- 付郵便送達
休日に送達される
訴状を受け取らない場合、土日等の休日に送達されます。
職場へ送達される(就業場所送達)
自宅住所に訴状を送達しても、被告がこれを受け取らない場合には、次に被告の職場(就業場所)に送達されます。
しかし、被告の就業場所が分からない場合には、後述する公示送達や付郵便送達による送達を検討します。
公示送達
被告の所在が不明であっても、訴状は送達されてしまいます。
被告の住所、居所、就業場所その他送達できる場所が分からない場合には、公示送達という方法で送達をすることになります。
公示送達は、裁判所に設置された掲示板に訴状等の掲示し、その日から2週間を経過すると、被告が訴状等を受け取らなくても、送達の効力が生じるものです。
公示送達が認められるためには、戸籍謄本、住民票、住民票上に記載された住所の現況(生活感、郵便受け、電気メーター等)を踏まえ、現在の居所や就業場所が分からないことを説明しなければなりません。
付郵便送達
被告が、その自宅住所に送られてくる訴状の受領を拒否していても、訴状を送達されたものとみなされます。
訴状等を書留郵便によって送達する方法を付郵便送達といいます。
この付郵便送達は、書類の発送時に送達があったものとみなされます。
そのため、被告が書類を実際に受け取ったか否かは関係ありません。
公示送達と付郵便送達との違い
公示送達は、被告の住所が分からない場合です。
付郵便送達は、被告の住所や就業場所が分かっているものの、被告がこれを受け取らない場合です。
公示送達と付郵便送達との違いは、送達すべき場所が判明しているかです。
欠席のまま判決
訴状の送達が完了すれば、弁論手続きが開始され審理が進みます。しかし、被告が弁論期日を欠席すると、原告の請求を認める判決が出されてしまいます。
訴状等を受領した場合
被告が訴状等を受領したが、指定された裁判期日に出席しない場合、訴訟手続はそのまま流れることなく進行していきます。
被告は第一回目の期日までに訴状に記載された請求やその事実関係に対する認否(認める、否認する、知らない等)を記載した答弁書を提出しなければなりません。
しかし、被告が、答弁書を提出せずに、初回期日を欠席すると、初回期日をもって弁論は終結し、判決日が指定されます。
弁論の終結により、第一審において、被告は反論をする機会を原則として失います。
訴状等を受領しない場合
被告が訴状等を受領せずにこれを放置した場合も、訴訟手続がそのまま流れるということはないと思ってください。
被告が訴状等の送達を拒否したとしても、先程述べたように送達されたものとみなされます。
そのため、被告が裁判期日に欠席したとしても、訴訟手続はそのまま進みます。
具体的には、第一回期日が被告欠席のまま行われ、通常、この日に弁論が終結し、判決日の指定が行われます。
通常、被告が欠席の事案であれば、1か月前後の日程に判決日の指定がなされます。
判決の送達
判決がなされると、判決文を記載した判決書が裁判所から送達されます。
ただ、訴状の送達と同じように、被告がこれを受領しなかったとしても、先程述べた方法により送達手続は進んでいきます。
控訴しないと判決は確定する
判決が出されても、判決書を受け取った日の翌日から2週間以内に控訴することができます。
控訴をすることによって第一審で行えなかった主張や証拠の提出をすることができます。
しかし、2週間以内に控訴することができないと、判決は確定してしまいます。
判決が確定するとどうなるのか?
判決が確定すると、その権利の成否等を争えなくなり、強制執行を受ける可能性があります。
判決の確定による不利益
- 消滅時効の主張ができなくなる
- 差押えを受ける
- 建物の明け渡しを受ける
- 財産開示を受ける
- 第三者による情報取得により資産情報を収集される
消滅時効等を主張できなくなる
判決が確定すると、消滅時効や弁済といった有利な主張ができなくなります。
仮に、貸金請求において、最終の返済日から5年以上経過してる場合には、消滅時効を主張することができる場合があります。
また、既に借金を弁済しているような場合も、弁済していることの主張をすることで、原告の請求の全部または一部を排斥できます。
しかし、判決が確定してしまうと、自身に有利な主張をすることができなくなってしまいます。
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強制執行される
判決が確定すると、原告は判決に基づいて強制執行を行います。
差押え
貸金や損害賠償の請求であれば、被告の財産が差し押さえられます。
給与、売掛金、預貯金、不動産、生命保険の解約返戻金等が強制執行によって差押えられ、被告の意思に関係なく、貸金等の請求に充当されることになります。
給与
被告が会社員の場合、被告が会社員に対して有している給与債権を差押えることができます。
毎月の給与の手取額の4分の1を超えて差押えられることはありません。
原告の債権が養育費や婚姻費用に関するものであれば、4分の1ではなく2分の1まで差押えることができます。
定期的に発生する債権の差押え(養育費や婚姻費用)は、1ヶ月分の給与に限らず、その債権が完済されるまで、それ以降の毎月毎月の給与から継続的に債権の支払いに充てられます。
つまり、4月1日に給与の差押えの通知を受けた場合、その都度、差押手続を別途行わなくても、5月以降の給与も債権の取立てに充てられます。
預貯金
被告名義の口座を差押えられることがあります。
原告が被告名義の銀行口座の口座番号まで把握している必要はありません。
金融機関名と支店名まで分かれば、被告の口座を差押えることができます。
生命保険
原告は、被告が加入している生命保険の解約返戻金を差押えることができます。
解約返戻金は、生命保険を解約することで生じるお金です。
債権者である原告には、解約返戻金の差押えに際して、被告が加入している生命保険を解約する権利が与えられています。つまり、債務者である被告の意思に関わらず、生命保険を解約されてしまうという訳です。
差押えを行うにあたって、契約内容に関する調査を尽くしている場合には、生命保険の証券番号を把握できていなかったとしても、解約返戻金の差押えは適法とされます。
つまり、保険会社さえ分かれば、生命保険を解約された上で、解約返戻金を差押えられるということです。
建物の明渡し
原告の請求が建物の明渡しであれば、被告の意思に関係なく執行官を通じて、強制的に明渡しが実現されます。
財産開示手続も行える
被告の財産を差押えるためには、被告の財産を特定しなければなりません。
そこで、被告の財産の情報を得るために用意された制度が財産開示手続です。
財産開示手続では、被告の財産の情報を得るために、債務者である被告を裁判所に呼び出して、自身の財産について説明させた上で、これに対して債権者は質問をすることができます。
また、債務者である被告は裁判所に対して、事前に自身の財産を記載した財産目録を提出しなければなりません。
罰則が強化されている
正当な理由がないのに、裁判所に出頭しない、宣誓を拒否する、陳述を拒否したり虚偽の陳述をする場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
☑裁判所による財産開示の解説はこちら
第三者からの情報取得も行える
被告の財産を差し押さえるためには、被告の財産の情報を知っておくことが必要です。
全くなんらの情報もなければ差押えできません。
そこで、債権者である原告は、被告の財産に関する情報を収集するために、金融機関や市町村等から、不動産、給与債権、預貯金等に関する情報を取得することができるようになりました。
これを第三者からの情報取得手続といいます。
金融機関からは、支店名、種別、口座番号及び残高の情報を得ることができます。
また、被告の勤務先を知らなかったとしても、自治体や日本年金機構を通じて、勤務先の情報を取得することができます。
ただ、第三者からの情報取得手続においては、生命保険は対象から外れています。
訴状が届いたら弁護士に相談しよう
訴状の受け取りを拒否すると、さまざまな不利益が生じます。
訴状を受け取った上で、弁護士に相談さえすれば、原告からの請求を排除できることもあります。
しかし、訴状を受け取らずに放置したことによって、このような主張をする機会を失い、その結果として破産等の債務整理に着手せざるを得なくなるケースもあります。
手遅れにならないように訴状を受け取り、適切な対応をしましょう。
当事務所では初回相談30分を無料で実施しています。
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