遺産を孫に残したいとお考えの方は多いかと思います。ですが、孫は原則として法定相続人ではありません。そのため、孫に遺産を渡すためには、祖父母が生前に何らかの対策をしておく必要があります。
ただし、孫に遺産を渡すと税金の負担が重くなったり、他の相続人とのトラブルに発展したりするおそれもあることに注意が必要です。
この記事では、遺産を孫に相続させるための具体的な方法と注意点について、弁護士が分かりやすく解説します。
孫は原則相続人ではない
孫は原則として相続人ではありません。
誰が相続人になるのかは、民法で以下のように決められています。
常に相続人 | 配偶者 |
第1順位 | 子 |
第2順位 | 父母など直系尊属 |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
被相続人(亡くなった方)に配偶者がいれば、どのようなケースでも配偶者は相続人になります。
その他の親族の方は、上記の相続順位に従って相続人となります。第1順位の相続人がいる場合、第2順位以降の人は相続人になれません。例えば、被相続人に配偶者と子がいる場合は配偶者と子が相続人となり、父母や兄弟姉妹は相続人になりません。
このように民法の規定に従って相続人となる人のことを「法定相続人」といいます。子は法定相続人ですが、孫は原則として法定相続人ではありません。
孫が遺産を取得するための5つのパターン
孫が代襲相続人にならない場合には、何らかの対策が必要になります。孫に遺産を残す方法としては、次の5つが挙げられます。
【相続手続きにより財産を残す場合】
・遺言書で孫に残す
・養子縁組により相続人として残す
・代襲相続人として相続する
【相続手続以外で財産を渡す場合】
・生前贈与により残す
・生命保険に加入して孫を受取人とする
それぞれ、具体的にどうすればよいのかについて、以下で詳しくご説明します。
相続手続きにより孫に遺産を残す場合
被相続人が他界した後に孫にその遺産を残す方法は、3つあります。
- 遺言書で孫に残す方法
- 代襲相続人として孫が相続する方法
- 養子縁組により孫が相続する方法
遺言書で孫に残す
遺言書を作成しておけば、相続権のない孫に遺産を渡すことが可能になります。 相続開始後に、遺言者の意思に沿った相続手続きが行われるようにするため、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言を遺しておくことが望ましいです。
遺言書とは、被相続人が自分の財産を誰にどれだけ渡すのかを指定するために、生前に作成する書面のことです。
財産を誰にどれだけ渡すのかは本人の自由意思に委ねられているので、相続権のない人に渡すことも認められます。したがって、遺言書に次のように書いておけば、孫に遺産を渡すことができます。
「すべての財産を孫に譲る」
「自宅の土地建物は孫が取得する」
「遺産の○割を孫が取得する」
このように、すべての財産を包括して譲ることもできますし、特定の財産のみを譲ったり、取得割合を指定したりすることもできます。
法的に有効な遺言書を残しておけば、遺産分割では遺言書の内容が最優先されます。そのため、確実に孫へ遺産を渡すことが可能となるのです。
なお、遺言書には次の3種類があります。
・自筆証書遺言
・公正証書遺言
・秘密証書遺言
代襲相続であれば孫も相続人となる
孫が相続人になるケースとして、「代襲相続」というものがあります。
被相続人に子がいたけれど、被相続人より先に亡くなっていた場合、孫がいれば子に代わって相続人となります。このことを代襲相続(だいしゅうそうぞく)といいます。
孫の親、つまり、被相続人の子が先に死亡している場合には、被相続人の子どもに代わって孫が相続人として遺産を相続します。孫が代襲相続人となるケースに該当し、他に法定相続人がいない場合は、特に対策をしなくても孫が遺産を相続することになります。
養子縁組により相続人にする
孫と養子縁組をすれば、祖父母と孫との間に法律上の親子関係が生じます。それにより孫は祖父母の法定相続人となるので、実子と同じように遺産を受け取ることが可能となります。
ただし、実子など他の相続人にとっては養子縁組によって相続分が減るため、相続トラブルが起こりやすいことに注意が必要です。多くの場合、確実に孫へ遺産を渡すためには、遺言書を作成する方が得策といえるでしょう。
養子縁組を利用する場合の注意点
養親子の実態が全くないにも関わらず、遺留分対策に利用するために養子縁組をする場合には、養子縁組が無効になることがあります。
また、孫が遺産を相続する場合には相続税が2割加算されてしまいます。孫と養子縁組をすればこのデメリットを回避できるのですが、親子としての実態がない場合には、税務署に養子縁組を否認されることがあります。このようなケースでは、相続税対策のみを目的として養子縁組をしたものと税務署が判断する可能性があるからです。
ただ、税務署に否認されたとしても、養子縁組による相続権の発生までが無効となるわけではありません。孫に事業を継がせたいようなケースでは、孫と養子縁組をする方法が有効となることが多いです。
相続手続以外で孫に財産を残す方法
相続手続以外の方法で、孫に財産を残す方法もあります。まずは、生命保険の受取人を孫にする方法があります。さらに、孫に対して財産を生前贈与する方法があります。贈与税の関係で、生前贈与をする方法にはいくつかありますので、孫の年齢や状況に応じて活用するようにしましょう。
生命保険の受取人を孫にする
まとまったお金を孫に残す方法として、孫を受取人とした生命保険金に加入するという方法もあります。
被相続人が被保険者かつ保険料の負担者で、受取人を孫にすれば、死亡保険金は相続の対象になりません。
そのため、遺言書の作成や養子縁組などをするまでもなく、孫は自分の財産として死亡保険金を受け取ることができます。
生前贈与により残す
生前贈与は、法定相続人でない人に対しても行うことができます。したがって、孫に渡したい財産を生前に贈与しておくのも有効な方法です。
贈与税の基礎控除に気をつける
生前贈与には贈与税がかかりますが、年間(1月~12月まで)110万円の基礎控除があります。そのため、毎年110万円以下の財産をコツコツ贈与していけば、非課税で孫に財産を渡すことが可能です。
このように、基礎控除の範囲内で毎年少しずつ贈与していくことを「暦年贈与」といいます。預貯金や現金などを孫に渡したいときは、暦年贈与で少しずつ渡すのもよいでしょう。
相続時精算課税制度の活用も検討する
不動産などの高価な財産を孫に渡したい場合は、「相続時精算課税制度」を利用するとよいでしょう。この制度は、税務署へ届け出ることにより、累計2,500万円までの贈与について贈与税を非課税とし、将来、相続が発生したときに相続税として精算できるものです。最終的には相続税がかかりますが、贈与税よりも相続税の方が低くなることが多いので、節税対策として有効です。
教育資金の一括贈与の特例を利用する
30歳未満の孫に教育資金を支援したい場合には、「教育資金の一括贈与の特例」を利用すれば1,500万円まで非課税で贈与できます。
ただし、孫が30歳になった時点で贈与したお金が残っていれば、贈与税が課せられることに注意が必要です。孫が小さい場合や教育資金としての使い途が具体的に決まっている場合には、この制度の利用を検討するとよいでしょう。
教育資金の一括贈与の特例は、暦年贈与または相続時精算課税制度と併用することもできます。相続時精算課税制度と併用すれば、最大4,000万円までを贈与税なしで孫に渡すことが可能です。
なお、教育資金の一括贈与の特例は利用期限が2026年3月31日までとなっているので、早めの利用を検討しましょう。
結婚・子育て資金の生前贈与
その他にも、50歳未満の孫に結婚・子育て資金を一括で贈与する場合には1,000万円まで(利用期限は2025年3月31日まで)非課税となります。
住宅資金の生前贈与
孫の年齢を問わず住宅取得資金を一括で贈与する場合には1,000万円まで(利用期限は2023年12月31日まで)非課税で贈与できる制度があります。
孫が相続人なる場合の相続分
孫が代襲相続した場合と、孫と養子縁組した場合は、孫が法定相続人として遺産を受け取れます。しかし、孫が相続できる割合は両者で異なる場合があります。
なぜなら、養子となった孫は実子と同一の相続分を取得します。
代襲相続の場合、孫は本来の相続人(祖父母から見て子)の相続分を承継します。孫が複数いる場合は、その親(祖父母から見て子)の相続分を孫の人数で均等に割って取得することになります。
また、養子が代襲相続人の立場も兼ねている場合(二重相続資格者)には、相続分は異なってきます。
簡単なケースで相続割合を比較してみると、次のようになります。
家族構成 | 本来的な相続割合 | 代襲相続した場合 | 養子縁組した場合 | 養子縁組かつ代襲相続の場合 |
配偶者・子1人・孫1人 |
配偶者1/2 子1/2 孫0 |
配偶者1/2 孫1/2 |
配偶者1/2 子1/4 養子孫1/4 |
配偶者1/2 養子孫1/2 |
配偶者・子1人・孫2人 |
配偶者1/2 子1/2 孫0 |
配偶者1/2 孫1/4ずつ |
配偶者1/2 子1/4 養子孫1/4、 孫0 |
配偶者1/2 養子3/8 孫1/8 |
養子縁組をしている場合の孫の相続分
配偶者・子1人・孫2人のケースで、孫のうち1人とだけ養子縁組をした場合には、相続割合は配偶者1/2、子1/4、養子縁組した孫1/4、養子縁組しなかった孫0となります。
代襲相続の場合の孫の相続分
配偶者、子1人、孫2人(いずれも養子縁組をせず)で先で子が先に亡くなっている場合、代襲相続により、相続割合は配偶者½、各孫1/4となります。
養子の孫が代襲相続した場合の相続分
配偶者・子1人・孫2人のケースで、孫のうち1人とだけ養子縁組をし、先に子が死亡している場合です。
この場合、養子は子としての立場だけでなく代襲相続人の立場も有しています。このような地位を二重相続資格者といいます。
二重相続資格者は、それぞれの相続分を持ちます。
そのため、先ほどのケースの相続割合は配偶者½、孫養子3/8、養子縁組しなかった孫⅛となります。
孫に遺産を渡す時の注意点
孫に遺産を渡すときは、様々な点に注意が必要です。以下で、注意すべきポイントをまとめてご紹介します。
税金面の注意点
孫が遺産を取得する場合には、税金面の負担には十分に注意するべきです。相続人ではない孫が財産を取得する場合には、相続人である場合と比べて税負担が重たくなる場合もあります。
贈与した財産が相続税の対象となる
孫に対する生前贈与が、贈与税の非課税枠の範囲内であっても、死亡前3年間にされたものであれば相続税の対象となります。
代襲相続が発生した場合や養子縁組をした場合は孫に相続税がかかることがあります。
また、遺言書で孫に遺産を遺贈した場合は、孫が法定相続人でなくても課税対象となります。
さらに、暦年贈与をした場合でも、死亡前3年間に贈与された財産は、贈与税の課税対象に含まれます。このことを「生前贈与加算」といいます。2024年1月1日からは、生前贈与加算の対象となる財産が死亡前7年間のものに拡大されます。
相続税は2割加算となる
孫が遺産を受け取り、相続税がかかる場合は、納税額が2割加算される可能性があります。
なぜなら、被相続人の一親等に当たる血族以外の人が遺産を受け取った場合には、その人の相続税額が2割加算されるというルールがあるからです。ただし、配偶者と、代襲相続した孫はこのルールの対象外とされています。
祖父母と孫は、二親等の血族です。したがって、孫は代襲相続で遺産を受け取る場合を除いて、通常の1.2倍の相続税を納めなければならないことに注意が必要です。
生命保険の非課税枠を利用できない
相続人ではない孫が死亡保険金を受け取る場合、生命保険の非課税枠を利用することができません。
生命保険には相続税の非課税枠があります。しかし、あくまでも生命保険の非課税枠は、受取人が法定相続人であることを前提としています。
死亡保険金を法定相続人が受け取る場合には、次の計算式で算出した金額が非課税枠となります。
【生命保険の非課税枠】 500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額 |
しかし、受取人である孫が法定相続人でない場合は非課税枠の適用がなく、全額が課税対象となるのです。
登録免許税・不動産取得税も高くなる
法定相続人でない孫が遺贈や生前贈与で特定の不動産を取得した場合には、相続税だけでなく登録免許税と不動産取得税の負担も重くなります。
登録免許税は法定相続人であっても取得した不動産の価額の0.4%が課税されます。しかし、法定相続人でない場合は2%の税率で課税されます。
不動産取得税については、法定相続人が取得した場合や、法定相続人でなくても包括遺贈の場合は非課税です。しかし、法定相続人でない人が遺贈や生前贈与で特定の不動産を取得した場合は課税対象となります。税率は3%または4%(住宅以外の家屋)です。
親族との関係が悪化する可能性
本来相続人ではない孫にまとまった遺産を渡すと、他の相続人が不公平に感じ、親族間の人間関係が悪化するおそれがあります。特に、生前贈与や養子縁組などで孫を特別扱いしたことが他の人に分かってしまうと、祖父母の生前においても親族間のトラブルに発展することもあるでしょう。
遺留分に注意が必要
遺言書を作成する際には遺留分に注意が必要です。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の相続分のことで、これは遺言書をもってしても侵害することはできません。
もし、遺留分を侵害するような遺言書を残しておくと、孫が相続トラブルに巻き込まれるおそれがあります。
例えば、法定相続人として配偶者と子2人がいる場合、配偶者は相続財産全体の1/4、子は相続財産全体の1/8ずつの遺留分を有しています。合計すると、相続財産全体の1/2が遺留分です。
遺留分にも配慮した遺言書を作成する
遺言書を作成するとしても、他の相続人にも配慮する必要があります。
先ほどのケースで「すべての遺産を孫に譲る」という遺言書を残しても、配偶者と子2人が遺留分を主張(この主張のことを「遺留分侵害額請求」といいます。)すれば、孫は相続財産全体の1/2に相当する金銭を支払わなければなりません。
そのため、遺言書で孫に遺産を残す場合には、他の法定相続人の遺留分にも配慮した内容にした方がよいでしょう。
孫に遺産を渡したい時には弁護士に相談を
まとめますと、孫に遺産を渡すためには、状況に応じて最善の方法を選ぶことがまず大切です。遺言書を作成する場合には、相続トラブルを回避するために内容を慎重に検討するとともに、形式上の不備で無効とならないように細かなルールを守る必要があります。
弁護士にご相談いただければ、最善の方法についてアドバイスが受けられます。遺言書の作成や相続に関する様々な手続きも、弁護士に依頼して任せることが可能です。
孫に遺産を渡したいとお考えの方は、一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。