遺産分割調停は、相続人同士で遺産分割について話し合いが進まず紛争状態にあるとき、家庭裁判所で解決を目指す手続きです。
しかし、調停期日を重ねても調停が成立せず合意に至らない場合には審判へと移行し、裁判官が最終的な判断を下します。
本記事では、実際に遺産分割調停から審判移行へ進む際の注意点や、調停と審判の違い・具体的な流れについて、弁護士の視点から詳しく解説します。また、審判移行に伴うリスクや必要な準備についても触れていますので、相続手続を円滑に進めたい方は、ぜひご参照ください。
遺産分割調停から審判移行しやすいケース
遺産分割調停は、あくまで話し合いを通じて合意を目指す場ですが、相続人の不参加や強い対立などがあると、調停が成立できないことも珍しくありません。そうした状況が打開できなければ、家庭裁判所の判断による調停が不成立となり審判に移行されることがあります。以下では典型的なケースを紹介します。
遺産分割調停に不参加・非協力の相続人がいる
遺産分割調停は、相続人全員の参加が前提となります。
しかし、相続人の中には意図して調停期日の欠席を繰り返したり、必要な書類や証拠の提出を拒む人もいます。相続人の中に非協力的な人がいると、遺産分割の話し合いが前に進みません。
家庭裁判所は個々の相続人に参加を促すものの、強制的に出席させる手段を持たないため、調停期日の欠席や非協力的な態度が続けば、調停は不成立となり審判へと移行します。
遺産分割の内容に譲歩しようとしない相続人がいる
調停では各相続人の意向を踏まえながら、調停委員が相続人間の正当な話し合いをサポートします。しかし、一方的に自分に有利な条件を主張し続ける相続人がいれば、合意形成は難しくなります。特別受益や寄与分の認定をめぐって大きく意見が対立している場合や遺産の評価で対立している場合が挙げられます。こうしたケースでは合意の見込みが立たず、やむを得ず審判へ移行することがあります。
また、相続人が感情的な対立をこじらせている場合も問題です。相続人間の確執が深く、話し合いの場を持つこと自体に抵抗があると、調停の前提が崩れてしまいます。そうなると調停委員の説得すら困難となり、期日を重ねても全く進展できないために審判へ進むことになります。
生前贈与や不動産の評価額で対立が強い場合
一部の相続人に生前贈与がある場合、遺産の前渡しとして遺産分割で考慮することがあります。これを特別受益の持ち戻しといいます。しかし、生前贈与の有無や金額などで相続人間で対立が生じてしまうことはよくあります。
また、遺産の中に不動産が含まれている場合も相続人間で不動産の評価額を巡って対立することがあります。そのほか、一部の相続人が故人の療養看護をしている場合には、寄与分の主張がされることがあります。寄与分を巡って、相続人間で対立することもあります。
このように、不動産の評価額、生前贈与や寄与分をどこまで考慮するべきかといった問題が生じる場合、相続人の感情面も絡むため、話し合いが複雑化しがちです。
結果として、相続人間の溝を埋められず、そのまま調停が不成立になると審判移行となることがあります。


遺産分割調停と遺産分割審判の違い
遺産分割調停と遺産分割審判は、いずれも家庭裁判所の手続ですが、その手続きの進め方や性質に大きな違いがあります。ここでは、両者の具体的な違いを整理し、審判移行に至った場合にどういった変化が生じるのかを見ていきます。
解決方法の違い:調停は話し合いによる解決
まず最大の違いは、話し合いによる解決を目指すか、裁判官が最終判断を下すかという点です。
調停では、すべての相続人が話し合いの場に参加し、調停委員の仲裁を得ながら互いに譲歩し合って結論を導きます。一方、審判では、話し合いによる合意にはもはや期待が持てないと判断された結果、裁判所が最も妥当と考える分割方法を決定するものです。
調停では相続人同士の納得感が得られやすいものの、全員が首を縦に振らなければ合意成立には至りません。審判では、強制力ある最終結論を得られる反面、納得できない相続人にとっては不満が残る可能性がある点に注意が必要です。
進め方の違い:調停は調停委員・審判は裁判官
調停の場では、公平中立な立場で助言や事情の整理を行う調停委員2名が調停手続きを進めていきます。裁判官も調停委員会の一員ですが、主として調停委員が調停手続きの進行を担います。調停委員は、当事者の意見を丁寧に聴取して妥協点を探す役割を果たします。
ところが一方、審判の段階では、審理や判断は裁判官が主体となって進めます。
つまり、調停では当事者同士の話し合いを重視し、裁判官は、必要なときに限り意見を述べたり説得を試みたりする程度に留まり、調停委員が主要な役割を果たします。しかし、審判になると裁判官が主導的に主張と証拠を確認し、事案の法的整理を行い、最終的な結論を出すのです。
手続の内容の違い:調停は話合いが基本
調停では、期日ごとに相続人が裁判所へ出頭し、意見を述べたり、調停委員と協議しながら解決策を探ります。一方、審判になると、当事者が提出する主張書面や証拠類が重視されるため、書面審理で進行することが多いです。もちろん、必要があれば裁判官は相続人らを呼び出して尋ねる場合もありますが、調停のように継続的な話し合いの場は設けられにくいのが現実です。
そのため、審判手続きでは法律関係を整理するため、より専門的な主張立証が求められます。各相続人は、弁護士などの専門家と協力して、事実関係や法的根拠を中心に書面で争う形となるのです。
遺産分割調停から審判移行した場合の流れ
遺産分割調停が不成立となり審判移行に至った場合、具体的にはどのような手続きを踏むのでしょうか。ここでは、調停から審判に進む典型的な流れを時系列で確認します。
調停不成立となれば審判に移行する
まず、遺産分割調停で話し合いがまとまらず、調停が不成立となった時点で自動的に審判手続へと移行します。審判移行に伴って新たに申立書を提出するなどの手続きは必要ありません。調停で提出された主張書面や証拠資料は、そのまま審判の手続きにも引き継がれます。
審問が実施されることがある
審判に移行すると、審問が開かれることがあります。
審問とは、当事者双方が裁判所に出頭をして、裁判官等から遺産分割の意見を聞き取るための期日をいいます。
審問を開くか否かは裁判官の判断によります。調停手続で書面や証拠が十分に提出されている場合には、審問が実施されないこともあります。
審理が尽くされれば審判が出される
必要な主張・立証が出揃ったと裁判所が判断すれば、最終的に審判という形で結論が示されます。審判の内容には、相続人ごとの取得財産やその金額、代償金の金額と支払方法などが明記され、多くの場合は法定相続分に沿う形で調整されます。
特別受益や寄与分については、当事者が十分な主張と立証を尽くしている場合には、裁判官がこれらを認定した上で、特別受益や寄与分を踏まえた具体的相続分が計算されます。
即時抗告をしなければ審判が確定する
遺産分割審判の結果に不服がある場合、審判書を受け取った日の翌日から2週間以内に即時抗告を行うことができます。即時抗告をした場合には、高等裁判所で遺産分割の審理が継続されます。もし即時抗告しなければ審判が確定となり、最終的な遺産分割方法として効力を持ちます。
遺産分割調停が審判移行した場合の注意点
遺産分割調停で合意が得られず、審判へ移行してしまった場合、裁判所が終局的な判断を下すため、相続人の希望通りにならないリスクも高まります。また、調停と審判では手続きの性格が大きく変わるため、押さえておきたい注意点があります。
法定相続分に沿った遺産分割となる
審判では、裁判官は法律に基づき法定相続分に基づいて判断を下します。相続人間で調整しやすい分割方法があったとしても、当事者の個別事情は必ずしも大きく反映されるとは限りません。
たとえば「ずっと同居して親を介護していたので多く欲しい」という要望があっても、審判では寄与分の立証が不十分だと認められないこともあります。
また、生前贈与があったとしても、生前贈与が存在していることやそれが特別受益に該当することを立証しなければなりませんが、立証を十分に行えなければ、特別受益はないものと認定されます。
調停なら感情面を考慮した譲歩案も出せますが、審判では淡々と法的観点からのみ検討される傾向がある点に注意が必要です。
相続債務は審理の対象外
意外と見落とされがちなのが相続債務の扱いです。調停であれば、相続人全員が同意すれば借金などのマイナス財産も含めて話し合いの対象とし、返済義務の分担などを取り決めることが可能です。例えば、自宅不動産に住宅ローンが付いている場合には、自宅不動産を「不動産評価額−ローン額」で評価することもあります。
しかし審判になると、法的には相続債務は「遺産分割の対象外」と整理される結果、どれだけ全員が合意していても裁判官がそれを審判に含めることはできません。
そのため、債務の返済方法を巡る話し合いは別途で行わなければならず、結果として相続人同士の争いが長引く要因となる場合があります。債務が大きいケースでは、なおさら注意が必要です。
鑑定費用の負担が生じることがある
不動産の評価額が争点となっている場合には、不動産鑑定費用を手続費用として負担しなければならない場合があります。
調停段階では、不動産の評価額を、路線価、固定資産税評価額、不動産業者の査定書などを基に合意しようと試みます。
しかし、相続人間で不動産の価格合意ができない場合、審判手続において不動産鑑定士による鑑定を実施しなければなりません。鑑定費用は相続人によって負担されなければなりません。
前提問題がある時は取下げを促される
遺産分割の前提問題に争いがある場合には、審判の取り下げを勧告されることがあります。
遺産分割の前提問題とは、遺言書の効力、相続人の範囲、遺産の範囲といった、遺産分割をするにあたって解決しておくべき問題をいいます。
遺産分割の前提問題に争いがあっても、審判をすることは可能ですが、前提問題にまで審判の拘束力が及ばないため、審判後に前提問題が審判の内容と矛盾する方向で確定すると、その限度で審判の効力は失われてしまいます。
そのため、審判が覆ることを防ぐために、前提問題に争いがある場合には、訴訟で前提問題の結論が出てから審判申立てをするように促されるのが実務となります。
不動産の代償金の分割払いは認められない
審判が下す内容は一括払いが基本であり、「不動産を取得する代わりに数年かけて分割で支払う」というような柔軟な取り決めは、審判の枠内では期待できません。調停であれば「支払い回数」や「支払期限」などを調整して実情に合わせた合意を作ることが可能ですが、審判では原則として一括払いを命じられます。
不動産を取得する相続人にとっては、まとまった資金を一度に用意しなければならないリスクが生まれるため、資金調達の見通しが立たない場合には厳しい決定になりかねません。逆に他の相続人にとっては、すぐに代償金をもらえるメリットがありますが、実際の支払いがスムーズにいかない場合は別途、強制執行の手続きを検討しなければならなくなります。
予想に反した審判が下されるリスクがある
審判では、裁判官の見解や法律の解釈によっては、相続人にとって「まさか」と感じるような結論が出る場合もあるでしょう。調停の場で譲歩して合意した方がリスクヘッジできることも多くあります。
しかし審判に入ると、当事者の感情面ではなく、認定した事実と法的な評価に基づいて判断が示されます。場合によっては、相続人が望んでいないような分割方法が示されることもあるので、調停での再度の譲歩が得策だったと後悔することも少なくありません。
審判に基づく強制執行ができる
審判結果が確定すれば、確定判決と同じ効力を持つため、相続人が従わない場合は強制執行も可能になります。審判書に基づいて不動産の名義変更を行うことができますし、代償金の支払いが滞った場合には、強制的に相手方の資産から回収することができます。これにより権利を確保できる点は審判のメリットと言えますが、最終手段としては当事者間の対立をさらに深めるきっかけにもなることを認識しておく必要があります。
遺産分割審判は難波みなみ法律事務所へ

遺産分割調停が成立せず審判へ移行すると、法定相続分を基に一刀両断的な結論が下されます。審判手続では、借金の扱いを含めた柔軟な解決が難しくなり、想定外の結果に至るリスクも高まります。話し合いの余地がある段階では、できるだけ冷静に調停を続け、可能な譲歩も含めて妥協点を探ることが大切です。とはいえ、納得のいかない主張を押し通される場合には審判移行も視野に入れ、必要な証拠準備や弁護士への相談・依頼を早めに進めていきましょう。
もし審判となってしまい、結果に不満がある場合でも即時抗告や再度の手続きを検討できます。状況に応じて適切な方法を選び、解決を目指しましょう。
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