「面会交流を拒否されたが、損害賠償を請求できないのか」とお悩みでしょうか?
面会交流の拒否に対して、損害賠償を請求できるケースはあります。ただし、明確に取り決めがあるなど、請求するための条件を満たさなければなりません。
損害賠償金額の相場は数十万円から100万円程度になりますが、場合によっては高額な賠償が認められる可能性もあります。
本記事では、面会交流拒否に伴う損害賠償について、請求できる条件や相場などについて、判例も紹介して解説しています。(元)配偶者に面会交流を拒まれた方は、ぜひ最後までお読みください。
面会交流を拒否された場合に損害賠償請求できる条件
面会交流拒否に対しては、民法709条の不法行為に該当すれば損害賠償を請求できます。面会交流をする権利を侵害されたことによる精神的苦痛に対して、慰謝料が発生するためです。
ただし、請求が認められるには以下の条件を満たさなければなりません。
面会交流に関する具体的な取り決めがあること
まずは、面会交流に関する具体的な取り決めが必要です。具体的なルールがあるのに相手が守っていなければ、違法な権利侵害があったといえます。両親の間で合意していれば、裁判所での調停を経ていなくても構いません。
具体的な取り決めがある場合とは
面会交流について、たとえば以下の点を定めていれば、具体的な取り決めがある場合に該当します。
● 頻度・時間(例:月1回、2時間)
● 場所
● 子の引き渡し方法
● 連絡方法
調停や審判等を通じて、面会交流の具体的な条件を取り決めている場合、当事者は、具体的な日時、場所、方法等の詳細な条件を決めるために誠実に協議するべき注意義務(誠実協議義務)を負担していると考えられます。
日時などを事細かに決めている必要まではありませんが、単に「子どもには会わせる」と約束しただけでは、損害賠償の請求は難しいです。
面会交流の拒否に正当な理由がないこと
正当な理由がある場合には、面会交流を拒否されても損害賠償を請求できません。
たとえば、以下は拒否する正当な理由といえます。
正当な理由がある場合
● 非同居親が過去に虐待していた
● 過去の面会交流で子に暴言を吐いた
● 子を連れ去るおそれがある
●子供が面会交流を拒否する明確な意思を示している
● 子が体調不良である
● 父母間の葛藤が強い
●無理な条件を押し付けてくる(例:高額な旅費の負担を求める)
反対にいえば、調停や審判等で定められた面会交流の条件を正当な理由なく守らなければ損害賠償を請求できます。
たとえば、以下のケースです。
正当な理由がない場合
● 非同居親を単に嫌っているだけ
● 再婚相手との関係を壊したくない
● 特に理由なく繰り返し拒否する
面会交流の拒否に関する証拠があること
請求の際には、証拠が不可欠です。
● 面会交流の条件を示す書類(例:離婚協議書、調停調書、審判書)
● 拒否した事実の証拠(例:LINE・メールでのやりとりの記録、録音)
いくら不当に拒否されていても、証拠がなければ損害賠償を請求できません。証拠が揃っているかを確認してください。
面会交流拒否の損害賠償額の相場は?
面会交流を拒否されたときの損害賠償額の相場は、数十万円から100万円程度です。一般的に、あまり高額にはなりません。
損害賠償が高額になるケースとは
通常は高額になりづらいですが、以下のような事情があれば増額される可能性があります。
面会交流の協議に一切応じない
面会交流の細かい条件についての協議に一切応じない場合には、高額になる場合があります。子を会わせる気がないと考えられ、権利侵害の程度がより大きいです。
面会交流を拒否された期間が長い
拒否されている期間が長いと、非同居親と子は長期間会えなくなってしまいます。子の成長は早く、会えない期間が長ければ非同居親の精神的苦痛も増すはずです。
数年にわたって拒否されていれば、慰謝料増額の要因になり得ます。反対に、1度拒否されただけであれば受ける苦痛の程度は小さく、賠償請求は難しいでしょう。
面会交流拒否の理由が悪質・身勝手
拒否する理由があまりに身勝手であれば、行為が悪質だとして増額される可能性があります。
たとえば、不倫をした後に子を引き取った親が「不倫相手との新しい生活を邪魔されたくない」として面会交流を拒むケースです。
虚偽の理由で面会交流を拒否している
面会交流を虚偽の理由で拒否している場合も、より悪質だと考えられます。
「熱を出した」「急用ができた」といった説明を繰り返すケースがあります。虚偽であるとの証拠がつかめれば、賠償額の増額につなげることが可能です。
一度も面会交流を実施していない
別居してから一度も面会交流をしていなければ、権利侵害の程度は大きいです。合理的な理由なく拒否し続けるケースでは、賠償額が高額になる可能性があります。
過去の裁判例
実際の裁判例の中から、面会交流拒否による損害賠償について判断したものをご紹介します。
熊本地裁平成28年12月27日
元夫が、元妻と再婚相手に対して損害賠償を請求した事例です。
元夫と元妻は、調停において、再婚相手を連絡役として面会交流をすると定めました。実施回数やおおよその時期、連絡方法、引き渡し方法などを決定しています。
にもかかわらず、元妻や再婚相手は面会交流に応じませんでした。妻側の主張では、拒否の理由は自身の体調不良や、子と再婚相手との父子関係の確立の必要性です。面会できない期間は約3年5か月にも及びました。
裁判所は、元妻側の主張を認めず、元妻には70万円、再婚相手には元妻と連帯して30万円支払うように命じました。元夫は子の7歳から10歳の時期に面会できず、精神的苦痛は大きいと判断されています。比較的高額の慰謝料が認められたケースです。
静岡地裁浜松支部平成11年12月21日
元夫が元妻に対して損害賠償を請求した事例です。
両者は、調停において面会交流に合意していました。2か月に1回、2時間程度とし、日時・場所・方法等については協議するとの内容です。
しかし、元妻は面会交流を拒否し、家庭裁判所による履行勧告にも従いませんでした。拒否の理由は、元夫が婚姻中から自己本位でわがままであることです。
裁判所は、元妻の主張を認めず、元夫の父親としての愛情に基づく自然の権利を妨害したとして、500万円の慰謝料の支払いを命じました。妨害に至る経緯、期間、元妻の態度などが考慮され、高額の賠償が認められています。面会交流拒否で500万円もの慰謝料が認められるのは珍しいケースです。
福岡高裁平成28年1月20日
離婚前の夫が、別居中の妻と、その代理人弁護士に対して損害賠償を請求した事例です。
夫と妻は、調停で面会交流に合意しました。面会は月2回程度とし、日時・場所・方法等については協議するとの内容です。
数回は面会交流が実施されましたが、その後拒否されてしまいます。
1審の熊本地裁の判決では、協議を遅延させ事実上拒否したとして、妻と代理人弁護士に対して20万円の支払いが命じられました。しかし控訴審では、不法行為には該当しないと判断され、夫の請求は認められませんでした。夫が無理な要求をしたことや、協議は継続されていたことなどが理由です。
このケースでは、結果的に損害賠償請求は認められませんでした。面会交流がなかったからといって、必ず損害賠償を請求できるわけではありません。拒否について相手に大きな責任があり、不法行為に該当するケースに限って、請求が認められます。
面会交流の調停や審判手続
父母間で、子供の面会交流に関する協議ができない、協議できたとしても進展しない場合には、面会交流の調停を申し立てることになります。
調停手続とは
調停手続とは、家庭裁判所の調停委員2人が、当事者双方の間に入って、紛争事項を話し合いによる解決を目指す手続です。
面会交流の調停では、家庭裁判所の調査官による調査や試行面会(裁判所の施設で面会交流を試験的に行うこと)を行う場合もあります。
調停手続を経て、面会交流の条件を調整できれば調停は成立します。
審判手続とは
調停手続を重ねても面会交流の条件を合意できなければ、調停は成立となり、審判手続に移ります。
審判手続は、裁判官が当事者から提出された資料や調査官の調査報告書などを基に審理し終局的な判断を示すプロセスです。
審判手続では、調停手続のような話し合いの要素は薄く、裁判官によって一刀両断的な判断が示されることに特徴があります。
▶面会交流調停の裁判所の解説はこちら
面会交流の実現方法
調停や審判で面会交流の条件が決まったにも関わらず、子の監護親がこれを守らない場合、先ほど解説した損害賠償請求をすることが考えられます。
損害賠償請求以外にも面会交流を促す方法はいくつかあります。
履行勧告
面会交流の調停や審判がされたのに、監護親がその内容を守らない場合には、家庭裁判所に対して、履行を促す履行勧告を申し出ることができます。
家庭裁判所の調査官等が監護親に対して、電話や手紙により事情を聞き取りし、面会交流を実施できるように調整します。
しかし、履行勧告は、家庭裁判所による働きかけに過ぎないため、履行勧告を受けてもなお拒否する場合には、面会交流を実施することはできません。
間接強制
間接強制は、債務者が調停や審判で決められた内容を履行しない場合に、債務の履行を確保するために、債務者に一定額の金銭の支払いを命じるものです。
面会交流における間接強制では、面会交流の調停や審判で決められた条件を守らない場合に、監護親が非監護親に対して一定額(1回につき5万円等)を支払うことになります。
面会交流で間接強制するためには、調停調書や審判書に面会交流の回数、日時、受け渡しの時間・場所・方法が具体的に記載されていることが必要です。
養育費や婚姻費用の支払いを拒否できるのか
監護親が子の面会交流を拒否していたとしても、養育費や婚姻費用の支払いを拒否することはできません。心情としては、十分に理解できますが、面会交流と養育費(婚姻費用)はそれぞれ別々の権利であり、その根拠も異なります。
面会交流と養育費は交換条件ではない以上、面会交流の拒否に対抗するために、養育費や婚姻費用の支払いを拒否することはできません。
仮に、養育費等の支払いを拒否すると、養育費等の義務者の給与・預金その他資産を差し押さえられる可能性がありますので、注意が必要です。
面会交流の問題は弁護士に相談を
面会交流の問題は、簡単ではありません。
既に離婚していたり、離婚していなくても、夫婦間の関係は相当程度悪化していることが多いでしょう。そのため、正当な理由がないのに、子供を監護する親は面会交流を強く拒絶することが多くあります。
面会交流の協議により父母間の関係性が一層悪化してしまうと、面会交流の実施はさらに難しくなり、面会交流を求める非監護親の心理的な負担は大きくなります。
面会交流を実施できない親の心情は耐え難いものであり、大きな負担を生じさせます。
一人で抱え込まずに弁護士に一度相談をしてみましょう。