子供がいる夫婦が離婚する際に、必ずと言っていい程に問題となるのが、子供の親権者を誰にするのかという点です。
親権者として適格か否かは、『子の利益』が基準となります(民法766条2項、819条6項参照)。では、子の利益を基準とした場合、どのような要素を基に判断するのでしょうか。
以下では、子供の親権者を判断するに際して考慮される事情を見ていきたいと思います。
親権とは?
親権とは、成年に達していない子ども(18歳未満の子ども)の身上の世話と教育を行い(身上監護)、また、子どもの財産の管理(財産管理)を行うための権利義務のことをいいます。
親権は、親の権利であると同時に、子供の利益のための親の義務でもあります。
身上監護
親権の身上監護権の具体的な内容は、以下のとおりです。
- 居所指定権(民法821条)
- 懲戒権(民法822条)
- 職業許可権(民法823条)
居所指定権とは、親権者は子の養育監護のために必要な範囲で、子どもがどこに住むかを指定することができる権利をいいます。
懲戒権とは、監護・養育に必要な範囲で子を懲戒することができる権利を指します。ただ、その懲戒権の行使が行き過ぎたものになると、暴行罪や傷害罪となるおそれがあります。
親権者には職業許可権があるため、子供は親権者の許可を得なければ仕事をすることはできません。
財産管理権
財産管理権とは、子どもの財産を管理する権限と、子の財産に関する法定代理権を指します。
財産管理権は、子の財産の全てに及び、処分行為だけでなく保存行為や利用行為も含みます。
また、親権者は、法定代理権だけでなく、子の財産に関する同意権も有しています。
親権と監護権との違い
親権と似た用語として監護権があります。
親権には身上監護権と財産管理権が含まれており、監護権とは身上監護権を指しています。
監護者とは、子の監護や養育を行う者を言います。
監護権や監護者が問題となるのは、夫婦の離婚前に、夫婦の一方が子供を連れて別居したために、他方の配偶者が子供の引き渡しを求める場面です。
離婚前の子供の親権は共同親権となるために、夫婦のいずれもが親権者となります。
しかし、夫婦の一方が子供を連れて別居を開始させたために、子供の監護者として適格な者は夫婦のうちどちらかが問題となります。
親権を判断するポイント
裁判手続きにおいて親権者を決めるにあたっては、様々な事情を考慮して指定されます。
同居中の監護状況
出生から別居時までの監護状況は親権の指定において重視される事情です。
同居中に主たる監護者による子供の監護状況が安定していたのであれば、別居後や離婚後においても、同居中の主たる監護者が子供の養育監護を継続させた方が子の健全な成長につながると考えます。
ただ、主たる監護者が子供に対して度を越した暴言や暴力、育児放棄を行うなど、監護状況が劣悪なものである場合には、主たる監護者であったとしても、その監護実績は親権の判断においてマイナス要素となります。
継続性の原則(現状尊重の原則)
別居してから現在までの積み上げられた生活環境が安定している場合には、子の生活環境に変更を加えることは子の心理的不安定をもたらすため、子の福祉の観点からこの実績は尊重するという考え方です。
父親が子の親権者となる事案では、別居後に継続して子を監護してきたという実績を尊重されているケースが多いと思います。
他方で、別居後に父親が子を監護しているような事案で、母親が親権(監護権含みます。)の取得を希望される場合には、一日も早く監護権者指定・子の引渡しの仮処分の申し立てをされることを推奨します。
奪取の違法性
別居に際して暴力的な行為により子を連れ去られた場合,その事情のみをもって親権者や監護権者の判断がなされることはないと考えますが、奪取の違法性の内容程度が監護権者としてのマイナスの評価を受けることは十分にあると考えます。
子の意思の尊重
概ね満10歳以上の子については子の意思を尊重します。
子の意思の確認は、心理学の知見を有する家庭裁判所調査官による調査によって行われます。
父母に対する忠誠心の葛藤から、子が自由意思とは異なる意思表示をすることもあるため、調査官には、紛争渦中に置かれている子供の心身の状況を十分に考慮して調査を行うことが求められます。
子の年齢が満15歳以上の場合は、家庭裁判所は、調査官を通じて、子の陳述を聴取しなければならないとしています。
母性優先の原則
乳幼児期の母子の相互関係が子供の心理的発達にとって重大な影響を与えることから、特に2歳から3歳までの期間において、子供と母性的な関わりをしてきたか否かを判断します。
ここで言う、母性というのは、イコール母親ではなく、父親であっても母性的な役割を担っている場合には、考慮されます。
ただ、多くの家庭では乳幼児期において母性的な役割を母親が果たしていることが多いことから、父親が親権を得ることが困難になっている実情があり、昨今では問題視されることが増えています。
きょうだい不分離の原則
親権者の指定にあたって、未成年の子供が2人以上いる場合には、兄弟姉妹は離れずに1人の親が親権者に指定されます。
これを「きょうだい不分離の原則」といいます。
例えば、長女の親権者は父、長男の親権者を母と指定することは子供の福祉から控えるべきとされています。
きょうだい不分離の理由の一つとして、子供にとって、両親の離婚は大きな精神的な負担となります。加えて、きょうだいまで離れ離れになってしまうと、二重の精神的な負担を招くことにあります。
また、きょうだいが離れずに共に生活することで得られる体験が子供の人格形成にとって貴重であることも理由の一つとなっています。
親の監護能力
親の監護能力も考慮されます。
親の監護能力に問題がある場合には、親権者の指定にマイナスの要素として働きます。
例えば、父母が精神疾患を抱えており、入院を要する程に重篤な症状である場合には、子供の養育監護を十分に行えないことが予期されます。そのため、親権の判断において消極的な要素となります。
そのほか、父母にパーソナリティ障害(人格障害)があり、子供に対する暴力やその他危害を加えたことがあるような場合にも、親権者として不適格との判断がなされる可能性もあります。
他方で、精神疾患を患っていたとしても、入院をする必要がない軽度な症状で、通院加療により日常生活を送ることができる場合には、親権の指定において、それほど大きなマイナス要素にはならないと考えます。
親の経済力
親の経済力は親権者の指定において、それ程重視されていません。
親権者ではない親は親権者である親に対して、子供の養育費を支払う義務を負います。離婚前であれば、監護者ではない親は監護者である親に対して、婚姻費用を支払う義務を負います。
このように収入の多い方は少ない方に生活費の支払いをしなければなりません。そのため、たとえ親の間に収入格差があったとしても、養育費や婚姻費用を受けることで収入格差を解消することができます。さらに、ひとり親のための扶助(児童扶養手当、医療費助成等)も充実しています。
よって、親権者の指定において、親の経済力はあまり重視されないでしょう。
監護補助者の存在
親に代わって子供の監護をサポートする監護補助者の存在も重要となります。
子供が親よりも先に帰宅した場合に一緒に時間を過ごせる人がいなかったり、親の仕事中に子供が怪我や病気をした際にすぐに対応できる人がいないと、子供の監護状況としては不十分といえます。
そのため、祖父母(親の親)やおじ・おば(親のきょうだい)が監護補助者となることが多いですが、その他にも、親との信頼関係があり子供も慣れ親しむ第三者であれば監護補助者になり得るでしょう。
ただ、あくまでも監護補助者は監護の補助をする人です。補助であるにもかかわらず、監護の大半を補助者に押し付けているような監護状況はむしろ不適切な環境であると判断される可能性があります。
面会交流の実施状況(寛容性のテスト)
父母の両方と交流をすることが子の心身の発達に資することから、別居後も他方の親をどれほど信頼して寛容になり、面会交流を実施しているか否かも判断要素となります。
特に、父親が子を継続監護している場合には、できる限り面会交流を実施することが有利な事情として働きます。
親が不貞行為(不倫・浮気)をしている場合
親が不貞行為を働いたとしても、不貞行為の事実のみで親権者として不適格であると判断されることはありません。
不貞行為を行っているから、親権者(監護権者)の適格を欠くという主張は頻繁になされます。
しかし、あくまでも、不貞行為は夫婦の離婚原因となり、あるいは、慰謝料請求の原因にはなりますが、あくまでも夫婦間の問題です。つまり、不貞行為の問題と子の親権の問題は別問題と扱われます。
ただ、子の養育監護を放置して不貞相手と面会している、不貞相手に子を直接面会させたりしているなどの事情がある場合には,親権者の判断要素になり得るでしょう。
離婚時に親権を決める流れ
離婚をする際、子供が未成年である場合、子供の親権者を決めなければ離婚することができません。そのため、離婚それ自体については、夫婦間で争いはないものの、子の親権について強く対立するため、離婚手続が進展しないことはよくあります。
以下では、離婚時の親権の決め方を解説します。
話合い
親権者を誰にするかは、夫婦が離婚協議に際して、話し合いによって決めるのが原則です。
しかし、子供の親権について、お互いが譲らないために、協議離婚が成立しない状況は起こりがちです。
当事者間の話し合いは、どうしても心情的となり冷静に協議を行うことができないことはよくあります。そのような場合には、共通の知人に仲裁してもらったり、弁護士を代理人に就けることも検討しましょう。
調停の申立て
当事者間の協議が奏功しなければ、離婚調停の申立てをすることになります。
調停手続きとは、家庭裁判所の裁判官と調停委員が間に入って、当事者間の話し合いを進め、子供の親権問題も含めた離婚問題の解決を目指す手続きです。
調停手続きを通じて、夫婦が、子供の親権者、養育費、その他の離婚条件を合意できれば、調停が成立します。
他方で、調停委員の説得の甲斐なく、夫婦間で合意ができなければ調停は不成立となり調停手続きは終了します。
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子の引渡しと監護者の手続き
通常、調停の申立てをする場合、既に夫婦のうちいずれかが子供を連れて、あるいは、子供を置いて別居を開始していることが多いです。
そのため、調停の申立ての前に、子どもと離れて暮らす親が『子の引渡しの監護者指定のの審判と審判前の保全処分』をすることもあります。
子の引渡しと監護者指定の手続きは、親権者の指定の前哨戦とも言えるものです。
離婚訴訟(裁判手続き)
離婚調停が不成立となれば、離婚をしたい方が離婚訴訟を提起することで、裁判手続きが開始されます。離婚訴訟では、当事者双方が、準備書面と証拠を提出することで、主張反論を行います。主張反論が尽くされれば、証人尋問(当事者尋問)を行った上で判決が出されます。
多くの事案では、証人尋問を行う前に、裁判官から和解の勧告が行われます。
和解勧告を受けても合意に至らないのであれば、判決手続きに進みます。
第一審の判決後2週間以内に控訴しなければ、判決は確定します。
調査官調査
離婚調停や離婚訴訟では、家庭裁判所の調査官による調査が行われる場合があります。
調査官とは、家事事件等において、子供の監護方針などを専門的な観点から調査する裁判所の職員です。
調査官は、専門的な知識や経験に基づき、子供の監護状況や子供の意向調査などを行い、それを踏まえた調査報告書を提出します。
父母や子供からの聞き取り、監護補助者からの聞き取り、小学校、幼稚園の担任からの聞き取り、家庭訪問をして間取りや生活状況の確認等を行います。
さらには、父母が作成した陳述書、母子手帳、学校との連絡帳などの客観的資料も判断材料とします。
裁判官は、調査官の調査により提出された調査報告書の内容を重視し、これに依拠した判断をすることが多いでしょう。
親権の問題は弁護士に相談を
様々な事情を総合して誰が子の親権者になることが「子の利益」となるかを判断します。時間との勝負という面もありますので、お困りな際にはすぐに弁護士に相談してください。
初回相談30分を無料で実施しています。
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