「裁判所から差押命令の通知が届いた」
「もう既に給与の4分の1が差し押さえられている」
給与差押えは、借金問題における最も深刻な事態のひとつです。手取りの4分の1が差し押さえられて生活費が足りなくなるだけでなく、会社(経理・人事部)に借金の事実がバレてしまい、職場での立場が悪化するリスクもあります。
「給与差押えを止めるには、どうすればいいのか」
結論からお伝えすると、個人再生または自己破産を申し立てることで、給与差押えを法的に止めることができます。ただし、いつ、どの手続きを、どのタイミングで申し立てるかによって、止まり方も、留保された給与の取り戻し方も大きく変わります。
この記事では、大阪なんば・心斎橋の難波みなみ法律事務所の弁護士が、給与差押えが行われる前段階から実際に差押え後までの5つの段階別の対処法、任意整理・個人再生・自己破産の使い分けを解説します。緊急対応が必要な方こそ、ぜひ最後までお読みください。
給与差押えとは
給与差押えの基本的な仕組み
給与差押えとは、債権者が裁判所を通じて、債務者の勤務先(第三債務者)に対し給与の一部を差し押さえ、勤務先から債権者へ直接支払わせる強制執行の一種です(民事執行法151条以下)。
仕組みを整理すると次のようになります。
- 債権者が裁判所に差押命令を申し立てる
- 裁判所が勤務先に債権差押命令書を送付
- その約1週間後に債務者本人にも差押命令が送付される
- 勤務先(第三債務者)が給与の一定額を留保し、債権者に支払う
- 借金が完済されるまで、毎月の給与・賞与から差押えが続く
差押えされる金額(民事執行法152条)
民事執行法152条により、給与の差押え範囲には上限があります。
| 給与の手取り額 | 差押え可能額 |
| 月額44万円以下 | 手取りの4分の1 |
| 月額44万円超 | 手取りから33万円を控除した残り |
例えば、手取り月収24万円の場合には、 差押え額は6万円となり、手取り18万円が債務者本人に支払われます。他方で、手取り月収50万円の場合には、差押え額は17万円となり、手取り33万円が債務者本人に支払われます。
「4分の3が手元に残るから生活できる」と思われるかもしれませんが、住宅ローン・家賃・養育費などを支払うと、生活が立ち行かなくなるケースが大半です。
給与差押えのもう一つの深刻なリスク
給与差押えの実務的に最も深刻な問題は、勤務先の経理担当者・人事部に借金の事実が発覚する点です。その上で、勤務先担当者に様々な負担を課すことになります。
- 経理担当者が差押命令に基づき毎月差押え額を計算する必要がある
- 人事部・上司への報告を求められることもある
- 経理事務の手間が増えるため、会社が対応を嫌がることも
- 同僚に話が漏れて職場での立場が悪化する可能性
労働契約法16条により借金を理由に解雇することはできませんが、結果として自主退職せざるを得なくなることもあります。
▶関連記事:任意整理は会社にバレる?バレる5つのケースと完全に内緒で進める方法を弁護士が解説
給与差押えに至るまでの5つの段階
給与差押えは、突然降りかかるものではありません。5つの段階を経て進行します。それぞれの段階で適切な対応が可能ですので、早期発見・早期対応が極めて重要です。
段階1:滞納・督促状の到着
借金の支払いを2〜3ヶ月滞納すると、債権者から督促状や督促電話が来ます。この段階で、放置するのではなく、弁護士に相談することが最も対応の選択肢が広く、費用も安く済みます。任意整理・個人再生・自己破産のすべての選択肢が可能です。
▶関連記事:任意整理とは|手続きの流れ・費用・デメリットまで完全ガイド
段階2:内容証明郵便・期限の利益喪失
債権者からの督促を無視し続けると、債権者から内容証明郵便で「期限の利益を喪失した」「残債務を一括請求する」旨の通知が届く可能性があります。この段階でもまだ任意整理が可能です。受任通知を発送することで督促が止まります。ただし、債権者によっては既に訴訟準備に入っているケースもあるため、急いで弁護士に相談すべき段階です。
段階3:支払督促または訴状の到着
内容証明等を通じた複数回の督促を受けてもなお、無視し続けると、債権者は支払督促または通常訴訟を提起する可能性があります。裁判所から書類が届きます。支払督促の場合、支払督促の送達を受けてから2週間以内に督促異議の申立を行うことで、通常訴訟へ移行することができます。また、訴状の送達を受けた場合、第1回口頭弁論期日までに答弁書を提出する必要があります。
この段階で放置をしてしまうと、強制執行できる状態になってしまいます。そのため、裁判所書類は絶対に放置せず、すぐ弁護士に相談してください。
段階4:判決の確定(債務名義の取得)
訴訟で債権者が勝訴し、判決が確定すると、債権者は債務名義(強制執行に必要な裁判所のお墨付き)を取得します。債権者が債務名義を得ると、いつでも強制執行できる状況となりますので、任意整理が難しくなる可能性もあります。
また、判決確定後であっても、債権者によっては任意整理することは可能なこともありますが、債権者の交渉態度は厳しくなります。多くの場合、個人再生または自己破産が現実的な選択肢となります。
段階5:給与差押え実行
債権者は債務名義に基づき、裁判所に給与差押命令を申し立てます。この段階に至ると、任意整理での解決は非常に困難です。個人再生または自己破産で差押えを中止させる必要があります。詳細は次章で解説します。
任意整理では給与差押えは止まらない
まず、任意整理では既に始まった給与差押えを止めることは難しいという重要な原則を確認します。
任意整理が差押えを止められない理由
任意整理は弁護士と債権者の私的な交渉であり、裁判所を介しません。受任通知(貸金業法21条1項9号)には督促停止の効果はありますが、既に裁判所が出した差押命令を停止させる法的効力まではありません。
債権者は受任通知を受け取っても、既に得た強制執行権を取り下げる義務はないため、給与差押えを継続することができます。
任意整理で対応可能なケース
ただし、次のケースでは任意整理での対応も可能です。
- 差押え前の段階(滞納、督促、訴状到着まで)
- 訴訟提起後・判決確定前(債権者と和解できる可能性あり)
- 差押え後でも、債権者が和解に応じる場合
給与差押え後の任意整理は実務上難しいことも多いため、個人再生または自己破産を検討するのが現実的です。
受任通知の効果と限界
弁護士に依頼すると発送される受任通知の効果は以下のとおりです。つまり、受任通知を送ったからといって、既に開始された訴訟手続や強制執行の手続は当然には終了しません。
| 効果 | 内容 |
| ○ できる | 督促電話・督促状の停止 |
| ○ できる | 自宅・職場への連絡停止 |
| ○ できる | 任意整理の交渉開始 |
| × できない | 既に始まった給与差押えの停止 |
| × できない | 訴訟の提起阻止(債権者の意思次第) |
個人再生で給与差押えを止める方法
個人再生による差押え中止のメカニズム
個人再生を申し立てると、次のような段階で給与差押えを止められます。
ステップ1:個人再生申立て(強制執行中止命令)
申立て直後でも、強制執行中止命令を裁判所に申し立てることが可能です(民事再生法26条1項2号)。緊急性が認められれば、開始決定前でも差押えを中止できます。
ステップ2:再生手続開始決定(民事再生法39条1項)
裁判所が再生手続開始決定を出すと、強制執行は法律上当然に中止されます。民事再生法39条1項の規定に基づきます。
実務的には、開始決定書を執行裁判所(給与差押えを担当している裁判所)に提出し、「強制執行手続停止上申書」を提出することで、差押え手続きが正式に停止されます。
ステップ3:再生計画認可決定の確定(民事再生法184条)
再生計画が認可・確定すると、差押命令は効力を失います(民事再生法184条)。これにより、勤務先で留保されていた給与がまとめて債務者に支払われることになります。
開始決定後の「強制執行取消命令」
民事再生法39条2項により、開始決定後は強制執行取消命令を申し立てることができます。裁判所が再生のために必要と判断すれば、取消命令を発令し、認可決定を待たずに留保された給与の支払いを受けられます。
【メリット】
- 認可決定まで数ヶ月を待たずに、生活費を確保できる
- 留保された給与を早期に受け取れる
【デメリット】
- 申立てが認められるかは裁判所の裁量
- 申立てが認められても、認可決定が出なければ最終的には差押え再開のリスクあり
個人再生で差押えを止めるメリット
給与差押えを受けた場合に個人再生を利用するメリットを紹介します。
- 借金を5分の1まで圧縮(最低100万円)
- 持ち家を残せる(住宅ローン特則)
- 給与差押えが停止させることができる
▶関連記事:個人再生とは|小規模個人再生と給与所得者再生の違い・住宅ローン特則まで徹底解説
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自己破産で給与差押えを止める方法
自己破産による差押え停止のメカニズム
自己破産は事件の種類(管財事件・同時廃止事件)によって、差押え停止のタイミングと留保された給与の取り戻し方が異なります。
管財事件の場合(破産法42条2項)
破産手続開始決定により、強制執行は法律上当然に効力を失います。実務的には、破産管財人が執行裁判所に債権執行取消の上申書を速やかに提出し、裁判所が差押命令を取り消します。
その結果、債務者は差し押さえられた給与分を取得することができるようになります。
- 開始決定後の給与は新得財産として、債務者が全額受け取れる
- 留保されていた給与のうち、開始決定後の分は債務者に返還
- 開始決定前の留保分については、管財人が回収して破産財団に組み入れる
同時廃止事件の場合(破産法249条1項)
破産手続開始決定・廃止決定がなされても、差押えは法律上「中止」されるだけで、当然に失効するわけではありません。執行するまでの間、差し押さえられた給与分は支払いを留保されます。
その後、免責許可決定の確定により、ようやく差押えが正式に失効します(破産法249条2項)。この段階で、勤務先に留保されていた給与がまとめて債務者に支払われます。
自己破産で給与差押えを止めるメリット
自己破産を利用することで、給与差押を止めることができるだけでなく、以下のようなメリットがあります。
- 借金が全額免除される(免責許可決定)
- 給与差押えが中止・失効する
- 手続きが比較的短期(同時廃止で3〜6ヶ月、管財で6ヶ月〜1年)
ただし、99万円を超える財産は自由財産とならず処分の対象となりますし、一部の職業に資格制限などのデメリットもあります。
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3つの手続きの選び方|給与差押えを止めるための判断軸
差押え時に個人再生・自己破産のどちらを選ぶか、または差押え前の段階で任意整理を選ぶか、判断軸は次のとおりです。
任意整理を選ぶべきケース
- 差押え前の段階である
- 安定収入があり、利息カットだけで3〜5年で完済できる
- 家族・職場に絶対バレたくない
- 持ち家・車を残したい
- 制限職種に従事している
個人再生を選ぶべきケース
- 差押え後の対応が必要
- 持ち家を残したい(住宅ローン特則)
- 借金は減額したいが、消したくない(一定の倫理観・職業上の理由)
- 制限職種に従事している(弁護士・警備員等)
- ギャンブル・浪費が借金原因で自己破産の裁量免責が難しい
- 圧縮後の借金を3年から5年にわたって返済できる安定収入がある
自己破産を選ぶべきケース
- 差押え後の対応が必要
- 借金を全額免除したい
- 持ち家・高価な財産がない
- 制限職種でない
- 安定収入が見込めない・3〜5年の継続返済が困難
給与差押えに関する5つのよくある誤解
誤解1:「差押えされても黙っていれば会社にバレない」
誤りです。差押命令書は債務者本人より先に勤務先に送付されます。会社の経理・人事部には100%バレます。
誤解2:「副業の収入は差し押さえられない」
副業の収入であっても、債権者にその情報を特定されている場合には、副業の収入は差押えの対象となります。給与所得は4分の1まで差押え可能ですが、事業所得については扱いが異なり、その全額を差し押さえられる可能性があります。
誤解3:「退職すれば差押えを逃れられる」
誤りです。退職金も差押えの対象になります。また、退職後に次の職場を見つけても、債権者が新勤務先を特定することができれば再度差押えが可能です。
誤解4:「弁護士に依頼すれば差押えはすぐに止まる」
誤りです。受任通知に督促停止の効果はありますが、既に始まった差押えを止める効力はありません。差押えを止めるには、個人再生または自己破産の申立てが必要です。
誤解5:「差押えされてからでは自己破産はできない」
誤りです。差押え後でも自己破産は申立て可能で、差押えを止めることができます。むしろ、差押え後こそ早急な自己破産・個人再生の検討が必要です。
給与差押えに関するよくある質問
Q1. 給与差押えの通知が届きました。会社にはいつバレますか?
A. 差押命令書は、債務者本人より先に第三債務者である勤務先に送付されます。本人に通知が届く時点(差押命令送付の約1週間後)には、既に会社が認識している状態です。緊急対応として、直ちに弁護士に相談し、自己破産または個人再生の申立てを検討してください。
Q2. 給与差押えされても解雇されますか?
A. 借金を理由とした解雇は無効です。ただし、経理・人事の負担増、職場での評判低下、上司との関係悪化など、自主退職に追い込まれるケースは珍しくありません。早期の差押え解除が、職場での立場を守る最善策です。
Q3. 既に差押えが3ヶ月続いています。自己破産で取り戻せますか?
A. 自己破産(管財事件)を申し立てれば、開始決定後は差押えが失効し、留保されていた給与のうち開始決定後の分は受け取れます。開始決定前の留保分は、管財人が破産財団として回収するため、債務者が直接受け取ることはできません。同時廃止事件の場合、留保分は免責確定後に受け取ることができます。
Q4. 給与差押えと預金差押えはどちらが多いですか?
A. 両方とも実務上多くあります。預金差押えは1回限り(口座に入っている残額のみ)ですが、給与差押えの場合、債権回収ができるまで継続的(毎月)に差押えられるという違いがあります。
Q5. 自営業者・個人事業主の場合、何が差押えされますか?
A. 個人事業主の場合、売掛金や報酬債権が差押え対象となります。これは取引先に直接通知が行くため、取引関係が破綻するリスクがあります。給与差押え以上に深刻な事態となるため、自営業の方こそ早期の対応が必要です。
Q6. 給与差押えを止めると、債権者からの取立てもなくなりますか?
A. 個人再生または自己破産の申立てにより、給与差押えが止まると同時に、他のすべての債権者からの取立ても停止します。ただ、通常は、申立前の弁護士による介入通知により債権者からの取立ては停止されます。
大阪で給与差押えのご相談は
難波みなみ法律事務所は、大阪メトロなんば駅・心斎橋駅から徒歩3〜5分の立地にあり、給与差押え・強制執行案件を多数取り扱っています。
給与差押えは時間との勝負です。書類が届いてから自宅でじっくり検討している間に、毎月の給与から4分の1が引かれ、会社での立場も悪化していきます。一日でも早い対応が、経済的にも精神的にも、最善の結果につながります。
「差押え通知が届いたが何をすればいいかわからない」「会社にバレる前に止めたい」「既に何ヶ月も差押えされている」――このような状況の方は、まず一度ご連絡ください。お電話一本で、その日のうちに対応策をご提案できます。
まとめ

「もう手遅れかもしれない」と諦める必要はありません。個人再生・自己破産という法的な制度があります。難波みなみ法律事務所では、ご相談者のご事情を丁寧にお伺いし、最も適切な解決方法を迅速にご提案いたします。
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