親族が亡くなった時に、亡くなった人(被相続人)の遺産を取得するためには、相続人の間で遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割が成立した後、これを踏まえて預金の解約や相続登記といった相続手続きを行うのが通常です。それにも関わらず、安易に遺産分割のやり直しができるとなると、法律上の権利関係が非常に不安定になってしまいます。
今回の記事では、遺産分割をやり直すことができる例とできない例を紹介したいと思います。
遺産分割をやり直すことは原則できない
遺産分割をやり直すことは原則としてできません。
亡くなった人(被相続人)の遺産を取得するためには、法定相続人の話し合いにより、法定相続分等に従い、誰が何をいくら取得するのかを決めなければなりません。この相続人間の遺産分けの話し合いを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議が成立すれば、これを前提とした相続手続きを行うため、遺産分割を前提とした権利変動が生じます。そうすると、自由に遺産分割協議をやり直せてしまうと、法律関係を不安定にさせてしまいます。
そのため、遺産分割をやり直すことは原則認められていません。
遺産分割を例外的にやり直せる場合
遺産分割協議も、相続人らが被相続人の遺産に関して行った合意です。そのため、この合意において大きな間違いがあれば、遺産分割をやり直すことができます。
相続人の一部が除外されていた
遺産分割協議は、相続人全員が参加して行わなければなりません。
1人でも相続人を欠いた状態で遺産分割をしたとしても、その遺産分割は当然に無効となります。欠けていた相続人を参加させて改めて遺産分割協議をする必要があります。金融機関や法務局において戸籍謄本による相続人の特定作業が行われます。
そのため、ある相続人の欠いた状態で遺産分割協議書を作成したとしても、金融機関や法務局から相続人の欠落を指摘されるでしょう。
TIPS!戸籍謄本の取り寄せ相続手続きを行うためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要となります。相続人の漏れを無くすためには、取り寄せた戸籍謄本の内容を確認して相続人の特定を行うことが必要です。相続人の漏れがないよう、遺産分割協議の時点で戸籍謄本を精査することが重要です。 |
相続人の判断能力に問題がある場合
相続人の一部が、認知症に罹患するなど十分な判断能力を有していない場合や未成年者であるにもかかわらず単独で遺産分割協議に参加している場合、遺産分割協議は無効になります。
また、相続人が意思能力を欠いているため成年後見人が就任しているにもかかわらず、後見人が法定代理人として遺産分割協議に参加していない場合も遺産分割協議は無効となります。
未成年者に特別代理人が選任されていない場合
上記のとおり未成年者は単独で遺産分割協議に参加することはできません。ただ、親権者である法定代理人も相続人である場合、子と親権者の利害が対立してしまうため、相続人である親権者は子の法定代理人として遺産分割協議に参加することはできません。この場合、未成年の子のために、特別代理人の選任を家庭裁判所を通じて行い、特別代理人が子のために遺産分割協議を行う必要があります。
特別代理人の選任が必要であるにもかかわらず、これを経ずに遺産分割協議を行うと、遺産分割協議は無効となります。
詐欺や錯誤があった場合
遺産分割協議が成立したものの、勘違い・誤解があった場合には遺産分割が錯誤により取り消すことができることもあります。また、相続人の一部が虚偽の説明をしたことで錯誤になった場合も、遺産分割が詐欺により取り消すこともあります。
ただ、勘違いがあっても常に錯誤を理由に遺産分割が取り消されるわけではありません。錯誤があっても、遺産分割協議の成否に影響を与えないような軽微な錯誤であれば、取消しを主張することはできません。また、インターネット等を通じて容易に知ることができるような場合には、たとえ錯誤があったとしても、「重大な過失」を理由に錯誤に遺産分割のやり直しを主張することはできません。
遺言書が見つかった場合
遺産分割協議をしたものの、遺産分割協議後に、被相続人の遺言書が見つかった場合にも、錯誤により遺産分割が取り消される可能性があります。
なぜなら、相続人は遺言の存在を知っていれば、遺言内容を尊重するはずと考えられるからです。ただし、遺言の内容が法定相続分に沿った内容であり、遺産分割協議の内容と大差がなければ取り消しにはならない可能性はあります。
相続人全員の合意がある場合
相続人全員が遺産分割のやり直しに同意している場合には、遺産分割協議を合意解除することが出来ます。相続人全員が遺産分割のやり直しに納得しているのであれば、最高裁の判例も遺産分割の合意解除を認めています。
遺産分割をやり直せない場合
遺産分割協議のプロセスにおいて、何らかの見落としや間違いがあっても、これを理由に常にやり直しができるわけではありません。
法定相続分を勘違いしていた場合
相続人がこの法定相続分を勘違いした上で遺産分割協議に応じたとしても、これを理由に遺産分割のやり直しを求めることは難しいでしょう。
なぜなら、遺産分割の成立後に、法定相続分について誤信があったことを事後的に証明することは簡単ではないからです。また、法定相続分の情報については、インターネット検索や法律相談等を通じて容易に知ることができます。仮に法定相続分の誤信があったとしても、重大な過失があったとしても、錯誤による取り消しが認められない可能性は高いでしょう。
遺産が漏れていた場合
被相続人の遺産とするべき財産が漏れている場合でも、それだけで遺産分割のやり直しができるわけではありません。
遺産分割時に把握していない財産が、遺産分割協議後に不意に発見されることは多々あります。
その場合、新たに発見された財産に限定して遺産分割を行うことになります。
債務の存在が明らかになった場合
遺産分割協議をした後に、借金などの債務の存在が明らかになった場合も、当然に遺産分割が取り消されるわけではありません。
借金などの債務については、法定相続分に従って相続人が当然に負担することになるからです。ただ、遺産分割の時点で多額の債務の存在を知っていれば、相続放棄の手続を行なっていたが、債務が存在しないものと誤信して遺産分割協議をした場合には、被相続人との生活状況や協議内容を踏まえ、その遺産分割協議は錯誤により取り消しされる可能性があります。
遺産分割の内容が不公平である場合
遺産分割協議書に相続人が署名捺印したものの、その内容が一部の相続人に不公平な内容であっても、相続人が署名捺印をしている以上、外形的には、遺産分割協議は有効に成立しているとされます。
しかし、各相続人に十分に検討する時間を与えず、異論を出しにくい状況を意図的に作るなど、特定の相続人に有利な遺産分割をするために、遺産分割協議のプロセスが恣意的に行われたような場合には、遺産分割協議は例外的に無効となる可能性があります。
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遺産分割をするにあたっての注意点6つ
これまで説明してきたとおり、一度成立した遺産分割協議を事後的に無効・取消しとしたり、解除することはそう容易いことではありません。つまり、いくら不満・不服があっても覆すことは出来ません。
そのため、遺産分割をするにあたって、疑問点・不審点が残らないように十分に吟味しなければなりません。特に注意を要するのが次の事情です。
【遺産分割にあたっての注意点】 ①法定相続分を確認する ②遺産を正確に把握する ③生前贈与を正確に把握する ④遺言書の有無を確認する ⑤遺産の評価を確認する ⑥遺産分割協議書の内容に納得してから署名捺印する |
法定相続分を確認する
遺産分割の大前提として、相続人を確定した上で、各相続人の法定相続分を確定させます。相続人の確定には、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本と相続人の戸籍謄本の取り付けをすることで行います。
相続人の特定と相続分の正確な把握なくして、適切な遺産分割協議を行うことは出来ません。
遺産を正確に把握する
被相続人が遺した遺産の種類や金額を正確に把握しなければなりません。通帳履歴を確認して、抜け落ちている金融資産等がないかをチェックします。
生前贈与を正確に把握する
一部の相続人が、被相続人から生前贈与を受けていれば、これは「特別受益」として遺産分割で考慮しなければなりません。通帳履歴や遺言書などを確認して、特定の相続人に対する資金移動があれば生前贈与の可能性があります。
遺言書の有無を確認する
被相続人が生前に遺言書を遺している場合、遺産分割協議をする必要がありません。遺言書の内容に沿って遺産の分配をするだけで良いのです。そのため、公正証書遺言や自筆証書遺言が残されていないかを遺品整理等により確認しましょう。場合によっては公証役場にて遺言書の有無を照会することも検討します。
遺産の評価を確認する
遺産の評価に間違いがないかをチェックします。特に、不動産の評価額については、大きく差が生じやすいでしょう。不動産を取得したいと考える相続人は、その不動産の評価額をできるだけ低めに主張することで、より多くの遺産を取得しようと試みます。
不動産をはじめ遺産額の評価額が不当に低すぎないか、高すぎないかをチェックしましょう。
遺産分割協議書の内容を十分に精査する
遺産分割協議書に署名捺印するよう依頼されて、その中身をよく精査することなく、言われるがまま署名捺印に応じてしまうことはよくあります。しかし、説明を受けていないことをもって遺産分割協議を無効にできるかというと、非常にハードルは高いです。
サインをする前に、遺産分割協議書の内容を十分に精査し、不利な内容とされていないかをチェックしましょう。内容を十分に理解し納得できればサインをするようにします。
遺産分割をやり直す場合の税務上の問題
遺産分割をやり直す場合、相続税等の税金の問題が生じます。取消しになる場合と合意解除の場合では、税金面の対応が異なるため、以下で解説します。
無効や取消の場合
遺産分割に無効や取消となる理由があったために、遺産分割をやり直す場合です。
既に、相続税の申告と納税をしている場合には、払い過ぎていれば納め過ぎた税金の還付を受けるために、更正の請求をします。
納税額が少なかった場合には、修正申告により不足分を納める必要があります。
合意解除の場合
遺産分割を合意解除して、遺産分割をやり直したとしても、当初の相続税の申告に影響は生じません。
そのため、更正の請求や修正申告をする必要はありません。
その代わり、再分割で取得した財産について、贈与税または所得税が課税されることになります。
不動産がある場合
最初の遺産分割協議により不動産登記をしている場合、改めて登録免許税や不動産取得税を要する場合もあるため、二重に不動産関連の税負担が生じてしまいます。
遺産分割の問題は弁護士に相談しよう
遺産分割のやり直しができるケースはかなり限られています。やり直しのできる事情があっても、これを事後的に客観的な資料により証明しなければなりません。
弁護士に相談することで計画的な証拠収集を行うことができます。ご自身で頑張り過ぎずに、適切に弁護士に相談することが重要です。
初回相談30分を無料で実施しています。面談方法は、ご来所、zoom等、お電話による方法でお受けしています。
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