遺留分の請求にも期限があります。遺留分の時効は1年とされています。
遺留分の侵害を知ってから何もすることなく放置してしまうと、遺留分の請求ができなくなります。
また、遺留分請求をした後や遺留分請求が認められた後においても、それぞれ期間制限があるため、期間制限に気を付けながら、手続きを進めていくことが重要です。
本記事では、遺留分侵害請求の時効の問題を解説します。
遺留分とは何か?
遺留分とは、遺言等によっても奪うことのできない相続人の権利をいいます。たとえ、遺留分を下回る遺言が作成されていたとしても、遺留分が遺言よりも優先されます。
遺留分の割合は、法定相続分の半分です。相続人が親などの直系尊属であれば、半分ではなく3分の1になります。
遺留分請求の期限
遺留分侵害額請求には、1年の消滅時効と10年の除斥期間があります。これらの期間が過ぎる前に遺留分請求を行使することが重要です。
1年の期間制限(消滅時効)
遺留分減殺請求権は、遺留分の権利者が①相続の開始があったことに加えて、②遺留分を侵害する贈与又は遺贈のあったことを知った時から1年で、時効で消滅します(民法1048条)。
減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを知ったというためには、単に、特定の相続人に対する生前贈与や遺言があることを知っただけでは足りません。
その生前贈与や遺言によって、遺留分権利者の遺留分を侵害していることまで認識したことが必要となります。
10年の期間制限(除斥期間)
遺留分の侵害の事実を知らなかった、あるいは、そもそも相続開始それ自体をずっと知らなかったとしても、相続の開始から10年が経過すると、遺留分請求することができなくなります。
これを遺留分の除斥期間(じょせききかん)といいます。
除斥期間には、時効のように更新(中断)による時効期間がリセットされることはありません。除斥期間の経過前に調停申立てや訴訟提起をする必要があります。相続人間の話し合いを進めるうちに除斥期間が経過しないように注意しましょう。
遺留分の時効を止める方法
相手方に遺留分侵害額請求の意思表示が到達することで遺留分侵害請求の効力が生じます。
つまり、相手方に意思表示が到達すれば、遺留分の1年の時効が完成することはありません。遺留分の請求後は、相続人との協議を行い、協議が不調となれば調停申立てや訴訟提起を行います。
しかし、遺留分請求の意思表示が相手方に到達したことは、遺留分権利者によって証明されなければなりません。遺留分請求を行使したことを事後的に証明できなければ、遺留分請求の消滅時効が認められるリスクがあります。
そこで、遺留分請求は、以下で解説するように、内容証明郵便や特定記録郵便を用いて行使することが肝心です。
口頭の意思表示は厳禁
遺留分の効力は、口頭で伝えても生じます。
しかし、口頭による意思表示である場合、意思表示をしたことの客観的な証拠はないことがほとんです。そのため、事後的に意思表示が相手方に確実に伝わったことを証明することができません。
口頭で意思表示をしたことが証明できなければ、1年の時効により遺留分の管理が消滅してしまうリスクがあります。
配達証明付き内容証明で送付する
口頭によるリスクを踏まえれば、遺留分の意思表示は通知書を送付する方法で行うべきです。
その上、事後の紛争を予防するために、通知書の送付は内容証明郵便にて行うべきです。
内容証明郵便とは、いつ、どのような内容の文書を誰から誰あてに送付したのかを証明することのできる郵便方法です。
内容証明郵便を利用することで、遺留分権利者が相手方に対して遺留分の意思表示をした事実とその到達した時期が明確に分かります。
そのため、言った言わないの水掛け論となることを回避することができます。
さらに、遺留分の時効の問題では、遺留分請求の意思表示が「いつ」届いたかも重要となります。
郵便局の内容証明郵便の解説はこちら
特定記録郵便
相手方が内容証明を受領しない場合があります。
内容証明郵便を利用する場合も、相手方が内容証明郵便を受領しなければ、遺留分の意思表示の効力は生じません。
内容証明郵便を発送さえすれば、時効を防げるわけではないということです。
このような場合には、内容証明郵便と同じ内容の書面を特定記録郵便により送付します。
特定記録郵便とは、内容証明のように内容の証明はできませんが、郵便物の配送状況が記録される郵便方法です。
特定記録郵便は、手渡しではなくポスト投函で行われるため、相手方の不在等により持ち帰ることはないため、確実に到達させることができます。
ただ、内容証明のように内容の事後的な証明ができません。
そこで、特定記録郵便の書面には、『同じ内容の書面を内容証明郵便にて送付している。』と付記しておきます。
TIPS!
相手方が内容証明の受領を拒絶した場合には、意思表示を知ることが可能であったと考え、意思表示は到達したと判断されます。
遺留分請求後の時効にも注意する
上記の時効期間の経過前に遺留分侵害請求を行うことで、時効の完成を阻止することができます。
遺留分侵害請求を行うことで、遺留分権利者は遺留分の義務者に対して、遺留分に相当する金銭を支払うよう求める権利を取得します。
この金銭を求める権利(金銭債権)にも期間制限が有ります。
この金銭債権は、遺留分の時効期間に服さず、5年または10年で消滅します。5年の時効の起算点は、「権利行使できることを知った時から」、10年の時効の起算点は、「権利行使できる時から」です。
そのため、遺留分侵害請求をした後に、何も着手せずに5年間放置すると、金銭債権の消滅時効が完成してしまうリスクがあります。
よって、遺留分侵害請求をした後は、速やかに遺留分侵害請求によった生じた金銭債権を行使するようにしましょう。
時効の更新と時効の完成猶予
時効の完成前に、時効の更新があれば時効期間はリセットされます。
たとえば、時効の完成前に遺留分義務者が遺留分を支払うと約束したり、その支払の猶予を求めた場合には、時効の更新となります。これを「承認」といいます。遺留分の一部の支払いがある場合にも承認となります。
また、遺留分権利者が義務者に対して、遺留分の支払を催告した場合には、6か月間時効の完成が猶予されます。
時効の完成前に調停申立をする
遺留分請求後、義務者である相続人と合意に至らない場合には、速やかに遺留分侵害額請求の調停申立てをする必要があります。
遺留分請求の調停申立てをすることで、遺留分侵害額請求権の時効の完成が猶予されます。そのため、5年の時効が完成する前に調停の申立てを行うことで時効の完成を止める必要があります。
遺留分の合意後の期間制限
遺留分請求について、権利者側と義務者側との間で合意に至った場合や裁判所の認容判決が確定した場合、義務者は権利者に対して、遺留分侵害額を支払う義務を負います。この支払義務にも期間制限があるため、注意が必要です。
当事者間の合意の場合は5年
当事者間で合意した場合、遺留分侵害額の支払義務は5年の時効となります。義務者側が任意に遺留分の支払いをしない場合には、5年の時効が完成するまでに、銀行口座の差押えや不動産の競売などの強制執行に着手する必要があります。
確定判決や調停による場合は10年
調停や確定判決により、遺留分請求が認められた場合には、遺留分侵害額の支払義務は10年の時効となります。当事者間の合意の場合と比べて時効期間は長期ですが、消滅時効が完成しないように速やかに強制執行等の手続きを行うことが重要です。
遺言の無効を主張する場合
全ての財産あるいは大部分の財産を相続させる遺言があった場合、遺留分を侵害している可能性は高いです。
そのため、そのような遺言の存在を、遺言の検認手続等を通じて、認識したのであれば、遺留分侵害の事実を認識したといえます。
しかし、この遺言の効力に疑義がある場合、例えば、遺言の筆跡が本人のものとは違う、遺言書の作成時の本人の意思能力に問題があったような場合、遺言の効力が否定される可能性があります。
仮に、遺言が無効となれば、遺言の効力は生じないため、遺留分を侵害する遺贈もないことになります。
そのため、遺留分権利者が、遺言が無効であると信じることがもっともであるといえる場合には、遺留分侵害の認識はないものとされる可能性があります。
ただ、遺言無効を主張する場合でも、予備的に遺留分侵害額請求をしておくことが穏当です。
TIPS!最高裁判所判決昭和57年11月12日
遺言無効の主張について、一応、事実上及び法律上の根拠があつて、遺留分権利者が遺言無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかつたことがもっともと首肯しうる特段の事情が認められない限り、遺留分の時効は進行すると判示しました。
遺留分の問題は弁護士に相談しよう
遺留分の請求には短期間の期限があります。
この1年の期限を徒過してしまうと、遺留分の請求は難しくなります。
遺留分が時効により請求できなくなる事態を防ぐためにも、弁護士によって内容証明郵便により確実に意思表示するようにしましょう。
まずは弁護士に早めに相談することが重要です。
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