財産分与において、自宅不動産がオーバーローンする場合、その自宅不動産は財産分与の対象から外れます。
以下では、財産分与の基本的な部分に加えて、自宅不動産やその住宅ローンの処理について解説します。

1.財産分与とは何か?
1-1.財産分与の対象は共有財産
夫婦が離婚する際に問題となるのが、財産分与です。
多くの夫婦が、結婚生活を通じて、自宅を購入したり、生命保険に加入したり、貯金をしたりしていると思います。
結婚生活において築いた財産を離婚の時にどのように清算するのか、といった問題が財産分与の問題となります。
財産分与では、結婚生活を通じて夫婦が協力しながら築いた財産が対象となります。
このような財産を共有財産と呼びます。
1-2.共有財産とは何が対象となるのか?
共有財産には、預貯金、不動産、投資信託などの金融資産が含まれます。
その他にも、生命保険の解約返戻金や退職金も含まれます。
生命保険の解約返戻金は実際に保険契約を解約する必要はありません。
もし仮に解約した場合に戻って来るお金を共有財産として財産目録に記載します。
また、退職金についても、別居をした時点で、もし退職すれば会社から支払われる退職金の数字を財産目録に計上します。
実際に退職までする必要はありません。
1-3.どの時点の財産が対象となるのか?
財産分与は、夫婦が結婚生活を通じて築いた財産、つまり、共有財産を分与するものです。
では、この共有財産はどの時点の共有財産でしょうか?
仮に、別居をしてから、数ヶ月経過した時点で離婚した場合、別居の時点と離婚の時点がずれます。
別居してから離婚するまでの間で、夫婦の財産の内容が変わっている可能性があります。
そのため、財産分与の対象となる共有財産とは、どの時点の財産を指すのかが問題となるのです。
そもそも、財産分与とは、夫婦が婚姻生活を通じて協力しながら築いた財産を分ける制度です。
そして、別居により夫婦間における経済的な協力関係は無くなるのが通常です。
そのため、別居後に築いた財産は夫婦が協力した財産ではないといえます。
よって、財産分与の対象は、『別居時点』の共有財産を対象とします。
1-4.特有財産は対象外
財産分与は、夫婦で協力して築いた別居時点の共有財産を分けるものです。
そのため、結婚する前の独身時代から持っていた財産やこの財産を使って購入した資産は、財産分与から外れます。
このような財産を特有財産と呼びます。
そのほかにも、親族から譲り受けた財産や相続した財産も特有財産に含まれ、財産分与の対象から外れます。
2.借金は対象となるのか?
2-1.借金そのものを分けることはない
自宅不動産を購入する際に住宅ローンを組むことは多いと思います。
そのほかにも、自動車を購入する時のローンもあります。
このようなローン等の借金は財産分与の対象となるのでしょうか?
あくまでも、借金は借金をしている人が債権者に対して支払う義務を負います。
そのため、妻が、夫名義の借金の半分を、夫に代わって、金融機関に対して直接支払うという形で財産分与をすることは原則できません。
2-2.財産分与で考慮はされる
借金等の債務を夫婦間で負担させることができないとしても、夫婦生活で生まれた債務については、財産分与で考慮されます。
具体的には、夫のプラスの財産からマイナスとなる借金を差し引いた後の残額が財産分与の対象金額となります。
例えば、夫のプラスの財産額が2500万円、住宅ローン等の借金2000万円である場合、2500万円から2000万円を引いた500万円が財産分与の対象金額となります。
3.不動産の財産分与について
住宅ローンを組んで自宅不動産を購入した場合、自宅不動産の住宅ローンも、先程述べたようにプラスの財産と差し引く方法で考慮されます。
では、自宅不動産がオーバーローンする場合、財産分与はどのようにされるのでしょうか?
3-1.オーバーローンとは何か?
自宅不動産を購入する場合、銀行等の金融機関から借入を行った上で、借入元本と利息を分割払いされていることが多いでしょう。
住宅ローンの別居時点の借入残高が住宅ローンで購入した自宅不動産の評価額を超える場合をオーバーローン といいます。
例えば、自宅不動産の現時点の評価が2000万円、他方で、住宅ローンが2500万円である場合、2000万円から2500万円を差し引くとマイナス500万円となります。
このような状況をオーバーローンと呼びます。
3-2.不動産をどう評価するのか?
財産分与の対象となる共有財産に不動産が含まれている場合、この不動産の評価額を決める必要があります。
財産分与の対象とするべき不動産の金額をどの程度計上するのかという問題です。
自宅不動産を評価する方法によっては、オーバーローンになったり、ならなかったりするわけです。
不動産の評価にはいろいろな方法があります。
どの方法を採用するのかによって財産分与の金額は大きく左右されることがあります。
夫婦間で不動産の評価額について合意ができれば問題はありませんが、多くの事案ではこの評価額をどう捉えるのかについて対立が生じます。
固定資産税評価額による方法
まず一つは固定資産税評価額を基準とする方法があります。
土地や建物を所有していると、それぞれの市区町村によって、その不動産に関する固定資産税が徴収されます。
その固定資産税を算出するにあたって、その計算の基礎となっている不動産の価値が固定資産評価額となります。
固定資産税評価額は、その不動産の実勢価格、つまり、時価額の7割程度と言われています。
そのため、固定資産税評価額は時価額よりも低い金額となります。
路線価による方法
国税庁が、毎年7〜8月頃、主要な道路に面した1㎡あたりの土地価格を公表しています。
これを路線価と呼びます。
この路線価を含む情報を掲載している図面を路線価図と呼びます。
インターネットで『路線価』と検索してもらえば、国税庁の路線価図を見ることができます。
財産分与の対象となる土地の評価額を路線価によって算出することもあります。
路線価はあくまでも土地の評価をするものですから、建物の評価額を直接導くことはできません。
なお、路線価は、実勢価格の8割と言われています。
査定書の査定額による方法
不動産業者による査定書を利用して不動産の評価を算出する方法もあります。
この査定書では、不動産の路線価、固定資産税評価額に加えて、近くの類似した不動産の取引事例を基に評価額を導きます。
ただ、依頼者の意向に沿って査定書が作成されることも多く、客観性の薄い内容となることもあります。
なお、不動産業者による査定は、無償あるいは少額で実施されることが多いでしょう。
不動産鑑定士による評価
不動産鑑定の専門家である不動産鑑定士によって、自宅不動産の評価額を算出することもあります。
不動産鑑定は、国が定める「不動産鑑定評価基準」というルールに基づいて行われます。
そのため、不動産鑑定では、不動産業者による査定とは異なり、ある程度客観性が担保されているといえます。
しかし、不動産査定は無料あるいは安価ですが、不動産鑑定では数十万円の報酬を要します。
固定資産税評価額や査定価格を参考することが多い
不動産の評価方法は様々です。
ただ、調停手続では、固定資産税評価額あるいはこれを7割で割戻した金額や複数の不動産業者の査定価格を参考にしながら、双方で納得の得やすい金額で合意していくことが多いでしょう。
そのため、離婚調停や離婚訴訟において、不動産鑑定士による不動産鑑定まで行うことは珍しいでしょう。
3-3.いつの時点の評価なのか?
財産分与の対象は、別居時点の共有財産です。
しかし、共有財産の中でも、不動産や株式の評価額は、時間の経過によって上がったり下がったりすることがあります。
この財産の評価時点は、別居時点ではなく財産分与をする時とされています。
たとえば、不動産が財産分与の対象である場合, 別居時の評価額が2000万円であったとてしも財産分与をする離婚時に1000万円まで下がっていると、財産分与の対象額は2000万円ではなく1000万円となります。
3-4.頭金を特有財産で払っている場合
自宅を購入する際、頭金を払っているケースも多いです。
その中でも、この頭金が親族からもらったお金や結婚前から持っている預金などの特有財産である場合には、これを考慮する必要があります。
例えば、現時点の不動産の評価額3000万円、頭金が1000万円の場合です。
この場合に、評価額3000万円から1000万円を単純に差し引きした残額の2000万円を共有財産として計上することがシンプルです。
しかし、自宅不動産の購入代金5000万円であるのに対して、現時点における自宅不動産の評価は3000万円にまで低下しています。
そこで、購入代金に対する現在の評価額の割合に応じて、頭金の金額も引き直すことがあります。
具体的には、頭金1000万円に、現在の評価額3000万円/購入価格5000万円を掛けることで、現在価値として600万円を導き出します。
3-5.別居後に支払った住宅ローンの処理
別居後も、住宅ローンを継続して支払うケースはよくあります。
別居をしている以上、夫婦間に経済的な協力関係はない状況です。
そのため、別居後の住宅ローンの支払いとこれによる自宅不動産の資産形成は、特有財産となります。
具体的には、
夫が夫名義の自宅不動産を取得する場合、
自宅不動産の評価が3000万円
別居時点の住宅ローン1500万円
別居後に支払った住宅ローン250万円
の場合には、3000万円−1500万円−250万円=1250万円が財産分与の対象額となります。
3-6.妻が取得する場合には注意
ただ、夫名義の不動産を妻が取得する場合には処理を異にします。
先ほどの例のように、別居後に支払ったローン額を自宅の評価額から差し引くと、その分不動産の対象額は小さくなります。
そうすると、夫は、別居後に住宅ローンを自身のお金で払っておきながら、これによってかえって不動産の金額が小さくなると、その分、妻から取得する代償金も少なくなり不利になります。
そこで、妻が不動産を取得する場合には、別居後に支払った住宅ローンを不動産の評価に加算する方法で調整することがあります。
3-7.結婚前に購入した不動産の処理
結婚前に取得し、結婚時に既にローンの完済をしている不動産については、特有財産となりますので、財産分与の対象から外れます。
他方で、結婚前に購入したものの、結婚時に住宅ローンが残っており、別居時まで払い続けた場合には、自宅不動産の一部は共有財産として財産分与の対象となります。
この場合、結婚時までに支払った住宅ローン部分は特有財産となります。
先程解説した頭金の計算方法と同様の方法で処理することになります。
4.不動産を財産分与する時の具体的な内容
4-1.オーバーローンの不動産のみの場合
夫の持っている財産が不動産のみで、この不動産がオーバーローンしている場合、どのようになるのでしょうか?
例えば、自宅不動産の評価額が2000万円、住宅ローンが2500万円の場合、夫の財産はマイナス500万円となります。
この場合、夫のマイナス500万円を夫婦間で分けるのか?というと、それはしません。
夫の財産はゼロとして扱われます。
4-2.他の財産を持ってても住宅ローンが上回る場合
夫の財産が自宅不動産のほか、預貯金や生命保険などの資産を持っていてても、それでもなお住宅ローンの金額がこれら資産を上回る場合、先程と同様に夫の財産はゼロと扱われます。
4-3.プラスの財産が住宅ローンを上回る
夫の所有する自宅不動産はオーバーローンしているものの、その他の資産を合算するとオーバーローンが解消される場合です。
例えば、自宅不動産の評価額が2000万円、住宅ローンが2500万円、預貯金等の資産が1000万円の場合です。
この場合、自宅不動産はマイナス500万円のオーバーローンです。
しかし、その他の資産を含めると、プラス500万円となります。
この500万円が財産分与の対象額となります。
5.妻が夫名義の自宅に居住することを希望する場合
5-1.自宅の所有権を移す場合
住宅ローンを完済している場合、共有財産である自宅不動産の所有権を取得する妻が自宅不動産の評価額の半分にあたるお金(代償金)を支払うことがあります。
他方で、住宅ローンが残っており、自宅不動産の評価が住宅ローンの残額を上回っている場合(アンダーローン)、上回っている部分の半分にあたるお金を代償金として支払う必要があります。
自宅不動産の名義を変える以上、夫は、住宅ローンを組んでいる金融機関との間で名義変更に関する協議を行うことが必要となります。
住宅ローンの処理が大事
これに加えて、夫名義の住宅ローンの処理も必要です。
住宅ローンの名義変更(債務承継)には債権者である金融機関の同意が必要ですが、妻に十分な収入を有していないことが多いため、金融機関は同意しないことが多いと思われます。
あるいは、妻自身が新規で住宅ローンを組む方法もありますが、妻に住宅ローンを組めるだけの安定した収入状況がなければ難しい方法になります。
夫名義の住宅ローンはそのままにしておいて、引落先口座を夫名義から妻名義の口座に変更する方法もあります。
5-2.所有権の移転をさせない場合
所有権を移さずに夫名義のまま自宅不動産に住み続ける場合には、いろいろな問題が生じます。
賃料の問題
まず、自宅不動産に住むことに対する対価、つまり、賃料を支払うべきかという問題。
賃料を払わないのであれば使用貸借という契約になり、一定額の賃料を払うのであれば賃貸借ということになります。
仮に賃料を支払う場合に、その賃料額は、住宅ローンの支払額と同額とするのか、それよりも下回るのか。
使用期間の問題
次に、自宅不動産をいつまで使用させるのか。
自宅不動産の名義を変えない以上、いつまで自宅不動産を使用し続けるのかを明確にしておくことが必要となります。
よくあるのは、子供の義務教育を終える時まで、高校を卒業する時までといったように子供の成長に合わせて設定されることが多いと思います。
原状回復の問題
さらに、契約が終わった後の問題です。
つまり、原状回復をどこまで求めるのかという問題です。
契約書を作成する
所有権を移さずに、自宅不動産を妻に使用させ続ける場合には、これまでで触れてきた各事項を盛り込んだ契約書を作成しておくことが重要となります。
契約書がなければ、言った言わないの水掛論となってしまいます。
いざという時に適切な主張をすることができなくなり、自宅不動産の権利関係が不明瞭となってしまいます。
6.財産分与の手続はどのように進められるのか?
6-1.離婚してから2年間は請求できる
財産分与は、通常、離婚協議に際して、離婚条件の一つとして話し合われます。
ただ、離婚の時に、必ず財産分与に関する合意をしなければならないわけではありません。
財産分与は離婚した時から2年間請求することができます。
そのため、財産分与は棚上げにしておいて、協議離婚を先行させることもできます。
6-2.離婚協議を進める
まずは、当事者間の話し合いを通じて、離婚をするのか、するとして財産分与などの離婚条件をどのようにするのかを協議します。
当事者間の話し合いが難航する場合には、代理人弁護士に依頼をして、代理人を通じて協議を進めることがあります。
6-3.離婚調停を申し立てる
当事者あるいは代理人弁護士による話し合いの甲斐なく協議離婚が整わない場合には、離婚調停を申し立てます。
離婚調停の申し立てに際して、財産分与を求める場合には、調停の申立書に財産分▢与を求めることを付記します。
通常、申立書の中に財産分与を求める定型文が既に記載されており、その▢欄にチェック(☑)を入れる方法で財産分与を求めていきます。
6-4.離婚調停とは?
離婚調停では、裁判所の調停委員を通じて、離婚や離婚条件に関する話し合いが行われます。
離婚調停では、離婚するか否かという問題に加えて、離婚に関連する問題、例えば、財産分与や親権、養育費に関する問題まで広く協議の対象となります。
離婚調停は、3回から5回ほど行われますが、離婚調停の回数に関する明確な定めはなく、夫婦双方の意見を踏まえて5回以上行われることもよくあります。
離婚調停の調停期日が行われる頻度ですが、1か月半から2ヶ月に1回の頻度で実施されることが多いかと思います。
調停委員の仲裁を通じた話し合いが行われたものの、離婚に向けた調整ができなければ、離婚調停は不成立となります。
✓家庭裁判所の財産分与の調停の説明はこちら |
6-5.離婚だけ先に成立させても良い
財産分与や養育費といった離婚条件は決まらないものの、離婚すること自体については、夫婦双方で合意できているケースもあります。
このような場合には、離婚届だけ提出する、あるいは、調停離婚だけ成立させ、棚上げになった財産分与等の問題は後日請求することは可能です。
先程述べたように、財産分与には2年の期間制限があるため、それまでに、財産分与の調停申立てをしなければなりません。
6-6.離婚訴訟の提起へ
離婚調停が不成立となれば、離婚訴訟を提起することになります。
離婚訴訟では、これまでの話し合いの要素は弱まり、当事者双方において、離婚原因の有無や財産分与の内容について、主張をしたり、これを裏付ける証拠を提出していきます。
これを受けて裁判官が、当事者双方の主張と証拠を踏まえた法的な判断を行い、判決を出していくことになります。
6-7.離婚訴訟はとても時間がかかる
離婚訴訟はとても時間がかかります。
第一審の判決が出るまでに1年半から2年ほどの期間を要することが多いでしょう。
裁判の期日は、調停と同様に1か月半から2か月前後に一回となります。
その上、主張を記載した準備書面の提出は、原告と被告がそれぞれ入れ替わりで提出します。
つまり、第二回目の期日では、被告が準備書面を提出し、第三回目の期日では、原告が被告の準備書面に対する反論をし、第四回目では、被告が原告の準備書面に対して反論を加えていく・・・といった具合で審理が進んでいきます。
そのため、裁判手続は、予想以上にゆっくり進みます。
第一審の判決が出たとしても、この内容に不服があれば、控訴や上告をすることができます。
控訴や上告は、第一審ほどではないとしても、やはり半年前後の時間を要します。
このように、第一審から控訴審や上告審までの手続を踏まえると、2年以上の時間を要することが分かると思います。
6-8.和解協議が行われることが多い
多くの事案では、裁判官による判決が出される前に話し合いによる解決ができないか試行されます。
裁判官から和解案が提示され、当事者双方の説得を試みます。
裁判官から判決に至った場合の見通しも示されるため、多くの事案では、判決の場合よりも有利な内容となる和解に応じることが多いです。
裁判官の仲裁による和解協議でも合意に至らない場合には、当事者尋問を行った上で判決が出される流れとなります。
7.弁護士に相談するようにしましょう

財産分与は複雑な法律問題を含んでいます。
特に不動産に関しては、専門的な事項が多岐にわたります。
当事者間の協議が難航するようであれば、早めに弁護士に相談しましょう。

弁護士費用を節約させるためにご自身の判断のみで進めてしまうと、いつの間にかご自身に不利な方向に進んでいることも多々あります。
当事務所では初回相談30分を無料で実施しています。
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