- 住宅ローンの残債やオーバーローン部分を相手に折半(負担)させることは、原則できません。
- オーバーローンの自宅は原則0円と評価され、財産分与の対象から外れます。
- ただしマイナスを他の預貯金等と相殺(通算)するか(通算説/非通算説)で、他の財産の分け方が変わります。
- 2026年4月の民法改正で、財産分与の請求期限が「2年→5年」に延長されました(離婚成立日で適用が変わります)。
離婚では、慰謝料や子の親権・養育費に加えて、財産分与も大きな争点になります。特に、自宅を住宅ローンで購入している場合、自宅と住宅ローンの処理をどうするかが問題になります。
「住宅ローンも夫婦で折半するのでは?」と考える方は少なくありません。しかし、財産分与の目的・性質から、住宅ローンの半分やオーバーローン部分を相手方に負担させることは、原則としてできません。
この記事では、財産分与の基本から、オーバーローンの家の評価方法、通算説・非通算説の金額例、ペアローンの扱い、離婚後も住み続ける方法、そして2026年4月改正(請求期限の5年延長)まで、弁護士がわかりやすく解説します。
1財産分与の基本(対象になる財産・ならない財産)
財産分与とは、夫婦が婚姻生活を通じて協力して築いた財産を、離婚に際して分ける制度です(民法768条)。まず、何が対象になるのかを押さえましょう。
対象は「別居時点」の共有財産
別居によって夫婦間の経済的な協力関係は失われるのが通常です。そのため、財産分与の対象は原則として「別居時点」の共有財産で、別居後に築いた財産は対象外となります。
特有財産は対象外
結婚前から持っていた財産や、それで購入した資産は特有財産として対象から外れます。親族から贈与・相続を受けた財産も特有財産に含まれます。自宅購入時の頭金が特有財産だった場合の調整は、後述します。
2アンダーローンとオーバーローンの違い(早見表)
自宅の財産分与は、自宅の時価が住宅ローン残債を上回るか下回るかで扱いが大きく変わります。
| 区分 | 状態 | 財産分与での扱い |
|---|---|---|
| アンダーローン | 自宅の時価 > ローン残債 (例:時価3000万・残債2000万) | 上回る部分(=1000万)がプラスの共有財産として分与対象 |
| オーバーローン | 自宅の時価 < ローン残債 (例:時価2000万・残債2500万) | 自宅は原則0円評価で対象外。残債(マイナス)は相手に折半させられない |
「オーバーローン」とは、住宅ローンの別居時点の残高が、自宅の評価額を超える状態のことです。例えば、自宅の時価2000万円に対して住宅ローンが2500万円なら、差引き▲500万円のオーバーローンとなります。
オーバーローンが生じる理由
購入価格に加え、融資手数料・仲介手数料・修繕積立金・火災保険料・登記費用などの諸費用を上乗せして借り入れると、購入時点からオーバーローンになりがちです。さらに、建物の価値は時間の経過とともに下がるため、ローンを払い続けても評価額が残高を上回らない状況が生じます。
3オーバーローンの家は「折半」できない理由
財産分与は、夫婦が築いたプラスの財産を清算する制度であって、借金を清算する制度ではありません。そのため、住宅ローンをはじめとする借金の半分を相手に負担させることは、原則としてできません。
4【重要】通算説と非通算説(他の財産への影響)
もっとも実務で問題になるのは、オーバーローンのマイナスを、預貯金など他のプラス財産と相殺(通算)するかどうかです。ここで2つの考え方があり、結論が変わります。
設例で比較
次の設例で、2つの説の結論を比べてみましょう。
| 考え方 | 家とローンの扱い | 預貯金2000万への影響 | 分与の対象額 |
|---|---|---|---|
| 非通算説 | 家は0円評価。マイナスは他財産と相殺しない | そのまま対象 | 預貯金2000万を分与 → 各1,000万円 |
| 通算説 | マイナス▲1000万を他の積極財産と通算する | 2000万−1000万=1000万 | 純資産1000万を分与 → 各500万円 |
いずれの説でも「住宅ローンの残債そのものを相手に折半・負担させることはできない」点は共通です。違いは、オーバーローンのマイナスが、他のプラス財産の取り分を目減りさせるかどうかにあります。
実務では「通算」が原則的な扱い
他にプラスの財産があるということは、本来はそのお金で住宅ローンを返済できたはずだ、という見方ができます。そのため実務上は、オーバーローンのマイナスを他の積極財産と通算(相殺)して考えるのが原則的な扱いとされています。オーバーローンの不動産を対象財産から完全に外す非通算説は、どちらかといえば少数の考え方です。もっとも、積極・消極いずれの裁判例もあり、最終的には個別の事情で判断されます。
通算しない(=他の財産をそのまま分ける)とされやすいケース
- 利用利益が大きく、実質的にはオーバーローンといえない場合(自宅兼事務所として使っている等。大阪高決平成17・5・31)
- 賃料収入などの収益を生む物件の場合(オーバーローン部分はその収益で回収すべきと考える)
- 他の財産が、そのローン返済に充てられる想定でない場合(例:将来支給される退職金。東京高決平成10・3・13〔家月50巻11号81頁〕)
逆に、オーバーローンが唯一の財産という場合は「夫婦で築いた財産はない」として財産分与の申立て自体が認められません(前掲・東京高決平成10・3・13ほか)。ただし、共有名義の不動産について名義を一方に集約する(現物分与)ことを求める場合には、必ずしも不適法とはならないとした裁判例もあります(名古屋高決平成18・5・31〔家月59巻2号134頁〕)。
※通算するか否かの当てはめは事案により結論が分かれる論点です。具体的な見通しは弁護士にご確認ください。
5頭金・特有財産がある場合の評価(引き直し計算)
自宅の購入代金の一部が特有財産(結婚前の預金や親からの贈与・相続)で支払われている場合、その分は評価から差し引いて考えます。
頭金が特有財産のときの「引き直し」
例えば、購入代金5,000万円の自宅を、頭金1,000万円(特有財産)+住宅ローンで購入し、現在の評価額が3,000万円まで下がっているケースです。頭金をそのまま1,000万円と扱うのではなく、値下がりの割合に応じて現在価値に引き直すのが一般的です。
この600万円を特有財産として評価額から控除し、残りを共有財産として分与の対象にします。
結婚前に購入した自宅の扱い
結婚前に取得し、結婚時にローンを完済していた自宅は特有財産となり、対象から外れます。一方、結婚前に購入したが結婚時にローンが残っており、別居時まで払い続けた場合は、自宅の一部が共有財産として対象になります(結婚時までに払った分は特有財産として、頭金と同様に処理します)。
6別居後に支払った住宅ローンの扱い
別居後もローンを払い続けるケースは多くあります。別居後は夫婦の経済的協力関係がないため、別居後に支払ったローンによる資産形成は特有財産となるのが原則です。
夫が夫名義の自宅を取得する場合(計算例)
妻が夫名義の自宅を取得する場合は注意
妻が取得する場合、別居後に夫が払ったローンを評価額から差し引くと不動産の対象額が小さくなり、妻が支払う代償金も減って夫が不利になります。そこで、妻が取得する場合には、別居後に夫が支払ったローンを評価額に加算して調整することがあります。

7ペアローン・連帯債務の場合の注意点
夫婦がそれぞれ債務者となるペアローンや、一方が主債務者で他方が連帯保証・連帯債務となっているケースは、処理がより複雑になります。
- 離婚後も両者が債務者・保証人のままだと、相手の返済が滞れば自分に請求が来るリスクが残る。
- 自宅を一方の単独名義・単独債務に変えるには、借換えや金融機関の連帯保証人の抜け(免責的債務引受)の承諾が必要。収入要件を満たさないと難しい。
- オーバーローンだと借換え自体が難しく、売却(任意売却)も選択肢になる。
ペアローンは「離婚したいのに家とローンが足かせになる」典型例です。名義・債務・保証をどう整理するかは、金融機関との交渉も絡むため、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
8離婚後も自宅に住み続ける方法と手順
「子どもの学校のために妻子が自宅に住み続けたい」といったニーズは多いものです。名義をどうするかで手順が変わります。
自宅の名義を移して住み続ける場合
- 自宅の評価と代償金の確認アンダーローンなら、上回る部分の半分を代償金として支払う必要があるか確認します。
- 住宅ローンの名義変更・借換えローンが残る場合、金融機関の承諾を得て債務者を変更するか、取得する側が新たに借り換えます。安定収入がないと難しい点に注意。
- 所有権の移転登記財産分与を原因として名義を移します。
名義を移さず(夫名義のまま)住み続ける場合
収入要件などで名義変更が難しい場合、夫名義のまま妻子が住み続ける方法もありますが、次の点を取り決めておく必要があります。
- 賃料の要否:無償なら使用貸借、一定額を払うなら賃貸借。金額はローン支払額と同額か否かを協議。
- 使用期間:いつまで住むか(子の高校卒業まで等)を明確化。
- 契約書の作成:上記を盛り込んだ契約書を作り、後日の「言った・言わない」を防ぐ。
引落先口座を夫名義から妻名義に変更する、といった実務的な対応がとられることもあります。
名義を変えずに住み続けるときの法的な注意点
財産分与がまだ済んでいない間は、夫婦で築いた財産(実質的な共有関係)に基づく潜在的な持分を理由に、そのまま住み続けられると考えられます(見解は分かれます)。しかし、財産分与を請求できる期間が過ぎてしまうと、その不動産の所有権は名義人に確定し、名義人から明渡し(立退き)や賃料相当額の支払いを求められる問題が生じ得ます。離婚後は夫婦間の扶助義務がないため、無償での居住が当然に認められるわけではなく、潜在的な持分を超えて住み続けた分は不当利得となる余地もあります。
なお、共有名義の不動産は、話し合いがつかなければ共有物分割(民法256条)で解消することになり、その割合は登記上の持分によります。住宅ローンという債務そのものは財産分与の対象にならないため、名義上の債務者が返済義務を負い、相手に当然に負担を求められるわけではない点にも注意が必要です。
9住宅ローンを払えなくなったとき(任意売却と競売)
オーバーローンの家で最も深刻なのは、離婚後にローンの支払いが滞ったときです。売っても残債が消えないため、「売って清算する」という単純な解決ができません。支払いが続けられなくなった場合に取り得る道は、大きく2つです。
| 区分 | 任意売却 | 競売 |
|---|---|---|
| 進め方 | 金融機関の同意を得て抵当権を解除してもらい、通常の売買として市場で売却する | 債権者の申立てにより、裁判所の手続で強制的に売却される |
| 売却価格 | 市場価格に近い水準が期待できる | 一般に市場価格を下回る傾向 |
| 残った債務 | 無担保の債権として残り、分割弁済を交渉する余地がある | 売却価格が低い分、残債はより多く残りやすい |
| 金融機関の同意 | 必須 | 不要(債権者側が申し立てる手続) |
| 引渡しの時期 | 買主と協議のうえ調整できる | 手続の進行に従わざるを得ない |
実務上は、任意売却の方が有利になることがほとんどです。売却価格が高くなれば、その分だけ残債が減るからです。
なお、売却しても残った債務は消えません。残債の額が大きく、現実的に返済の見込みが立たない場合には、債務整理(任意整理・個人再生・自己破産)を並行して検討することになります。
10見落とされやすい住宅ローン控除の問題
離婚の話し合いでほとんど話題に上らないのに、後から効いてくるのが住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の扱いです。
ここで問題になるのが、「家を出ていく側がローンを払い続ける」という取り決めです。離婚の場面ではよくある形ですが、この場合、控除を失ったうえでローンだけを払い続けることになります。手取りへの影響は年間で数万円から数十万円に及ぶこともあり、決して小さくありません。
「住まなくなっても控除を受け続けられる」と誤解されることがあるのは、転勤の場合に再適用の制度があるためです。ただしこの再適用は、勤務先からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由によって住まなくなった場合に、再びその家に住み始めたときに認められるものです。離婚による転居はこれに当たらないと考えられます。
なお、税務の取扱いは個別の事情によって結論が変わります。具体的な適用の可否については、税理士または所轄の税務署にご確認ください。当事務所では、税務の見通しを踏まえたうえで離婚条件をどう設計するかという観点から、ご相談をお受けしています。
11オーバーローンと養育費の関係
自宅がオーバーローンでも、子どもの養育費は支払わなければなりません。養育費は父母の収入に応じて算定され、住宅ローンの負担は原則として養育費の計算に反映されません(住宅ローンは財産分与で考慮すべき問題だからです)。
12【2026年4月改正】財産分与の請求期限が「2年→5年」に
2026年4月1日施行の改正民法により、離婚後に家庭裁判所へ財産分与を請求できる期間が、これまでの「2年」から「5年」に延長されました。離婚後の生活再建やDV避難などで、すぐに手続きできない事情に配慮したものです。
- 2026年4月1日以降に離婚が成立 → 請求期限は5年。
- 2026年3月31日までに離婚が成立 → 従前どおり2年(経過措置)。
期限を過ぎると原則として家庭裁判所に請求できなくなります。オーバーローンや不動産が絡む財産分与は時間がかかりやすいため、早めの着手が大切です。
13財産分与の手続きの流れ
- 離婚協議(話し合い)まず当事者で、離婚の可否と財産分与などの条件を協議します。難航する場合は代理人弁護士を立てて交渉します。離婚だけ先に成立させ、財産分与を後日請求することも可能です(ただし請求期限に注意)。
- 離婚調停協議が整わなければ家庭裁判所に調停を申し立てます。調停委員を介して、財産分与・親権・養育費まで広く話し合います。
- 離婚訴訟・和解調停不成立なら訴訟へ。多くは判決前に和解が試みられ、裁判官の和解案で解決することも少なくありません。合意に至らなければ判決となります。
14よくある質問(FAQ)
- オーバーローンの住宅ローンは夫婦で折半しなくてよいのですか?
- はい。財産分与は借金を清算する制度ではないため、住宅ローンやオーバーローン部分を相手に折半・負担させることは原則できません。ただし、預貯金など他の財産があると、通算説の下ではその分与額が目減りすることがあります。
- オーバーローンで住宅ローンが払えないときはどうなりますか?
- 売却しても完済できないため、金融機関と協議して任意売却を行い、残債を分割返済する方法などが検討されます。自己破産等の債務整理が視野に入ることもあります。名義・保証の整理を含め、早めに専門家へ相談してください。
- 養育費とオーバーローンのローンを相殺できますか?
- 原則できません。養育費は子の権利で、住宅ローンとは別問題です。ただし、清算せずに夫がローンを払い続けている等の事情では、養育費の算定で一部考慮されることがあります。
- 財産分与はいつまでに請求すればよいですか?
- 2026年4月1日以降の離婚は原則5年、それ以前の離婚は2年です。期限を過ぎると家庭裁判所に請求できなくなるため注意が必要です。
※本記事は一般的な解説です。オーバーローンの通算・非通算の取扱いなどは事案により結論が異なり、確立していない論点も含みます。具体的な見通しは弁護士(監修者)にご確認ください。
不動産の評価方法
- 固定資産税評価額
- 路線価
- 不動産業者による査定額
- 不動産鑑定士による鑑定
財産分与、特に不動産・住宅ローンが絡む案件は、評価方法や通算の可否など専門的な判断が多く、進め方次第で受け取れる金額が大きく変わります。
ご自身の判断だけで進めると、いつの間にか不利な方向に進んでいることも少なくありません。当事務所では初回相談30分を無料で実施しています(来所・Zoom・電話に対応)。
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財産分与の全体像(2026年改正の請求期限5年・2分の1ルール・対象財産)は「財産分与とは?2026年民法改正のポイント」で解説しています。






