時効取得の条件の一つに「自主占有」というものがあります。要は、土地を自分の所有物として占有する状態です。
土地を所有すると、固定資産税が課税されます。この固定資産税を占有者が支払っていなければ、この自主占有が否定され、時効取得の条件を満たさないようにも思います。
しかし、あくまでも、土地の固定資産税の支払いは、自主占有を考える上での一つの事情にすぎません。土地の固定資産税を払っていないとしても、時効取得の条件を満たさないわけではありません。
時効取得の条件の解説とともに、固定資産税と時効取得について解説します。
1.時効取得の要件
取得時効の条件(要件)は、民法に定められており、以下のとおりです。
- 所有の意思(自主占有)をもって
- 平穏かつ公然
- 他人の物
- 10年間または 20年間占有していること
④の10年間の時効取得については、占有を開始した時に善意無過失であることが必要とされます。
他方で、20年間の時効取得については、善意無過失であることは必要なく、悪意であっても構いません。
1-1.善意か悪意か
一般的に、『善意』というのは、他人や物事に対して持つよい感情、好意的な感情を指します。
しかし、法律の世界でいう『善意』とは、ある事実を知らないことを指します。
また、『悪意』とは、他人や物事に対する悪い感情ではなく、ある事実を知っていることを指します。
時効取得の関係で言えば、善意とは、他人の土地であることを知らなかったこと、悪意とは、他人の土地であることを知っていることを意味します。
時効取得の要件については、『土地の時効取得は難しい?時効取得の要件を弁護士が解説します』で解説
2.自主占有
時効取得が認められるためには、土地の占有者の占有が、土地を所有する意思を持って行う占有であること(自主占有)が必要です。
他方で、自主占有の対義語である他主占有とは、所有する意思を持たない占有をいいます。
例えば、賃貸物件の借主は、建物を所有する意思を持たないため、他主占有となります。
この所有する意思の有無は、占有者の主観だけで判断するのではありません。
占有者が、その土地を所有したいと強く思っているだけでは不十分です。
占有を開始した原因や権原によって、外形的客観的に判断されます。
例えば、所有者であれば当然取るべき行動を取らなかった場合には、その事情は他主占有であることを基礎付けます。
3.固定資産税を払わないこと
では、土地を占有している人が、その土地の固定資産税を払っていない場合、その事情は、所有者であれば当然取るべき行動を取らなかったとして、他主占有となるのでしょうか?
3-1.固定資産税とは
固定資産税とは、毎年1月1日現在、土地や建物等の不動産を所有している人が、その固定資産評価額を基に算定される税額を、市町村に納める税金です。
固定資産税は、1月1日時点で登記簿上に登記されている人に対して課税されるものです。
▶固定資産税に関する大阪市の解説はこちら
3-2.他主占有事情にはなりにくい
固定資産税は登記名義人に対して課税されます。
時効取得が問題となるケースは、土地の登記名義人ではない占有者が、他人の土地を長年にわたって占有している事案です。
つまり、占有者は当然ながら登記名義人ではありません。
そのため、登記名義人ではない占有者に対して、固定資産税が課税されることは通常あり得ないといえます。
登記名義人ではない占有者が、占有する土地の固定資産税を支払い続けている状況を想定する方が難しいといえます。
よって、占有する土地の固定資産税を支払っていないことをもって、ただちに占有が他主占有であると判断されることはないと考えます。
また、占有者が、登記名義人に対して、『固定資産税を負担する』と申し出なかったとしても、悪意者にも時効取得を認めている以上、所有者として異常な振る舞いとは言いにくいでしょう。
4.自主占有は推定される
法律上、占有を開始させたことを証明できれば、その占有が自主占有であることは法律上推定されます。
つまり、時効取得を主張する占有者は、その占有が自主占有であることを証明する必要がありません。
そのため、時効取得の成立を争う人が、占有者の占有が他主占有であることを証明しなければなりません。
つまり、時効取得を争う方で、所有者であれば当然に取るべき行動をしなかった事情を証明していくことを要します。
5.他主占有者を相続した場合は?
他人の土地を管理していた親を相続した場合に、相続人が、その土地が親の財産であると信じて占有し続けると時効取得できるのでしょうか?
他人の土地を賃借りしていた親を相続した場合も同様です。
5-1.相続しても他主占有
土地の占有関係も、相続の対象となります。
ただ、他主占有者を相続した人が、その占有が自主占有であると信じていても、相続する占有は他主占有です。
いくら相続人が、自分の土地であると考えていたとしても、それだけでは当然に自主占有にはなりません。
5-2.他主占有から自主占有に転換
相続人が、相続の開始後、他人の土地を事実上支配し、所有の意思をもって占有する場合には、占有の性質が他主占有から自主占有に変わります。
そのため、自主占有を主張する相続人は、他人の土地を事実上支配しただけでなく、外形的な事情により所有の意思があることを自ら証明しなければなりません。この場合、先ほどの自主占有の推定は働かないため、注意です。
5-3.固定資産税の支払い
相続人が、他人の土地の固定資産税を何らかの事情で納付していた場合、これは自主占有を基礎付ける事情となります。
ただ、固定資産税の納付さえしていれば、自主占有の転換が認められるわけではありません。
その他の様々な事情を掛け合わせて、所有の意思を持ったと判断されます。
例えば、土地を所有する権原を持っていると信じていたこと、登記関係の資料を持っていたこと、土地の名義人が土地の占有に異議を唱えていなかったこと等の事情を総合して、所有の意思があるかを判断します。
6.弁護士に相談しよう
時効取得が認められるためには、占有の事実を証明しなければなりません。
しかし、時効取得を争う側は、自らの不動産を奪われないようにするために、様々な事情を主張して、時効取得の成立を阻もうとします。
そのため、占有に関する事情について、適切に反論していく必要があります。
そこで、適切な時期に弁護士に相談しましょう。
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