浮気や不倫という言葉はよく耳にしますが、「どこからが法的に浮気とみなされるの?」と疑問に思われたことはありませんか。パートナーの行動に疑念を抱き、慰謝料請求を検討するにあたっては、法律上の定義を理解しておくことが大切です。
この記事では、慰謝料請求が認められる条件や、実際に請求するための証拠集めのポイントについて詳しく解説します。ぜひ参考に、冷静な判断と行動にお役立てください。
慰謝料請求の分かれ道。「浮気」と法律上の「不貞行為」の違い
配偶者の裏切り行為に対し慰謝料請求を検討する際、一般的に使われる「浮気」と、法律上の「不貞行為」という言葉には明確な違いがあります。この違いを理解することが、慰謝料請求の可否を判断する上で非常に重要となります。
感情的に「浮気だ」と感じる場合でも、法律上の「不貞行為」に該当しなければ、慰謝料請求は難しいという決定的な違いがあるのです。
慰謝料請求の対象となる「不貞行為」とは性的な関係のこと
法律上の「不貞行為」とは、民法第770条第1項第1号に定められている離婚原因の一つです。これは、既婚者が配偶者以外の異性と自由な意思で性的な関係(性交渉および性交類似行為)を持つことを明確に指します。
配偶者以外の人との肉体関係は、婚姻関係の平和を著しく破壊し、夫婦間の信頼を根本から裏切る極めて重大な行為とみなされます。
不貞行為には性交そのものだけでなく、性交に類似する行為、たとえば、口淫や手淫などの性交類似行為まで広く含む考えもあります。
そのため、慰謝料請求を検討する際には、相手方の行為に性交や性交類似行為といった性的な関係があったかどうかを明確にすることが極めて重要となります。
あなたの気持ちの問題である「浮気」との違い
「浮気」は、一般的に「他の異性に心を移すこと」と定義されており、特定の行為に留まらず、心の移ろいも含む広い概念です。法的な明確な定義はなく、どこからを浮気と捉えるかは夫婦それぞれの価値観や感情によって大きく異なります。例えば、次のような行為を浮気だと感じる方もいるでしょう。
- 異性との二人きりの食事
- 頻繁な連絡
- 手を繋ぐ行為
しかし、感情的に「浮気だ」と感じて深く傷ついたとしても、それが法律上の「不貞行為」、すなわち配偶者以外の人物との肉体関係に該当しない限り、原則として慰謝料請求は認められません。
したがって、慰謝料請求を具体的に検討する際は、パートナーの行為が「個人的な感情を害する浮気」なのか、それとも「法的に慰謝料を請求できる不貞行為」なのかを冷静に区別し、判断することが重要です。


【ケース別】これって慰謝料を請求できる?気になる境界線
慰謝料請求が認められるかどうかは、「不貞行為」があったかどうかが最大のポイントとなります。
しかし、実際の生活においては、肉体関係の有無が明確でない、いわゆる「グレーゾーン」のケースも少なくありません。以下の項目では疑問に思いがちな具体的なケースを挙げ、それぞれ慰謝料請求が認められる可能性について解説していきます。
肉体関係が明らかにある場合
配偶者以外の人物と肉体関係がある場合、それは法律上の「不貞行為」に直接該当します。
慰謝料請求が認められるためには、肉体関係があったことを客観的に証明できる「証拠」の存在が不可欠です。具体的な証拠としては、以下のようなものが挙げられます。
- 性交渉中の写真や動画:最も直接的で有力な証拠です。
- ラブホテルに出入りする写真や動画:滞在時間も明確にわかるものは、肉体関係があったと強く推認させる証拠となります。
- 当事者(配偶者や浮気相手)が肉体関係を認めた録音データや念書:自白は決定的な証拠となり得ます。
- 肉体関係をほのめかすLINEやメールのやり取り:「昨日はありがとう」「また会いたい」といった内容は、他の証拠と組み合わせることで有力なものとなります。
- ラブホテルや旅館の領収書やクレジットカードの利用明細:ホテル代などの記録も、肉体関係を間接的に示す証拠です。
- 探偵など調査会社の報告書:専門家が収集した報告書は、高い証拠能力を有します。
これらの証拠を複数集めることで、より確実に慰謝料請求を進められるでしょう。
「好き」などのメッセージのやり取り
「好き」といった愛情表現や親密なメッセージのやり取りのみでは、原則として法律上の「不貞行為」(肉体関係)があったとは認められず、それ単体での慰謝料請求は困難であると考えられます。しかし、メッセージの内容が性交渉を直接的または間接的に示唆するものであれば、有力な証拠となり得ます。
例えば、「昨日は楽しかったね」「次はいつ会える?」といったやり取りに加え、性的な関係を示唆する具体的な内容が含まれている場合が挙げられます。メッセージ単体では証拠として不十分な場合が多いですが、ホテルへの出入りを写した写真や動画など、他の決定的な証拠と組み合わせることで、不貞行為を立証するための重要な「状況証拠」としての価値を高めることができます。
肉体関係がなくても慰謝料が認められる例外的なケース
慰謝料請求の対象となる「不貞行為」は、原則として配偶者以外の人物との肉体関係を指しますが、肉体関係がなくとも慰謝料が認められる例外的なケースも存在します。
肉体関係を伴わない恋愛関係が、夫婦間の婚姻共同生活の平和を著しく侵害し、夫婦関係を破綻させるような事情がある場合には、慰謝料の対象となる可能性があります。
例えば、キスやハグをする行為、高価なプレゼントを繰り返す行為は、不貞行為に準ずるものとして慰謝料請求が認められる可能性があります。
ただし、これらのケースはあくまで例外的なものであり、慰謝料請求が認められとしても、慰謝料額は低額に留まる可能性が高いと言えます。
不貞行為があっても慰謝料を請求できない3つのケース
配偶者による不貞行為があったとしても、必ずしも慰謝料請求が認められるとは限りません。
不貞行為の証拠が明確であっても、以下のようなケースでは慰謝料の請求が認められないことがあります。
不貞行為の前から夫婦関係が破綻していた
不貞行為に対する慰謝料請求は、「婚姻共同生活の平和」という権利が侵害されたことに対する損害賠償として認められます。
しかし、不貞行為が始まる以前から、夫婦関係が修復不可能なほど冷え切っており、既に破綻していたと判断される場合、慰謝料請求が認められないか、大幅に減額される可能性があります。法的に保護されるべき「婚姻共同生活の平和」が、不貞行為の発生時点で既に存在しないと見なされるためです。例えば、長期間の別居が続いており、夫婦関係の修復が期待できない客観的な状況にあった場合などがこれに該当します。
この場合、不貞行為によって権利利益の侵害が生じたとは言えないため、慰謝料が認められないか、慰謝料が減額される可能性があります。
ただし、夫婦の一方的な主張のみで「夫婦関係が破綻していた」と認められることはありません。裁判所は、以下の客観的な事実に基づき、総合的に判断を下します。
- 別居期間
- 別居の理由
- 離婚協議や離婚調停の有無や進捗
- 夫婦間の交流の有無
- 経済的な協力関係
慰謝料請求の時効が過ぎてしまっている
不貞行為に対する慰謝料請求権には、法律で定められた「時効」があり、その期間を過ぎると、原則として慰謝料を請求する権利は消滅します。この時効には、大きく分けて二つの期間が設定されています。
一つは、「損害および加害者を知ったときから3年」という期間です。これは、あなたが配偶者の不貞行為の事実、そして不倫相手の氏名や連絡先などを具体的に認識した時点からカウントが始まります。不倫相手が誰かわからない場合は、この3年の時効は進行しません。もう一つは、「不法行為があったときから20年」という期間です。こちらは、不貞行為が行われた時点からカウントが始まり、たとえ不貞行為を知らなかったとしても、20年が経過すれば請求権は消滅します。
これらの期間のうち、いずれか早い方が経過した時点で時効が成立します。そのため、不貞行為に気づいた際は、早急に行動を起こすことが重要です。
時効の完成が迫っている場合でも、時効の進行を一時的に止めたり(完成猶予)、リセットしたり(更新)するための法的な手続きがいくつかあるため、事項により慰謝料請求権が消滅しないように時効期間の管理を適切に行いましょう。時効の判断や手続きは複雑なため、速やかに弁護士などの専門家に相談し、適切な対応を検討しましょう。
浮気相手が既婚者だと知らなかった(故意・過失がない)
不貞行為に対する慰謝料請求は、不倫相手が不貞をした配偶者が既婚者であると知りながら(故意)、あるいは既婚者であると知ることができたにもかかわらず知らなかった(過失)場合にのみ認められるのが原則です。もし不倫相手が、配偶者から独身であると偽られており、十分な注意を尽くしても既婚者であると知ることができなかったと判断されれば、慰謝料請求は認められない可能性があります。
しかし、「知らなかった」という主張が必ずしも認められるわけではありません。交際中の状況から、相手が既婚者ではないかと疑うべき事情があった場合は「過失あり」と判断され、慰謝料請求が認められるケースもあります。
浮気の慰謝料の相場はいくら?金額はどう決まる?
不貞行為の慰謝料には、法律で定められた明確な金額はありません。そのため、個々のケースによって金額は大きく変動しますが、一般的には50万円から300万円程度が相場とされています。
以下では、どのような事情を加味して慰謝料額が算定されるかを解説します。
離婚に至った場合の慰謝料相場
不貞行為が原因で夫婦関係が修復不可能となり、最終的に離婚に至った場合、慰謝料額は高くなる傾向があります。これは、婚姻共同生活の平和が完全に破綻したことによる精神的苦痛が非常に大きいと評価されるためです。
一般的に、離婚に至ったケースにおける慰謝料の相場は150万円から200万円あたりです。ただし、この金額はあくまで目安であり、個々の事情によって大きく変動することを理解しておく必要があります。
長期間にわたる不貞行為や、子どものいる家庭への影響が大きい場合は、慰謝料額が増額される傾向が見られます。
慰謝料請求を検討する際は、これらの要素を総合的に考慮し、具体的な状況に基づいた適正な金額を見極めることが重要です。
離婚しない場合の慰謝料相場
夫婦関係の継続を選択した場合でも、不貞行為により受けた精神的苦痛に対して慰謝料を請求することは可能です。この場合の慰謝料相場は、50万円から130万円程度が目安とされており、離婚に至ったケースと比較すると金額が低くなる傾向にあります。
これは、夫婦関係が完全に破綻するまでには至っていないと判断され、不貞行為による精神的苦痛の程度が相対的に小さいと評価されやすいためと考えられます。ただし、慰謝料額は個別の事情によって大きく変動します。これらはあくまで目安として捉え、具体的な金額については専門家のアドバイスを求めることが大切です。
慰謝料額を左右する重要な要素
不貞行為に対する慰謝料の金額は、法律で一律に決まっているわけではなく、個別の事情を考慮して算出されます。特に重要視される代表的な要素は、以下の諸事情です。
- 不貞行為の期間や頻度、悪質性
- 婚姻期間の長さ
- 未成年の子どもの有無
- 離婚に至ったかどうか
- 不貞による妊娠や出産の有無
- 不貞行為後の反省の有無
慰謝料請求の要!どんな証拠を集めればいい?
不貞行為に対する慰謝料請求では、相手方が「肉体関係はなかった」と主張し、責任を回避しようとするケースが少なくありません。
慰謝料請求が認められるためには、客観的な「不貞行為の証拠」が不可欠です。感情的な訴えだけでは不十分であり、証拠の有無が請求の成否を分ける最も重要なポイントとなります。
以下の項目では、不貞行為の証拠に関する具体的な内容を詳しく解説します。
これだけでは弱い?不十分になりがちな証拠
不貞行為を立証するには、肉体関係の存在を推認させる証拠が不可欠です。このため、以下に挙げるような証拠は、それ単体では不貞行為を証明する証拠として不十分と判断される傾向にあります。
- 二人きりで食事に行った際の領収書
- 「好き」「会いたい」といった愛情表現を含む、親密なメッセージのやり取り
- 手をつないでいる、抱き合っているなど、二人で写っている写真
- キスやハグの現場写真
これらの証拠は、相手との親密な関係性を示すものではありますが、肉体関係の存在を証明するものではありません。
しかしながら、これらの証拠も決して無意味ではありません。ラブホテルへの出入りを示す写真や動画など、より有力な証拠と組み合わせることで、相手の不貞行為の悪質性や交際の状況を補強する証拠としての役割を持ちます。
証拠を集める際の注意点とリスク
不貞行為の証拠収集は慎重に行う必要があります。なぜなら、違法な方法で証拠を集めてしまうと、せっかく集めた証拠が法的に認められないだけでなく、あなたがプライバシー侵害などで訴えられるリスクがあるためです。
さらに、証拠集めの行動が配偶者や不倫相手に気づかれてしまうと、不貞行為の証拠収集が困難になったり、夫婦関係がさらに悪化したりする危険性も高まります。このような事態を避けるためにも、常に冷静かつ慎重に行動することが求められます。
また、集めた証拠を改ざんしたり捏造したりする行為は、証拠能力が失われるだけでなく、私文書偽造罪などに問われる可能性もあるため、決して行ってはいけません。また、感情的になって相手を過度に問い詰めることも、脅迫や名誉毀損と受け取られる可能性があるため、言動には十分に注意が必要です。
違法収集証拠の例 | 法的なリスクや罰則 |
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相手の住居への無断侵入 | 住居侵入罪、プライバシー侵害 |
パソコン・スマートフォンへの不正アクセス | 不正アクセス禁止法違反により「3年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科される可能性、プライバシー侵害 |
他人のIDやパスワードを無断で使用してのログイン(不正アクセス行為) | 不正アクセス禁止法違反、プライバシー侵害 |
承諾を得ないGPS機器の設置 | プライバシー侵害などで訴えられる可能性、民事訴訟での証拠能力が否定される可能性 |
浮気の相談は難波みなみ法律事務所へ

夫の浮気を疑った際、感情的になり、すぐに問い詰めるのは避けるべきです。感情的に行動すると、警戒心を強められ、証拠収集が難しくなる事態を招きかねません。まずは冷静に行動し、今後の夫婦関係をどうしたいのかをじっくりと考えることが重要になります。離婚するのか、それとも夫婦関係の修復を目指すのかによって、その後の行動や慰謝料請求の進め方は大きく変わるでしょう。
ただ、一人で悩みを抱え込む必要はありません。頼れる専門家である弁護士に相談することを検討してみてください。
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