離婚をする際に大きな争点となることの多い財産分与。
財産分与には多くの争点が含まれており、その一つとして財産分与の割合が争点となることがあります。財産分与の割合は、50:50、つまり、半分が原則です。たとえ専業主婦であっても、「内助の功」により財産の形成に寄与したといえるため、財産分与の割合は原則通り2分の1となります。
ただ、2分の1の原則を貫くと、かえって夫婦間の不公平をもたらすようなケースもあります。配偶者お特殊な技能や資格により財産が築かれているような場合や配偶者の内助の功がおよそ存在しないような場合には、財産分与の割合は修正される可能性があります。
本コラムでは、財産分与の基本的な内容を解説した上で、財産分与の割合や注意点について解説していきます。
財産分与とは何か?夫婦の共有財産を清算する制度
財産分与とは、夫婦の共有財産を清算する制度です。離婚問題で最も対立が生じやすい問題の一つである「財産分与」の基礎を解説します。
夫婦の共有財産を清算するもの
財産分与とは、婚姻生活を通じて、経時的に協力しながら築いてきた財産を、財産を多く持っている方から少ない方に金銭を分配をする制度です。
財産分与には、以下の種類があります。
・清算的分与 ・扶養的分与 ・慰謝料的分野 |
ただ、実務的には、財産分与の内容は清算的要素を中心に判断されることがほとんどです。
財産分与の対象は共有財産
財産分与の対象は、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産であり、これを共有財産といいます。
結婚後に取得した財産は、夫婦の共有財産であると推定されます。
主な共有財産は以下のとおりです。
- 預貯金等のお金
- 自宅不動産
- 自動車
- 株式等の有価証券
- 投資信託
- 生命保険・学資保険の解約返戻金
- 婚姻期間に対応した退職金
財産分与の割合は2分の1
財産分与の割合は、50:50、つまり、均等の割合(2分の1ルール)とするのが原則です。
財産分与の割合が、裁判において争われることはあまりありません。しかし、夫が会社の役員や経営をしている一方、妻が専業主婦であるような事案では、財産分与の割合が争点になる場合があります。
例えば、夫が「自分の経営努力や才覚によって財産を築いた。妻は財産の形成に寄与していない。財産分与に関する妻の寄与の割合は50%を下回る。」などと主張することがあります。
財産分与が認められている理由・目的
一般的な夫婦は婚姻期間中に、経済的にも協力しながら夫婦関係を維持し発展させます。例えば、夫が仕事をしていて妻が専業主婦の場合、夫が仕事を通じて収入を得る一方、「妻も家事労働などに専念して夫を支えてきた」といえるでしょう。
それにもかかわらず、夫婦間の役割分担の偏りによって生じた財産の不均衡を「財産分与によって調整できない」となると、夫婦間の公平性が害されてしまいます。このような理由から財産分与が認められています。
専業主婦でも2分の1ルール
財産分与の目的を踏まえれば、一方が専業主婦(主夫)で収入がない場合でも、夫婦は平等な関係にあること、家事労働にも財産的な価値を見出せることなどから、財産分与の割合は2分の1とされています。
また、共働きであっても、夫婦の収入の多い少ないに関係なく、別居時点で残っている共有財産を半分に分与するのが基本です。ただ、夫婦間で、2分の1とは異なる取り決めをしている場合には、その合意に従った分与が行われます。
裁判所においても2分の1が原則
「東京家庭裁判所における人事訴訟の審理の実情28頁」においても、財産分与の「寄与 度(貢献度)については、基本的には、特段の事情がない限り2分の1を原則としつつ、特段の事情を主張する者にそれを裏付ける資料等の提出を求め ることにしている」とされています。
このように、調停や訴訟等の手続きにおいても、財産分与の割合は原則として2分の1であることが理解できます。
財産分与の割合が修正される4つのケース
財産分与の基準として2分の1ルールを厳格に適用すると、かえって夫婦間の平等に反するような特別の事情がある場合には、例外的に財産分与の割合が変わるケースがあります。
ただ、この特別の事情が認められるためには、相手方の寄与割合を50%未満とする根拠を具体的に説明し、裏付けとなる客観的な証拠を提出する必要があります。分与割合が変更される事例としては、下記のような4つのケースが挙げられます。
財産分与の割合が修正される4つのケース |
①夫婦間で役割分担に偏りがある場合 ②特殊な才能や専門性により財産が築かれている場合 ③財産の浪費がある場合 ④特有財産を用いて共有財産を形成している場合 |
以下では、これまでの過去の裁判例を紹介しながら、特別な事情の内容について解説していきます。
①役割分担に偏りがある場合
一つ目が、夫婦間の役割分担に大きな偏りがあり、原則の2分の1の割合を徹底すると、むしろ夫婦間の公平性が損なわれる場合です。
▶財産分与の判例:東京家庭裁判所審判|平成6年5月31日 夫が画家、妻は童話作家。それぞれが個々の収入や預貯金を管理し、必要なときに夫婦の生活費を支出していて、妻が約18年間にわたり専ら家事労働に従事していた事案です。 以上の事案において、妻の寄与割合を6、 相手方の割合を4とするのが相当であると判断しました。この事案では、妻が家事のほとんどを担いながら夫の収入の何倍もの収入を得ており、役割分担に大きな差があったため、「財産分与の割合を修正すべき」との判断に至ったと考えられます。 |
②特殊な才能や専門性により財産が築かれている
夫が自分の小遣いで購入した馬券が当たり、1億9,000万円相当を得て、これを元手に購入した不動産の売却金について、夫の運によるところが大きいものの、妻も不動産の維持,管理について一定の寄与をしたことも否定できないとして、その売却金の3分の1を妻に分与するべきと判断しました。
財産分与の割合を変更するために特殊な資格や才能を理由にするには、その「特殊な資格等がなければ、多額の財産形成ができなかった」と認められる必要があります。つまり、その資格や才能があってもなくても財産の形成に変わりがなければ、「特段の事情」にはなりません。
▶財産分与の判例:大阪高等裁判所判決|平成12年3月8日 夫が持っている一級海技士の資格は夫自身の努力により取得したものです。1年に6か月から11か月の海上勤務をするなど、海上での不自由な生活に耐え抜いて多額の収入に大きく寄与してきました。 一方、妻は家庭で留守を守って1人で家事・育児をしていました。裁判所はその他「一切の事情を考慮して」妻の財産分与の割合を約3割と判断しました。 |
▶財産分与の判例:大阪高等裁判所判決|平成26年3月13日 結婚前に個人が培った特殊な能力や才能が、結婚後にも高額な財産形成に寄与している場合、それらの事情を考慮して寄与割合を加算するケースがあります。裁判所は『「事情を考慮して寄与割合を加算しなければ、財産分与額の算定に際して個人の尊厳が確保された」とは言い難い』と、一般論を示しました。 夫は医師であり、結婚前から医師の資格を取得するために個人的な努力をし、結婚後もその資格を活用して高額の収入を得ていました。この場合、寄与割合が通常の基準を超えて考慮され、夫の寄与割合を6割とした判例となりました。 |
▶財産分与の判例:大阪家庭裁判所審判|平成23年7月27日 夫は会社の創業者であり、代表取締役。妻は主に専業主婦、同居開始時に夫は約2億円の金融資産を有していた事案です。 裁判所は、別居時における夫の資産総額の大部分は、同居開始時点の資産運用結果や、バブル経済下における株式評価額の増大を含むことを考慮しました。その結果、同居期間中に形成された1億円のうち、「2割程度は妻の寄与がある」としました。 |
▶財産分与の判例:奈良家庭裁判所審判|平成13年7月24日 夫が自分の小遣いで購入した馬券が当たり、1億9,000万円相当を得て、これを元手に購入した不動産の売却金についての判例。夫の運によるところが大きいものの、「妻も不動産の維持・管理について一定の貢献をした」と認められ、その「売却金の3分の1を妻に分与するべき」との判断を下しました。 |
③財産の浪費がある場合
「財産分与の割合は夫婦の財産形成への貢献度に基づいて決定する」という基本的な考え方が根底にあります。そのため、配偶者が共有財産を浪費して共有財産を大きく減少させている場合には、財産分与の割合を修正することもあります。
例えば、一方の配偶者がギャンブルなどの浪費や独身時代の借金の支払いなどによって共有財産を大幅に減少させた場合、財産分与割合は通常の2分の1よりも低くなる可能性があります。
しかし、財産の浪費を理由に財産分与の割合を修正するケースは非常に少ないと考えます。浪費と出費の判断は難しく、誰しもが大なり小なり浪費はあり得るからです。そのため、浪費があれば常に分与割合が修正されるわけではありません。
浪費自体が夫婦関係を破綻させるほど深刻な場合に限り、財産分与の割合が変更される可能性があります。
④特有財産を用いて共有財産を形成している場合
本来、特有財産は財産分与の対象から除外されるため、特有財産を用いて共有財産が築かれている場合、原則通り2分の1の割合では不公平です。例えば、親から不動産を相続した場合の賃貸収入は、特有財産による利益であり、夫婦の協力関係によって得られた収入ではありません。
また、特有財産を生活費に充てているために共有財産からの支出を免れている場合も同様に、2分の1ルールでは不適当です。結婚前の預貯金や贈与・相続した財産で、夫婦の資産を購入したり生活費を工面したりしている場合には、財産分与の割合を修正するケースがあります。
特別な事情を裏付ける資料の確保
特殊な資格や能力があっても、これによって資産が形成されたことを客観的な証拠により裏付けなければなりません。例えば、資格試験の合格証明書や教育機関の卒業証明書、表彰状、会社のホームページなどを提示して、保有する資格や才能が特別なものであることを説明します。
また、多くの収入を得ながら育児などの家事労働全般を担っていた場合でも、収入資料のほかに家事労働の大部分を担っていたことを示す資料が必要です。
具体的には、日々の家事労働の状況が分かる日記、育児日記・母子手帳・学校の連絡帳・写真・領収書・陳述書等の資料を通じて、育児などの家事労働の貢献度を明確に説明していきます。
財産分与と税金
財産分与については、原則として贈与税等の税金は生じません。
財産分与により不動産を受け取った場合には、登録免許税・不動産所得税・固定資産税等がかかります。
しかし、不相当に多くの財産を理由もなく分与してしまうと、財産分与の一部が贈与であるとして、贈与税が課税される可能性があります。
財産分与を求める方法・流れ
財産分与を求める方法には、①協議、②調停、③審判、④訴訟があります。
①協議による方法
夫婦の一方が他方に対して、財産分与を含めた離婚の協議を申し入れます。
しかし、財産分与の対象となる共有財産の開示に協力せず、共有財産の評価額に対立が生じるなどして、協議を調整できない場合も多くあります。双方が納得できなければ、協議を断念して他の方法を模索するしかありません。
協議離婚が成立した場合には、離婚協議書や合意書の中に財産分与に関する合意内容を具体的に記載するようにします。万が一、相手方が合意内容を守らない場合に備えて、直ちに強制執行できるように、強制執行認諾文言を含んだ公正証書の作成を検討するべきでしょう。
なお、財産分与の交渉を有利に進めるためには、同居中の間に相手方名義の財産状況を確認するよう努め、具体的に把握しておくことが大切です。
②調停の申し立てによる方法
当事者間の協議が行き詰まっている場合、家庭裁判所における調停手続に着手するしかありません。調停手続とは、家庭裁判所の裁判官と調停委員2人で構成される調停委員会が夫婦を仲裁し、財産分与等の離婚条件を調整していくプロセスです。
離婚が成立していない場合には離婚調停の申し立てを行い、離婚調停に附帯するものとして財産分与も請求するのが一般的です。なお、調停の申立ては、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所にて行います。
裁判所の調停委員会による仲裁の結果、財産分与の合意ができる場合には調停が成立します。しかし、仲裁の甲斐なく合意できない場合には、調停不成立となり、審判または訴訟へ移行します。財産分与の調停手続では、夫婦双方の共有財産の開示とこれに基づく財産目録を作成します。夫婦のうちいずれかが、共有財産の開示に協力しない場合の対処法に関しては「相手が共有財産の開示に協力しない場合の対処法は?」を参考になさってください。
③審判・④訴訟による方法
調停が不成立となった場合には、既に離婚が成立している事案であれば、審判に移行します。一方、まだ離婚が成立していない事案であれば、離婚訴訟を提起して訴訟手続の中で財産分与が審理されます。
いずれのプロセスも調停のような話し合いの要素は少なく、証拠に基づく主張・反論を経て、裁判官による判決や審判により最終的な判断が示されます。
なお、財産分与に関する裁判手続は一定程度の期間を要します。そのため、財産分与の結論が出るまでの間に相手方の資産状況が悪化し、財産分与の回収が難しくなる事態も生じ得ます。このようなリスクを回避するために、あらかじめ保全処分の申立てを検討しましょう。
財産分与に関するよくある質問
財産分与に関してよく寄せられる質問を紹介します。
相手が共有財産の開示に協力しない場合の対処法は?
離婚後の財産分与請求の際、相手方が財産を開示しないことがよくあります。このような状況では、弁護士に相談するのが望ましいです。相手方の財産が不明な場合、弁護士が利用できる弁護士会照会制度という特別な手段や、裁判所による調査嘱託を検討できます。
弁護士会照会制度
弁護士会照会制度は、弁護士だけが利用できる財産開示を要求する制度です。銀行名・支店名を特定できれば、金融機関に弁護士会を通して預貯金口座の有無や取引履歴を照会したり、勤務先へ給与や退職金に関する情報を照会したりできます。
調査嘱託
夫婦のうちいずれかが、共有財産の開示に協力しない場合には、「調査嘱託」という手続きを用いることがあります。調査嘱託は、家庭裁判所を通じて、銀行や勤務先などの関係先から別居時点の残高などを開示してもらう手続きです。
調査嘱託を利用することで、配偶者の隠し財産の内容が明らかになるケースがあります。
どの時点の財産が対象?(財産分与の基準時は?)
財産分与は、夫婦の協力関係を前提に取得できた共有財産が対象です。そのため、夫婦の協力関係が得られなくなったとき、すなわち、夫婦が別居をした時点の財産が財産分与の対象となります。
「別居開始後も夫婦が協力関係を維持している」などの例外はありますが、一般的には、別居後に取得した財産は財産分与の対象から除外されます。
関連記事:財産分与の対象期間を解説
財産分与の時期や期限は?
財産分与は、離婚した日から2年以内に調停や審判等の手続きを行わなければなりません。
一般的に、財産分与は離婚をする際に一緒に協議します。しかし、必ずしも離婚が成立するまでに財産分与に合意しなければならないわけではありません。離婚に際して決めるべき事項は、未成年の子どもがいる場合の親権のみです。未成年の子どもがいなければ、離婚するかしないかを決めるだけです。
財産分与の問題を解決せずに離婚が成立した場合でも、離婚成立後に財産分与の請求が認められています。ただし、財産分与にも請求期限があります。財産分与請求は、離婚の成立日から2年以内に調停や審判の申し立てをしなければならないため、注意が必要です。
この2年の期間制限は「除斥期間」と呼ばれるもので、時効のように更新(中断)がありません。そのため、期限内に財産分与の合意ができなければ、早めに調停等の申立てをしましょう。
関連記事:財産分与の時効(除斥期間)は2年!時効とならないための対応を解説
なお、財産分与だけでなく離婚時の年金分割も、離婚をした日から2年を経過すると請求できなくなりますので注意が必要です。
年金分割の解説はこちら|熟年離婚の方が知っておくべき年金分割の基礎知識
財産分与には税金がかかる?
財産分与については、原則として贈与税等の税金は生じません。
とはいえ、財産分与により不動産を受け取った場合には、登録免許税・不動産所得税・固定資産税等がかかります。また、不相当に多くの財産を理由もなく分与してしまうと、「財産分与の一部が贈与である」として、贈与税が課税される可能性があります。
財産分与の問題は弁護士に相談しよう
財産分与の基本的な分与割合(2分の1)を修正するのは簡単ではありません。
解説した特別な事情があっても、これを証明できる証拠を集めておかなければ、分与割合が修正される可能性はほとんどないでしょう。そのため、特別な事情を裏付ける資料を早い時期から計画的に確保する必要があります。
財産分与は対象になる財産が多いため、ときに大きな経済的損失になります。財産分与は分与割合以外にも複雑な問題を含んでおり、高度な専門知識と経験が必要です。そのため、弁護士に相談せずに手続きを進めると、不必要なほど大きな負担になり、本来得られるはずの財産分与まで失うリスクがあります。1人で抱え込むのは困難を伴いますので、財産分与の割合を変更したい方は、まず弁護士に相談してみてください。弁護士に委任するメリットは下記の通りです。
弁護士に委任するメリット
- 財産分与全般を一任できる
- 財産分与の割合を変更できる可能性がある
- 離婚問題全般に関する相談できる
- 自身に有利な条件で交渉できる
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