離婚の際に問題となりがちな財産分与。
夫婦の婚姻期間が長くなればなるほど、財産の種類や入出金が増えるため、財産分与の問題は複雑になります。
その中でも問題となりやすいのが、財産分与の対象です。
財産分与の対象は夫婦共有財産です。

しかし、この共有財産にあたるのか否かはそう簡単な議論ではありません。
今回のコラムでは、財産分与の対象について解説していきます。
財産分与の対象は共有財産
共有財産とは
財産分与とは、夫婦で協力して得られた財産を清算するものです。
この夫婦で協力して得た財産を共有財産と呼びます。
婚姻中に取得した財産であれば、その名義が夫婦のいずれであるか関係なく共有財産となります。
また、どちらの名義の財産であるかが判然としない場合でも、その財産は財産分与の対象となる夫婦共有財産と推定されます。
あくまでも推定ですから、客観的な証拠をもって、その財産が財産分与の対象から除外される特有財産であることを証明することができれば、その推定は覆ります。
いつの財産か
財産分与は、夫婦で協力して得た財産を清算するものです。
夫婦が離婚の前提となる別居を開始することによって、夫婦の協力関係は失われます。
そこで、財産分与は、別居をした時点で有している共有財産が対象になると考えられています。
そのため、別居時点で存在していた預貯金等の財産が別居後に費消されたとしても、財産分与の対象額には変動はありません。
財産ごとの問題点
不動産
婚姻後に購入した自宅不動産は財産分与の対象になります。
結婚前に購入している場合
結婚前に自宅不動産を購入していたとしても、住宅ローンを組んで購入している場合には、結婚後に住宅ローンを支払っている以上、結婚してから別居するまでに支払っているローン額の割合に対応する部分が財産分与の対象となります。
不動産の評価額×(結婚時の住宅ローン残高-別居時の住宅ローン残高)/不動産の取得価格
例えば、不動産の時価が3000万円、結婚時の住宅ローン残高が2500万円、別居時点の住宅ローン残高が1000万円、購入代金が5000万円の場合、共有財産となる金額は900万円となります。
計算式 3000万円×1500万円/5000万円=900万円

他方で、婚姻前に自宅不動産を購入し、その支払いも婚姻前に終えている場合には、財産分与の対象から外れます。
頭金が特有財産
婚姻後に不動産を購入している場合でも、その頭金を婚姻前の貯蓄や親族からの支援(特有財産)から支払っている場合には、その特有財産部分を控除しなければなりません。
ただ、頭金の金額をそのまま差し引くことはしません。
購入した不動産の時価額が、時の経過によって変動する以上、支払った頭金の価値も変動します。
そこで、頭金の金額が不動産の購入代金全体に対して占める割合に、不動産の現在の時価額を掛けることで算出される金額を差し引きます。
例えば、不動産の時価が3000万円、頭金が500万円、購入代金が5000万円の場合、頭金は300万円となります。
計算式 3000万円×500万円÷5000万円=300万円
預貯金
別居時点の残高が財産分与の対象となります。
相手方が預貯金に関する資料を開示しない場合には、裁判所を通じて調査嘱託という手続を行うことで、別居時点の残高や別居前の口座履歴を調べることが可能となります。
ただ、預貯金の残高等を調査嘱託で調べる場合には、金融機関と支店名の情報を得ておくことが必要となります。
▼預貯金の財産分与に関する記事は以下をご参照▼ オーバーローンしている場合の預金の財産分与は?預金の財産分与を解説します |
生命保険
生命保険の場合、別居時点で解約した場合に支払われる解約返戻金(へんれいきん)が対象となります。
実際に解約することまでは必要ありません。
別居時に解約したと仮定した場合に支払われる解約返戻金を共有財産とします。
掛捨ての生命保険の場合、解約返戻金が支払われませんので財産分与の対象とする必要はありません。
結婚前に加入している生命保険であっても、結婚後にも保険料を支払っているのであれば、その解約返戻金の一部は財産分与の対象となります。
この場合のさまざまな計算方法があります。
別居時点の解約返戻金から結婚時の解約返戻金を差し引いた残額を財産分与の対象とすることあります。
あるいは、別居時点までの加入期間に対する、結婚してから別居時点までの期間の割合を別居時点の解約返戻金の金額に掛ける方法で算出する方法もあります。
子供名義の学資保険
子供名義の学資保険を財産分与の対象とするべきかはよく問題となります。
子供名義の学資保険であっても、夫婦がその保険料を負担しているのであれば、その学資保険の解約返戻金は共有財産となります。
ただ、学資保険は子供の将来のための積立てですから、夫婦の合意により財産分与の対象から外すことはあります。
退職金
退職金も財産分与の対象となります。
しかし、勤務先を実際に退職する必要はありません。
別居時に自主退職したと仮定して、勤務先から支給される退職金が財産分与の対象となります。
ただ、結婚前から在籍して勤続している場合には、入社してから別居までの期間のうち、結婚から別居までの期間に対応する退職金が財産分与の対象となります。

債務
債務は分与されない
相談事例として、住宅ローンやその他の借入のうち、その半分を相手方に請求したいと考えているケースがあります。
しかし、財産分与はあくまでも夫婦が協力して築いた財産を分与するものです。
そのため、借入等の債務そのものを分与することは想定されていません。
つまり、債務のうち幾分かを相手方に払ってもらうことはできません。
なお、借入が日常家事債務に当たる場合には異なる検討が必要となります。
プラスの財産から控除はできる
借入そのものを請求することはできません。
ただ、預貯金や不動産などのプラスの財産がある場合、その金額から借入の金額を差し引くことはできます。
例えば、預貯金や不動産等のプラスの金額が2000万円で、住宅ローン等の債務が1500万円の場合。
この場合、2000万円−1500万円=500万円が分与の対象となります。
オーバーローンの場合はゼロ
仮に、プラスの財産から借入を引いた結果、マイナスとなる場合(オーバーローン)です。
オーバーローンの場合には、マナイス部分を相手方に負担させることはできません。
オーバーローンであれば、財産はゼロ扱いとなります。
控除の対象となる債務
住宅ローンや車のローン
まず、自宅不動産や婚姻後に購入した自動車のローンについては、自宅や車が共有財産として財産分与の対象となっているのであれば、共有財産の取得に必要な借入として、控除の対象となります。
生活費のための借入
また、共有財産の取得のための借入ではなかったとしても、生活費や教育費のための借入については、夫婦の共同生活を維持するために必要な借入といえます。
そのため、生活費や教育費のための借入は控除の対象となります。
遊興費のための借入
ギャンブルや個人的な遊興費については、夫婦の共同生活の維持とは関係ありません。
そのため、ギャンブルや個人的な遊興費のための借入をプラスの財産から控除することは認められません。
特有財産は対象外
特有財産とは
財産分与の対象は、夫婦の協力により取得した財産、つまり、共有財産です。
そのため、夫婦の協力とは関係なく取得した財産は財産分与の対象から外れます。
具体例
特有財産としては、結婚する前に購入した財産や預貯金があります。
婚姻中に取得したものであっても、親族から贈与を受けた財産や相続した財産は、夫婦の協力なく得ているものですので、特有財産とされます。
特有財産の果実は?
不動産の賃料収入や株式・投資信託の配当金は、その財産から生まれる資産という意味で法定果実といいます。
この法定果実が特有財産によって生じている場合、その法定果実は特有財産になるのでしょうか?
賃料収入などの法定果実が、共有財産となる預貯金等の口座に入金されている場合、その口座内の預貯金が共有財産なのか、特有財産から生まれた法定果実なのか、判然としないことが多いです。
このような場合には、たとえ法定果実が特有財産から生じているものであったとしても、共有財産と扱われることが多いでしょう。
他方で、法定果実の専用口座が開設され、給与やその他の共有財産の入出金がほとんどないような場合には、共有財産との混在がないとして、特有財産になる可能性はあります。
ただし、このような場合でも、相手方が、特有財産となる預貯金の維持や管理に貢献している場合には、その一部が財産分与の対象となることはあり得るでしょう。
結婚後の預金と混在している場合は?
婚姻前から有していた定期預金やその他の貯蓄は特有財産となります。
しかし、婚姻前の貯蓄を管理している銀行口座が、結婚後も使用され、結婚後の収入や生活費に関する入出金が繰り返されている場合、預金の内どの部分が特有財産であるのかが判然としないことが多いです。
このように、たとえ特有財産であっても、結婚後の共有財産と混在し、特有財産の特定ができない場合には、共有財産とされることがあります。
他方で、婚姻前から有している定期預金について、婚姻後も解約せずにそのまま管理している場合には、共有財産との混在がありません。
また、満期を迎えて普通預金に入金されたとしても、それ以外に入出金がない場合には、共有財産との混在がありませんので、特有財産となります。
財産の維持に貢献している場合は?
財産そのものが、特有財産ではなかったとしても、特有財産である不動産の固定資産税や修繕費を家計から支出するなどして、特有財産の維持管理に配偶者が貢献してきたにも関わらず、何らの修正されないのは不公平です。
そこで、例外的にたとえ特有財産であっても、その貢献度に応じた部分が財産分与の対象となることがあります。
例えば、父親から相続した遺産は特有財産ですが、その相続税の支払いが夫婦の財産から支払われた場合、その限りで遺産の一部が財産分与の対象になり得ます。
弁護士に相談しよう

特有財産か共有財産かは、そう簡単に判断できるわけではありません。
証拠の収集と緻密な立証活動が必要となることもあります。

財産分与の請求を受けた、あるいは、これから請求したいと考えている場合、あらかじめ専門家に相談をしておきましょう。
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