60代の夫婦にとって、離婚は人生の後半をどう生きるかを左右する大きな決断です。長年連れ添った夫婦だからこそ、勢いで離婚届を出してしまうと、退職金・年金・持ち家といった大切な財産を十分に受け取れないまま、離婚後の生活が立ち行かなくなるおそれがあります。この記事では、60代・熟年離婚のデメリットや離婚率などのデータ、後悔しないための注意点を、弁護士がわかりやすく解説します。
(2026年4月〜/改正前は2年)
(2022年・過去最高)
(利用は約2割にとどまる)
【2026年4月法改正】財産分与・年金分割の請求期限が「2年→5年」に延長
60代・熟年離婚を考えるうえで、まず押さえておきたいのが2026年4月1日に施行された法改正です。これまで離婚後「2年以内」とされていた財産分与と年金分割の請求期限が、大幅に延長されました。
| 項目 | 改正前 | 改正後(2026年4月1日〜) |
|---|---|---|
| 財産分与の請求期限 | 離婚から2年 | 離婚から5年 |
| 年金分割の請求期限 | 離婚から2年 | 離婚から5年 |
財産分与については民法(第768条)の改正、年金分割については年金制度改正法にもとづく変更で、いずれも2026年4月1日に施行されました。離婚直後は生活の立て直しに追われ、気づいたときには期限が過ぎていたというケースが少なくなかったため、離婚後の生活再建に時間的な余裕が生まれる改正といえます。
適用されるのは「2026年4月1日以降に離婚した場合」です。2026年3月31日以前に離婚が成立している場合は、施行日の直前であっても、原則としてこれまでどおり「離婚から2年以内」に請求する必要があります。ご自身がどちらのルールに当てはまるか、離婚の成立時期をよく確認しましょう。
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60代の離婚率はどれくらい?熟年離婚が増加している背景
「離婚するのは自分たちだけではないか」と不安に感じる方も多いですが、60代を中心とした熟年離婚は決して珍しいものではありません。まずはデータから、60代・熟年離婚の実態を見ていきましょう。
熟年離婚は全体の約2割強、過去最高の水準に
厚生労働省の人口動態統計によると、同居期間20年以上の夫婦の離婚(いわゆる熟年離婚)は、2022年に約3万9千件で、離婚全体に占める割合は約23.5%と過去最高を記録しました。おおよそ「4組に1組」が熟年離婚という計算になります。離婚の総数そのものはピーク時(2002年)から4割近く減少しているのに対し、熟年離婚は高止まりが続いています。
60代・熟年離婚が増加している理由
熟年離婚が高い水準で推移している背景には、離婚に対する考え方の変化、女性の社会進出、年金分割制度の整備、そして平均余命が延びたことなどがあると考えられます。人生100年時代といわれる現代では、60代はまだ人生の後半戦が始まったばかりであり、「残りの人生を自分らしく生きたい」という思いから離婚を選ぶ夫婦が増えているのです。
60代夫婦が離婚を決意する主な理由
60代の夫婦が離婚を考える理由はさまざまですが、代表的なものとして次のようなケースがあります。
定年退職をきっかけに関係が変化したから
定年退職は、夫婦の生活スタイルが大きく変わる転機です。退職によって在宅時間が急増することで、これまで見えていなかった問題が表面化することがあります。夫の在宅時間が増えたことで妻の家事負担が増したり、行動に過度な干渉をするようになったりして、関係が悪化するケースです。また、支給される退職金の財産分与を見込んで、退職のタイミングに合わせて離婚を選ぶケースもあります。
子どもが独立・結婚したから
子育てが一段落し、子どもが独立・結婚したことをきっかけに離婚を考える60代夫婦も少なくありません。夫婦二人の時間が増えることで、子育てに追われて見えなかった夫婦関係の問題が浮き彫りになったり、これまで子どものために我慢してきた不満が表面化したりします。子どもの巣立ちを機に、自分の人生を見つめ直す方が増えているのです。
配偶者や親の介護を避けたいから
60代になると、配偶者や親の介護が現実的な問題となってきます。介護は肉体的にも精神的にも大きな負担となるため、夫婦関係が良好でない場合、介護が必要となる時期を前に離婚を決断するケースもあります。健康なうちに新たな一歩を踏み出したいという思いが、離婚理由の一つになっています。
新たなパートナーが見つかったから
定年退職や子どもの独立によって自分の時間が増え、趣味や習い事などを通じて新たな出会いがあることもあります。人生の後半を新しいパートナーと歩みたいと考え、離婚を選ぶ方もいます。ただし、交際が不貞行為にあたる場合には、慰謝料を請求されたり、離婚請求が認められにくくなったりすることがある点には注意が必要です。
60代・熟年離婚のデメリット(リスク)
60代の離婚は、若い世代の離婚とは異なるデメリットやリスクを伴います。決断する前に、次のような点をしっかり理解しておきましょう。
経済的に困窮するデメリット
60代の離婚では、離婚後の収入をどう確保するかが最大の課題となります。特に専業主婦(主夫)だった場合、この年齢から新たに安定した収入を得ることは容易ではありません。総務省の家計調査によると、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は月およそ15万円ですが、年金分割を受けても平均的な受給額はこれに届かないことがあり、赤字となるリスクがあります。この収支のギャップを埋めるためには、相応の貯蓄が必要となります。
介護を頼れなくなるデメリット
60代の離婚で最も深刻なリスクの一つが介護の問題です。離婚後は、配偶者による生活のサポートや介護を受けられなくなります。また、離婚に伴って子どもとの関係も疎遠になり、子どもに介護を期待しにくくなる場合もあります。離婚後の介護に備えるには、ヘルパーの利用や介護施設の入所など介護サービスの活用が欠かせませんが、その費用負担は小さくありません。
孤独・孤立を感じやすくなるデメリット
長年連れ添った配偶者との別れは、大きな喪失感をもたらします。加えて、離婚後の一人暮らしは孤独感にさいなまれるリスクが高く、体調不良時の対応や孤独死のリスクなども無視できません。寂しさのリスクを軽くするためには、家族や友人とのつながりを保ちつつ、家事代行などの外部サービスを上手に活用していくことが大切です。
60代・熟年離婚で後悔しないための7つの注意点
ここでは、60代の夫婦が離婚する際に押さえておくべき重要なポイントを解説します。特に経済面の権利は、請求し忘れると離婚後の生活に直結します。
財産分与をしっかりと請求する
長年の結婚生活で築いた共有財産(預貯金、不動産、有価証券など)をすべて洗い出し、その価値を見積もったうえで、正当に受け取るべき額を算出しましょう。配偶者が財産を隠しているリスクもあるため、弁護士に依頼して財産調査を行うことも検討できます。弁護士会照会などを活用すれば、隠された財産を発見できる可能性が高まります。
退職金の分与を求める(計算方法も解説)
定年退職を機に離婚するケースでは、退職金が大きな財産となり得ます。退職金は、婚姻期間に対応する部分が夫婦の共有財産とみなされ、原則として2分の1ずつ分けられます。
(対象額のうち、原則2分の1が受け取れる目安)
計算例:勤続20年で退職金2,000万円、うち婚姻期間15年の場合
2,000万円 ÷ 20年 × 15年 = 1,500万円が対象 → その2分の1にあたる約750万円が受け取れる目安
なお、別居している場合は、別居期間に相当する部分が対象から除かれることがあります。配偶者が退職金を隠そうとするケースもあるため、必要に応じて弁護士に相談しましょう。
年金分割を請求する(平均で月約3.3万円の差)
年金分割制度を利用すれば、婚姻期間中に納めた厚生年金の記録を夫婦で分け合うことができます。年金分割によって増える年金額は平均で月約3.3万円とされますが、制度の利用は離婚者の2割程度にとどまっており、知らずに請求しないまま損をしている方が多いのが実情です。
年金分割には「3号分割」と「合意分割」の2種類があります。3号分割は、2008年4月以降の被扶養配偶者(専業主婦・主夫など)だった期間の記録が対象で、配偶者の同意なしに請求できます。一方、合意分割は婚姻期間の全期間が対象ですが、原則として配偶者の合意(または裁判所の手続き)が必要です。
年金分割の請求は、これまで「離婚後2年以内」でしたが、2026年4月1日以降に離婚した場合は「5年以内」に延長されました。ただし期限があることに変わりはないため、早めの手続きをおすすめします。
離婚後の生活費をシミュレーションする
60代女性の場合、年金分割を受けても平均的な年金月額は約8.8万円にとどまることがあります。一方、支出面では単身世帯の平均的な月間支出が約15万円です。この収支ギャップを平均余命まで埋めるには、まとまった貯蓄が必要になると試算できます。医療費や介護費など将来の臨時支出も想定し、離婚後の経済的リスクを最小限に抑えるための入念なシミュレーションが欠かせません。
住居(持ち家・住宅ローン)の問題を解消する
持ち家がある場合は、住み続けるのか、売却して転居するのかを決める必要があります。住み続ける場合、住宅ローンの残債があれば返済計画の見直しが必要ですし、単独での返済が難しいケースでは売却も検討すべきです。転居する場合は家賃や引っ越し費用など新たな出費を見込む必要があります。経済面だけでなく生活の利便性も考慮して慎重に検討しましょう。
慰謝料を請求する(証拠の確保が重要)
不貞行為や暴力行為など、慰謝料請求の理由となる事実がある場合は、それを証明する証拠を集めておくことが重要です。具体的には、写真、録音、メールやLINEのやり取りなどが該当します。証拠収集が難しいケースでは、弁護士に相談することをおすすめします。
就労・収入源を検討する
年金収入だけでは生活費が不足するケースでは、就労を検討する必要があります。60代での就職は容易ではありませんが、これまでの経験と能力を活かせる仕事を見つけることが大切です。ハローワークなどの公的機関の活用や、在宅ワーク・短時間労働など柔軟な働き方も選択肢になります。
60代・熟年離婚に関するよくある質問
Q.熟年離婚をすると後悔しますか?
Q.専業主婦でも年金分割はできますか?
Q.2026年4月以降に離婚すると、請求期限は本当に5年になりますか?
Q.60代でも財産分与でどのくらい受け取れますか?
60代・熟年離婚のご相談は難波みなみ法律事務所へ
60代・熟年離婚は、退職金・年金・持ち家といった経済面の権利をどれだけ確保できるかで、離婚後の人生が大きく変わります。2026年4月の法改正で請求期限が5年に延長されたとはいえ、権利には期限があり、準備の有無が結果を左右します。人生の大きな転機だからこそ、リスクを最小限に抑え、新たな人生設計を描けるよう慎重に進めることが重要です。
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