「強制執行で養育費は回収できる?」
「強制執行は何をすればいい?」
養育費の支払いが滞っているとき、養育費を回収するために強制執行するべきか悩みますよね。
強制執行は裁判所を介して相手の財産を差し押さえるものなので、養育費の不払いに悩んでいるときには有効な手段です。
つまり、「連絡が取れない」「相手に支払う意思がない」という状況でも養育費を回収することができるというわけです。
ただし、強制執行には懸念点も存在するため、申立てを行う際は慎重に進めることをおすすめします。
そこで本記事では、強制執行を検討する人に向けて以下の内容をまとめました。
本記事を読んで分かること
- 強制執行で差し押さえできる財産
- 強制執行前に知ってほしい懸念点・対処法
- 強制執行に必要な条件と手続きの流れ
強制執行するか判断ができるとともに、「強制執行をして回収する」と判断した場合は、すぐに行動に移せるよう、準備するべき必要書類や手続き方法についてもまとめています。
養育費の不払いに悩んでいる方は最後まで読み進めて解決のヒントにしてください。
1. 強制執行で養育費は回収できる
子供の養育費が支払われない状況になっても、“強制執行”を行うことで養育費は回収できます。
強制執行は、支払い義務が確定したにもかかわらず、その支払いに応じない場合に、裁判所を通じて強制的に支払い義務を実現させる手続きのことを言います。
強制執行にもさまざまな種類がありますが、養育費の回収を実現するためには、強制執行の一つである「差押え」を行います。
具体的には、相手方(養育費の支払義務者)の財産を差し押さえて、未払い分の養育費や将来分の養育費を回収します。
養育費は民法上で『金銭債権』となるため、法律上の要件を満たす場合には、養育費を受け取る側の申立てによって強制的に回収することが実現します。
2. 法改正によって強制執行が行いやすくなった
強制執行の具体的な手続きについては後述で解説しますが、2020年に行われた法改正によって従来よりも強制執行が行いやすくなりました。
2-1.財産開示制度
一つ目は『財産開示』という制度です。
この制度は、養育費を受け取る側は裁判所を介して相手に財産開示を求めることが認められるというものです。
かつては、裁判所の呼出を無視したり、虚偽の陳述をしても、「30万円以下の過料」が科せられるだけでした。しかも、この過料が科せられるケースも非常に稀であったため、実効性がとても弱いものでした。
このような反省から、不出頭や虚偽の陳述をした場合には、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金といった刑事罰が科せられるようになりました。
このような法改正によって、義務者に対して強い心理的な負担を課すことで、相手の財産が特定・把握しやすくなり、回収しやすい状況になっているのです。
2-2.第三者からの情報取得手続
財産開示制度は、義務者から、自身の財産情報を開示させる手続きに過ぎません、義務者の財産の情報を強制的に得ることはできません。
そこで、新たに設けられた手続が、「第三者からの情報取得手続」です。
第三者からの情報取得では、
- 金融機関から、預貯金、上場株式、国際等に関する情報を得ること
- 市町村や日本年金機構等から勤務先などの情報を得ること
- 法務局から所有する不動産の情報を得ること
ができます。
養育費の権利者であれば、債務名義を有していれば、上記①から③のいずれの手続きも行うことができます。
第三者からの情報取得手続きにより、金融機関などの第三者から、義務者を経由せずに直接情報を取得することができ、この情報を基に義務者の資産を差し押さえることが可能となります。
なお、第三者からの情報取得においては、保険関連の情報は除外されているため、生命保険の解約返戻金に関する情報を取得することはできません。
Tips!
法改正を行う前は強制執行が難しかった?
法改正を行う前は、養育費を受け取る側が事前に差し押さえる財産を特定しなければいけないという条件がありました。
しかし、離婚して世帯を別にしている状態で相手の財産の最新情報を把握している人は少なく、特定する困難さから養育費の請求を諦める人も多くいたことが現状です。
養育費の不払いが発生する原因は強制執行の手続が困難であったことだけに限ったことではないですが、実際に平成28年度に行われた調査で出た受給状況は以下のような結果となっています。
▼養育費の受給状況▼
参考)厚生労働省『母子世帯及び父子世帯に置ける養育費の需給状況(平成28年)』
このような受給状況を重く受け、養育費の回収のしやすさや、支払い率の向上を狙い、法改正が行われました。
3. 強制執行で差し押さえできる財産
強制執行で差し押さえできる財産は大きく分けて以下の3つです。
- 動産
- 不動産
- 債権
差し押さえ可能な財産についてそれぞれ解説します。
3-1. 動産
動産は現金、絵画、ブランド品、宝石、家具、家電など、不動産を除くものが対象です。
ただし、動産にあたるものでも相手が生活に必要とする生活費や衣類・家電・家具・寝具・備品などは差し押さえすることは認められていません。
3-2. 不動産
相手名義の家や土地といった不動産も差し押さえ対象です。相手名義であることが条件なので、不動産を取得したタイミングが婚前であっても、離婚後であっても差し押さえ対象になります。
3-3. 債権
債権とは、支払い義務者が第三者機関(勤務先や銀行など)に対して持っている権利のことです。
具体的に言うと、給与や預貯金、退職金、生命保険などを差し押さえることができます。
預貯金の差押えをする場合には、金融機関名だけでなく支店名まで特定する必要があります。
Tips!
効果的な差し押さえは「給与」と「預貯金」
上記の記載したように差し押さえ対象は様々ありますが、養育費の回収に効果的な差し押さえ対象は「給与」または「預貯金」です。その理由を解説します。
給与を差し押さえすると・・・給与を差し押さえると、社会保険料等を控除した後の「給与手取り額1/2」が支払い義務者の勤務先から直接受け取れるようになります。給与の差押えは、本来は手取額の1/4に限定されていますが、養育費や婚姻費用の差押えに限っては、1/2まで差押えが可能となります。
給与の手取り額が66万円を超える場合は、33万円を相手方に残し、それ以外の残額を差し押さえることができます。
給与を差し押さえると、一回の差押えだけで、差押えの申立時以降の将来分の給与も差押えの対象とすることができます。何度も給与の差押えをする必要はありません。
会社が養育費の権利者に対して直接払うため、毎月確実に養育費を受け取れるようになることが期待できるのです。
転職や退職によって払われない状況になることが不安になるところですが、退職金も差し押さえ対象に該当しますし、転職先の情報を把握できれば別途強制執行手続きを行うことで給与を差し押さえることが可能です。
預貯金を差し押さえすると・・・預貯金を差し押さえると、まとめて回収することが期待できます。給与や現金のように差し押さえ範囲に制限がなく差し押さえることが認められているからです。
よって、預貯金額が大きい場合はまとめて回収することができるでしょう。ただし、預貯金の場合は強制執行1度につき1回の差し押さえとなります。まとめて回収できなかった場合、再度強制執行の手続きをしなければならないため、多くの預貯金を持っている場合に効果的です。
4. 強制執行をする前に知ってほしいデメリット
強制執行は養育費を回収するうえで効果的な方法ですが、懸念点があることも否めません。
それは以下のデメリットがあるからです。
それぞれの内容について解説します。
4-1. 強制執行が必ず回収につながるとは限らない
強制執行しても回収できないパターンがあります。回収できないパターンについて解説します。
4-1-1. 口座にお金がなかった場合
預金口座を差し押さえても、その口座にそもそもお金が入っていなかった場合は回収できません。
そのため、口座を差し押さえる際は、どの口座を差し押さえるかを見極めたり、強制執行の申立てを行うタイミングを計ったりする必要があります。
たとえば、以下のように戦略的に差し押さえすると回収できる可能性が高まります。
- 複数の口座がある場合は金額の大きいと考えられる、または給与が振り込まれる口座を差し押さえる
- 給与が振り込まれる口座を差し押さえる場合は給与の振込日~振込み直後を狙う
財産の情報開示をしても口座に入っている金額までは分からないため、見極めることが必要になります。
また、強制執行を申立ててから差し押さえの実行が認められるまでには1週間ほどのタイムラグがあるため、申し立てるタイミングは確実にお金が振り込まれる給料日の2~5日前に行うなど、タイミングを計ることが回収のポイントです。
4-1-2. 取り立て中に退職した場合
強制執行をして相手の給与の差し押さえに成功した場合でも、相手がその会社を退職してしまったら回収することができなくなってしまいます。
退職すると差し押さえ対象である給与自体が発生しないからです。
ただし、退職金も差し押さえ対象になるため、退職金が支払われる状況であれば、まとめて養育費を回収できる可能性があります。
また、再度強制執行の手続きを行って『第三者からの情報取得手続き』を活用するなどして転職先の情報を得ることができれば、転職先の給与の差し押さえも可能です。
4-1-3. 相手の生活状況が変わっている場合
相手の生活状況が変わっている場合も養育費を回収できない、もしくは回収できる金額が少なくなってしまう場合があります。
たとえば、以下のようなケースです。
- 病気や怪我で働けなくなった
- 会社の都合でリストラにあい失職している
- 再婚や養子縁組をして扶養人数が増えた など
養育費の支払い義務が認められている期間であっても、相手に収入や財産がない状況であれば、事実上回収できるものはありません。
また、再婚したり、扶養するべき子どもができたりした場合は、養育費の減額が認められる場合もあります。
強制執行で回収できるか否かは、相手の経済状況も要因の1つであることをおさえておきましょう。
4-2. 手続きが難しく手間が必要
強制執行の申立て手続きは難しく、必要書類を用意するだけでも手間や労力が必要になります。
法改正によって強制執行は行いやすくなりましたが、裁判所の手続きが当事者本人には複雑であることは変わっていないからです。
また、強制執行には相手の現住所や勤務先などの情報をそろえることが求められるため、離婚して時間が経っている場合は必要条件をそろえるにも時間や労力が必要になるでしょう。
弁護士に依頼すると代行して行ってもらえるため、手間を省けたり、自身で進めるよりも早く強制執行を行えたりなどメリットがありますが、弁護士費用を負担しなければいけません。
強制執行を申立てる際は手間暇をかけて行うか、弁護士費用を負担して代行してもらうかを選んで進めていく必要があります。
4-3. 関係の悪化が想定される
強制執行すると、相手との関係悪化につながる可能性があります。
というのも、強制執行は相手が利用している第三者機関(勤務先や銀行など)に支払いが滞っている事実を知らせて回収するものであり、強制的に相手の財産を没収する行為だからです。
差し押さえ対象となっている事実が知れ渡ることにより、会社にいづらくなったり、生活レベルが下がったりなどするため、相手にとっては生活が一変するような状況になります。
そのため、相手の性格や考え方によっては感情的になり、相手から不快な態度・言動をとられることもあるでしょう。
場合によっては、子どもへの接し方が変わったり、面会交流を拒否したりなど影響を及ぼすこともあります。
強制執行を申立てる際は、相手の生活状況や性格、子どもとの関係など、様々な面を確認して慎重に進めていくことも大切です。
4-4.自己破産する場合
養育費の義務者が養育費の支払いを怠っている場合、住宅ローンやその他借り入れに追われているため、養育費を払いたくても払えないケースもあります。
このようなケースで給与や預金口座の差押えを行うことで、養育費の義務者は借入等の支払原資を失い、自己破産せざるを得ない状況に追い込まれる可能性があります。
ただ、万が一、養育費の義務者が破産をしたとしても、未払いとなっている過去の養育費は免責されません。つまり、破産によって未払いの養育費の義務はなくなりません。
また、将来の養育費についても、破産によっても影響を受けずに、支払期限が到来すれば、その都度請求することができます。
5. 強制執行以外にもある支払いを促す方法
養育費の回収方法は強制執行だけではありません。
いきなり強制執行の申立てをするのではなく、まずは3つの手順で養育費の回収を試みましょう。
- 任意で支払い請求を行う
- 履行勧告
- 履行命令
調停や審判を経なければできない内容もありますが、養育費の回収を促せる方法について解説します。
5-1. 任意で支払請求を行う
まずは相手へ連絡し、養育費の支払いを求めましょう。離婚時に相手に弁護士がついていた場合は弁護士に連絡してみるのも1つの方法です。
また、相手の経済状況を知るきっかけになることもあるため、強制執行して回収できるかを判断する情報につながることもあるでしょう。
もちろん、この連絡がきっかけで養育費の支払いが行われるケースもあります。
まずは相手に連絡して養育費の支払いを督促することも検討しましょう。
5-2. 履行勧告
履行勧告は家庭裁判所が相手に対して支払いを促す制度です。
養育費の不払いが生じていることを裁判所が調査し、確認したうえで裁判所から支払いを要求するため、心理的なプレッシャーを与えることが期待できます。
基本的には書面にて履行勧告がなされますが、履行勧告には支払いを強制する力まではありません。
よって、強制執行のような養育費の回収は期待できませんが、相手へプレッシャーを与えることは可能です。
手数料はかからずに利用できるため、請求のアクションとして活用するとよいでしょう。
ただし、履行勧告は調停・審判で支払いが命じられている人が利用できる制度です。
調停や裁判などを経ずに当事者間で養育費を取り決めた場合には利用することはできません。公正証書で取り決めた場合も履行勧告は利用できないので、注意しましょう。
5-3. 履行命令
履行命令とは、履行勧告を行っても養育費の支払いがない場合に利用できる制度です。
履行勧告よりも強い指示である『命令』という形で、10万円以下の過料を科す可能性がある旨を添えて裁判所が相手に支払いを命じます。
ただし、履行命令にも強制力はなく、支払い期限を過ぎたからと言って、自動的に強制執行に移るわけではありません。
また、10万円以下の過料を実際に科すケースも少ないことが現状であり、実際に過料を回収したとしても、その過料は国へ支払われるため、養育費の充当にあてられるわけではありません。
しかし、簡単な申立てで裁判所から公的に催促ができるため、自身で行うよりもプレッシャーをかけることができます。
強制執行という強引な方法を望まない場合は、支払いを促すためのアクションとして行うことをおすすめします。
6. 養育費の強制執行には3つの事前準備が必要
ここからは強制執行を申立てる準備について解説します。
まず、強制執行の申立てには事前に執行力を持つ債務名義を持ち、2つの情報を調査する必要があります。
強制執行の申立てをするための3つの事前準備と調査
- 債務名義の取得
- 財産と勤務先の把握
- 現住所の把握
それぞれの項目について解説します。
6-1. 債務名義の取得
強制執行の申立てには養育費の強制執行が認められている公的書面(債務名義)が必須です。
強制執行力のある書面を債務名義と言い、次のような公的書類が債務名義にあたります。
- 公正証書
- 調停調書
- 審判書
- 判決
- 和解調書
それぞれの書類について1つずつ解説します。
6-1-1. 公正証書(執行認諾の文言有り)
公正証書とは、公証役場の公証人が、双方が合意した契約内容を法律に則って作成する文書のことです。
当事者間だけで作成できるものではなく、法律事務に長年携わった経験と知識を有する“公証人”が作成し、双方合意のもとで完成する文書のため、証拠価値が高い文書であると認められています。
ただし、このような証拠価値が高い公正証書であっても『執行認諾の文言有り』の記載がなければ強制執行は認められません。
執行認諾文言は「支払いが滞った場合、強制執行を認める」という合意があることを証明する意味を持つために強制執行の申立ても認められるようになる仕組みです。
▼公正証書のより詳しい説明と作成方法は以下の記事で確認できます▼
養育費 公正証書
6-1-2. 調停調書
調停調書とは、養育費についての取り決めを“調停”を経て取り決めた場合に発行される債務名義のことです。
離婚調停や養育費の支払いを求める調停手続において、父母の双方が裁判所の調停委員を通じて養育費の金額や終期等を話し合います。
話し合いの結果、養育費の具体的な内容を合意できれば、調停が成立し、調停調書が家庭裁判所によって作成されます。
双方の合意のもと、法律に則って作成されている書類なので、後々になって不服を申立てても受理されることはありません。
法的根拠を持つ書類であるため、合意内容を守らない場合は強制執行することが認められています。
6-1-3. 審判書
審判書とは、審判”を経て取り決めた内容が記載されている調書です。
審判手続は、調停で解決できなかったときに行われるもので、裁判官によって養育費の契約内容が判断され、記載されます。
裁判官が養育費を決める判断材料は以下の項目が挙げられます。
6-1-4.判決書(確定判決)
養育費の強制執行を可能とする書面として、確定判決があります。
判決とは、裁判所が口頭弁論の審理を経て行う最終的な判断を示したものです。
養育費の金額や時期が判決にて示されるのは、離婚訴訟において、親権と子の養育費が審理対象となっている場合です。
家庭裁判所が養育費に関する判決を示して、この判決が確定すると、この判決は強制執行が可能な公的書面(債務名義)となります。
しかし、当事者のいずれかが高等裁判所に対して控訴をすれば、判決は確定しません。
なお、仮執行宣言付きの判決であれば、判決の確定前でも差押えをすることができます
6-1-5.和解調書
離婚訴訟になれば常に裁判所による判決が行われるわけではありません。
むしろ、大部分の離婚事案では、判決ではなく、裁判官の仲裁による和解的な解決がほとんどです。
これを裁判上の和解といいます。
裁判上の和解も判決と同様に強制執行をすることが可能な公的書面となります。
Tips!
強制執行力を持つ書類がない場合は?
たとえば『離婚協議書』や『合意書』など、それだけでは強制執行できない文書しかない場合、または、配偶者間の口約束や、そもそも取り決めを交わしていない場合は、強制執行の申立てを行っても認められません。
強制執行の手続きを踏むには上記で紹介した書類が必須であるため、まずはこれらの書類を準備するところから手続きを進めます。書類の取得方法は4章で詳しく解説しています。
6-2. 財産と勤務先の把握
強制執行はやみくもに行っても回収できるものではありません。
相手が働いていなかったり、財産がなかったりする状況では事実上回収できるものがないからです。
そのため、強制執行の申立てを行う前に差し押さえ対象の財産や、相手の勤務先について知っておく必要があります。
ただ、これらの情報を把握するのは簡単なことではありません。よって、このような事前調査には法改正によって作られた「財産開示手続き」や「第三者からの情報取得手続き」を活用して情報取得をしていくとよいでしょう。
6-3. 現住所の把握
現在相手が住んでいる住所を把握しておきましょう。
強制執行の手続きでは相手の現住所が不可欠な情報だからです。
現住所が不明な場合は戸籍の附票という書類を取り寄せて住民票などで住所調査をするとよいです。
もしも自身で調査できない場合は弁護士などの専門家に相談する方法もあります。
7. 強制執行の手続きの流れ
執行力のある書類と、事前の調査が完了したら、いよいよ強制執行の申立て手続きに入ります。
強制執行の申立てから回収までの流れは以下のとおりです。
手順に沿って詳しく解説します。
7-1. ステップ①強制執行を申立てるための書類を準備する
強制執行を申立てるための書類を準備します。
申立てに必要な書類は以下のとおりです。
7-1-1. 申立書
申立書は4つの書類がセットになった書類です。
- 表紙
- 当事者目録
- 請求債権目録
- 差押債権目録
持っている債権名義の種類や、差し押さえる財産によって目録や記載が異なります。
書式や作成方法については申立てを行う地方裁判所に問い合わせて準備を進めてください。
ちなみに、申立てを行う裁判所は、支払義務を負う人の住所となります。ただ、義務者の住所地が分からないときは、差押えをする勤務地や金融機関を管轄している地方裁判所にて行います。
7-1-2. 債務名義
差押えにおいて最も重要な書類が、確定判決や調停調書等の債務名義です。強制執行認諾文言のない公正証書は、たとえ公正証書であったとしても強制執行は行えませんので注意が必要です。
7-1-3. 債務名義(公正証書)の送達証明書と確定証明書
債務名義の正本、または謄本が債務者に伝達されたことを証明する証明書です。
送達証明書は、確定判決や調停調書等であれば、これを発行した裁判所で、公正証書であれば、これを作成した公証役場で発行されます。
確定判決や審判書については、裁判所の発行する確定証明書も必要となります。
7-1-4.執行文
債務名義が確定判決や公正証書の場合、執行文の付与を受ける必要があります。
判決については、判決をした家庭裁判所、公正証書については、公証役場において執行文の付与を受けることができます。
7-1-5. 当事者の住民票(債務名義と異なる場合)
申立人、および支払い義務者の住所や氏名が債務名義に記載されたものと異なる場合は最新の住民票が必要です。
申立日から1か月以内に発行された住民票を用意します。
7-1-6.申立手数料
差押えに際して、申立手数料として4000円分の収入印紙を納入する必要があります。
7-1-7. 予納郵便切手
裁判所から相手に書類を送るための切手を準備します。
☑チェック
詳細の内訳と金額は一覧表で確認できます。
予納郵便切手一覧表
7-1-8. 相手に送る宛名付封筒
債権者の宛名を記載した封筒を用意します。
封筒の大きさは長型3号(120mm×235mm)の指定があります。
Tips!
強制執行の申立て手続きの手数料
強制執行には4,000円の手数料がかかります。必要書類とともに手数料の準備もしましょう。
7-1-9.資格証明書(代表者事項証明書)や履歴事項証明書
第三債務者が金融機関などの法人である場合、第三債務者の資格証明書(代表者事項証明書、申立日より3か月以内のもの)を添付する必要があります。また、不動産を差し押さえる場合には、その不動産の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)と最新の固定資産評価証明書も必要となります。
7-2. ステップ②地方裁判所へ強制執行を申立てる
書類の準備が整ったら必要な書類をそろえて『民事執行手続き』を申立てます。
申立てを行う裁判所は、支払い義務を負う人の住所地、または差し押さえをする勤務地や金融機関を管轄している地方裁判所にて行います。
7-3. ステップ③債権差押命令の発令
書類に不備がないことを確認でき次第、裁判所は差し押さえ命令を発令します。
通常は申立てから1週間前後で債務者に発送され、伝達されます。
伝達されたタイミングで差し押さえの効力が生じるため、申立人は差し押さえ命令が伝達された日が記載された通知書を受け取り、実行できる日程を確認してください。
7-4. ステップ④取り立ての実行
差し押さえが実行できる日になったら取り立てを債権者本人が実行します。
たとえば、預貯金口座を差し押さえる場合は金融機関(銀行など)に直接連絡したり、給与をおさえる場合は勤務先に直接連絡を入れたりなどです。
振込口座を指定するなどして第三者機関とやり取りをし、養育費を回収します。
7-5. ステップ⑤地方裁判所へ報告する
取り立てが完了したら申立てをした地方裁判所へ報告をします。
書類は回収の有無によって種類が異なります。以下を参考にして提出する書類を確認してください。
一部の回収だった場合 | 取立届(支払いがあったら都度提出) |
全額回収できた場合 | 取立完了届 |
上記の届出の提出がない限り、強制執行の手続きは完了しません。
手続きが完了しないと、新たに強制執行の手続きに入ることはできないので、不足分を回収するために新たに強制執行の手続きが必要な際は、取立届と共に『取下書』を提出して今回の強制執行を完了にします。
『債務名義等還付申請書』も提出しよう
強制執行手続きを完了させる場合、一緒に『債務名義等還付申請書』も提出することがおすすめです。
債務名義等還付申請書を提出すると、強制執行の申立てをしたときに提出した債務名義の正本が返還されるようになるからです。
次回の強制執行の申立てで利用できるため、書類の準備の手間を省くことができます。
必須の提出物ではありませんが、再度強制執行の申立てを検討している方は正本を返還してもらうとよいでしょう。
8. 養育費の強制執行を検討しているなら弁護士へ相談しよう
強制執行は養育費を回収するための有効手段であり、自力で申立てを行うことができますが、法的な書類を準備し、定められた手順にそって行っていく必要があります。
また、回収を実現するためには事前に調査することも大切です。
弁護士に対応を依頼するのはハードルが高く、費用が心配という懸念点もあるかもしれませんが、弁護士のサポートを得ると多くのメリットも生まれます。
弁護士に相談するメリット |
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養育費は長年支払い義務が生じる費用であり、何より子どものための費用です。
後悔しない条件で養育費の内容を決めるなら、法律について高度な知識を持つ弁護士を味方につけることは賢い選択になるでしょう。
お問い合わせは無料です。難波みなみ法律事務所にお気軽にご相談ください。
9. まとめ
養育費の不払いで悩んでいるなら強制執行を申し立てることを推奨します。
給与や銀行口座などとやり取りをして回収するため、相手と連絡が取れない場合や、一向に支払い手続きがされない場合でも回収することができます。
ただし、強制執行には懸念するべき点もあり、複雑な手続きも必要になります。
養育費の不払いについてお悩みの場合はまず弁護士にご相談するのも1つの手段です。
難波みなみ法律事務所は離婚問題全般に注力しており、養育費の問題に真摯に取り組んでいます。
相談は無料なので、まずはお気軽にお話をお聞かせください。