コラム
公開日: 2024.10.26

養育費は再婚で切り打ちになる?減額できるケースとその手順|難波みなみ法律事務所

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

養育費を支払っている人や受け取っている人にとって、再婚が養育費にどのような影響を与えるかは大きな関心事です。

再婚によって養育費が減額や打ち切りになるケースは存在します。具体的には、養育費の権利者が再婚しても、直ちに養育費は減免されません。しかし、再婚相手と子供が養子縁組をすると、義務者が負う養育費の支払義務はなくなります。

他方で、義務者が、再婚後に連れ子と養子縁組したり、新たに子供をもうけることで、養育費は減額する可能性があります。

この記事では、再婚が養育費にどのように影響するのか、減額や打ち切りになる具体的なケース、そしてその手順について詳細に解説します。

再婚で養育費が打ち切りになるケースとは?

再婚は、家族構成や生活状況が大きく変化し養育費が減額されたり、免除されるきっかけとなります。

ここでは、再婚によって養育費が打ち切りとなるケースについて詳しく見ていきます。

再婚により養育費が打ち切り・減額される理由

再婚によって養育費が打ち切り・減額される理由は、再婚後、新たな家族構成や経済状況の変化により、養育費が従来通りの金額では適切でないと判断される場合があるからです。

養育費の根拠は、親の子供に対する扶養義務にあります。しかし、再婚を機に、扶養するべき対象が増える場合、扶養対象が増える分、割り当てられる1人当たり生活費も減る計算になるため、養育費が減額されます。

また、再婚を機に、世帯収入が増えたり、扶養義務に優劣が生じることで、養育費が打ち切られたり、減額されることになります。

再婚により養育費が打ち切り・減額されるケース

再婚により養育費が打ち切り・減額されるケースとして、代表的なものとしては、親権者が再婚した上で再婚相手と子供が養子縁組をする場合です。また、親権者ではない実親が再婚した上で、再婚相手との間で新たに子供をもうけたり、再婚相手の連れ子と養子縁組をする場合も、養育費の打ち切りや減額のケースの一つです。

注意点としては、親権者や非親権者が再婚すれば当然に養育費が打ち切りになるわけではない点です。

以下では、ケースごとに養育費が具体的にどのような影響が出るのかを説明していきます。

親権者が再婚した場合

親権者が再婚すると、養育費の状況にどのような影響があるのかについて理解することが大切です。

親権者が再婚した場合、再婚相手と子どもとの養子縁組の有無によって、養育費の打ち切りや減額が発生するかどうかが異なるため、それぞれのケースを詳しく見ていきます。

再婚相手と子どもが養子縁組をしない場合

再婚相手と子どもが養子縁組をしない場合、養育費は打ち切りにはなりません。

養子縁組が行われなければ、再婚相手と子供との法律上の親子関係は成立せず、実親の養育義務が変わらないからです。つまり、再婚相手がどれほど子どもと親密になろうとも、法的には実の親としての義務を負う人が引き続き養育費を支払う義務があります。そのため、再婚によって養育費が打ち切られることはありません。

したがって、親権者の再婚相手と養子縁組を行わない限り、親権者が再婚しても、非親権者の養育費の支払い義務は続くという点を留意しておくことが重要です。多くの人がこの点を誤解している場合があり、再婚したとしても養育費は自動的に打ち切られるわけではありません。

再婚相手によって事実上扶養されている場合

再婚相手と養子縁組をしていなかったとしても、再婚相手に経済力があり、子供が事実上再婚相手による扶養を受けているような場合です。

この場合にまで、養育費の金額に何の影響も与えないとなると、それはそれで不公平です。

そこで、権利者と義務者の公平を図るため、養育費の減額が認められる余地があります。

再婚相手と子どもが養子縁組をした場合

再婚相手と子どもが養子縁組を行った場合、元配偶者からの養育費は打ち切られるのが一般的です。

これは、再婚相手と子供が養子縁組をすることによって、再婚相手が子どもの養親となり、第一次的な扶養義務を負うことになります。これによって、親権者ではない実親の扶養義務は2次的なものになります。

ただし、実親の扶養義務が二次的なものになっただけで、扶養義務それ自体が無くなるわけではありません。そのため、養親に十分な経済力がない場合には、実親は扶養義務を理由に養育費の支払義務を負います。

再婚や養子縁組を報告する義務はあるのか?

親権者が再婚した場合、その事実を報告する義務があるかどうかはケースバイケースと言えます。

まず、養育費の取り決めをした際に、再婚や養子縁組をした場合には各自報告する合意をしている場合には、再婚や養子縁組をすれば速やかに報告するべきです。

他方で、そのような取り決めまでなかった場合には、直ちに報告する義務まではないと解されます。そのため、義務者からすれば、養育費の取り決め時には、身分関係の変化がある場合には報告することを明記するよう求めておくことが大切です。仮に、取り決め時に再婚や養子縁組の報告を合意しなかった場合には、定期的に子供の戸籍謄本の取付けをして、親子関係をチェックすることも検討しましょう。

養子縁組後に受け取った養育費は返還するべきか

再婚相手と子供が養子縁組をした後も、実親から受け取っていた養育費は返還するべきかが問題となります。

これはすなわち、養子縁組をした場合の養育費の減額の始期をいつとするべきかの問題です。

養育費の減額の始期としては、養子縁組の時点、養育費減額の請求時、調停の申立時のいずれかになります。

この点については、法律や最高裁の判断で明確にされておらず、裁判所の裁量とされています。

裁判所は、以下の事情を考慮して減額の始期を判断すると解されています。

  • 事情の変更が権利者と義務者いずれの側に生じたものか
  • 変更事由を反対当事者が認識できるか
  • 変更事由の内容や性質
  • 遡及期間の養育費の支払状況
  • 権利者側の生活状況

類似の事例では、養子縁組を知るまでに調停の申立てをすることは現実的に不可能であることなどを理由に、養育費の減額の始期を事情変更時とした裁判所の判断があります(東京高決平成30年3月19日)。

また、養子縁組があったことを知りながら養育費の支払いを継続させた後に、養育費の減額を求めたケースでは、養育費の減額の始期は、養子縁組時ではなく減額の意思表示時と判断されました(東京高決平成28年12月6日)。

事情変更時である養子縁組時に養育費が減額する場合、それにもかかわらず養育費を縁組後も受け取っていれば、縁組後の養育費は不当利得として返還の対象となる可能性があります。

親権者ではない親が再婚した場合

離婚後、親権を持たない親が再婚するケースも少なくありません。この場合、養育費にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

親権者ではない親が再婚した場合にも、養育費の金額に変化が生じることがあります。再婚相手との間に新たな子供が生まれた場合や、再婚相手が無職である場合など、具体的なケースごとに説明いたします。

再婚相手との子供が生まれた場合

再婚相手との間に新たな子供が生まれた場合、養育費が減額されることが多くあります。

それは、新しい子供が生まれると義務者側に新たな扶養義務が発生するため、子供に割り振られる生活費の金額が減少するからです。

養育費の計算式を用いて計算します。再婚相手との子供がいない場合、養育費は以下のとおり計算されます。

子供の生活費=義務者の基礎収入×子供の生活費指数÷(子供の生活費指数+義務者の生活費指数)養育費=子供の生活費×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)

再婚相手が生まれた場合には、計算式は以下のとおり変化します。

子供の生活費=義務者の基礎収入×子供の生活費指数÷(子供の生活費指数+再婚相手の子供の生活費指数+義務者の生活費指数)養育費=子供の生活費×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)

以上のように再婚相手との子供の生活費指数を考慮することで、分母となる生活費指数の合計額が増加し、これに伴って、子供に割り当てられる生活費が小さくなることが分かります。

再婚相手との子供が生まれたケースだけでなく、再婚相手の連れ子を養子縁組した場合も同様に養育費は減額の対象となります。

再婚相手が無職である場合

再婚相手が無職であることだけでは、養育費の減額は当然に認められるものではありません。

再婚相手が無職であっても、就労する能力を備えている場合には、潜在的な稼働能力があることを理由に養育費は減額されません。

他方で、再婚相手が病気や障害を理由に無職であり稼働能力がない場合には、義務者は子供だけでなく再婚相手を自身の収入をもって扶養しなければなりません。そのため、この場合には、養育費の減額が認められる可能性があります。

ただし、再婚相手の生活費指数は、親の生活費指数(100)ではなく、子供の生活費指数と同等のものとして計算されることが多いでしょう。15歳以上は85、15歳未満であれば62とされています。

再婚によって減額される養育費の金額

再婚によって養育費が減額される場合、減額される養育費の金額をどのように計算するのかが問題となります。

養育費の計算方法の基本を理解した上で、再婚後の生活状況を踏まえて減額する養育費の金額を導きます。

養育費の計算方法の基本

養育費の計算する方法には、養育費算定表による方法と標準算定方式による方法があります。

養育費算定表とは、裁判所が公開する養育費を算出する計算表です。子供の人数や年齢に対応する算定表を選定した上で、義務者の収入と権利者の収入を当てはめることで、養育費の概算を算出します。

標準算定方式とは、基礎収入割合と生活費指数を用いて細かい養育費を導く計算方法です。特に、再婚後の養育費を算定する場合には、養育費算定表を当てはめるだけでは正確な養育費を算出することは難しいため、標準算定方式を用いることになります。

参照|裁判所の養育費算定表

再婚相手との子供や連れ子の生活費を考慮する

再婚後の養育費を計算するためには、再婚相手との子供や連れ子の生活費を考慮することが重要です。

再婚相手との子供や連れ子がいる場合、扶養状況が変わり、その影響を養育費に反映する必要があるからです。具体的には、以下の計算式により計算します。

ケース 子供16歳、連れ子5歳の場合、義務者の基礎収入270万円、権利者の基礎収入100万円子供の生活費946,356円=義務者の基礎収入275万円×子供の生活費指数85÷(子供の生活費指数85+連れ子の生活費指数62+義務者の生活費指数100)養育費693,994円(年額)=子供の生活費946,356円×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)1月分の養育費=57,832円

再婚相手の生活費を考慮する場合

再婚相手が障害や病気により就労不能であるために、再婚相手の生活費を考慮する場合、養育費が減額される可能性があります。

再婚によって扶養するべき対象新たにが増えることで、子供に割り当てる生活費に影響を与えるからです。

再婚を理由に養育費を減額する流れ

再婚をすれば当然に養育費が減額されるわけではありません。再婚が理由で養育費の減額を求める場合には、一定のプロセスを経ることが必要です。具体的には、再婚を理由に養育費を減額する場合、まず父母間で協議を行い、合意が得られない場合は養育費減額調停を申し立てる必要があります。

父母間で協議する

養育費の減額や打ち切りについては、まず父母間で協議することが重要です。

直接話し合うことで、互いの状況や要求を理解しやすくなり、速やかな解決を実現できるからです。

他方で、直接の話し合いは、父母間の感情的な対立を招き、心理的な負担を生じさせるリスクもあります。

そのため、話し合いが進展しない場合には、代理人弁護士を選任した上で、代理人を通じた交渉を進めてみましょう。

父母間の協議の結果、合意に至れば必ず合意書や公正証書を作成しておきましょう。

養育費減額調停の申し立てをする

養育費の減額を話し合いをしても進展が見られない場合には、養育費減額の調停申し立てを行うことが必要です。

調停手続は、家庭裁判所の調停委員が当事者を仲裁して紛争を解決させる裁判所の手続です。当事者間の話し合いによる解決ができなければ、調停手続に進まざるを得ません。

調停手続を通じて父母間で養育費の減額の合意ができれば、調停は成立します。

他方で、調停委員の説得の甲斐なく合意に至らなければ調停は不成立となり審判手続に移ります。審判では、裁判官が当事者の主張と証拠に基づいて最終的な判断を示すプロセスです。

再婚を機に養育費を打ち切られた時の対応

再婚を機に養育費を打ち切られた場合、養育費の取り決めが、私人間の合意であるのか、公正証書や確定判決によるのかによって、対応方法が異なります。

父母間で話し合う

義務者が、再婚を理由に養育費の支払を打ち切った場合でも、まずは父母間の話し合いにより解決できないかを探ります。

義務者側の再婚である場合には、どのような理由で養育費を打ち切るのかを聴取し、養育費の打ち切りに理由があるのかを検討しましょう。

権利者側の再婚を理由に養育費を打ち切った場合、養子縁組をしていなければ、養子縁組をしていないことを説明した上で、養育費の支払義務があることを説明します。養子縁組をしているとしても、養親による扶養が十分ではないことなどを説明して、養育費を支払いを維持するように求めます。

強制執行を行う

養育費の取り決めが公正証書や確定判決、調停調書による場合には、義務者が一方的に再婚を理由に養育費を打ち切ったことで、義務者の預貯金や給与の差押えを行います。

ただし、義務者側の養育費減額に理由がある場合には、強制執行により回収した養育費と減額された養育費との差額は返還しなければならないため注意しなければなりません。

調停や訴訟の手続を進める

調停調書や確定判決、公正証書がなく、私人間の合意書しかない場合には、直ちに預貯金や給与の差押えをすることができません。その場合には、調停や訴訟の手続きに着手しなければなりません。

調停や訴訟の手続において、再婚を理由に養育費が減額されるのかが判断されることになります。

よくある質問(FAQ)

再婚による養育費の打ち切りや減額に関する、よくある質問を紹介します。ご自身のケースと比べて検討してください。

養子縁組でもすぐに養育費をもらえなくなるのか?

権利者の再婚相手と子どもが養子縁組をしたとしても、義務者が養子縁組を知りながら養育費を支払っている場合には、これを受け取ることはできると解されます。

しかし、養子縁組を知らずに養育費を支払い続けている場合、養子縁組を知った後に養育費の打ち切りを表明されると、養子縁組後に受け取っている養育費は返還しなければならなくなる可能性があります。

再婚相手が主婦で無収入だと養育費はどうなる?

義務者(父)が再婚し、その再婚相手が専業主婦で無収入である場合でも、直ちに再婚相手の扶養を理由に養育費を減額させることはできません。再婚相手が病気や障害等を理由に仕事をすることができないために無収入である場合には、再婚相手の生活費を考慮に入れて養育費の減額をさせることができます。

再婚による養育費の変更はいつから適用されるか?

養育費の減額の始期は、減額の意思表示をした時からと考えるのが通常です。

しかし、上述したとおり、養子縁組のように事情が変更したことを察知することが非常に難しい場合には、例外的に減額の意思表示時ではなく事情変更時を養育費の減額の始期と解される可能性もあります。

養育費の問題は難波みなみ法律事務所に

権利者側にしろ義務者側にしろ、再婚を契機に子供も含めた生活状況が大きく変わります。これに伴い、義務者側が養育費の打ち切りや減額を求めてくることもよくあります。

しかし、再婚の事情変化だけで当然に養育費は打ち切りになりません。養育費の減免の対象になるのかは、十分に事情を検討した上で進めていくことが大切です。

難波みなみ法律事務所は離婚問題全般に注力しており、離婚準備の段階から真摯にサポートいたします。ご自身で頑張り過ぎずに、適切に弁護士に相談することが重要です。

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