養育費は、子どもが成熟するまでに必要な費用であり、親の扶養義務を根拠とするものです。 しかし、養育費の支払いが困難になる事情もあります。
養育費の支払義務がなくなる主なケースとしては、養育費の権利者が再婚して子どもと養子縁組した場合や、義務者が病気や後遺障害等により支払能力がまったく無くなってしまった場合などが挙げられます。
一度取り決めをした養育費の減額を求める場合は、まず相手方との話し合いを試み、合意を目指すことが重要です。話し合いで解決できない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てる方法もあります。
取り決めた養育費を払わずに放置していると、あなたの給料や預貯金の差押えを受けるリスクがあります。そのため、養育費が支払えないからといって漫然と放置するのではなく、養育費減額の調停等をするようにしましょう。
養育費の問題に直面した際は、早めに行動を起こし、弁護士などの専門家に相談しながら、子どもの福祉を最優先に考えて対応することが重要です。
この記事では、養育費を支払わないことのリスク、養育費の支払義務がなくなるケースや、減額を求める具体的な手続きを詳しく解説します。
養育費とは
養育費とは、子どもが社会生活を送る上で必要な費用のことです。具体的には、衣食住のための費用、医療費、教育費などが含まれます。
いつまで支払うべきなのか
養育費の支払い義務は、民法766条1項および877条1項に基づく扶養義務に基づくものです。実務上、具体的な支払い義務は、養育費をもらう権利者側が義務者に請求した時に生じます。
養育費の支払い期間は、子どもが20歳までとされるのが一般的です。ただし、以下のようなケースでは、養育費の支払期間が短くなることがあります。
- 母親(権利者)が再婚し、再婚相手が子どもと養子縁組した場合
- 母親との合意により、養育費の支払いの免除を受けた場合
- 20歳になるまでに社会人として就労を開始した場合
他方で、子供が大学に進学した場合には、養育費の終期が、22歳になった後に最初に到来する3月末日か大学卒業時まで延長されることがあります。
養育費を支払わないとどうなる【養育費の取り決めがない場合】
離婚に際して、養育費の取り決めがない場合、養育費の請求に対して、これに応じない姿勢を示すと、以下のステップに進むことが想定されます。ここでは、養育費を支払わない場合に起こり得る事態について解説します。
内容証明で支払いを求められる
養育費の取り決めがない場合、親権者本人またはその代理人弁護士から内容証明郵便で支払いを求められることがあります。
内容証明とは、いかなる内容の文書を誰から誰あてに送付されたのかを郵便局に証明してもらえる文書です。
養育費に関係する内容証明には、養育費の支払いを求める内容と、支払わない場合の法的措置に関する警告が記載されるのが一般的です。内容証明には、法的な拘束力はありませんので、内容証明を受けただけで、養育費の支払いを強制されることはありません。
養育費の調停申立てを受ける
養育費の支払い要求に応じないでいると、次のステップとして養育費の調停申立てを受けることになります。
家事調停とは、家庭裁判所の調停委員を介して当事者間の合意形成を目指す手続きのことです。
調停では、子どもの生活状況や父母の収入額などを考慮して、適切な養育費の金額や支払条件が話し合われます。
調停であれば、養育費の金額、支払条件、未払い養育費の金額や支払方法(一括か分割か)を柔軟に話し合うことができます。
調停で合意できなければ審判に移行する
調停で合意できない場合、家庭裁判所の審判続きに移行します。
審判とは、裁判官が当事者の主張や証拠を踏まえた上で、最終的な判断を下す手続きです。審判では、養育費の金額と終期、未払い養育費の支払いを命じられます。
審判手続では、裁判所による終局的な判断が示されるため、調停手続のような柔軟な話し合いが予定されていません。そのため、未払い養育費については、一括の支払いを命じられることになります。
審判の結果、養育費の支払いが命じられ、それが確定した場合には、審判に従わないと強制執行を受けることになります。ここでいう強制執行とは、給与や預貯金等の差し押さえを指します。
養育費を支払わないとどうなる【養育費の取り決めがある場合】
養育費の取り決めがあるにもかかわらず、離婚後に支払いに応じない場合、どのような影響があるのでしょうか。ここでは、養育費の取り決めがある中で、養育費を支払わない場合に起こりうる事態について解説します。
遅延損害金が発生する
養育費の支払いが遅れた場合、遅延損害金が発生します。
遅延損害金は、支払期日を過ぎた日から支払いが完了するまでの期間について、法定利率に基づいて計算されます。
現在の法定利率は年3%ですが、2020年4月1日以前に発生した債権については年5%の法定利率となります。ただし、養育費の取り決めに際して、法定利率を超える利率の約束をした場合には、その約定利率が優先します。
遅延損害金は、養育費の支払いが遅れれば発生するため、支払いの遅滞が長引くほど遅延損害金の金額が増えていきます。
強制執行(給与・預貯金等の財産の差し押さえ)
養育費が、以下の方法で確定している場合には、養育費の支払いをしなければ強制執行を受けるリスクがあります。
・公正証書 ・調停 ・審判 ・判決 ・裁判上の和解 これら文書を法律上債務名義と呼びます。 |
差押えとは、裁判所の命令によって、支払い義務者の財産を差し押さえて、債務の支払いに充てる強制執行のことです。
差し押さえの対象となるのは、給与や預貯金、不動産など、支払い義務者が所有する財産全般です。養育費のための給与の差し押さえは、最大で手取額の2分の1まで可能です。さらに、一回の差押えにより、将来分の養育費の差押えもすることができます。その上、義務者が勤務先を辞めない限り、次月以降の給与から養育費が支払われてしまいます。
そのため、強制執行を受けると、支払い義務者の生活に大きな影響を受けるだけでなく、勤務先との信頼関係も悪くなることがあります。
財産開示を受ける
養育費を支払わない場合、権利者側は裁判所に対して財産開示手続を申し立てることができます。財産開示手続を利用するためには、先ほどの強制執行と同様に、公正証書や判決などの債務名義が必要となります。
この手続きにより、義務者は自身の財産状況を裁判所に報告しなければなりません。具体的には、概ね財産開示期日の10日前に財産目録を提出しなければなりません。また、義務者は裁判所に出頭した上で、自分の財産について陳述し、債権者からの質問に対しても回答しなければなりません。
民事執行法の改正により財産開示制度が見直され、罰則が強化されました。例えば、財産開示期日に出頭しなかったり、虚偽の陳述をした場合には、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることとなりました。
第三者からの情報取得手続き
養育費を支払わないでいると、第三者からの情報取得手続により、自身の情報を収集されるリスクがあります。
第三者からの情報取得手続とは、市町村や金融機関等の第三者に対して義務者の財産に関する情報を裁判所を通じて収集できる制度です。この制度は令和元年の民事執行法の改正により新設された制度です。
第三者からの情報取得手続により、不動産、勤務先、預貯金の情報が開示され、これを基に差押えを受ける可能性があります。
養育費の差押えが失敗する場合
養育費の支払いをしなかった場合、賃金や預貯金の差押えを受けるおそれがあります。
しかし、権利者による差押えが常に成功するわけではありません。
金融機関と支店名が分からない
預貯金の差押えをするためには、金融機関名と支店名を特定する必要があります。
いわゆるメガバンクであれば、弁護士会照会をすることで、口座開設をしている支店名が開示されます。また、第三者からの情報取得手続を利用することで、特定した金融機関の口座の有無等の情報が開示されます。
しかし、地方銀行、ネット銀行、信用金庫・信用組合については、弁護士会照会や第三者からの情報取得によって調査することが難しいのが実際です。なぜなら、数多ある金融機関のうち義務者がどの金融機関の口座を開設しているか分からないために、特定の金融機関に絞って調査することが現実的に難しいからです。
そのため、義務者がマイナーな金融機関に預貯金を移動することで、差押えの回避をできてしまう可能性があります。
預貯金の残高が少ない場合
差押えをした時点の口座残高が差押えの対象となります。
しかし、義務者は、養育費の不払いが続いている状況を踏まえて、近い将来、自身の銀行口座が差押えられることを予期して、主要な口座から預金を引き上げることがあります。
そのため、たとえ権利者が、特定した金融機関の口座の差押えをしたとしても、既に預金が引き上げられているため差押えが失敗に終わることがあるのです。
会社員ではない場合
義務者が会社員である場合、勤務先の情報が分かれば、給与や賞与などの賃金を差押えることができます。一回の差押えにより将来分の給与も回収でき、かつ、次月以降の賃金からも回収することができます。
また、義務者が転職をしたとしても、権利者は第三者からの情報取得を通じて義務者の勤務先情報を得ることができます。
しかし、義務者が会社員ではなく、自営業である場合や社会保険に加入していない場合、勤務先情報を得ることはできません。そのため、義務者が会社員ではない場合には、権利者は義務者の賃金の差押えをすることができず、差押えが奏功しない可能性があります。
養育費の支払義務がなくなるケース
養育費の支払義務は、一定の条件が揃えばなくなる可能性があります。ここでは、養育費の支払義務がなくなるケースについて詳しく解説します。
再婚相手と養子縁組をした場合
親権者が再婚し、その再婚相手が子どもと養子縁組を結んだ場合、非親権者の養育費の支払義務はなくなります。
この場合、養子縁組により、再婚相手である養親が一次的な扶養義務を負い、実親の扶養義務が2次的なものになるからです。ただし、再婚相手の収入が低額であるため、養親による扶養だけでは不十分である場合には、一定額の養育費の支払義務が残る可能性はあります。
支払能力がない場合
養育費を一度取り決めても、予期しない重要な事情の変更が発生して、その事情変更が義務者の責任によらずに発生した場合には、養育費を減額させることができます。
養育費を取り決めた後に、義務者が病気や障害により就労能力がなくなった場合には、養育費の支払義務が減免される可能性があります。
子供が経済的に自立した
養育費の終期は20歳と設定されることが一般的ですが、子供が20歳を迎えるまでに就職をして経済的に自立した場合には、養育費の支払義務はなくなります。
そもそも、養育費の義務は未成熟の子供に対する扶養義務を根拠に生じるものです。そのため、子供が就労することで経済的に自立すれば、親が子供に対して養育費を支払う必要がなくなります。
支払の免除を受けた場合
父親が母親との合意により、養育費の支払を免除された場合、支払義務はなくなります。
この場合、父母間で養育費の免除に関する合意書等の書面を作成することが重要です。なぜなら、父母間で口頭で養育費の免除に係るやり取りをした場合に書面として残さなければ、事後的に合意内容を証明することが難しいからです。
ただし、先述の通り、子ども自身の扶養を求める権利は両親の合意に拘束されません。したがって、子どもが独自に扶養料を請求してきた場合、父親は扶養料の支払義務を負う可能性があります。
未払い養育費の消滅時効(5年)が成立した場合
養育費の支払義務は、時効によって消滅する可能性があります。養育費の合意や公正証書の場合、養育費の時効期間は5年とされています。
したがって、5年以上にわたって養育費の支払いをしなかった場合、その未払いの養育費の支払義務は消滅時効により無くなります。
ただし、調停、審判、判決等で確定した未払いの養育費の時効期間は10年となります。
養育費の減額を求める手続き
養育費の取り決めた後に、事情の変更があった場合に養育費の減額を求めることができます。ここでは、養育費の減額を求める際の具体的な流れについて解説します。
養育費が払えないなら養育費の減額を検討する
養育費の支払いが困難になった場合、まずは減額の可能性を検討しましょう。
ただし、一方的に支払いを止めたり、減らしたりすることは避けるべきです。なぜなら、強制執行により預貯金や給与の差押えを受けるおそれがあるからです。
減額を検討する理由としては、収入の減少や失業、病気やケガによる就労困難、親権者の再婚や養子縁組、義務者の再婚や子供の出生などが挙げられます。このような事情変更があり、現在の養育費の支払いが困難であると判断した場合、養育費の減額を検討するべきです。
相手方と話し合いを進める
養育費の減額を求める第一歩は、相手方との話し合いです。減額を求める理由と希望する養育費の額を丁寧に説明した上で理解を求めましょう。その際、収入の変化を示す書類など、客観的な証拠を提示することで相手方の理解を得られやすくなるでしょう。
話し合いがまとまれば、新しい養育費の金額と支払い方法について合意した上で書面化するようにします。この合意書は、後々のトラブル防止のため、できる限り詳細に記載し、両者が署名捺印することが大切です。
養育費減額請求調停を申し立てる
話し合いでの合意が得られない場合、家庭裁判所に養育費減額請求調停を申し立てます。
調停は、家庭裁判所の調停委員が当事者双方を仲裁して調停成立を目指して話し合いを進めていきます。調停では、養育費の減額を求める事情の変更を客観的な資料を根拠に説明します。
調停手続を経ても合意に至らない場合は、審判へと進むことになります。ただし、調停や審判の各手続きは時間と費用を要するだけでなく、専門的な知見を求められますので、弁護士に相談し、適切な助言を受けることをおすすめします。
養育費を支払わない場合のよくある相談
ここでは、養育費の不払いに関連して頻繁に寄せられる相談について、詳しく解説していきます。
養育費を払わないと子供と会えなくなる?
養育費の支払いと面会交流は、法的には別個の問題です。つまり、養育費を支払っていないからといって、直ちに面会交流が制限されるわけではありません。
ただし、養育費の不払いが継続し、父母間の葛藤が強くなり、面会交流を継続的に行うだけの信頼関係を築くことができなくなった場合には、面会交流が制限される可能性はあります。
養育費の不払いで刑事罰を受けることはある?
単に養育費を支払わないことだけでは、刑事罰の対象にはなりません。
しかし、裁判所の履行命令を受けたにもかかわらず、これを無視した場合には、10万円以下の過料を科される可能性があります。
また、財産開示手続きにおいて不出頭や虚偽の陳述をした場合には、刑事罰が科される可能性があります。
- 裁判所の履行命令に従わない場合、10万円以下の過料
- 財産開示手続きに応じない場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金
養育費の問題は難波みなみ法律事務所へ
養育費を支払わずにいると、調停や審判を通じて養育費の金額や支払条件が決められます。
調停等を通じて養育費が確定した後も養育費の支払いをせずにいると、給与等の賃金を差押えられてしまいます。仮に、職場を隠していたとしても、財産開示や第三者からの情報取得により現在の勤務先を把握されてしまうかもしれません。
養育費の支払いをできないとしても、漫然と放置するのではなく、養育費の減額を検討することも重要です。
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