60代夫婦の離婚が増加しており、熟年離婚は現在では珍しくなくなりました。
60代の夫婦にとって、離婚は人生の大きな分岐点となり、離婚を決断する背景には様々な事情があります。定年退職後の生活環境の変化や、子どもの独立などをきっかけに、これまで見えていなかった夫婦関係の問題が表面化することがあるのです。
60代夫婦が離婚する場合には、離婚後の生活を十分にシミュレーションした上で、離婚時に請求するべき権利をしっかりと請求しておくことが肝心です。退職金を含めた財産分与、慰謝料請求、年金分割、住居の問題などを解決しておく必要があります。離婚したいという思いから、無計画に離婚手続きを進めてしまうと、離婚後の生活が不安定になってしまい、後悔することになります。
この記事では、60代夫婦の離婚理由や、離婚に伴うリスク、注意すべきポイントなどを詳しく解説します。
60代夫婦の離婚は増加している
60代の夫婦の離婚は、近年増加傾向にあります。その背景には、定年退職後の生活環境の変化や女性の社会進出などが関係しているようです。
全体の22%程が熟年離婚
厚生労働省の統計(厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」)によると、熟年離婚と呼ばれる夫婦の離婚は、全体の約22%を占めています。
最も高い割合は婚姻期間5年未満となっていますが、これに次いで婚姻期間20年以上の夫婦が高い割合となっています。20年以上の婚姻期間の夫婦が離婚する場合を熟年離婚と一般的に呼称されていますが、この熟年離婚の増加には、様々な要因が考えられます。
熟年離婚数は増加している
厚生労働省の統計を見ると、熟年離婚の数は昭和60年と比較して約2倍に増加しています。ただし、直近の数年間は横ばいの傾向が見られます。
昭和期と比べて、離婚に対する考え方の変化、女性の社会進出、年金分割制度の整備、平均余命が延びたことなどを背景に熟年離婚が増加しているものと思われます。
60代の夫婦の離婚したい理由
60代の夫婦が離婚を考える理由は様々ですが、いくつかの代表的なケースがあります。ここでは、60代の夫婦が離婚を決意する主な理由について詳しく見ていきましょう。
定年退職したから
60代の夫婦にとって、定年退職は大きな転機となります。夫が定年退職を迎えることで、夫婦の生活スタイルが大きく変化することがあるのです。
定年退職前であれば、夫は平日の日中に仕事に出ているため、夫婦の接触する時間は休日や平日の夜間に限られています。
しかし、定年退職によって妻の夫との接触時間が急激に増加することにより、これまで見えていなかった夫婦間の問題が表面化することがあります。例えば、夫の在宅時間が増えることで、妻の家事の負担が増加したり、妻の行動に対して過度な干渉をするようになることなどです。
また、定年退職によって支給される退職金の財産分与を見込んで、定年退職のタイミングを離婚する時期に選択するケースもあるようです。
子どもが独立・結婚したから
子育てが一段落し、子どもが独立・結婚したことをきっかけに離婚を考える60代夫婦も少なくありません。
子どもの独立によって夫婦二人の時間が増えることで、これまで子育てに追われて見えていなかった夫婦関係の問題が浮き彫りになるのです。
また、子どもの独立によって、これまで子どものために我慢してきた不満が爆発するケースもあります。子どもの巣立ちを機に、自分の人生を見つめ直し、新たな人生設計を考える60代夫婦も少なくないのです。
配偶者や親の介護をしたくないから
60代になると、配偶者や親の介護が現実的な問題となってきます。
しかし、介護の負担を考えると、離婚を選択する夫婦もいるのです。
配偶者や親の介護は肉体的にも精神的にも大きな負担となります。特に、夫婦関係が良好でない場合、介護を機に夫婦関係が悪化し離婚を決意するケースもあるようです。健康状態が良好なうちに決断し、介護が必要となる時期前に独立したいというのも、60代夫婦の離婚理由の一つと言えるでしょう。
新たなパートナーが見つかったから
60代になって新たなパートナーが見つかったことで、離婚を考える夫婦もいます。
定年退職や子どもの独立によって、自分の時間が増えたことで、趣味や習い事などを通じて新たな出会いがあることもあります。最近では、アプリを通じて出会うこともあります。
人生100年時代と言われる現代において、60代は人生の後半戦が始まったばかりです。新たなパートナーとの再婚を視野に入れて、離婚を選択する60代夫婦も少なくありません。ただし、新たなパートナーとの交際が不貞行為に当たる場合には、慰謝料請求を受けたり、離婚請求が難しくなることもあります。
60代夫婦の離婚のリスク
60代の離婚は、若年層の離婚とは異なるリスクが伴います。ここでは、60代夫婦が離婚する際に注意すべき主要なリスクについて解説します。
介護のリスク
60代の離婚において、最も深刻なリスクの一つが介護問題です。離婚後、配偶者や子どもに介護を頼れなくなるという現実に直面することがあります。
離婚後も子供や親族との関係性が良好であれば介護も期待できるでしょう。また、介護施設に入所できるだけの潤沢な資産があれば親族に頼らずに介護を受けられます。
しかし、配偶者と離婚することで、配偶者による生活のサポートや介護を受けることができなくなります。また、離婚に伴って、子供との関係も悪くなり、子どもに介護を期待することも難しい場合があるでしょう。
離婚後の介護問題に備えるためには、ヘルパーの利用や介護施設の入所など介護サービスの活用が不可欠です。しかし、そのための費用負担は小さくありません。介護リスクを踏まえた上で、離婚後の生活設計を綿密に行う必要があるでしょう。
生活できなくなるリスク
60代の離婚では、経済面のリスクも看過できません。特に専業主婦の場合、離婚後の収入確保が大きな課題となります。
60代という年齢で新たに就労することは容易ではなく、安定的な収入を得ることは困難です。また、年金の受給額も、単身世帯の生活費を賄うには不十分なケースが多いでしょう。総務省統計局の家計調査によれば、65歳以上の独身女性の消費支出額の平均は、約15万円ですが、年金分割後の平均受給額は約8.8万円に留まるため、赤字となるリスクがあります。
この生活収支のギャップを埋めるためには、相当額の貯蓄が必要となります。離婚を検討する際には、現在の貯蓄額に加えて、財産分与や慰謝料額等も踏まえて、離婚後の生活を具体的にシミュレーションすることが肝心です。
一人暮らしによる寂しさ
60代の離婚では、精神面のリスクにも目を向ける必要があります。長年連れ添った配偶者との別離は、大きな喪失感をもたらします。
加えて、離婚後の一人暮らしは、孤独感に苛まれるリスクが高いと言えます。家事や様々な日常的な事務を一人で担わなければならず、心身の負担は小さくありません。体調不良時の対応や、孤独死のリスクなども無視できない問題です。
寂しさのリスクを軽減するためには、家族や友人とのネットワークの維持が欠かせません。同時に、家事代行サービスなどの外部のサービスを上手く活用することも重要でしょう。一人で抱え込まず、周囲の支援を得ながら生活環境を整備していく姿勢が求められます。
60代夫婦が離婚するとき注意するべきポイント
ここでは、60代の夫婦が離婚する際に注意すべき主要な点について詳しく見ていきましょう。
財産分与をしっかりと請求する
60代で離婚する際、財産分与の問題は非常に重要です。長年の結婚生活で築いた共有財産を適切に分配することが、離婚後の経済的安定に直結するからです。
まずは、夫婦で共有している財産を正確に把握することが重要です。預貯金、不動産、有価証券など、すべての資産を洗い出し、その価値を見積もります。その上で、自分が正当に受け取るべき財産額を算出し、しっかりと請求する必要があります。
ただし、配偶者が財産を隠しているリスクもあるため、弁護士に相談し、財産調査を依頼することも検討すべきでしょう。弁護士会照会を活用すれば、隠された財産を発見できる可能性が高まります。
退職金の分与をしっかりと求める
60代での離婚では、退職金の分与も見逃せません。定年退職を機に離婚するケースでは、退職金が大きな財産となり得るからです。
退職金は、原則として夫婦の共有財産とみなされます。したがって、離婚時に公平に分配されるべきものです。別居時または離婚時の退職金の金額を正確に確認し、適切な分与を求めることが重要となります。
配偶者が退職金を隠そうとするケースもあるため、注意が必要です。必要に応じて、弁護士に相談し、証拠収集や交渉を依頼することも有効でしょう。
離婚後の生活をシミュレーションする
60代で離婚する際は、離婚後の生活設計を綿密に立てることが不可欠です。収入と支出を詳細に見積もり、経済的に自立できるかを確認する必要があります。
収入面では、年金受給額を確認することが重要です。60代女性の場合、平均的な年金月額は年金分割を受けても約88,000円です。一方、支出面では、単身世帯の平均月間支出が約15万円となっています。この収支ギャップを埋めるには、平均余命を踏まえると、約1500万円の貯蓄が必要と試算することができます。
将来の臨時的な支出なども想定し、離婚後の経済的リスクを最小限に抑えるための入念なシミュレーションが欠かせません。
住居の問題を解消する
60代の離婚では、住居の問題も避けて通れません。持ち家がある場合は、そこに住み続けるのか、売却して転居するのかを決める必要があります。
持ち家に住み続ける場合、ローン残債があれば、返済計画を見直す必要があるでしょう。単独での返済が困難なケースでは、売却を検討すべきかもしれません。一方、転居する場合は、家賃や引っ越し費用など、新たな出費を見込む必要があります。
いずれにせよ、住居の問題は離婚後の生活に直結するため、慎重に検討することが大切です。経済的な観点だけでなく、生活の利便性なども考慮に入れましょう。
慰謝料を請求する
60代の離婚で慰謝料を請求する場合、証拠の確保が重要となります。請求の根拠となる事実を立証できなければ、慰謝料を獲得することは難しくなります。
不貞行為や暴力行為など、慰謝料請求の理由となる事実があれば、それを証明する証拠を集めておくことが重要です。具体的には、写真、録音、メールやLINEのやり取りなどが該当します。
証拠収集が難しいケースでは、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士ならではの専門的な支援を得られるはずです。
年金分割の請求を忘れないこと
60代の離婚では、年金分割の請求を忘れてはいけません。年金分割制度を利用すれば、配偶者の年金を公平に分けることができるからです。
年金分割には、「3号分割」と「合意分割」の2種類があります。3号分割は、2008年4月以降の婚姻期間中の納付記録のみが対象とされ、配偶者の同意なしに年金分割を請求できます。一方、合意分割は、婚姻期間の全期間が対象となりますが、配偶者の合意が必要となります。年金分割の請求は、離婚後2年以内に行う必要があるため注意が必要です。
年金分割の手続きは複雑なため、弁護士に依頼することをおすすめします。専門家のサポートを得れば、手続きをスムーズに進められるはずです。
就職活動を検討する
60代で離婚した場合、年金収入だけでは生活費が不足するケースが少なくありません。そのような場合は、就職活動を検討する必要があります。
とはいえ、60代での就職は容易ではありません。自分の経験と能力を活かせる仕事を見つけることが重要です。ハローワークなどの公的機関を活用したり、知人に相談したりすることで、就職の可能性を広げられるでしょう。
在宅ワークや短時間労働など、柔軟な働き方を探すことも有効です。自分の体力や健康状態に合った仕事を選ぶことが重要です。
60代の離婚問題は難波みなみ法律事務所へ
60代の夫婦の離婚は、定年退職や子どもの独立などをきっかけに増加傾向にあります。離婚の主な理由は、夫婦の接触時間の増加による問題の顕在化、介護負担の回避、新たなパートナーの存在などが挙げられます。
一方で、60代の離婚にはリスクも伴います。介護体制の喪失、経済的な不安定さ、孤独感の増大などです。離婚を検討する際は、財産分与や年金分割の適切な請求、離婚後の生活設計の入念なシミュレーションが不可欠です。
住居問題の解決や、慰謝料請求のための証拠確保なども重要なポイントとなります。必要に応じて、弁護士など専門家のサポートを得ることをおすすめします。60代の離婚は人生の大きな転機となるため、リスクを最小限に抑えつつ、新たな人生設計を描けるよう慎重に進めることが重要です。
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