相続は家族にとって重要な出来事ですが、兄弟間で不公平が生じることがあります。
親が亡くなった後、相続の分配に不満を感じたり、兄弟間で意見の相違が生じたりして、家族関係に亀裂が入ってしまうケースも少なくありません。
そこで、この記事では、相続で兄弟間に不公平がある場合の対処法について、弁護士の視点から詳しく解説します。
この記事を読むことで、相続における兄弟間の不公平な状況に直面した際の適切な対応策を理解し、公平な相続を実現するための具体的な方法を学ぶことができます。
兄弟間の不公平な相続の典型例
相続における兄弟間の不公平は、多くの家族で見られる問題です。親の遺産を分配する際、様々な要因により兄弟姉妹間で不平等が生じることがあります。典型的なケースを紹介します。
遺産分割案が不公平なケース
まず、不公平な遺産分割案が提示されるケースはよくあります。
例えば、長男や長女などの長子に偏重した遺産分配が挙げられます。家督相続などの古典的な価値観に基づいて、長子が多くの財産を受け取ろうとするケースです。
また、親と同居していた子どもが家や土地を相続し、他の兄弟は限られた預金のみを受け取ることで不公平な相続となるパターンも珍しくありません。
多額の生前贈与があるケース
さらに、生前贈与の偏りによる不公平も見られます。例えば、親が特定の子どもの住宅購入や事業資金のために多額の援助をしていた場合、他の兄弟との間に大きな格差が生じることがあります。
偏った遺言があるケース
遺言書による不公平な相続も典型的なパターンの一つです。親が特定の子どもを贔屓して、他の子どもの相続分を極端に少なくしたり、完全に相続から除外したりすることがあります。このような場合、遺留分の問題が発生する可能性が高くなります。
特定の子が生前に親の療養監護をしていたケース
一方で、親の介護や世話を一手に引き受けた子どもがいるにもかかわらず、法定相続分に沿った遺産分割を進めることで、不公平な相続となるケースもあります。
遺産分割案が不公平である場合の対応
兄弟が提示する遺産分割案が不公平であると感じた場合、慎重に対応することが重要です。
遺産分割案の不公平に直面した際は、法的手段も視野に入れた冷静な対応が求められます。弁護士のサポートを受けながら、公平な相続の実現を目指すことが重要です。
遺産分割案に安易に同意しない
相続における兄弟間の不公平に直面した際、遺産分割案に安易に同意することは避けるべきです。遺産分割案が提示されたとしても、即座に承諾せず、慎重に検討する時間を設けることが重要です。不公平と感じる分割案に同意してしまうと、後から覆すことが困難になるため、十分な熟慮が必要です。
遺産目録を作成して遺産の全容を明確にさせる
遺産目録の作成は、相続における兄弟間の不公平を解消するための重要なステップです。
被相続人の財産全体を把握することで、公平な遺産分割案を検討することができます。また、遺産目録を作成することで、表面化していない遺産が発見されることもあります。
遺産目録には、不動産、預貯金、有価証券、借金など、あらゆる財産を漏れなく記載します。特に注意すべき点は、被相続人の生前贈与がある場合には、生前贈与を裏付ける証拠があるかを確認しておきましょう。
遺産目録の作成を通じて、相続財産の全容が明確になり、公平な遺産分割に向けた具体的な協議を進めることができます。
希望する分割案を明確にする
相続における兄弟間の不公平を解消するためには、自分が希望する分割案を明確に示すことが重要です。まず、遺産の全容を把握した上で、自身の立場や状況を考慮し、具体的な数字を含めた分割案を作成しましょう。この際、単に自分の取り分を主張するだけでなく、他の相続人の事情も考慮に入れた公平性のある提案を心がけることが大切です。
分割案を作成する際は、不動産や預貯金、有価証券などの資産の種類ごとに、誰がどの程度の割合で相続するかを明確にします。
さらに、自身の希望する分割案の根拠や理由を明確に説明できるよう準備しておくことも重要です。例えば、被相続人の生前の意思や、自身の貢献度、生前贈与の有無などを論理的に説明できれば、他の相続人の理解を得やすくなります。
希望する分割案を明確にすることで、話し合いの土台ができ、兄弟間での建設的な議論が可能となります。これにより、兄弟間の不公平感を軽減させ、円滑な相続手続きにつながる可能性が高まります。
話合いが難航すれば遺産分割調停を申し立てる
兄弟間の話合いによる解決が難しい場合、遺産分割調停の申立てを検討することになります。
調停手続では、家庭裁判所の調停委員が中立的な立場から当事者間の話し合いを促し、合意形成を目指します。この手続きは、家庭裁判所が関与することで公平性が担保され、調停委員の助言を得られる利点があります。
調停で合意に至らない場合は、審判手続きに移行することもあります。審判では、裁判官が当事者の主張と証拠を踏まえて遺産分割の終局的な判断を下します。
遺産分割調停は、法的な枠組みの中で公平な解決を図る手段として有効です。ただし、調停の申立てを行う前に、可能な限り当事者間での話合いを尽くすことが望ましいでしょう。弁護士のアドバイスを受けながら、慎重に進めることが重要です。
生前贈与により不公平がある場合の対応
生前贈与による相続の不公平は、しばしば兄弟間の争いの原因となります。
親が生前に特定の子に多額の財産を贈与していた場合、相続時に他の兄弟姉妹との間で不公平が生じる可能性があります。このような状況では、生前贈与を特別受益として相続分の調整をすることが考えられます。
また、生前贈与が著しく多額で、他の相続人の遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害額請求権を行使することも考えられます。
特別受益により相続分を調整する
相続人が被相続人から贈与を生前に受けた場合に、その贈与財産を遺産の前渡しとして、相続人の相続分を調整することがあります。これを特別受益の持ち戻しと言います。
例えば、相続人が兄弟2人で、兄が生前に1000万円の贈与を受けており、相続時の遺産が2000万円である場合を想定します。この場合、遺産2000万円に贈与額1000万円を加算し、これを兄弟間で均等に割ります。兄は既に1000万円の贈与を受けていますから、1500万円から生前贈与額の1000万円を控除した500万円を受け取ることになります。他方で、弟は1500万円を受け取ることができます。
ただ、特別受益の存在を主張する場合は、贈与の事実や金額を証明する必要があります。贈与契約書や振込記録などの客観的な証拠が重要となります。
生前贈与が多額であれば遺留分侵害額請求を行使する
生前贈与が多額であり、相続における兄弟間の不公平が著しい場合、遺留分侵害額請求を行使することが考えられます。
遺留分とは、法定相続人に保障される最低限の相続分のことで、その遺留分割合は法定相続分の2分の1にあたります。なお、被相続人の子供や両親には遺留分が認められますが、被相続人の兄弟姉妹には遺留分は認められませんので注意が必要です。
遺留分侵害額請求を行使する際は、まず遺留分侵害額を算定します。
遺留分の侵害額を計算する上で、相続時の遺産額に被相続人の生前贈与の価額も加算します。ここで加算される生前贈与は、すべての生前贈与ではなく、相続人に対する贈与であれば相続開始前10年間に限定されるため注意が必要です。ただ、遺留分を侵害することを知っていた場合には、10年以上前の贈与も対象となります。
遺留分請求は、相続開始と遺留分の侵害を知った時から1年以内、または相続開始から10年以内に行使する必要があります。そのため、遺留分を侵害する生前贈与があった場合には、遺留分の時効に留意しながら、進めていくことが必要となります。
遺言書により不公平がある場合の対応
遺言書の内容が不公平なものであれば、兄弟間の争いを引き起こします。
遺留分の侵害があれば遺留分侵害額請求をする
遺留分制度は、一定の相続人に最低限の相続権を保障するものです。遺言の内容が、被相続人の子の遺留分を侵害している場合、遺留分侵害額請求を行使することができます。
遺言無効を主張して不公平を是正する
遺言書の存在により相続の不公平が生じている場合、遺言それ自体の効力を否定することで、不公平を是正する方法があります。
遺言無効の主張は、遺言の形式的要件や遺言能力に問題がある場合に認められます。
形式的要件の不備としては、遺言書の作成方法が民法で定められた方式に従っていない場合が挙げられます。例えば、自筆証書遺言であれば、全文自筆でない、日付がない、署名押印がないなどの不備があれば無効となる可能性があります。
遺言者の意思能力が欠如していた場合や、詐欺・強迫により作成された遺言も無効となります。認知症が進行し判断能力が不十分な親が作成した遺言が該当します。
遺言が無効となった場合、法定相続分に基づく相続か、別の有効な遺言に基づく相続が行われることになります。これにより、不公平な相続分配を是正できる可能性があります。
生前に親の療養監護をしていた場合の対応
特定の相続人のみが、親の介護や看病に多くの時間と労力を費やしている場合、その相続人の特別の寄与を考慮せずに遺産分割をすると、兄弟間で不公平が生じることがあります。
このような不公平を解消するためには、寄与分を主張することが挙げられます。
寄与分を主張して相続分を調整する
寄与分は、被相続人の療養看護や財産の維持増加に特別の寄与をした相続人が、その貢献に応じて相続分を増やすことができる制度です。
親の介護や事業の手伝いなどで多大な貢献をした相続人がいる場合、寄与分の主張をすることで具体的相続分の調整を図ることができます。
ただ、寄与分の主張は、単に親と同居をした、介護をしたという事情だけで簡単に認定されるものではありません。寄与分といえるためには、通常期待される親族間の扶養義務の範囲を超える特別の寄与でなくてはなりません。また、寄与行為が相当期間に及び、専従性があるか否かも判断の事情となります。
寄与分の主張が認められれば、寄与分を持つ相続人は寄与分の金額だけ具体的相続分が増えるため、兄弟間の不公平を解消することが期待できます。
調停・審判を通じ寄与分を確定させる
相続における寄与分の確定は、調停や審判を通じて行われることがあります。
相続人間の話し合いにより寄与分の合意が成立しない場合、遺産分割調停の申立てを行い、遺産分割調停の手続内で寄与分の主張を具体的に行います。
調停手続を通じても合意に至らない場合には、調停は不成立となり審判手続に移ります。
寄与分が争点となっている場合には、審判移行に際して、寄与分の処分を定める審判申立てを行います。審判手続では、裁判官が当事者の主張や証拠を基に寄与分の有無と金額を判断します。
兄弟間の不公平な相続を回避するポイント
相続における兄弟間の不公平を回避するためには、生前の準備と適切な対応が重要です。
以下で紹介するポイントを押さえることで、兄弟間の不公平な相続を回避し、円満な相続を実現する可能性が高まります。
相続財産を生前に目録にしておく
相続財産の全容を明確にしておくことは、公平な遺産分割を実現する上で極めて重要です。
被相続人が、生前に相続財産の目録や一覧表を作成しておくことで、相続開始後の混乱や兄弟間の不公平を防ぐことができます。
目録作成の際は、不動産、預貯金、有価証券、生命保険、貴金属、美術品など、あらゆる資産を漏れなく記載することが肝要です。特に、預貯金口座の情報や不動産の所在地、評価額などを詳細に記録しておくと、相続人全員が財産の全体像を正確に把握できます。
また、負債についても明記することが大切です。住宅ローンや事業資金の借入れなど、債務の存在を事前に把握しておくことで、相続開始後の予期せぬ問題を回避できます。
さらに、生前贈与の履歴も目録に含めることをお勧めします。特定の相続人への贈与が行われていた場合、それを特別受益として考慮することで、公平な遺産分割を実現させることができます。
このような事前の準備により、相続開始後の財産調査にかかる時間と労力を大幅に削減できるとともに、兄弟間の情報格差を解消することができ、兄弟間の不公平を未然に防ぐことができるのです。
遺留分にも配慮した公正証書遺言を作成する
遺留分を考慮した公正証書遺言の作成は、兄弟間の不公平な相続を防ぐ有効な手段です。
公正証書遺言は、公証役場で作成する遺言の一つです。公正証書遺言は、法律の専門家である公証人によって作成されるため、自筆証書遺言のように遺言の形式的な要件が欠落するような事態は生じませんし、内容が不明確となるようなこともありません。
ただ、先ほど解説したように特定の相続人のみに相続させる遺言は遺留分の問題を引き起こします。そこで、兄弟間の不公平を緩和させるために、遺留分の問題を踏まえて遺言を作成します。
具体的には、まず相続財産の全体像を把握し、各相続人の法定相続分を計算します。その上で、相続開始までに相続財産が目減りすることも踏まえながら、相続人の遺留分額を試算し、遺留分額以上の財産を承継するような遺言書案を策定します。
このように遺留分にも配慮した遺言を作成することで、兄弟間の不公平を緩和させることができますが、完全に不公平を解消できるものではありません。
親の介護について協議しておく
親の介護は相続における不公平の原因となりやすい問題です。
介護を担当した兄弟が、遺産分割協議において、寄与分の主張立証が十分にできないことを理由に、公平さを欠いてしまうケースも珍しくなく、他の兄弟との間で軋轢を生む可能性があります。
このような事態を避けるためには、親が元気なうちに家族全員で介護について話し合っておくことが重要です。具体的には、誰が主に介護を担当するのか、その負担をどのように分担するのか、介護に伴う経済的負担をどう処理するのかなどを明確にしておくべきです。また、介護を担当する兄弟に対する相続での配慮についても、家族間で話し合いをしておくことが望ましいでしょう。
兄弟間の遺産分割の問題は難波みなみ法律事務所へ

まず、遺産分割案が不公平だと感じた場合は、安易に同意せず、遺産目録の作成を求め、希望する分割案を明確にすることが重要です。話し合いが難航する場合は、遺産分割調停の申し立てを検討しましょう。
生前贈与による不公平がある場合は、特別受益による相続分の調整や、遺留分侵害額請求の行使が有効な手段となります。また、遺言書による不公平に対しては、遺留分侵害額請求や遺言無効の主張が考えられます。
親の療養監護をしていた場合は、寄与分を主張して相続分を調整することができます。
最後に、兄弟間の不公平な相続を未然に防ぐためには、相続財産の生前目録作成、遺留分に配慮した公正証書遺言の作成、親の介護についての事前協議が効果的です。これらの対策を講じることで、将来の兄弟間の争いを回避し、円滑な相続を実現することができます。
相続問題は複雑で感情的になりやすいため、弁護士のアドバイスを受けながら冷静に対応することが大切です。家族の信頼関係を守りつつ、公平な相続を実現するために、本記事で紹介した対処法を参考にしていただければ幸いです。
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