借地の地代が、何十年も据え置きで固定資産税にも足りない、周辺の地代相場と乖離して明らかに安すぎる、こうした地主からのご相談は、地価や公租公課の上昇を背景に近年特に増えています。
逆に、借地人側からも「地主から突然大幅な値上げを通告されたが応じるべきか」というご相談も少なくありません。
借地の地代は、建物賃料と同様に一定の要件を満たせば地代増額請求ができます。ただし、根拠条文は建物賃料の借地借家法32条ではなく、借地借家法11条です。土地特有の判断要素や、実務上注意すべき判例も多数あります。
本記事では、地代増額請求の要件、重要判例、交渉から訴訟までの流れを、不動産分野を多く取り扱う弁護士が解説します。
地代増額請求の法的根拠|借地借家法11条
借地の地代増額請求は、借地借家法11条1項に基づく権利です。同条は、一定期間地代を増額しない旨の特約がある場合を除き、現行地代が次のような事情の変動により不相当となったときに、将来に向かって地代の増減を請求できると定めています。平成4年8月1日より前に締結された借地契約には借地法12条が適用されますが、その要件・効果は借地借家法とほぼ同じです。
- 土地に対する租税その他の公課の増減
- 土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動
- 近傍類似の土地の地代等との比較
地代増額請求権は形成権であり、口頭でも書面でも行使できます。ただし、口頭による請求ではなく、証拠を確保するために、内容証明などの書面により賃料増額請求権を行使するべきです。
なお、建物の賃料増減額については賃料値上げに上限はあるのか?賃料増額の正当な理由や流れを弁護士が解説でも解説しています。
地代の増額が認められやすいケース
実務上、次のような事情が存在する場合には、地代増額が認められやすくなります。
- 借地契約締結または最終合意時から相当期間(10年〜20年以上)が経過している
- 固定資産税評価額が当初から大きく上昇している
- 現行地代が固定資産税・都市計画税の合計額を下回っている
- 周辺の新規地代の水準と現行地代が大きく乖離している
- 再開発・駅前整備・用途地域変更などで地価が顕著に上昇している
不増額特約・不減額特約の取り扱い
借地契約に「一定期間地代を増額しない」旨の特約(不増額特約)がある場合、その期間中は地代増額請求ができません(借地借家法11条1項ただし書)。
しかし、不増額特約があれば常に地代増額請求できないわけではありません。例えば、不増額特約が対象としている期間がかなり長期間で、その間に経済事情の変動が生じた場合には、不増額特約があっても地代増額請求することができます。ただ、不増額特約があると、地代増額請求を難しくするため、安易に不増額特約を結ぶことは避けるべきです。
一方、「一定期間地代を減額しない」旨の特約(不減額特約)があっても、借地人に不利な特約となるため、不減額特約は無効となります。借地借家法11条1項本文は強行規定であり、当事者の特約によりその適用を排除できないためです(最判平成16年6月29日)。
地代増額の拒否で契約更新を拒否できるか?
貸主から「地代増額に応じなければ契約を更新しない」と言われ、不安に思う借地人の方がいらっしゃいます。しかし、これは法的に正確ではありません。
借地借家法のもとでは、契約期間が満了しても借地上に建物がある限り、原則として借地契約は法定更新されます(借地借家法5条)。貸主が借地契約の更新を拒否するためには「正当事由」が必要で、そのハードルは極めて高いとされています。建物賃貸借における正当事由の考え方は賃貸物件の立退きを求める「正当事由」とは?で解説しており、借地の更新拒絶でも同様の枠組みが採用されます。
つまり、借主が地代増額に同意しないだけで、先ほどの正当事由を充足させることは困難であるため、地代増額の拒否を理由に、更新拒絶をすることはできません。
地代増額の確定までの地代の扱い
地主が増額請求した場合の借地人の対応
地代の増額を正当とする裁判が確定するまでは、借地人は自ら相当と考える地代の額を支払えば足ります(借地借家法11条2項本文)。ただし、借主が現行の地代額を相当と考えるなら現行の地代額を支払えば足りますが、それより低額の地代を支払うことはできません。
地主が支払額の受領を拒否したとしても、借地人は法務局に供託することで債務不履行の責任を免れることができます(民法494条)。
借地人が減額請求した場合の地主の対応
裁判確定までは、地主は自ら相当と考える地代額を借地人に請求できます(同条3項本文)。通常は、現行の地代額を請求します。
ただ、借地人が地主の相当と考える地代額、つまり、現行地代額を支払わない場合は地代不払いとなり、賃貸借契約の解除が認められることがあります。借地人側にも、相当額の支払いを怠れば契約解除のリスクが生じる点に注意が必要です。
確定後の精算と年1割の利息
裁判により新地代が確定した場合のうち、増額が認められた場合には、借地人は不足額に年1割の利息を付して支払う必要があります(借地借家法11条2項ただし書)他方で、減額が認められた場合、地主は超過受領額に年1割の利息を付けて返還する必要があります(同条3項ただし書)地代の増減額の問題が長期化すると、利息負担も無視できなくなるため、早期の解決が双方にとって望ましいといえます。
公租公課を下回る支払額は債務の本旨に従った履行とはいえない
先ほど解説したように、借地人は、地代増額請求を受けたとしても、裁判確定までは自ら相当と考える額を支払えば足り、支払賃料が適正賃料を下回ったとしても債務不履行にはならないのが原則です。
しかし、借地人の支払額が公租公課(固定資産税・都市計画税)の額を下回ることを知っていた場合は、債務の本旨に従った履行とはいえないと判断される可能性があります。つまり、適正賃料額よりも著しく低額な賃料を長期間にわたって支払い続ける場合には、信頼関係の破壊を破壊するものとして、賃貸借契約の解除理由となる可能性があります。
最判平成8年7月12日
賃借人が自らの支払額が公租公課等の額を下回ることを知っていたときには、賃借人が右の額を主観的に相当と認めていたとしても、特段の事情のない限り、債務の本旨に従った履行をしたということはできない。
地代の算定方法|継続地代の鑑定実務
地代増額確認訴訟では、不動産鑑定士による継続地代の鑑定が実施されるのが一般的です。鑑定実務では、次のような複数の手法を併用して適正地代を算定します。
| 手法 | 内容 |
| 差額配分法 | 適正地代と現行地代との差額を、契約内容や契約締結の経緯などの事情を総合的に勘案して、差額のうち賃貸人に帰属するべき金額を現行賃料に加算する方法。 |
| スライド法 | 直近合意地代を基準に公租公課・物価指数の変動率を乗じて算定現行の地代を基準にして、最終合意時以後の物価指数、公租公課の変動率、土地価格の変動指数等の指数を掛けて算出された金額に必要経費を加算する方法。 |
| 利回り法 | 土地の基礎価格に期待利回りを掛けて得た純地代に必要経費(公租公課、維持管理費等)を加算して算出する方法 |
| 賃貸事例比較法 | 近隣の同種同等の地代相場と比較したうえで、個別要因による補正修正を行って地代を算出する方法 |
| 公租公課倍率法 | 固定資産税・都市計画税の額に一定倍率(居住用借地であれば固定資産税・都市計画税の公租公課の概ね3倍前後、事業用借地であれば2.5倍前後(目安))を乗じる方法 |
これらを総合考慮して継続地代を決めるため、主観的に「いくらが妥当」と決めつけることはできません。
地代増額請求の進め方|4つのステップ
STEP1:内容証明郵便による意思表示
地主はまず借地人に対し、地代増額を求める旨と新地代の金額とその理由を内容証明郵便で通知します。
意思表示が到達した時点が、将来増額が認められた場合の効力発生の起算点となります(最判昭和45年6月4日)。共同借地人がいる場合は、全員に対して意思表示を行うことを忘れないでください(最判昭和50年10月2日)。内容証明の書き方については立ち退き交渉時の内容証明の書き方を文例付きで弁護士が解説もご参照ください。
STEP2:当事者間の協議
通知後、借地人と協議を行います。合意に至れば、新地代・改定時期を明記した地代改定合意書を取り交わして終了です。
STEP3:民事調停の申立て(調停前置主義)
借地人との協議を経ても合意できない場合や借地人から応答がないような場合、いきなり訴訟を提起することはできません。まず民事調停を申し立てる必要があります(民事調停法24条の2第1項、調停前置主義)。仮に調停を経ずに訴訟を提起しても、裁判所は原則として調停に付する判断をします(同条第2項)。
調停は、裁判官と2人の調停委員から成る調停委員会で行われ、調停委員には不動産取引・評価に専門的知識を有する者(不動産鑑定士や弁護士)が選任されます。調停成立時には調停調書が作成され、裁判上の和解(確定判決)と同一の効力を有します(民事調停法16条)。
他方で、調停期日を重ねても話し合いによる解決が図れないと判断される場合には、調停は不成立となり調停手続は終了することになります。
STEP4:地代増額(減額)確認訴訟
調停が不調に終わった場合、地方裁判所に地代増額請求の訴えを提起します。訴訟では、地代増額の必要性があること、貸主が主張する増額地代が適正地代であることを具体的な証拠に基づいて主張することが必要となります。通常は、不動産鑑定士による継続地代の鑑定が実施されるのが通常です。
話し合いによる解決が難しい場合には、裁判所が選任する不動産鑑定士による鑑定(公的鑑定)を、実施する場合があります。
弁護士に依頼するメリット
借地の地代増額請求は、直近合意時点からの事情変更の有無などの要件の立証、近傍類似の地代の調査、鑑定資料の準備、調停・訴訟対応など、高度な専門性が求められる手続です。
当事務所では、地主・借地人双方の立場から、以下の対応をワンストップで行っています。
- 地代増額・減額の見込みについての事前検討
- 配達証明付内容証明郵便の作成・送付(共同借地人への対応含む)
- 相手方との交渉代理
- 民事調停・地代増額(減額)確認訴訟の対応
- 不動産鑑定士との連携・鑑定資料の準備
- 供託手続のアドバイス
不動産案件の弁護士費用についてはこちらをご覧ください。
地代増額請求の問題は難波みなみ法律事務所へ

借地の地代増額請求は、借地借家法11条の要件を満たす限り地主の正当な権利として認められ、借地人にも減額請求権が認められています。しかし、地代増額請求の問題には、専門的な論点が数多くあります。当事者間だけで進めると、不十分な意思表示で効力が生じない、賃料不払いで解除されるといった想定外の事態を招きかねません。
地主・借地人いずれの立場からも、地代の見直しをご検討の際は、早期の弁護士相談が適正な解決への近道です。
大阪なんば・心斎橋の難波みなみ法律事務所では、初回30分無料で法律相談を承っております。電話・LINE・Zoomでのご相談にも対応していますので、お気軽にお問い合わせください。








