定期借家契約は、期間満了によって更新されることなく確定的に終了する建物賃貸借です。期間満了後も同じ賃借人と契約関係を継続したい場合、普通借家のように「更新」するのではなく、新たに契約を結び直す「再契約」という方法をとる必要があります。
ここで多くのオーナーが見落としがちなのが、再契約は法的には完全に新規の契約であるという点に加え、進め方を誤ると、定期借家としての効力自体が失われ、普通借家契約と評価されてしまうリスクがあることです。実際に、終了通知の失念や契約条項の不備により、定期借家性が裁判所に否定された事例が複数存在します。
本記事では、定期借家契約の再契約に潜む実務上の「落とし穴」と注意点について、不動産分野を多く取り扱う弁護士が裁判例を交えて解説します。定期借家契約の基本的な仕組みについては定期借家契約とは?借地借家法38条の改正法や事前説明を解説もあわせてご覧ください。
「更新」と「再契約」の根本的な違い
普通借家契約と定期借家契約では、期間満了時の処理がまったく異なります。
| 項目 | 普通借家の更新 | 定期借家の再契約 |
| 法的性質 | 既存契約の継続 | 新規契約の締結 |
| 手続 | 合意のみで足りる(口頭でも可) | 書面契約・事前説明書面・通知が必要 |
| 当事者の義務 | 法定更新があり、貸主は正当事由なしに拒否不可 | 再契約義務はない。当事者が合意しなければ終了 |
| 賃料・条件 | 原則として従前の条件を引き継ぐ | 一から自由に設定可能 |
| 借主の権利保護 | 強力に保護される | 法定更新の保護なし |
定期借家の制度趣旨は「期間が満了したら、正当事由や法定更新は一切問題とならず、無条件で確定的に契約が終了する」という点にあります。再契約はあくまで、終了した契約とは別の新規契約として締結されるものです。
再契約時に必要な3つの要件と注意点
定期借家契約の再契約を有効に成立させるには、当初契約と同じく次の3つの要件を満たす必要があります。
① 書面(公正証書等)による契約
再契約も定期借家とするのであれば、再契約も書面によって締結しなければなりません(借地借家法38条1項)。
条文上は「公正証書による等書面によって」とされており、必ずしも公正証書である必要はありませんが、確実性を高めるなら公正証書の活用も検討します。
② 更新がない旨の事前説明書面の交付
貸主は、再契約の締結までに、賃借人に対して「更新がなく、期間満了により賃貸借が終了する」旨を記載した書面を交付して説明しなければなりません(借地借家法38条3項)。事前説明書面は契約書とは別個独立の書面であることが要件とされており、「再契約だから前回の事前説明で足りる」「契約書の中に説明文を入れたから不要」という運用は通用しません。再契約のたびに、必ず賃貸借契約書とは独立の書面で事前説明を行う必要があります。
③ 期間満了の通知(期間1年以上の場合)
当初契約の期間が1年以上の場合、貸主は当初契約の期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に、賃借人に対して「期間満了により賃貸借が終了する」旨を通知しなければなりません(借地借家法38条6項)。
たとえば、令和7年1月1日から令和8年12月31日までの期間2年の定期借家契約であれば、貸主は借家人に対し令和8年1月1日から6月30日までの間に契約終了の通知をしなければなりません。
通知は口頭で行うこともできますが、後日の証拠のため配達証明付内容証明郵便で行うのが安全です。
自動更新条項は規定しない
定期借家契約のタイトルを付けながら、契約期間について「契約違反がない場合は自動更新」といった自動更新条項を設けてしまうと、これは更新を想定した条項であり、定期借家の中核要件である更新否定条項と矛盾します。
このような更新条項を設けてしまうと、定期借家ではなく普通借家が成立していると解されるリスクがあるため、契約書やその他の書面に自動更新条項を定めることは避けなければなりません。
東京地裁平成20年6月20日判決
契約書には、「本契約は平成12年3月1日制定の定期借家制度に基づくものとする。」との条項を定めながら、契約更新に関する条項も定めていた事例で、建物賃貸借契約が定期借家契約と認められるか否かが争いになりました。裁判所は、定期建物賃貸借が建物賃借人の権利を大きく制約するものであることから、契約書面上、契約の更新がない旨が一義的に明示されていることを要すると解すべきであるとして、契約書面上、契約の更新がない旨が一義的に明示されているとはいえないから、定期借家契約は成立していないと判断しました。
再契約の約束文言は定めない
賃借人側から定期借家を受け入れる代わりに再契約を約束して欲しいと要望されることがあります。
しかし、このような条項を入れることは絶対に避けるべきです。定期借家契約は「契約の更新がない」ことを本質としているため、再契約を約束する規定は定期借家契約の本質と整合しません。そのため、再契約を約束した場合、定期借家契約ではなく普通借家契約と判断されるリスクがあります。
この再契約の約束は、書面ではなく口頭であっても控えるべきです。仲介現場で「この物件は定期借家ですが、再契約できますよ」と借主に告げたところ、借主側がその状況を録音していた場合には、たとえ書面で約束していなかったとしても、再契約の合意が録音により証明されてしまうからです。
終了通知の送付時の注意点
終了通知を失念した場合のリスク
再契約をめぐる実務で深刻なトラブルが、終了通知の失念です。借地借家法38条6項ただし書により、通知が遅れても定期借家契約であること自体は失われませんが、通知時点から6ヶ月を経過してはじめて終了を対抗できることになります。
問題は、通知失念が年単位で長期化した場合です。賃借人が長期にわたって建物を使用し続け、貸主が従前の賃料を異議なく受領し続けると、その期間中に* 「黙示の普通借家契約」が成立したと評価されるリスクがあります。
東京地判平成27年2月24日
この事案では、最初の定期借家契約(①)について貸主が終了通知を出し忘れ、賃借人が期間満了後も3年間にわたって建物を使用し続けていました。その後、当事者間の協議により、新たに2回目(②)・3回目(③)の定期借家契約が締結されました。
しかし裁判所は、3年間の使用継続期間中に当事者間で普通借家契約の合意が成立したと判断し、その後に結ばれた②も③の各定期借家契約はいずれも無効としました。つまり、現に有効に存在するのは普通借家契約であり、当事者は正当事由がなければ契約を終了できないことになります。
この裁判例が示すのは、終了通知の失念は単なる通知の遅れではなく、定期借家契約スキーム全体が崩壊するリスクを孕んでいるということです。そのため、終了通知の遅れを安易に捉えることは避けるべきであり、万が一終了通知の遅れがあった場合には、速やかに終了通知を発することが重要です。
終了通知に「再契約希望」も併記する
再契約を希望するオーナーは、終了通知をする際に「期間満了により賃貸借は終了する」旨だけでなく、「再契約を行いたい」旨も併せて通知することも実務上よくあります。加えて、再契約の条件も具体的に明記しておくことが望ましいでしょう。なぜなら、賃借人にとって、再契約できるのか、できるとしてどのような契約条件となるのかを早い時期に知ることができれば、転居するべきか、転居先の検討、子供の転校などを早期に検討することができるため、賃借人との無用な対立を避けることができるからです。
期間延長合意は避けるべき
定期借家契約の期間満了前に、借主から、契約期間満了時までに明渡しができないことから、定期借家契約の期間延長を求められることが稀にあります。
しかし、定期借家は、期間満了により確定的に終了する賃貸借契約です。それにもかかわらず、契約期間の延長をしてしまうと、定期借家ではなく普通借家と解釈されてしまうおそれがあります。そのため、借主から、なんらかの理由で契約期間の延長を求められたとしても、これは避けるべきです。仮に、期間延長を許容するとしても、数週間から1ヶ月程度の短期で、1回限りの延長にとどめるべきです。また、その場合にも、書面を取り交わしておくことが肝要です。
再契約をしない選択肢をする場合
定期借家契約において、賃貸人には再契約を締結する義務はありません。これは普通借家契約とは決定的に異なる点であり、定期借家を選ぶ最大のメリットでもあります。
次のような場合、オーナーは合理的に再契約を拒否する判断ができます。
- 賃料の遅延・滞納が繰り返されている
- 用法違反(無断改造、ペット飼育違反など)がある
- 近隣からのクレームや迷惑行為が多い
- 建物の建替えや売却を計画している
- 自己使用や親族の使用を予定している
- 賃料の増額に賃借人が拒否している
普通借家契約であれば、これらの事情があっても「正当事由」のハードルが高く、賃借人に対して退去を求めにくいケースが多くあります。普通借家における正当事由の考え方は賃貸物件の立退きを求める「正当事由」とは?貸主が知るべき法的根拠と交渉の進め方で解説していますが、定期借家であれば正当事由を検討することなく期間満了により契約を確定的に終了させることができます。
ただし、定期借家性そのものが認められなければ、この最大のメリットは失われます。前述で解説したとおり、契約条項の不備や運用上の落とし穴により定期借家性を否定されないよう、契約設計と運用には細心の注意が必要です。
明渡しを求める場面では、立ち退き交渉を円滑に進める全手順も参考に、誠実な対応を心がけることをおすすめします。
賃借人の立場から見た再契約の注意点
再契約に関するご相談は、賃借人側からも寄せられます。
- 「再契約したいが、応じてもらえるか不安」
- 「再契約時に賃料を大幅に上げられた」
- 「再契約時に高額な初期費用を求められた」
- 「不利な特約の締結を求められた」
賃借人は、定期借家契約は期間満了で確定的に終了してしまうため、再契約を強制する権利を持っていません。
ただし、大幅な賃料の増額に応じる義務もありません。近隣の賃料相場を客観的に示し、合理的な水準での再契約条件を提示するなど、冷静に交渉することが必要です。それでもなお、賃貸人の契約条件との差を埋められない場合には、再契約は断念せざるを得ません。
一方で、貸主側に前述のような契約上・運用上の不備がある場合には、そもそも定期借家性が否定されるため、再契約ではなく普通借家であることを主張できる可能性もあります。契約書や運用に疑問がある場合は、早期に弁護士に確認することをおすすめします。
弁護士に依頼するメリット
定期借家契約の再契約は、形式的な手続のように見えて、実際には専門性が求められる場面もあります。とりわけ、本記事で紹介したような裁判例の蓄積を踏まえた契約設計と運用が不可欠です。
当事務所では、以下の対応を行っています。
- 再契約書・事前説明書面の作成・チェック
- 終了通知のタイミング・文面のアドバイス
- 自動更新条項・更新料条項などリスクある条項の点検
- 期間延長合意の可否判断
- 再契約しない場合の賃借人対応・明渡し交渉
- 終了通知を失念した時の対応
- 再契約をめぐるトラブルの交渉・訴訟対応
不動産案件の弁護士費用についてはこちらをご覧ください。
定期借家の問題は難波みなみ法律事務所へ

定期借家契約の再契約は、法的には完全に新規の契約であり、当初契約と同じ厳格な要件を一から満たす必要があります。書面契約・別個独立の事前説明書面の交付・期間満了通知の3要件のいずれかを欠けてしまうと、定期借家としての効力が認められず、結果として更新のある普通借家契約として扱われてしまう可能性もあります。
さらに、本記事で解説したとおり、終了通知の失念、再契約の約束文言、自動更新条項、期間延長合意といった実務上の落とし穴は、いずれも定期借家契約のスキーム全体を崩壊させるリスクを孕んでいます。
「同じ相手との再契約だから簡単」と考えず、当初契約と同じ慎重さで臨むこと、そして契約条項と運用の両面で定期借家の本質に矛盾しないよう注意することが、最善のトラブル回避策です。
大阪なんば・心斎橋の難波みなみ法律事務所では、初回30分無料で法律相談を承っております。電話・LINE・Zoomでのご相談にも対応していますので、お気軽にお問い合わせください。







