不倫問題は離婚の原因となります。離婚原因となった不倫を理由に離婚する場合、不貞行為を行った配偶者に対して財産分与をするべきかが問題となります。
確かに、離婚原因を自ら作った配偶者に対して、財産分与としていくらかを支払うのは、心情的には受け入れにくいでしょう。しかし、結論としては、不貞行為をした配偶者にも財産分与の権利は認められています。
不倫が原因で離婚に至った場合、慰謝料の支払いが求められることが多く、慰謝料と財産分与は別問題として扱われます。
このように、不倫を理由とした慰謝料請求と財産分与は、法律的な枠組みの中で異なる扱いを受けるため、不倫をした妻でも財産分与を請求できます。
本記事では、不倫を理由に離婚する場合の財産分与について解説します。
財産分与とは
財産分与とは、離婚時に夫婦間で共有されている財産を公平に分け合う手続きのことです。
財産分与を行う目的の一つは、離婚後に経済的に安定した生活を送ることができるようにするためです。
財産分与の対象財産
財産分与の対象財産は、夫婦が結婚生活を送る中で共同で築き上げた財産のことを指します。これを夫婦共有財産と呼びます。
共有財産には、結婚中に購入した家や車、預貯金が含まれます。これに対して、結婚前から持っていた財産や親から贈与をされた財産は、特有財産として財産分与の対象から外れます。
このような対象財産を適切に把握し、分け合うことがスムーズな財産分与を実現するための重要なステップです。
財産分与の割合
財産分与の割合は、50:50、つまり、2分の1となります。
仮に、妻が専業主婦であったり、収入の低いパートタイマーであっても、財産分与の割合は均等となります。
なぜなら、財産分与は、婚姻期間中に夫婦が経済的に協力して築いた共有財産を清算するものですから、均等の割合で分配することが夫婦間の公平に適うからです。
不倫(不貞)した配偶者でも財産分与を請求できる
不倫をした配偶者でも、離婚の際の財産分与を請求する権利は失われません。
多くの人が誤解しているかもしれませんが、法律上、不貞行為の有無は財産分与の権利それ自体に影響を与えません。詳細は以下で解説します。
不倫慰謝料と財産分与は別の制度
不倫慰謝料と財産分与は、法律上異なる制度として扱われます。
配偶者が浮気・不倫をした場合、これによって精神的苦痛を受けたことを理由に不法行為の損害賠償を請求します。
一方、財産分与は、結婚生活を通じて夫婦で築いた共有財産を清算する、民法で認められた制度です。このように、財産分与と不倫の慰謝料はそれぞれ別の問題として取り扱われています。
よって、不倫をした配偶者が他方の配偶者よりも財産を持っていない場合には、たとえ不倫をしたとしても、不貞配偶者は被害配偶者に対して財産分与を求めることができます。
慰謝料的要素で財産分与を減額できるのか
慰謝料的要素を考慮して、不貞配偶者に支払うべき財産分与の金額を減額することができるのかが問題となります。
財産分与には、共有財産を清算する清算的な要素だけでなく、配偶者を扶養する扶養的要素に加えて、慰謝料的要素も含まれます。
- 清算的要素
- 扶養的要素
- 慰謝料的要素
慰謝料的要素とは、夫婦の一方の有責行為によって離婚した場合、その離婚自体慰謝料を財産分与に含めることを言います。
この慰謝料的要素を考慮して財産分与の金額を減額される可能性はあります。ただ、慰謝料的要素は、通常、清算的財産分与を加算する方向で考慮されるため、慰謝料は、財産分与とは別途で請求することが妥当でしょう。
不倫をした配偶者の財産分与を回避することは難しい
不倫をした配偶者にも財産分与を請求する権利は認められます。しかし、例外的に不倫配偶者の財産分与を回避する方法があります。ただ、いずれの方法も相手方の同意なくして実現できないため、選択肢としてハードルが高いと言わざるを得ません。
財産分与を放棄させる
不倫をした配偶者に財産分与請求権を放棄してもらう方法です。
財産分与請求権を放棄してもらうことができれば、当然ながら、財産分与をする義務から解放されます。
しかし、財産分与の放棄を強制することはできず、あくまでも配偶者自身の意思に基づくことを要します。不倫を配偶者側において、財産分与の権利を放棄せざるを得ないような理由や放棄した方が利益になるような理由が存在しない限り、配偶者の意思による財産分与請求権の放棄は見込みにくいでしょう。
夫婦財産契約を締結する
夫婦財産契約を締結することで財産分与の請求を回避する方法もあります。
夫婦財産契約とは、結婚しようとする男女が、婚姻中の財産の管理や離婚時の財産分与について、婚姻前に取り決めをする契約をいいます。「婚前契約」と呼ばれることもあります。
夫婦財産契約を締結しておくことで、あらかじめ離婚時に財産分与をしない、あるいは、財産分与の請求に条件を付すことが可能です。
ただし、夫婦財産契約は、あくまでも婚姻届を提出する前に締結しておくことが必要となるため、日本においてはあまり利用例がありません。
そのため、将来の離婚に備えて、結婚前に夫婦財産契約を締結することで、財産分与を回避することは現実的な方法とはいえないでしょう。
不倫がある時の財産分与で注意するべき点
離婚を考えたとき、財産分与は避けられない重要なプロセスです。
財産分与のプロセスにおいて重要な点は、共有財産を正しく把握することです。また、財産分与にも期限があるため、その期限を過ぎている場合には、財産分与の請求に応じる必要はありません。
以下、不貞行為を理由に離婚するときの注意点を解説します。
共有財産を正確に把握する
財産分与では、共有財産を正確に把握することが不可欠です。
同居中から、相手方の銀行口座、生命保険、投資信託、不動産、退職金などの共有財産の情報を漏れなく把握しておくことです。
相手方の共有財産を適切に把握することは、財産分与の負担の軽減に繋がります。
仮に、相手方が財産の開示を拒否する場合には、弁護士を通じて財産情報の開示を求めた上で、それでも拒否するのであれば、裁判所の調査嘱託により財産の調査をします。
特有財産の主張を適切にする
特有財産とは、結婚前から所有していた財産や、相続や贈与により取得した財産のことを指し、財産分与の対象外とされます。
しかし、婚姻中に取得した財産はきょうゆうであると推定されます。そのため、特有財産として認められるためには、これを裏付ける客観的な証拠を揃えておくことが重要です。
特有財産の主張をすることで、財産分与の対象を減らすことに繋がり、財産分与の負担を小さくできます。
財産分与請求は離婚時から2年の期限がある
財産分与は、離婚から2年の期間制限に服します。
具体的には、離婚時から2年以内に財産分与の合意をするか、合意できない場合には離婚調停の申立てをしなければなりません。
もし不倫をした元配偶者から財産分与を求められたとしても、財産分与の請求時点で離婚時から2年が過ぎている場合には、財産分与の請求に応じる必要はありません。
2年が過ぎていないとしても、交渉を進める中で2年が過ぎれば同様に財産分与に応じる必要はありません。
そのため、期間制限の2年が迫っている場合には、不用意に財産分与に応じないように慎重に進めるべきでしょう。
不貞慰謝料を請求すること
不貞配偶者や不倫相手に対して、不貞慰謝料を請求するべきです。
先ほど解説したように、不貞行為をした配偶者も財産分与を求めることができます。財産分与と慰謝料の問題は別の法律上の問題です。
そこで、配偶者や不倫相手に対して、不貞行為の慰謝料をしっかりと請求し、経済的な負担を少しでも軽減させるべきです。
また、不倫相手から不倫慰謝料を回収した後、不貞配偶者から離婚それ自体の慰謝料を回収するように試みるのも選択肢の一つです。
不倫慰謝料を確実に回収するためにも、不倫(不貞行為)を証明できる客観的な証拠と不倫相手の情報を十分に確保しておくことが重要です。
婚姻費用の減額を主張すること
婚姻費用の支払いを求められたとしても、不貞行為を理由に婚姻費用の支払いを拒否する、または、減額を主張するべきです。
不倫を理由に別居した場合、不倫をした配偶者から婚姻費用の請求を受けることがあります。
婚姻費用とは、夫婦が社会生活を送る上で必要となる費用であり、端的に、配偶者と未成熟の子どもの生活費を指します。
本来であれば、別居後から離婚するまで、夫婦の一方は他方に対して婚姻費用を負担する義務を負います。
しかし、配偶者の不貞行為が原因に別居に至った場合には、不貞行為をした配偶者(有責配偶者)からの婚姻費用の請求は認められません。未成熟の子供がいる場合には、子供の養育費の限度でのみ認められます。
そこで、有責配偶者から婚姻費用の支払いを求められても、安易に支払いに応じるのではなく、不貞行為を理由に支払いの減額または拒否する主張をするようにしましょう。
財産分与の流れ
夫婦が離婚する際の財産分与の流れを解説します。
離婚成立前の流れ
まず、離婚が成立する前の財産分与の流れを紹介します。
話し合いをする
夫婦間で財産分与を含めた離婚条件について協議します。
協議を重ねた結果、離婚条件の合意ができれば、協議離婚が成立します。具体的には、夫婦間で合意書や離婚協議書を作成した上で、離婚届を市区町村に提出します。
協議に際しては、夫婦の共有財産をしっかりと整理し、不当な財産分与とならないように注意しましょう。
また、合意が成立する場合には、合意書や公正証書を作成し、合意内容を明瞭にしておくことが大切です。
離婚調停の申立てをする
夫婦間で話し合いを重ねても合意に至らない場合には、離婚調停の申立てをすることになります。
離婚調停は、家庭裁判所の調停委員を通じて、財産分与や離婚慰謝料等の離婚条件に関する調整を行い、合意を目指すプロセスです。
調停委員の仲裁を経て合意に至れば調停離婚となります。裁判所の調停調書には、財産分与や離婚慰謝料に関する合意内容が記載されます。
離婚裁判(離婚訴訟)を進める
離婚調停を経ても調停が成立しなければ、調停は不成立となります。
不成立となれば、離婚裁判を提起することになります。
裁判手続では、当事者双方が主張と立証を繰り返し行い、争点に関する審理を深めていきます。
審理がある程度尽くされると、裁判官が夫婦に対して和解による解決を提案します。和解協議によっても解決しない場合には、当事者尋問をした上で判決となります。
離婚成立後の流れ
離婚時に財産分与を棚上げにした場合、離婚後に財産分与を求めることはできます。
まずは、話し合いをした上で、合意に至らない場合には、調停手続となることは先述と同様です。
財産分与の場合、調停手続が不成立となれば、自動的に審判手続に移行します。
審判手続では、裁判官が当事者の主張と証拠を踏まえて終極的な判断を示します。ただ、審判手続であっても、裁判官から和解の提案が行われることはよくあります。和解の提案があっても合意に至らなければ、裁判官から審判が下されます。
財産分与の問題は弁護士に相談を
配偶者が不貞行為に及んだにもかかわらず、その有責配偶者からの財産分与に応じなければならないというのは心情的に耐えられないことでしょう。
できる限り、経済的な負担を軽減させるためには、専門的な知識と経験が不可欠です。
また、不貞配偶者との交渉にも精神的な負担を招くでしょう。弁護士に相談の上依頼することで、このような精神的な負担の軽減も期待できます。
初回相談30分を無料で実施しています。
面談方法は、ご来所、zoom等、お電話による方法でお受けしています。
お気軽にご相談ください。対応地域は、大阪難波(なんば)、大阪市、大阪府全域、奈良県、和歌山県、その他関西エリアとなっています。