離婚時に問題となるのが財産分与です。
特に、住宅ローンや教育ローンなどの借金がある場合、財産分与において、これら借金をどのように処理するべきなのかが問題となります。
住宅ローン等の借入れが、夫婦生活のために必要なものであれば、財産分与の計算時において考慮することができます。プラスの財産からマイナスの借入を控除するという限りで考慮します。ただ、借金それ自体を財産分与により相手方に負担させることは認められていません。
財産分与をはじめとした離婚問題は、複雑な法律問題を多く含んでいます。一人で抱え込まずに弁護士に相談して進めていきましょう。
財産分与とは
まず、財産分与とは何かを解説します。
財産分与とは、離婚した夫婦が、同居中に協力して築いてきた財産を清算する制度です。
財産分与の対象は、預貯金、保険の解約返戻金、退職金、自宅不動産などの共有財産です。
財産分与で借金を負担させることはできない
財産分与は、夫婦が経済的に協力して得た共有財産を清算するものです。
そのため、借金を夫婦間で分担し合うことを予定していません。
よって、財産分与によって、一方の配偶者が負っている借入の半分を、他方の配偶者に負担させることは原則としてできません。つまり、他方の配偶者は借金の返済義務を負いません。
借金を考慮することはできる
借入の半分を負担させることはできません。
そのため、夫婦にプラスの財産がなく、借金しかない場合には、清算すべき対象財産がないため、財産分与の請求は認められません。
他方で、夫婦にプラスの財産がある場合には、プラスの財産から借金を控除することは認められています。
債務を控除する計算式
例えば、夫のプラスの財産が700万円、借入が300万円、妻のプラスの財産が100万円である場合です。
この場合、夫婦の財産分与の対象財産は、500万円となります。
夫婦の財産分与の分与割合は、原則2分の1ですから、夫婦1人あたりの取得額は250万円となります。具体的には、妻は既に手元に100万円の財産を持っているため、この足らずの部分である150万円をもらうことで、先ほどの取得額250万円を得ることができます。
そのため、夫は妻に対して、150万円を支払うことになります。
【計算式】
分与する金額=(夫のプラスの財産額−夫の借入額+妻のプラス財産額)÷2−手元にある財産+負担する借入額
夫 (700万円−300万円+100万円)÷2−700万円+300万円=−150万円
妻 (700万円−300万円+100万円)÷2−100万円=150万円
オーバーローンしている場合の計算
オーバーローンとは、プラスの財産よりも住宅ローン等の借金が多い場合、つまり、債務超過の場合です。
たとえ、夫婦の一方の共有財産がオーバーローンしていたとしても、そのマイナス部分を相手方に負担させることはできません。この場合には、共有財産の金額はゼロと扱います。
例えば、夫のプラスの財産が700万円、借入が800万円、妻のプラスの財産が100万円である場合です。
この場合、夫の共有財産は-100万円となりますが、ゼロとなります。そのため、妻のプラスの財産を2分の1とする扱いになります。なお、考え方によっては、住宅ローンを自宅不動産以外のプラスの財産と相殺しない見解もあります。
夫 700万円‐800万円=-100万円➡0円
妻 150万円
【結論】妻が夫に対して75万円を分与する。
財産分与で控除できる債務とは
全ての借入を財産分与で控除できるわけではありません。夫婦の共同生活の維持に関係する借入は考慮することができます。しかし、夫婦の共同生活とは関係のない借入は、財産分与において考量することができない可能性があります。
結婚後の資産形成で生じた債務
結婚後に取得した財産は、共有財産として財産分与の対象となります。
この共有財産の取得に伴って負った借入は、財産分与において考慮することができます。
取得した財産が財産分与の対象となる以上、その取得のための借入も財産分与で考慮するのが公平といえるでしょう。
例えば、自宅不動産の住宅ローンや車のローンが当たります。
生活費や教育費のための借入
資産の形成には繋がらないものの、生活費や教育費の不足を補うためにした借金も、債務として考慮することができます。
生活費のためのカードローンや教育ローンがあたります。
事業の運転資金のための借入
配偶者が個人事業主である場合、個人事業に関する財産も財産分与の対象とすることが多いです。
よくあるのが、売上の入金や経費の支払いのために開設した、個人事業用の預貯金です。
個人事業に関する財産を財産分与の対象とするのであれば、運転資金のための借入についても考慮するのが公平といえます。
そのため、運転資金の借入も財産分与において考慮することもあります。
ギャンブルなどの個人的の借入は控除できない
ギャンブルや個人的な趣味のための借入は、夫婦の共同生活を送る上で必要なものではありません。
そのため、ギャンブルなどの個人的な借入れは財産分与において考慮することはできません。
また、亡くなった人の債務を相続した場合、その相続債務も、夫婦の共同生活の維持に必要な債務とはいえません。
そのため、相続債務も財産分与において控除できる債務にはなりません。
配偶者の借金を負担する3つのケース
財産分与で配偶者の借金を負担することはないとしても、3つのケースに当てはまる場合には配偶者の借金の返済義務を負います。
連帯保証人になっている場合
配偶者の借金について、連帯保証人となっている場合には、離婚後もその借金の返済義務を負います。
連帯保証とは、本来の債務者と一緒に債務の負担をすることを言います。婚姻期間中に、配偶者の借金について、連帯保証人となると、たとえ離婚したとしても連帯保証人の責任は継続します。
離婚時に別の第三者に連帯保証人になってもらうなどして、連帯保証人の地位を解消するようにしましょう。
離婚前に相続した場合
離婚成立までに配偶者が死亡した場合、もう一方の配偶者は、死亡した配偶者の債務を承継します。
亡くなった人の配偶者は、常に相続人となります。たとえ、夫婦関係が悪化していたとしても、法律上の夫婦であれば相続人となります。
相続人は、亡くなった人(被相続人)のプラスの財産だけでなく借金等の債務も承継します。
そのため、離婚手続中に配偶者が死亡した場合には、配偶者のプラスの財産と借金額を踏まえて相続放棄するのか承継するのか検討しましょう。
借金が日常家事債務である場合
借入が日常家事債務にあたる場合には、その借入の債権者に対して支払う義務を負うことがあります。
日常家事債務とは
民法では、夫婦の一方が日常の家事に関して取引をした場合、他方の配偶者も、この日常家事に関する責任を負うと定められています。
この日常の家事に関する責任を日常家事債務と呼びます。
日常の家事とは、夫婦の共同生活から生じる事務と考えられています。
- 家庭用の食料品
- 衣料品の購入契約
- 家庭用光熱費
- 自宅の家賃
- 子供の医療費
- 子供の学習教材購入のための立替払委託契約
これらについては、日常家事に関する取引と判断されることが多いでしょう。
他方で、夫婦の共同生活に関係のない、単なる借金や借財は、日常家事に関する法律行為とは評価されないことが多いでしょう。
✓財産分与に関する裁判所の解説はこちら |
財産分与の手続き
財産分与を行う手続には、離婚前と離婚後によっては異なります。
離婚前の財産分与
離婚前に財産分与を求める場合、離婚協議→離婚調停→離婚裁判の各プロセスを進めていきます。
離婚協議
離婚協議に際して、財産分与を含めた離婚条件の話し合いをします。
当事者双方の話し合いにより離婚条件が整えば、離婚届を提出することで協議離婚が成立します。財産分与も含めた離婚条件を明記した合意書を作成することが一般的です。
離婚調停
離婚協議が進展しない場合には、離婚調停の申立てを行います。離婚調停の手続きの中で財産分与の話し合いも行います。
離婚調停では、家庭裁判所の調停委員が当事者双方を仲裁します。
財産分与等の離婚条件が合意できれば、離婚調停が成立します。
離婚裁判
離婚調停が成立しなければ、調停手続きは終了します。
この場合、財産分与も含めた離婚裁判を提起することになります。
離婚裁判では、当事者双方が主張反論を繰り返し審理を進めます。
審理が尽くされた段階で、裁判官から和解の提案が行われます。和解による解決ができなければ、証人尋問を行い判決手続となります。
離婚後の財産分与
離婚時に財産分与を合意する必要はありません。財産分与は離婚後でも行うことはできます。
当事者間で交渉する
当事者間で財産分与の話し合いを行います。
当事者間で合意ができれば、合意書を作成します。合意の内容によって公正証書を作成する場合もあります。
財産分与調停
当事者間の話し合いが進展しなければ、財産分与の調停申立てを行います。
調停委員の仲裁を通じて財産分与の話し合いを進めていきます。
財産分与審判
財産分与の調停が成立しなければ、調停手続きは審判手続きに移行します。
審判手続きは、裁判官が、当事者から提出された主張書面や証拠に基づいて、終局的な判断を下します。調停手続きのように話し合いの要素は薄くなるのが審判手続の特徴です。
財産分与の問題は弁護士に相談しよう
財産分与は、離婚時に対立が激しくなるテーマの一つです。
そして、財産分与の対象となる財産の探索やその金額の評価に加えて、今回のテーマとなった債務の扱いについては、難しい問題を多く含んでいます。
間違った進め方をしてしまうと、本来得られるはずの財産を得られない、あるいは、支払う必要のないにも関わらず、必要以上に支払ってしまうリスクもあります。
適切な時期に弁護士に相談しましょう。
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