妻の妊娠中に浮気をする夫は少なくありません。妻としては、生まれてくる子供のために大変な思いをしているのに、夫の浮気に対して許せない気持ちになるのも当然のことです。離婚や慰謝料請求の問題に発展することも多々あります。
妊娠中は夫が浮気しやすい状況にあることも否定できません。妻の妊娠によって夫の浮気が正当化されるものではありませんが、浮気を防止する方策を考えることも重要となるでしょう。
この記事では、妊娠中の浮気を原因とする慰謝料請求や離婚問題について弁護士が詳しく解説します。夫が妻の妊娠中に浮気をする理由や、浮気を防止する方法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
妊娠中に浮気をする4つの理由
妻の妊娠中に夫が浮気をしてしまう主な理由は、以下のようなものです。
性的な接触の減少(セックスレス)
妊娠中はどうしても夫婦間の性的な接触・スキンシップが減少するため、夫は欲求不満を抱えて浮気に走りやすくなります。
一般的に、安定期までは性交渉を控えるべきとされています。安定期に入っても、体調や体型の変化、胎児への影響などの不安から、性生活に積極的になれない女性が多いものです。
そのことは男性も理解はしていますが、妻に全面的に性的な接触を拒絶されると夫には不満が残ってしまうこともあるでしょう。これが、浮気の大きな原因となることもあります。
夫とのコミュケーションの減少
妊娠中は夫婦間のコミュニケーションが減少することも多く、夫が寂しさから浮気に走ってしまうこともあります。
妊娠中の女性は、お腹の中にいる赤ちゃんのことを第一に考えるようになります。つわりなどで辛くても、家事や仕事をこなさなければならない人もいるでしょう。そんな状況でも、健康な赤ちゃんを産むために、さまざまなことに注意しなければなりません。
そのため、妻は今までどおりには夫とコミュニケーションをすることが難しくなります。夫婦間の会話も、夫のことではなく赤ちゃんのことや妻の体調などの話題が多くなりがちです。
夫としては、妻の苦労が分かってはいても、「かまってくれない」という寂しさを感じてしまいます。そんなとき、寂しさを癒してくれる女性が現れると、浮気に走る可能性は否定できません。
妻のホルモンバランスの変化
妊婦である妻が妊娠中のホルモンバランスの変化で情緒不安定となり、耐えきれなくなった夫が浮気に走ることもあります。
妊娠初期から16週頃まで、女性ホルモンが大量に分泌されることにより、ホルモンバランスが変化します。その結果、妻にはつわりなどの身体的症状だけでなく、精神的にも情緒不安定となってしまうことがよくあります。
本来は、そのような妻を夫が支えるべきですが、夫も仕事などでストレスを抱えていることが多いものです。家庭でも妻から些細なことで八つ当たりをされたりすると耐えきれなくなり、他の女性に癒やしを求めてしまうこともあるでしょう。
父親になることの不安
子供ができることは夫にとっても、うれしいことであるはずですが、父親になることへの不安から浮気に走る夫も少なくありません。
妻は、自分のお腹の中で胎児が日々成長することから、自然に母親としての自覚が生まれます。しかし、夫にとっては実際に赤ちゃんが生まれるまで、子供ができたという実感は持ちにくいものです。
それにもかかわらず、両親や親戚、職場の人たちなどから「もうすぐ父親になるんだから、しっかりしないと」などと言われると、プレッシャーを感じてしまいます。
夫自身が「立派な父親になろう」と考えていても、すぐに昇進や昇給ができるわけではないので、気持ちが空回りすることもあるでしょう。
このようなストレスが、浮気の原因となることもあります。
妊娠中に浮気をする割合
妻の妊娠中に夫が浮気をする割合について、公的な調査結果は見当たらないため、正確な数値は不明です。
ただ、ある企業のインターネット調査によると、不倫の経験がある既婚者のうち、不倫を始めた時期は結婚後1~3年目が圧倒的に多いという結果が出ています。結婚後1~3年目といえば、妻が妊娠・出産する割合が多いといえる期間です。したがって、妊娠中に夫が浮気をする割合は、一般的な浮気の割合よりも高いと考えることができるでしょう。
一般的な浮気の割合としては、相模ゴム工業株式会社が2018年に実施した調査によると、20代~60代の男性の平均で25.4%とされています。
年齢層 | 男性の浮気率 |
平均値 | 26.4% |
20代 | 29.5% |
30代 | 30.9% |
40代 | 30.1% |
50代 | 24.5% |
60代 | 19.8% |
妊娠中の浮気の特徴
ここでは、夫の浮気を見破るために、妊娠中の浮気で現れやすい兆候を紹介します。次のような兆候が見られる場合には、夫の浮気を疑ってみた方がよいかもしれません。
出張や深夜残業が増えた
夫が浮気をする際には、出張や残業などの口実で浮気相手と会っていることが多いものです。夫が収入を増やすために仕事を増やしている可能性もありますが、出張の回数や残業時間が不自然なほどに増えている場合は、夫の様子を注意深くチェックした方がよいでしょう。
その他にも、飲み会が急に増えたような場合も要注意です。
休日出勤が増えた
これまで土日や祝日を自宅や夫婦で過ごすことが多かったにもかかわらず、妊娠後、休日出勤が増えたような場合、浮気している可能性があります。特に、夫の役職や職場に変動がない状況で、休日出勤が増えている場合には、浮気をしているかもしれません。
1人で外出することが増えた
休日にも、今までは夫婦で外出していたのに、夫が1人で外出することが増えた場合は、浮気相手と会っている可能性があります。ただし、夫が妊娠中の妻の体調を気遣って1人で外出している可能性もあるので、注意深くチェックすることが大切です。
浮気相手と会っている場合、行き先などについて、ウソをついている可能性が高いので、帰宅後にいろいろなことを尋ねてみるとよいでしょう。答えに困ったり、矛盾するような話が出てくる場合は要注意です。
産まれてくる子供に関心を持たない
夫が産まれてくる子供にあまり関心を持たない場合は、浮気相手のことに夢中になっている可能性があります。
一般的に男性は、女性と比べると妊娠中の子供に対する関心は薄いものです。しかし、今までよりも関心が薄くなった、子供に関する話題への反応が乏しくなった、というような場合は怪しいといえるかもしれません。
LINEのポップアップ通知をオフにした
夫が急にLINEのポップアップ通知をオフにした場合は、浮気相手とLINEでやりとりしている可能性があります。
メッセージが届いたら、誰がどんなメッセージを送ってきたのかを素早く確認できるので、非常に便利な機能です。
しかし、スマホを妻に見られると、ポップアップ表示ですぐに浮気がバレる可能性が高まります。そのため、浮気をしている人はポップアップ通知をオフにする人が多いのです。
LINEのパスコード設定をした
夫が急にLINEのパスコード設定をした場合も、怪しいといえます。
LINEのパスコードとは、暗証番号を入力しなければLINEアプリを開けないようにする機能のことです。
浮気相手とのやりとりをLINEで行う人は、非常に多いです。そのため、LINEの履歴を配偶者に見られて浮気を発覚するケースも目立ちます。それだけに、浮気をしている人はLINEの履歴を配偶者に見られないように、細心の注意を払います。
今まではパスコード設定をしていなかった夫が急に設定した場合は、妻に見られたくないやりとりをしている可能性が高いといえるでしょう。
妊娠中に浮気をした場合の慰謝料請求
妊娠中の浮気が発覚した場合は、離婚する・しないは別として、慰謝料請求ができます。慰謝料請求で損をしないためには、次のことを知っておきましょう。
慰謝料額の相場
浮気による慰謝料の相場は、おおよそ以下のとおりです。
- 同居を継続する場合…数十万円~100万円程度
- 別居している場合 120万円から150万円
- 離婚する場合…150万円~200万円程度
実際の金額は、浮気の期間や不貞行為の回数、夫婦の年齢や婚姻期間、未成年の子どもがいるかどうかなど、さまざまな事情を総合的に考慮して決められます。その結果、上記の幅の範囲内で慰謝料額が決まるケースが多いということです。
妊娠中の浮気であることは慰謝料の増額理由になる
慰謝料額は具体的な事情によって変動するものであり、妊娠中の浮気であることは増額理由のひとつとなります。
そもそも慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償のことです。妻が妊娠して大変な思いをしているにもかかわらず、夫が妻を顧みることなく浮気に走った場合、妻の精神的苦痛は通常のケースより深いと考えられます。そのため、慰謝料を増額する理由となるのです。
具体的には、一般的に浮気が理由で離婚する場合の慰謝料は150万円となることが多いですが、妊娠中の浮気の場合は慰謝料が150万円以上となることも十分に考えられます。
妻が精神的ショックで流産したり、うつ病などの精神疾患に陥ったりした場合は、300万円を超える慰謝料が認められることもあります。
不倫相手にも慰謝料請求できる
浮気は配偶者と浮気相手との共同不法行為なので、妻は夫だけでなく浮気相手にも慰謝料請求できます。
ただし、慰謝料の二重取りは認められません。300万円の慰謝料が認められるケースでも、夫浮気相手の2人から受け取れる慰謝料の合計が300万円となるということです。
浮気相手から300万円全額を受け取った場合、浮気相手は夫に対して基本的に半分の150万円の支払いを請求できます。この権利のことを「求償権」といいます。
離婚しない場合は、浮気相手だけに慰謝料を請求しても、求償権を行使されると、家計の面で見れば半分しか慰謝料を獲得できないことに注意が必要です。
浮気の証拠を確保する
妊娠中の浮気を理由に慰謝料請求をするためには、浮気の証拠を確保する必要があります。「浮気しているかも。」といった主観的なものは不貞行為の証拠にはなりません。
妊娠中の大変な時期ですが、計画的に不貞行為の証拠を確保します。一人で証拠収集することが難しい場合には、探偵社への依頼も検討するべきでしょう。
不貞行為の証拠としては次のものが挙げられます。
不貞行為の証拠
①性行為の写真・動画
②探偵事務所の調査報告書
③ラブホテルの入退室の写真や動画
④性行為に関するLINEメッセージ等のやり取り
⑤性行為を認める音声
⑥浮気を認める反省文・誓約書・示談書
妊娠中の浮気を防ぐためには
妊娠中の浮気は、未然に防ぐに越したことはありません。妻としても、次のような工夫をすることをおすすめします。
コミュニケーションを円滑に行う
妊娠中に限らず、夫婦間のコミュニケーション不足は浮気や離婚の原因となることが少なくありません。妊娠中は、何とか円滑なコミュニケーションを心がけましょう。
夫は妻の助けになりたくても、どうすればよいのか分からないことが多いものです。そこで、不安に思っていることや困っていることなどを話し、夫にもできる簡単な家事などを頼んでみるとよいでしょう。
その際には、夫が困らないように、やり方を具体的に教えてあげることがポイントです。説明することもコミュニケーションのひとつになります。
また、夫の悩みや愚痴などを聞いてあげることも大切です。食事の際などには、夫の話題を中心に話を聞くように心がけるとよいでしょう。
子供の名付けや出産について話し合う
子供の名付けや出産について話し合うことは、夫婦間のコミュニケーションになるだけでなく、夫に父親としての自覚を持ってもらうことにも役立ちます。
夫婦で子供の名前についての案を出し合うと、会話が盛り上がる可能性があります。また、出産の準備に必要なものや、おむつ、ベビーベッドなど出産直後に必要なものを2人で買いに行くのもよいでしょう。
出産準備に2人で取り組むことで、夫が浮気をする暇がなくなるという効果も期待できます。
定期検診に同行してもらう
定期検診に同行してもらうことも、夫に父親としての自覚を持ってもらうことに役立ちます。
エコーの画像や胎児の心拍音を見聞きすることで子供が成長する過程を感じ、父親としての自覚も育ってくるはずです。主治医から話を聞くことで妻の苦労を理解し、日常生活の中で気遣ってくれるようにもなることでしょう。
出産前に外出や旅行を計画する
妊娠中の生活の中では、妻自身のストレスを発散することも大切です。妻が優しくなれば、夫が他の女性に癒やしを求めるリスクを下げることができるからです。
1人でできるストレス解消法もよいですが、さらに夫婦での外出や旅行を計画してみるのもおすすめです。出産前の想い出作りとして旅行などをすると、夫婦間のコミュニケーションも密になることでしょう。
妊娠中の浮気を理由とした離婚
妊娠中に夫が浮気した場合、離婚を考える方もいることでしょう。ここからは、妊娠中の浮気を理由とした離婚問題について解説します。
浮気は離婚原因となる
妊娠中に限らず、配偶者の浮気が浮気をして他の人と性的関係を結ぶことは、法定離婚事由となります(民法第770条1項1号)。
法定離婚事由とは、配偶者が離婚に同意しなくても、裁判で強制的に離婚が認められる離婚原因のことです。したがって、妊娠中に夫が浮気をした場合、離婚するかどうかは妻の一存で決めることが可能といえます。
離婚の手続
離婚の手続きは、一般的に夫婦での話し合い(離婚協議)から始まります。話し合いがまとまれば、協議離婚することが可能です。
協議離婚の場合
協議離婚をする場合は、離婚届を提出する前に慰謝料などの離婚条件を取り決め、離婚協議書を作成しましょう。離婚協議書は、できる限り公正証書(強制執行認諾文言付)で作成するのがおすすめです。こうしておくことで、相手方が慰謝料などの金銭を支払わない場合には、裁判することなく給料や預貯金などの財産を差し押さえることが可能となります。
調停離婚の場合
夫婦だけでは話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所へ離婚調停を申し立てます。離婚調停では、裁判所の調停委員が中立かつ公平な立場で話し合いを仲介してくれます。そのため、夫婦だけで話し合うよりも冷静な話し合いが可能となり、離婚の合意ができる可能性が高まります。
なお、離婚請求については、裁判を起こす前に必ず調停を申し立てなければなりません。このことを「調停前置主義」といいます。
裁判離婚の場合
調停でも離婚の合意ができなかった場合は、改めて家庭裁判所で裁判(離婚請求訴訟)を提起します。裁判では、浮気(不貞行為)の事実を証拠で証明できれば、判決で離婚や慰謝料の支払いなどが命じられます。
離婚によって生じる問題
妊娠中の浮気を理由として離婚する場合には、次のような離婚条件について検討し、話し合いか裁判で取り決める必要があります。
産まれてくる子供の親権
妊娠中に離婚する場合、産まれてくる子供の親権者は基本的に母親となります。出産後に離婚する場合にも、母親が親権者となることが多いでしょう。
子供の養育費
離婚後300日以内に子供が産まれた場合は、元夫が子の父親とされるため、元夫に対して養育費の請求が可能です。したがって、妊娠中の離婚でも、出産後の子供の養育費を請求できます。
養育費の金額は、裁判所が公表している「養育費算定表」を参照して決めるのが一般的です。
子供の面会交流
元夫から子供との面会交流を求められたら、基本的には応じなければなりません。
面会交流とは、離婚後に親権者とならなかった側の親が、子供と定期的に会って交流を図ることです。ただ、子供が乳幼児のうちは、写真・動画の交換やビデオ通話といった間接的な交流に制限されることもあります。また、面会交流に母親が同席して行うケースもあります。
元夫がDVをしていたような場合には、面会交流を拒否できる可能性もあります。
離婚それ自体の慰謝料
浮気が理由で離婚する場合に請求できる慰謝料は、厳密にいうと、浮気の慰謝料と離婚それ自体の慰謝料に区別できます。
ただし、不貞慰謝料の相場は離婚する場合の方が離婚しない場合より高くなっていることから分かるように、一般的にはこの2つを区別して請求することはありません。
妊娠中の浮気の問題は弁護士に相談を
浮気した夫と早く別れたいとしても、慰謝料などの離婚条件は、離婚成立までに取り決めることが重要です。
離婚問題に詳しい弁護士にご相談いただければ、請求できる慰謝料額の見通しや、浮気の証拠の集め方などについて、有益なアドバイスが得られます。
慰謝料請求や離婚請求の手続きは、弁護士に依頼して一任することも可能です。
妊娠中の浮気でお悩みの方は、一人で抱え込まず、弁護士に相談してみることをおすすめします。