親族が亡くなった時に行われる遺産分割協議。
しかし、遺産分割協議が円満に行えない場合には、遺産分割調停を行わざるを得ません。
本記事では、遺産分割調停において、「やってはいけないこと」や「聞かれること」を解説します。
1.遺産分割とは?遺産分割協議とは?
遺産分割とは、亡くなった親族(被相続人といいます。)が死亡時に有していた財産(遺産)について、相続人間で、どの財産を誰が取得するのかを確定させる手続です。
被相続人の財産をどのようにして分けるのかを相続人間で話し合うことを遺産分割協議と呼びます。
相続人が1人の場合には、相続人が全ての遺産を取得しますから、遺産分割協議を行う必要はありません。
しかし、遺産分割協議を試みたものの、相続人間で話がまとまらない場合には、相続人は、一部を除き、遺産を確定的に取得することができません。
この場合には、遺産分割調停の申立てをすることになります。
Tips |
2.遺産分割調停でやってはいけないこと
2-1.遺産分割調停とは?
遺産分割調停とは、中立公正な立場にある、家庭裁判所の調停委員が、各相続人から事情を聞き取り、解決案を提示したりすることで、話し合いによって遺産分割を行う手続です。
遺産分割調停は、あくまでも、調停委員の仲裁を通じた、相続人間の話し合いです。
2-2.調停でやってはいけないこと
調停手続は話し合いであって、調停委員によって判決のように裁断するわけではありません。
しかし、調停委員の心証を悪くさせることは、裁判官の心証を悪くさせることに繋がり、得策とは言えません。
そのため、できる限り『やってはいけないこと』を回避するように心がけましょう。
やってはいけないこと |
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2-3.欠席すること
2-3-1.調停期日とは
相続人の1人が調停の申立てをすると、裁判所から申立書類一式が相手方とされた相続人の住所宛に送付しれます。
申立書類の中には、第一回目の期日の案内書が入っています。
調停が開催される日を調停期日と呼びます。
調停期日が行われる日は平日の日中です。
土日や夕方5時以降行われることはありません。
指定された調停期日には出席するようにします。
仮に第一回目の期日に出席できない場合には、必ずあらかじめ担当書記官に電話をして欠席する旨を伝えます。
2-3-2.欠席すると不利になる
調停期日に無断で欠席した場合どうなるのでしょうか。
初回の調停期日を無断欠席した場合、すぐに調停が不成立となり終了するわけではありません。
通常は、二回目の調停期日が指定されます。
だからといって初回期日を無断で欠席するべきではありません。
調停委員や裁判官の心証が悪くなり、その結果、主張内容に対して疑念を持たれるリスクもあります。
2-3-3.審判に移行するリスク
二回目の調停期日も欠席すると、調停を通じた話し合いの余地はないと判断され、調停は不成立となり審判手続に移行する可能性があります。
審判手続とは、裁判官が双方の主張と証拠に基づいて終局的な判断を行う手続です。
調停は裁判所を通じた話し合いの手続ですが、審判手続は調停のような話し合いの要素は小さいといえます。
そのため、審判手続に移行することで話し合いによる円満な解決が難しくなり、調停よりも不利な内容で終結するリスクがあります。
2-4.主張書面を提出しない
2-4-1.言いたいことを述べるだけではダメ
調停手続は、裁判所を通じた話し合いにより紛争を解決させるものです。
相続問題では、長年蓄積してきた親族間の不満や不公平といった感情的な対立が生じがちです。
ただ、話し合いといっても、好き勝手に言いたい事を喋っても良いというわけではないです。
また、自分は長男だから遺産全てを取得できるとか、生前に全ての財産を相続させると聞いていたといったことを述べて、これに固執することもあります。
しかし、遺言がない限り、このような主張は到底認められるものではありません。
調停委員は、限られた時間の中で、当事者から問題となっている事項について、聞き取りを行い、この聞き取りを踏まえて争点となる事項を特定します。
そのため、遺産分割において争点となるべき事項を特定し、その事項に絞って主張をすることが求められます。
2-4-2.主張書面を提出する
双方の聞き取りを通じて争点が絞られれば、争点となる事項について、自身の主張を記載した主張書面を提出するように求められます。
口頭で自身の主張を述べるだけでは、十分に主張内容を整理して、その内容を精査することができないからです。
主張書面を裁判所に提出しなければ、自身の主張を精査してもらう十分な機会を得られないだけでなく、場合によっては相手方に有利な心証を持たれる可能性もあります。
2-4-3.分かりやすい内容を心がける
主張書面を提出さえすれば足りるわけではありません。
争点と関係のない事項を記載したり、感情的な文章を羅列したり、グダグダと長い文章を列記することは控えるべきです。
主張書面は、第三者である裁判官や調停委員が読む書面ですから、第三者でも理解できるように工夫しながら作成する必要があります。
主張書面の作成の心得 |
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2-5.証拠を提出しない
主張書面を提出するだけでなく、自身の主張を裏付ける客観的な証拠も合わせて提出することを要します。
主張を口頭や書面で述べるだけで、これを裏付ける証拠の提出ができなければ、その主張内容の真偽を確認することができません。
調停手続は訴訟や審判のような厳密な事実認定をしないとしても、裁判所は主張と証拠を踏まえて解決案を検討します。
そのため、証拠の提出を怠ることは避けるべきでしょう。
2-6.虚偽の説明をすること
先程述べたように裁判所は、紛争の解決に向けて解決策を検討していきます。
この解決策は、仮に調停が不成立となり審判手続に移行した場合に出される可能性のある審判内容をある程度を見据えた内容となっています。
しかし、調停委員に対して虚偽の説明を行い、それが調停手続中に発覚すると、その虚偽の説明をした事項だけでなく、それ以外の主張についても、その真偽に疑念を持たれるリスクがあります。
そのため、虚偽の説明は避けるべきです。
2-7.録音録画すること
調停委員とのやり取りを記録して後日その内容を精査したいという理由で、調停室のやり取りを録音録画される人がいます。
しかし、家庭裁判所に限らず裁判所内では写真や録画は一切禁止されています。
調停委員とのやり取りを記録する場合には、面倒ですが手書きやパソコンでメモするようにしてください。
▼裁判所の遺産分割調停の解説はこちら▼ |
3.調停期日当日の流れ
3-1.指定された時間までに受付する
裁判所から指定された時間までに家庭裁判所の調停窓口に向かいます。
できれば、指定された時間よりも5分から10分前に窓口に行くようにしましょう。
窓口にて、当事者の名前、調停事件の番号や裁判所の係属部(例えば、○○家庭裁判所家事○○部乙○○係)を伝えます。
他方の当事者は、異なる時間を指定されているので、通常受付時に他方の当事者と鉢合わせることはありません。
3-2.待合室で待機する
受付を終えると、申立人あるいは相手方専用の待合室に通されます。
それぞれの待合室が用意されていますので、待合室内で当事者が鉢合わせることはありません。
所定の時刻になれば、調停委員1名が待合室まで来て、当事者の名前や番号を呼びます。
これを受けて、調停委員と一緒に調停室に向かいます。
3-3.調停委員からの聞き取り
調停室に入ると、身分証の確認をした上で、調停委員から調停の申立てに至る経緯や想定される争点について質問がなされます。
質問に対して、先程述べたように争点以外の事項に広がりすぎず、事実関係を踏まえながら回答するようにします。
3-4.次回期日の調整
調停委員が双方から事情を聞き取れば、次回期日を調整します。
概ね1ヶ月半から2ヶ月先の日程で調整されることが多いです。
また、次回期日までに準備する事項も指示されます。
例えば、主張書面や証拠関係の提出を次回期日の10日から1週間前までに提出することを求められます。
4.調停委員から聞かれること
調停室において、調停委員から聞かれることはケースバイケースです。
まずは、調停委員は、遺産分割を進めるにあたって、争点となるべき事項と争いのない事項を確定させたいと考えています。
そのため、申立てに至る経緯や申立前の交渉状況を聞かれることが多いでしょう。
特に、申立前に遺産分割協議を行なっている場合には、なぜ協議が決裂したのか、何が対立点となったのかは争点を特定する上で重要な事情となります。
4-1.争点の聞き取り
初期の聞き取りを通じて争点の特定ができれば、この争点に関連する事項の聞き取りが行われます。
争点として、生前贈与、遺産の評価、寄与分、使途不明金、遺産の所在といった点が多いでしょう。
以下のとおり、調停期日において、調停委員から争点の『概要』を聞かれるとともに、これに関する主張書面と証拠の提出を求められます。
一回の調停期日の時間は、1時間40分から2時間程しかありません。
しかも、申立人と相手方の両方から聞き取りをしなければなりません。
そのため、1人あたりに割けられる時間はかなり限られていますので、争点について具体的に聞き取りをすることは難しいことがほとんどです。
4-2.生前贈与
一部の相続人に生前贈与が行われている場合、この生前贈与は遺産の前渡しといえるため、特別受益として具体的相続分が変動します。
そのため、生前贈与を主張する場合には、調停委員から、主張する生前贈与の概要を聞かれた上で、その具体的内容を記した主張書面と証拠の提出を求められます。
▼生前贈与の内容▼
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4-3.遺産の評価
遺産の評価が争いとなる場合、その大部分が不動産の時価額か自社株の評価額です。
不動産の時価額の場合には、どの不動産か、時価額として適正な金額、その金額の理由、金額を根拠とする資料の有無等の概要を聞き取りされた上で、その具体的内容を記した主張書面と証拠の提出を求められます。
▼不動産の時価額▼
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自社株の評価額の場合には、自社株の評価額の金額やその理由、金額の根拠となる資料の有無等の概要を聞き取りされた上で、その具体的内容を記した主張書面と証拠の提出を求められます。
4-4.寄与分
生前、相続人が、被相続人の生前に面倒を看ていたことを理由に寄与分の主張をすることがよくあります。
しかし、寄与分が認められるためには、被相続の財産の維持や増加のために、親族として通常期待されている程度を超える寄与をしていることが必要となります。
そのため、寄与分を主張する場合には、調停委員からは、どのような態様による寄与行為であるかを聞かれた上で、その具体的内容を記した主張書面と証拠の提出を求められます。
寄与分は、単に親族の面倒を看ていたという程度では認められませんので注意が必要です。
▼寄与行為の態様▼
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5. まずは弁護士に相談してみましょう
調停手続を何度も経験している方はほとんどいないでしょう。
何とかお一人で調停期日に臨もうと考えている人もいるでしょう。
しかし、実際に想定通りに手続が進むことは稀です。
それに加えて、書面や証拠の準備もしなければならないとなると、ご負担は一層大きくなります。
お一人で抱え込まず、まずは弁護士に相談してみてください。
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