円満調停は、夫婦間の関係修復を目指した調停手続で、離婚調停とは異なり離婚を前提としないのが特徴です。
円満調停では、調停委員という中立公正な第三者の意見を交えながら夫婦関係の改善を模索することができます。その結果、夫婦関係の再構築が図れるケースもあり、法律的拘束力こそないものの柔軟な選択肢の一つとして利用されています。
他方で、調停委員の仲裁がなければ冷静な話し合いができない程に夫婦関係が悪化しているといえ、円満調停の期待通りの結果にならないことも多くあります。むしろ、円満調停の申立てにより離婚調停の申立てを促す結果となり、調停離婚が成立することもあります。
本記事では、円満調停の意義、メリットとデメリット、調停手続の流れを弁護士が解説していきます。
円満調停とは
円満調停は、夫婦間の問題を解決させて夫婦関係を修復するための家庭裁判所の調停手続です。調停委員が中立的な立場で夫婦両者の意見を聞き取り、問題解決の方法を模索します。
離婚調停(夫婦関係調整調停(離婚))との違い
円満調停と離婚調停は、その目的に大きな違いがあります。
円満調停は夫婦関係の修復を目指すための調停であり、一方で離婚調停は夫婦関係を清算し離婚に向けた条件を話し合うことが目的です。この目的の違いにより、調停の内容や進め方も異なります。
円満調停では主に、夫婦関係を修復するために何が必要かを話し合い、共に改善へ向けたステップを探ることが求められます。一方、離婚調停では親権の帰属問題や、慰謝料、財産分与など、離婚後の生活に直結する具体的な条件についての話し合いが行われます。こうした点からも、両者の調停は目指す方向性が大きく異なるのです。
円満調停の調停成立の割合
円満調停の成功率はそれほど高いものではありません。
令和5年司法統計年報(家事編)によると、円満調停の申立て件数は1811件であり、そのうち調停が成立している件数は503件です。ただ、調停成立のうち同居を継続する調停は137件に留まっています。他方で、離婚調停が成立している件数は204件となっています。
また、円満調停の申立てをしている人のうち、夫は1144件、妻は667件であり、夫の方が円満調停の申立てをしている傾向が強いことが分かります。
円満調停のメリット
円満調停は成功率がそれ程高いものではないものの、いくつかの利点があります。
直接対面せずに話合いをすることができる
円満調停において、夫婦が直接対面せずに話し合いを進めることができます。
調停手続では、申立人と相手方がそれぞれ専用の待合室で待機しながら、それぞれ入れ替わりで調停室に入室をする方法で進めていきます。そのため、調停手続では、夫婦双方が直接対面することは基本的にはなく、調停委員が仲裁しながら話し合いによる解決を目指していきます。
このように、調停委員が仲裁をすることで、感情的な衝突を避け、冷静で建設的な話し合いを実現することができます。
配偶者の真意に向き合うことができる
円満調停では、調停委員という中立的な第三者が間に立つことで、配偶者の本音に向き合うことができます。
普段、夫婦間での話し合いでは、感情的な対立や口論から、本音を引き出してこれに向き合うことが難しくなりがちです。相手の思いを知らなければ独りよがりな対応に陥ってしまいます。
しかし、調停手続では、中立な立場にある調停委員が配偶者に対して、夫婦関係の修復に関する意向を聞き取ります。その上で、調停委員は、聞き取った配偶者の思いを他方の配偶者に伝達します。このようにして、調停手続を通じて、配偶者の真意に向き合うことで、これまで気づかなかった問題や価値観の違いが浮き彫りとなり、夫婦関係の再構築に向けての具体的な取り組みを策定し、実践することができます。
調停委員から解決策を提案してもらえる
調停委員は中立的な立場から具体的な解決策を提案してくれます。
調停委員は、夫婦双方の意見を客観的に聞き、公正な視点からアドバイスを行う専門的な知見を持っています。そのため、調停委員は、当事者間の感情的な対立を避けながら、実現可能性のある解決方法を提示することが期待できます。
具体的には、円満調停が成立すると、「申立人と相手方は、今後相互に協力し合って円満な家庭を築くように努力する」などの合意をします。この合意を実現させるために、飲酒を控える、家事や育児に協力する、土日は仕事に行かない、といった具体的に努力するべき事項を記載することもあります。
調停委員は、合意に向けて必要となる具体的な対応策を提示してもらうことが可能となります。
円満調停のデメリット
円満調停には、関係修復を試みるプロセスの中でいくつかの課題や問題が生じることがあります。関係修復は強制されず、長引くと感情的対立が深まり夫婦関係が悪化する可能性もあり、さらに離婚協議に進展するリスクもあります。
関係修復を強制できない
円満調停には、夫婦関係の修復を強制的に実現することができないという大きなデメリットがあります。
調停はあくまでも話し合いの場であり、双方で合意できなければ調停は不成立となります。そのため、一方が関係を修復する意思を持っていても、もう一方の配偶者が修復に前向きでなければ、関係改善を進めることは困難です。関係修復を無理に求めることは、かえって夫婦間に新たな対立や摩擦を引き起こす要因となる可能性があります。
かえって夫婦関係が悪化することもある
円満調停は、夫婦間の問題や対立を解決し、関係修復を目指すプロセスですが、円満調停の申立てをきっかけにかえって関係が悪化するリスクもあります。
調停を申し立てることで、相手方には家庭裁判所に出頭してもらう肉体的な負担を強いることになります。また、裁判所の調停手続は多くの人にとって初めての経験です。そのため、調停手続に参加してもらうことで、大きな精神的な負担を招き、夫婦間の緊張度が高まることもあります。
離婚の話し合いに発展するリスクがある
円満調停を進める際、離婚の話し合いに発展するリスクを認識しておくことが重要です。
夫婦関係を修復しようと試みる円満調停ですが、そのプロセスで夫婦間の問題や意見の相違点が明確になり、結果として関係修復が難しいと判断されるケースも少なくありません。
現に、円満調停で調停が成立する場合、多くは離婚調停が成立しています。調停が成立した503件のうち204件が調停離婚となっています。
夫婦間の緊張の高まりに伴い、相手方の思いが、夫婦関係の円満ではなく、逆に夫婦関係の解消に向かうこともあります。
円満調停が成立できても法的拘束力がない
円満調停での合意には法的拘束力がないため、その後の履行が確実とは限りません。つまり、同居継続の調停が成立しても、これを強制することができません。
調停が成立した場合、金銭の支払いや建物の退去などの事柄については、確定判決と同じ法的な強制力を有します。すなわち、相手が調停に反する場合には、相手に意思に関係なく相手の資産を差押えることができます。
しかし、同居すること、生活態度を改めるといった事柄については、法的に強制することができません。
そのため、円満調停が成立したとしても、法的な強制力がないため、実効性に欠ける点は理解しておく必要があります。
円満調停を成功させるためのポイント
円満調停を成功させるのは簡単ではありません。しかし、中には、円満調停により同居をする方向で調停が成立するケースもあります。円満調停を成功させるためには、押さえておくべきポイントを理解しておくことが重要です。
あなたの思いを素直に伝える
調停では、あなた自身の気持ちや考えを率直に伝えることが重要です。
感情を隠したり、過度に遠慮することで、あなたの真意が見えにくくなります。そこで、冷静さを保ちながら、自分の思いを具体的に表現することが効果的です。
具体的に、なぜ修復したいのか、なぜ関係性が悪化したのか、配偶者に対する想いを素直に伝えてみましょう。場合によっては、手書きの手紙を調停委員を通じて渡してみることも検討してみましょう。
相手の思いに耳を傾ける
調停は、一方的な主張をする場ではありません。ついつい感情的になって、自分の主張ばかりぶつけてしまいがちです。離婚調停ではなく円満調停である以上、相手に対する攻撃的・批判的な主張は控えるべきです。
相手の話をよく聞き、その真意や背景を理解しようと努めることが、解決への第一歩です。相手の立場に立つことで、互いの妥協点や解決策が見つかりやすくなります。
問題点は速やかに徹底して改善する
調停手続を通じて明らかになった問題点や課題には速やかに対応するべきです。
夫婦関係が悪化している以上、何らかの原因があります。これら原因を放置したり、全て相手の責任に転嫁するようなことは控えましょう。
夫婦関係が悪化した要因が浮き彫りになれば、それに対して、具体的な対応策を考え、できるだけ早い時期にその対応策を着手していくことが円満調停の成立の鍵となります。
相手の気持ちを無視して急ぎすぎない
調停を進める中で、解決を急ぐあまり相手の気持ちやペースを無視すると、関係が悪化する可能性があります。特に感情的な問題が絡む場合、相手の心理的な準備が整うまで心理的な余裕を持つことが重要です。
焦らず、着実に進めることで、より持続可能な合意が得られるでしょう。
円満調停の流れ
円満調停を成功させるためには、その流れを把握することが大切です。円満調停は、調停申立てをした後、調停期日での話し合いを重ねた上で、結果としての調停成立または不成立という流れで進みます。
調停申立てを行う
必要な書類や費用を事前に確認し、これらを準備をした上で、家庭裁判所に対して調停の申立てを行いましょう。
必要な書類
円満調停を申し立てる際に、必要な書類を事前に揃えておくことが必要です。
申立てに際して提出するべき書類は、以下のとおりです。
- 申立書
- 事情説明書
- 戸籍謄本
- 印紙代1200円分
- 郵便切手
申立人が提出する申立書は、裁判所用と相手方用の2通(正本と副本)を用意する必要があります。戸籍謄本は、申立人と相手方が夫婦関係にあることを示す書類として提出しなければなりません。
費用
円満調停を申立てるには、先ほど紹介した印紙代や郵便切手代のみです。郵便切手代は、各地域の家庭裁判所によって変わるため、申立ての前に郵便切手代の金額をチェックしておきましょう。
必要に応じて弁護士を依頼する場合、その弁護士費用も加わることになります。
調停当日の流れ
調停当日は、調停委員2人が中立的な立場から、夫婦それぞれから話しを聞き取ります。
具体的な流れとしては、申立人と相手方は、家庭裁判所から指定された時刻に調停センターにて受付をします。通常、申立人と相手方が鉢合わせることを避けるために、それぞれ異なる時刻を指定されています。受付後、家庭裁判所の受付担当から待機する待合室を案内されます。
待合室で待機している調停委員があなたを迎えに来ます。調停委員と一緒に調停室に入ると、身分証明の提示を求められます。その後、調停手続の簡単な説明が行われた上で、調停成立に向けて各事情の聞き取りを受けることになります。
1人当たり20分から30分ほどで交代となります。相手が調停室において聞き取りを受けている間は、待合室で待機します。
2〜3回程聞き取りを受けると、次回の調停期日の調整と次回の調停期日までに準備する事項が確認されます。
調停当日の質問内容
調停期日の当日は、円満調停の成立に向けて様々な質問を受けます。
- 夫婦関係が悪化した要因
- 関係修復に向けて改善できること
- どのような関係修復を求めるのか
- 関係修復できると考える理由
- 相手の意見に対する考え
特に、悪化した要因や修復に向けた具体的な対応策は非常に重要ですので、あらかじめ整理しておくことが大切です。
その上で、調停委員の質問に誠実に答え、感情を抑えつつ自身の意見を述べることが求められます。重要なのは調停委員の質問に対して誠実に向き合う姿勢です。批判的になったり感情的に動揺することを出来る限り避けましょう。
調停成立
円満調停が成立した場合、夫婦双方の合意に基づく解決がなされます。
例えば、円満調停を通じて夫婦間の誤解や対立が解消され、同居に向けての基本的な約束が具体的に取り決められることがあります。
円満調停が成立したとしても、関係修復それ自体に対して法的拘束力を持つものではないものの、円満な関係を取り戻すための大切な一歩となります。
他方で、円満調停の申立てをしているものの、相手方から離婚調停の申立てを受けて調停離婚が成立する割合も一定数あります。
調停不成立
調停が不成立に終わるケースも多く存在し、夫婦間の意見の相違が埋められない場合や、一方が合意する意思を持たない場合、調停は進展せず終了します。
調停が不成立となる場合には、夫婦間の直接の交渉を切り替えるか、しばらく冷却期間を置いた上で、再度、調停や話し合いを試みることがあります。
円満調停に関するよくある質問
円満調停の内容や進め方について不安や疑問を抱えている人も多くいます。
以下では、円満調停に関するよくある質問に対する答えや対処法をわかりやすく解説します。
離婚調停を同時に申し立てができるか?
離婚調停を円満調停と同時に申し立てることは可能です。
つまり、円満調停の申立てをしたところ、相手方から離婚調停の申立てを受けることがよくあります。現に、円満調停で調停成立するケースのうち約41%が調停離婚となっています。
このように、円満調停の申立後に離婚調停の申立てをすることは可能です。逆に、離婚調停の申立後に円満調停の申立てをすることも可能です。
円満調停を拒否するとどうなるのか?
円満調停を拒否することは、配偶者との関係修復の機会を失うことになります。
円満調停に応じるか否かは、配偶者の自由です。関係修復に向けて調停を成立させることも自由ですし、これを拒否することも自由です。円満調停を拒否することで、ペナルティを受けることもありません。夫婦関係を修復する、別居を続ける、離婚をするといった各選択肢のうち、あなたにとってどれが最善であるかをよく分析することが大切です。
円満調停は難波みなみ法律事務所に
夫婦関係の修復は感情面でも難しい問題ですが、円満調停の場が、関係修復の最後のチャンスとなる場合もあるため、適切に調停手続を進めていくことが大切です。円満調停の場は、お互いの本音を確認し合い、専門家のアドバイスを受けられる機会でもあります。そのため、拒否による長期的なリスクを十分理解した上で行動することが大切です。
当事務所では、初回相談30分を無料で実施しています。
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