幸せな結婚生活の中、新たな命を授かることになりました。今後、さらなる幸せな日々を予感せずにはいられません。
このように、本来であれば新たな幸せの始まりを告げる出産ですが、今まで良好だった夫婦関係が、出産を機に危機(クライシス)へと陥ることがあります。そして、悪化の一途をたどった結果、最終的に離婚してしまうことを、「産後クライシス離婚」といいます。
本記事では、産後クライシス離婚の解説と対策についてまとめてみました。
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産後クライシスとは?
産後クライシスとは、子どもの出産後、2~3年ほどの間に夫婦仲が悪化してしまう現象を指します。産後クライシスによって夫婦仲が悪化すると、最悪のケースでは離婚へと至ってしまうこともあり、不安を感じている方は早期の対策が必要となります。
産後クライシスの症状や特徴
産後クライシスの症状としては、主に以下の症状が挙げられます。
産後クライシスの症状・特徴
- 些細なことでイライラする
- パートナーから愛情を感じなくなる
- 夫婦間の会話や一緒にいる時間が少なくなった
- 夫への愛情を持てなくなった
- 夫に嫌悪感を抱いてしまう
- 育児と家事に追われ自分の時間がないと感じる
夫目線での産後クライシスの特徴として、妻が子供のことばかりで疎外感を感じることが多いようです。一方で、妻目線での産後クライシスの特徴として、夫が家事や育児に非協力的で不満を感じていることが多いようです。
産後うつと産後クライシスの違い
産後クライシスと混同するものが、「産後うつ」です。
「産後うつ病」は、産後2~3週間の期間において、出産によるホルモンバランスが乱れ、育児に対する不安や環境の変化により生じる心の病気です。専門医による診察や投薬による治療が必要となります。
他方で、産後クライシスは、子の出産や育児によるストレスや疲弊、育児への非協力等から夫婦関係が悪化している状態をいいます。
産後クライシスによる離婚率
産後クライシス離婚は、昨今における日本での離婚率を見ても、顕著に増加が見て取れます。
厚生労働省が公表している令和3年のデータによると、離婚件数は約18万件、婚姻件数は約50万件です。離婚率は人口1,000人あたり、約1.5人が離婚していると報告されています。また、婚姻期間に焦点をあててみると、婚姻から5年未満で離婚した夫婦が最も多くなっています。
さらに、厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査結果報告(令和3年)」によれば、全体(死別を除く)のうち37.4%が子供が0歳〜2歳の時に離婚しており、3歳から5歳の割合も含めると、全体の58%にも上ります。
このように、産後5年以内に離婚する割合が非常に多いことが分かります。
産後クライシスを引き起こす原因
出産後の女性ホルモンの影響だけでなく、育児や家事の非協力、コミュニケーション不足から、配偶者への愛情が薄くなってしまうことが産後クライシスを招く原因です。
出産後の女性ホルモンの急激な変化
女性は、妊娠や出産に伴い女性ホルモンの量が大きく変化します。ホルモンバランスの乱れにより精神的に不安定になったり、イライラや攻撃的な性格になることもあります。
育児への非協力(育児の孤独感)
夫に父親としての自覚がなく、育児への不協力が産後クライシス離婚の原因として挙げられます。
女性は自身の身体に子どもを宿し、出産までの数ヶ月の間にはすでに母親としての自覚が芽生えています。しかし、男性は子どもが産まれ、育てているうちに父親としての自覚が芽生えてくるため、出産初期は夫が育児に非協力的な傾向が強いでしょう。
また、子どもが成長するにつれて父親としての実感を持つ男性もいますが、中には、いつまで経っても父親としての自覚を十分に持てず育児に非協力なままの男性も一定数います。
家事への関与の低さ
子どもが産まれることで、妻は今までのように家事に専念することができなくなります。夜泣きにより睡眠不足になることもあるでしょう。
子育てと家事を両立させるのは簡単なことではありません。しかし、夫が育児ばかりか家事への関与も低いことに、妻は不満を募らせていきます。夫としても、家事を満足にやらない妻に不満を募らせた結果、産後クライシス離婚へと発展してしまいます。
コミュニケーションの欠如
子どもが産まれると、妻は子どもに割く時間が一気に増えます。そのため、夫の相手をする時間が減り、中にはセックスレスになる夫婦もめずらしくはありません。こうしたコミュニケーションの欠如は、産後クライシス離婚の原因として挙げられます。
不倫・浮気問題
コミュニケーションの欠如が顕著になってくると、パートナー以外に癒しを求める傾向があります。産後クライシスをきっかけとし、不倫問題に発展、最終的に離婚へと至ります。
モラハラやDV
小さなことでイライラするようになった結果、パートナーに対してモラハラやDVをしてしまうことがあります。モラハラやDVがきっかけとなって離婚へと至るケースはけっしてめずらしくはありません。
産後うつの影響
妊娠中や出産後というのは、女性のホルモンバランスに多大な影響を与えます。以前と比べ悲観的になるといった、「産後うつ」の影響も産後クライシスの原因の1つです。
産後うつ病による精神的な不安定さから夫婦仲が悪化していくケースも多くあります。
性格の不一致や配偶者間の不平不満
結婚後、出産後、といったタイミングは、これまで相手に見せていなかった部分が解放されるきっかけとなる傾向があります。出産後に人が変わったように不平不満を言うようになるなど、性格の不一致が露呈された結果、産後クライシス離婚へと至ってしまいます。
産後クライシス離婚を考える前にするべきこと
産後クライシスによる離婚危機を回避するためには、以下のような対策が非常に有効です。
コミュニケーションを積極的に行う
夫婦間の良好なコミュニケーションを取ることで、日頃からお互いが何を考えているのか、何を感じているのかを理解し、夫婦仲を改善させることができます。夫婦が向き合って対話をするように努力しましょう。
話し合いの重要性
良好なコミュニケーションを取るためには、話し合いの場を設けることが非常に重要です。
週に1度、月に1度など、定期的に話し合いの場を用意し、日頃から相手に対して感じていることをぶつける場を設けてみましょう。
感謝や愛情の伝え方
いくら話し合いの場を設けたとしても、不満をぶつける場、ただ感情的になる場になってしまっては意味がありません。より建設的な話し合いをするためにも、話し合いの場以外では、感謝や愛情の伝え方に気を配ると良いでしょう。
セックスレスの解消
妊娠から出産、出産後の育児が原因となり、夫婦の性的な営みが少なくなることは多くあります。いわゆるセックスレスが引き金となって、浮気やモラハラ等に至り、夫婦関係が悪化することもあります。育児や家事を分担しながら、セックスレスの解消にも努めることも大事です。
家事育児を分担する
結婚後、もともと決めていた家事分担についても、子どもが産まれてからは変わるのが当然です。家事や育児の分担について、一度見直してみるのも非常に有効です。
夫婦で役割分担を見直す
現時点での双方の役割分担を列挙し、双方が公平だと納得できる役割分担に見直してみましょう。見直す際は、後に不満が再発しないよう、慎重に取り決めるのがポイントです。
外部のサポートを活用する
家事代行サービスやベビーシッターといった外部サポートの活用も視野に入れましょう。特に、役割分担が不仲の原因であれば、お金をかけてでも改善するの価値があります。子供を預けることで育児から一時的に解放され気分が楽になり、夫婦仲の改善のきっかけになることもあります。
子育てにも協力的に
子どもがいる夫婦にとって、子育ての問題は避けて通ることはできません。
もし、どちらか一方に子育ての負担が過度にかかっている場合、産後クライシスに陥りやすい傾向があります。
協力的な子育てを実現し、産後クライシス離婚を回避しましょう。
パートナーの理解とサポート
子育ては夫婦そろってするものです。パートナーの理解とサポートがなければ、健全な子育てを行うことはできません。一方に任せきりになっていないか、改めて確認しましょう。夫の帰宅時間が遅い場合には、何日か早く帰宅できる日を確保し、育児に参加できるようにするのも大切です。
父親の育児参加
子育て問題においては、よく父親の育児参加が問題として取り上げられます。子どもの父親である以上、育児参加は当然の義務であることを双方が認識しましょう。
妻が一人で育児を抱えているのであれば、夫は、おむつの交換、食事を与えたり、風呂に入れたり、寝間着(パジャマ)の着替え、寝かしつけなど、少しでも協力できるものがあれば行うように心がけましょう。
夫婦関係を改善するためにできること
婚姻関係そのものを改善することは、そのまま産後クライシス離婚を回避することに繋がります。以下のような改善策をうまく活用してみましょう。
カウンセリングや専門家への相談
産後クライシスの症状が顕著な場合、すぐに専門の医師やカウンセラー、または精神科医といった専門家に相談することで、婚姻関係の改善が見込めます。
相談窓口としては、以下の窓口があります。
家族のサポートを求める
家事や育児の負担が婚姻関係に悪影響を与えているのであれば、両親や兄弟といった家族からのサポートを求めるのも非常に効果的です。場合によっては、信頼のできる友人や知人に相談することも検討します。
状況の改善に向けた努力
一度溝のできた婚姻関係というのは、双方が状況の改善に向けた努力をしなければ解決することはありません。どちらか一方だけの努力では、まるで意味がないのです。
離婚を検討するタイミング
どうしても夫婦関係の改善が難しいと感じたのであれば、精神面が限界に達してしまう前に、離婚について検討する必要があります。あまりご自身を追い詰めていると、正常な判断すらできなくなってしまうため、限界を感じる前に離婚も視野に入れましょう。
産後クライシスが離婚原因となるのか?
産後クライシスは、直ちには離婚原因にはなりません。
離婚原因とは?
離婚原因とは、民法で定められた離婚理由のことです。
法定の離婚原因
①不貞行為
②悪意の遺棄
③3年以上の生死不明
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由
これら離婚原因が必ずなければ離婚できないわけではありません。夫婦が合意により離婚する場合には、離婚原因の有無に関係なく離婚を成立させることができます。
他方で、夫婦のうちいずれかが、離婚に反対する場合には、離婚原因がなければ離婚を認める判決は下されません。
参考記事|離婚原因とは何か?離婚手続きを弁護士が分かりやすく解説
産後クライシスは離婚原因になりにくい
産後クライシスが、離婚原因の①から④に該当しないことは明らかです。そのため、産後クライシスが離婚原因に当たるとすれば、⑤の婚姻関係を継続し難い重大な事由です。
しかし、産後クライシスは、子供の出産を契機に、育児の非協力やコミュニケーション不足等を理由とした夫婦仲の悪化した状態です。
不貞行為やDVであれば、客観的資料から証明することができます。しかし、夫婦仲の悪化した状態は、夫婦の内面の問題であって、外部からは明らかとまではいえません。そのため、客観的な証拠から明らかにすることが難しいことが多いでしょう。
よって、産後クライシスは、離婚原因に該当することは難しいと言うべきでしょう。
ただ、産後クライシスのケースでも、LINEメッセージの履歴、夫婦喧嘩の録音・録画、心療内科の診断書、女性相談センターへの相談歴などの証拠から夫婦関係の破綻を証明できる場合もあるでしょう。
また、別居期間が3年以上に及ぶなど別居が長期に及ぶ場合には、夫婦関係が破綻したと認定される可能性はあるでしょう。
生活費を請求する
産後クライシスが原因となり、離婚に向けて別居を開始させた場合、妻は夫に対して、速やかに生活費(婚姻費用)を請求することが大切です。
別居してから、離婚成立までの期間が長期間に及ぶ場合、夫からの生活費の支払いがなければ経済的に不安定となるリスクがあります。
妻と子どもの生活を安定させるため、別居後速やかに婚姻費用の申立てをするようにしましょう。
関連記事|別居中の生活費とは?別居後の婚姻費用を弁護士が解説します
離婚手続きで争点となる問題
パートナーと離婚したい場合は、様々な点で協議しなければなりません。特に子どもがいるとなれば、以下のとおり協議すべき内容は多岐に及びます。
離婚条件と方法
離婚というのは、双方の合意がなければ成立することはありません。どちらか一方が離婚したいと感じていても、勝手に離婚を成立させることはできないのです。
また、離婚には協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚といった方法があります。個々の状況に応じた手続きを利用し、離婚を成立させる必要があります。各手続きの特徴は後述します。
弁護士の役割
離婚問題における弁護士の役割は、法的手続きのサポートがメインです。
後述する慰謝料や財産分与、親権や養育費といった問題について、より有利な条件で離婚できるようサポートします。
慰謝料と財産分与
離婚する際は、お金の問題を切り離すことはできません。不倫やモラハラ・DVといった問題があれば、慰謝料を請求することができます。慰謝料請求をするためには、これを裏付ける客観的な証拠が重要となりますので、計画的な証拠収集をしておきましょう。
また、婚姻期間中に築いた財産は、財産分与の対象になっているため、原則、2分の1ずつで分配すべきとされています。なお、財産分与は、離婚時に必ず合意をする必要はなく、離婚後2年以内であれば財産分与を請求することが可能です。
不倫相手に対する慰謝料請求
配偶者が不倫をしたことが原因となり、夫婦関係が破たんした場合には、不倫をした配偶者だけでなく浮気相手に対して慰謝料請求することができます。
関連記事|不倫・浮気の慰謝料の相場とは?不貞慰謝料の計算方法を弁護士が解説します
親権と養育費問題
子どもがいる夫婦が離婚する場合、必ず親権者を決めなければなりません。
また、離婚後の子どもの健全な成長を実現するためにも、非監護親(子どもと一緒に暮らさない側の親)は養育費の支払い義務が生じます。
離婚後の家族関係はどうなるのか?
離婚を視野に入れるのであれば、離婚後の家族関係についても検討すべきです。
子どもとの関係
離婚をしてしまえば、夫婦は法的に他人同士となります。しかし、子どもにとってはどちらも親である事実に変わりはありません。子どもの健全な成長のためにも、非監護親との面会交流を積極的に取り入れるなど、両親いずれとも接点を持てるのが理想です。
親族との関係
離婚することで、相手側の親族とはまったくの無関係となります。しかし、相手側の両親が子どもの祖父母であることに変わりはないため、離婚後は相手側の親族との関係性について、慎重に検討すべきです。
新たな生活に向けて取り組むべきこと
離婚後、新たな生活を始めるのであれば、離婚前に様々な準備をしておく必要があります。今後は片親になってしまうことから、育児や家事だけでなく、金銭面についてもあらかじめ検討してから、離婚問題に着手するのが理想と言えるでしょう。
関連記事|シングルマザーの手当は?母子家庭の支援を弁護士が解説します
子どものためのサポート
子どもが幼いうち、また、片親である場合、様々な公的支援を受けることができます。
どうしても金銭面で不安があれば、市区町村役場や専門機関に相談するなどし、その地域で受けられるサポートをすべて受けられるよう手続きを行いましょう。
再婚に向けた準備
離婚後すぐにはそんな気持ちになれないかもしれませんが、再婚に向けた準備も少しずつしておくのも良いでしょう。
自己改善と向上心
離婚によって、まったく新しい人生がスタートすることになります。新しい仕事をはじめても良いですし、子どもにより一層時間をかけるのも良いでしょう。離婚時の過ちをしっかりと受け止め、何事も自己改善と向上心を持って取り組んでいくことが大切です。
離婚手続きの流れ・手順を解説
離婚手続きには離婚協議、離婚調停、離婚裁判があります。それぞれの手続きの特徴を解説します。
離婚協議とは
離婚協議とは、夫婦が離婚や離婚条件について話し合う手続きです。夫婦当事者が面と向かって協議することもあれば、メール、ライン、文書等を通じて協議することもあります。当事者間での話し合いが困難である場合には、弁護士や親族等を窓口にして交渉を進めることもあります。
合意書を作成する
離婚協議の結果、離婚条件が合意できれば、離婚条件を定めた合意書を作成しましょう。
離婚後に離婚条件について言った言わないの水掛け論になることを防ぐためです。
さらに、養育費の支払いを求める場合には、不払いの時に速やかに給与や預貯金等を差押えできるようにするため、公正証書としておくことも検討するべきでしょう。
離婚調停とは
話し合いによる解決ができない場合には、裁判所の力を借りるしかありません。
まずは、離婚調停の申立てをします。申立先の裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。離婚手続きは、まずは離婚調停を行う必要があり、いきなり離婚裁判を提起することはできません。
離婚調停では、家庭裁判所の調停委員2名が夫婦双方を仲裁して、話し合いによる解決を進めていきます。
裁判所の仲裁によっても、合意に至らない場合には、調停は不成立となります。調停手続きを通じて合意に至れば、調停は成立し調停離婚が成立します。
離婚裁判
離婚調停が不成立となり終了すれば、裁判手続きを進めて行かざるを得ません。
離婚調停では、話し合いをベースとする手続きでした。他方で、離婚裁判は、当事者双方が主張と証明活動を繰り返すなどして審理を進めていき、最終的に裁判官が判決を下します。このように、離婚裁判では、離婚調停のような話し合いの要素は薄いものといえます。
離婚問題は弁護士に相談を
離婚問題は一人で抱えず弁護士に相談しましょう。
育児に追われるあまり、外部との接触が遠ざかってしまいがちです。親族に相談しながら夫婦関係の修復を努めるのも一つの方法です。しかし、夫婦関係が修復できない程に破壊されている場合には、離婚に向けたプロセスを進めざるを得ません。離婚の話し合いには、産後の負担にさらなる心理的な負担を伴います。
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