家計の節約のため、生活費を切り詰め無駄遣いを少なくすることは決して悪いことではありません。
しかし、行き過ぎた節約により生活できなくなったり、自由に使えるお金を渡さなかったりして配偶者を追い詰めると、経済的なDVに当たる可能性があります。
経済的DVは、離婚原因にも該当する可能性がある上、慰謝料請求の対象にもなり得ます。
DVを行っている人は、自分でDVを行っていると気づきにくいことが多いです。
DVの被害を受けている人も同様に、精神的に支配されていることなどから、自分がDVの被害を受けていると認識できないケースも多いのです。
そこで今回は、経済的DVの概要と経済的DVを受けたときの対処法、離婚するとき知っておくべきことについて詳しくご紹介します。
DVとは何か?
DV(ドメスティックバイオレンス)とは、一般的には、配偶者や恋人から振るわれる暴力をいいます。この暴力には、殴る、蹴る、平手打ちをするなどの「身体的な暴力」だけではありません。大声で怒鳴る、無視する、生活費を渡さない、外で働くなと命じるなどの「心理的な暴力」、性行為を強要したり避妊に協力しないなどの「性的な暴力」も含まれています。
DV防止法においても、DVには、身体的な暴力だけでなく、心理的な暴力や性的な暴力も含まれています。
経済的DVの定義と概要
経済的DVは、十分な生活費をくれず、配偶者の金銭的な自由を奪い、精神的に追い詰めることです。経済的DVは、先ほどの「心理的な暴力」に該当するといえます。
金銭の消費を徹底的に制限し、配偶者を管理下に置いて相手を苦しめます。「ここまでいったら経済的DV」という明確な基準がなく、被害が表面化しにくいのが特徴です。
経済的DVの特徴と具体例
いわゆるDV(ドメスティック・バイオレンス)は、目に見えて被害がわかるのに対し、経済的DVはモラハラと同様に、被害を受けていてもわかりにくいのが特徴です。また、収入や生活費などは家庭によって異なるため、ほかの家庭と比較しづらく、自身が被害を受けていることにも気づかないケースもよく見られます。
しかし、次のような事例が見られた場合は、経済的DVを疑ってみてもいいかもしれません。
金銭的制限や極端なケチ
節約のためなのか、家計を支える側が生活費を管理する配偶者に対し、お金の使い道に制限をかけたり、ケチなことを言ったりします。
一例として、「卵はこのスーパーで、牛乳はあのスーパーで買いなさい」と、節約のために買い物するお店を細かく指示したり、猛暑日にエアコンの使用を制限したりといったケースがあります。
借金や契約書の無断作成
経済的DVと聞くと、とにかくお金に口うるさく、できるだけ出費を抑えようとするイメージがあるかもしれませんが、借金や浪費を繰り返すことも経済的DVにあたる可能性があります。配偶者にはお金の使い方を制限しているにもかかわらず自分は好きなように使い、お金が足りなくなったら借金をするのは、お金の管理ができていないことでもあり、経済的DVを疑う余地があると言えます。
経済的DVのチェックリスト
配偶者の言動が次の項目に当てはまったら、経済的DVの可能性があります。深刻な被害が及ぶ前に、後述する対応策を講じるべきでしょう。
経済的DVのチェックリスト
- 十分な生活費をくれない
- 妻(夫)が仕事をするいことを嫌がる
- お金の使い道を細かくチェックする
- 給与明細や預金通帳を見せてくれない
- 無理な節約を強要する
- 妻(夫)が自由に使えるお金をくれない
- 自身の浪費のために無断で借金をする
- 生活費が足りず配偶者に内緒で独身時代の貯金を崩すことがある
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経済的DVの被害
経済的DVの被害者が受ける具体的な被害の例はほかにもあります。
専業主婦への生活費の過少支給
一般的に、経済的DVは専業主婦が被害者になることが多くあります。これは夫側が「俺が養ってあげている」「俺の収入が途絶えたら妻は何もできない」といった傲慢さから専業主婦である妻を見下し、経済的DVにつながるのです。
また、妻が働くようになれば収入が増えてメリットがありますが、経済的DVの加害者である夫はこれを良く思いません。経済的に不自由な専業主婦の妻が働き出て、妻が自由に使えるお金が増えることを極端に嫌がります。これも経済的DVにあたる可能性があります。
家計やお金に関する情報隠し
経済的DVの加害者は、自分の給与明細や預金通帳を配偶者には見せない傾向があります。これらの情報を見て「十分な生活費を渡せるだけの給料を受け取っている」と知った被害者から、さらに生活費を要求してくることを恐れているためです。
しかし、夫婦には扶助義務があり、お互いが同一のレベルの暮らしができるよう助け合って生活しなければいけません(民法第752条)。配偶者からお金に関する情報を聞かれたら、包み隠さずに正確に答えることが大切です。
経済的DVの対策と対処法
経済的DVを受けている場合、どのようにして解決することができるでしょうか。
話し合いや意識改革の試み
まずは夫婦間で話し合い、本当に必要なお金が欲しいと伝えることです。何の項目にどれくらいのお金がかかっていて、どれくらいお金が足りないか、どのくらいの金額のお金が必要か、項目ごとに数値化して本当に必要な生活費を渡してほしいと訴えましょう。
弁護士や相談窓口への相談
離婚するつもりはなくても、弁護士に相談するのもひとつの手です。「弁護士に相談」と聞くと、離婚を前提としているようでハードルが高いように思われるかもしれません。
しかし、離婚問題に詳しい弁護士は、数々の夫婦間のトラブルを解決した実績があるので、たとえ離婚を考えていなくても、弁護士が第三者として客観的な意見をお伝えできます。「自分のケースでは経済的DVにあたるかどうかわからない」といったお悩みでも気軽に相談すると良いでしょう。
法的手続きによる解決
お金に関する話は、身近な人には相談しにくいものです。経済的DVを受けていても、どこで誰に相談すればいいのかわからないという方も多いでしょう。
まずは男女共同参画局が開設している「DV相談ナビ」に相談してみることをおすすめします。DV相談ナビでは、暴力やモラハラ以外にも経済的DVに関する相談も受け付けています。
ほかにも、自治体が運営している相談窓口を利用する方法もあります。詳しくはお住いの自治体のホームページをご確認ください。
経済的DVと離婚
経済的DVの加害者と離婚するにはどうすればよいでしょうか。
離婚原因としての経済的DV
経済的DVは離婚原因になるのでしょうか。民法では法定離婚理由を次の5つと規定しています。
離婚原因
1.不貞行為(浮気、不倫)をしたとき
2.悪意の遺棄があったとき
3.3年以上の生死不明
4.強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
5.その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
経済的DVの場合は、十分な生活費がもらえず、お金に関するハラスメントを受けて精神的に追い込まれるという意味では、5の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」に該当すると言えるでしょう。
浮気や暴力などの目に見えた被害がなくても、経済的DVにより生活が脅かされ婚姻生活の維持が難しい状況なら、「こんなことを理由に離婚できるだろうか」と疑問に思う必要はありません。
慰謝料や婚姻費用の請求
離婚を前提として別居する場合、婚姻費用を請求できます。DV加害者を相手とする離婚手続きは長期化する傾向があります。離婚手続きの生活を安定させるためにも、婚姻費用の請求は必須といえます。
また、経済的DVが原因で離婚する場合は、加害者側に対して慰謝料も請求できます。
ただし、お金にとにかくケチで、できるだけお金を払いたくない加害者が、こうした婚姻費用や慰謝料請求に対し、素直に応じるとは考えにくく、請求しても断られる可能性が極めて高いです。そのため、経済的DVで離婚する場合は離婚問題に詳しい弁護士に相談し、婚姻費用の調停や慰謝料請求の手続きを進めていくべきです。
DV慰謝料の相場
DVを理由とした慰謝料が認められる場合、その金額の相場は50万円から300万円です。
DVを理由とした慰謝料請求が認められるためには、配偶者によるDVによって夫婦の婚姻関係が破綻したことが必要です。
DV慰謝料の金額は、以下の事情を総合的に考慮して判断されます。
DV慰謝料額の判断要素
- DVの形態(身体への暴力、精神的な暴力、経済的な虐待か)
- DVが行われた期間
- DVが行われる経緯
- DVによる被害の程度
- 婚姻期間
身体への暴力であるDVと比べて経済的DVは、慰謝料額は小さくなることが多いです。ただ、経済的DVの事案では、生活費の不払い等のDVだけでなく、身体への暴力や精神的な虐待も含んでいるケースが多いでしょう。
関連記事|DVの慰謝料請求の相場は?DVの慰謝料請求について弁護士が解説
証拠の収集と立証方法
経済的DVが原因で離婚する場合は、具体的にどんな経済的DVがあったのかがわかる証拠の収集が必要です。
・家計簿、レシート、領収証など、生活が苦しいことがわかるもの
・経済的DVがあったことを記した日記やメモ
・経済的DVと思われる発言の録音・録画
・経済的DVが原因で心療内科や精神内科を受診したことがわかる診断書
・加害者の浪費癖があったことがわかる借用書やカードの明細
関連記事|日記はモラハラの証拠になるのか?日記の書き方やモラハラの証拠について解説
経済的DVを理由とした離婚手続き
離婚を成立させるために必要となる手続きを説明します。
協議離婚
経済的DVを理由に離婚を決意した場合、まずは配偶者との離婚協議を進めていきます。
配偶者との間で、子どもの親権、養育費、財産分与、慰謝料、年金分割といった離婚条件を交渉していきます。
▶代理人に依頼することを検討する
夫婦関係の悪化している状態で、配偶者と冷静に離婚条件を話し合いすることは難しいことが多いため、かなり精神的な負担を生じさせます。
そこで、離婚協議が進まない場合には、一旦別居をして配偶者との距離を置いた上で離婚協議を行います。
それでも、離婚協議が進まないのであれば、弁護士を代理人に就けて進めていかざるを得ません。
▶離婚協議書を作成する
離婚協議の結果、合意ができれば、離婚条件を定めた離婚協議書を作成した上で、離婚届を市町村役場に提出するようにします。
可能であれば公正証書を作成しておきます。
公正証書は、仮に相手方が慰謝料や養育費の支払いを怠る場合、裁判手続きをしなくても、すぐに差押え等の強制執行を行うことができる点でメリットがあります。
離婚調停を申立てる
協議離婚が成立しない場合、家庭裁判所に対して離婚調停を申立てます。
調停手続きでは、調停委員2名が夫婦を仲裁して、離婚条件の話し合いを進めます。
離婚調停では、当事者間が直接対面して話し合うことはないため、離婚協議よりも冷静な話し合いを期待できます。
関連記事|離婚調停とは何か?離婚調停の流れや時間について弁護士が解説
▶婚姻費用分担調停の申立てをする
経済的DVのケースでは、夫が妻に対して、別居中の生活費を任意に支払うことは期待できません。
そこで、妻は夫に対して、別居中の生活費を確保するため、婚姻費用の調停申立てを行うようにします。
婚姻費用は、夫婦が社会生活を送る上で必要となる生活費を言い、別居してから離婚の成立するまでの間、収入の多い方が少ない方に支払う義務を負います。
離婚手続きは長期化するケースが非常に多いです。自身に有利な条件で離婚を成立させるためにも、早い時期に婚姻費用の請求を行い、生活の経済的な安定を図るべきです。
離婚裁判を行う
離婚調停を行っても調停離婚が成立しなければ、離婚裁判を提起することになります。
離婚調停では話し合いによる解決を目指す手続きです。しかし、離婚裁判では、夫婦双方の主張反論により審理を進めて、裁判官による終局的な判断により解決を図ります。
経済的DVの予防と改善方法
経済的DVに陥らないための予防法と、経済的DVに悩む人ができる改善策についてご紹介します。
お金に関する夫婦のコミュニケーションの促進
夫婦間でお金に関する相談を気軽にできるような関係性を築くことが大切です。借金をしたり、貯金を切り崩したりしなければならない事態になったとき、「なぜその状況になったのか」「今後決まった生活費でやりくりするためにはどうしたらいいのか」といった話し合いをすることもコミュニケーションの一環になります。
家計簿や財布事情の共有化
共働き世帯が増え、夫婦で財布は別々という家庭が多くなりましたが、生活費がひっ迫している場合は夫婦で財布事情を共有し、お互いの収入と支出を把握するようにしましょう。
金銭的な負担や役割分担の明確化
共働きの場合、どちらの配偶者が何のコストを支払うかといった役割分担をきちんと決めるべきでしょう。例えば、「夫は家賃や食費、光熱費といった生活費を負担し、妻は子どもの習い事の費用を負担する」といった具合にルールを決めるのです。そうすると、自分が負担する生活費が明確にわかるので、節約したい人も安心して生活費を渡せます。このようにしてお金に関する役割分担を「見える化」することをおすすめします。
経済的DVは弁護士に相談を
経済的DVを含めて配偶者による暴力等があるケースでは、当事者間の協議が難航し、速やかに解放されたいあまり、非常に不利な内容で離婚を成立させてしまうことがあります。
離婚条件は、離婚後の生活を安定させるために非常に重要なものです。安易な合意は避けなければなりません。
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