離婚を先に成立させても慰謝料請求をすることはできます。たとえ、離婚時に浮気・不倫等の離婚原因を把握しておらず、離婚後にこれらの離婚原因を知るに至った時でも慰謝料請求は可能です。
離婚成立前に不倫の事実を知らない以上、不倫と離婚は全く関係がないように思います。そうすると、離婚成立後に不倫慰謝料を請求することは認められないようにも思います。
本記事では、離婚した後に発覚した浮気を理由とした慰謝料請求できるかを弁護士が解説します。
離婚後の慰謝料請求とその条件
離婚が成立した後も、離婚原因となった行為を理由に離婚慰謝料を請求することができます。
離婚慰謝料とは、不貞行為やDVなどの離婚原因を作った配偶者に対して請求する慰謝料をいいます。そのため、離婚前でも離婚後でも、離婚原因となる有責行為が存在すれば離婚慰謝料を求めることはできるのです。
ただ、離婚後の慰謝料請求がいかなる場合でもできるわけではありません。離婚に至った原因が夫婦関係を破綻させる違法なものであり、これを客観的な証拠で証明できることが必要です。
夫婦関係を破綻させた離婚原因があること
まず、配偶者の行った離婚原因により夫婦関係が破綻し離婚するに至ったことが必要です。
不貞行為やDVであれば、夫婦関係を破綻させる離婚原因と言うことはできるでしょう。
しかし、モラハラについていえば、様々な態様のものがあり、DVと言えるだけの言葉の暴力と呼べる悪質な態様のものから、夫婦喧嘩の延長にすぎないものまで千差万別です。
また、性格の不一致は、一方の配偶者だけの責任ともいえず、慰謝料請求できる離婚原因にはなりにくいでしょう。
そのため、離婚後に慰謝料請求するためには、元配偶者の行った一方的な行為が原因となり離婚した事情が必要となります。
離婚原因を証明できること
元配偶者が離婚原因となる違法な行為を行ったことで離婚するに至ったことを証明できる必要があります。離婚原因の証明は客観的な証拠によってしなければなりません。
いくら元配偶者の有責行為により離婚に至ったとしても、その行為を証明できなければ慰謝料は認められません。
離婚原因の種類 | 収集するべき証拠の内容 |
不貞行為(浮気・不倫) | ・性行為の写真や動画 ・ラブホテルへの入室や退室の写真 ・探偵業者の調査報告書 ・性行為に関するLINEメッセージ ・ラブホテルの会員カード ・避妊具を利用した痕跡 |
DV | ・傷痕の写真 ・診断書 ・診療録 ・警察への通報歴 ・暴行時の写真や動画 |
モラハラ | ・モラハラ時の動画 ・音声 ・モラハラのLINEメッセージ ・カウンセリングの受診歴 ・心療内科の診断書や診療録 |
離婚後に発覚した浮気慰謝料の条件
先に離婚を成立させても、離婚後に元配偶者に対して不倫慰謝料を請求することは認められます。
ただ、離婚後の慰謝料請求が常に認められるわけではありません。離婚後の慰謝料には以下で紹介する条件を満たすことが必要です。
以下では、離婚後の不倫慰謝料請求をするための条件を紹介します。
浮気が婚姻中に行われていること
離婚後に浮気が発覚したとしても、その浮気が離婚後に行われたものであれば、これを理由とした慰謝料請求は認められません。
なぜなら、浮気の慰謝料は、浮気によって夫婦関係が破綻したことを理由に認められるからです。既に夫婦関係が破綻しているのであれば、権利侵害はないといえます。
そのため、離婚後に発覚した浮気が、婚姻期間中に行われたものであることを証明する必要があります。
婚姻関係の破綻前の浮気であること
離婚後に知った不倫が、離婚前の不倫であったとしても、それが別居後しばらくしてから行われた不倫であれば、慰謝料請求は認められません。
浮気(不貞行為)の慰謝料が認められる理由は、不貞行為によって夫婦関係が破壊されるからです。そうであれば、浮気が行われた時点で既に夫婦関係が修復できない程に破綻しているのであれば、浮気は慰謝料の対象にはなりません。
そのため、慰謝料が認められるためには、離婚前で、かつ、婚姻関係の破綻前の浮気であることを説明できる必要があります。
浮気が原因で夫婦関係が破綻したこと
離婚後に知った浮気によって、夫婦関係が破綻したことを説明できる必要があります。
離婚後に浮気を知っている以上、その浮気が原因で婚姻関係が破綻したことを説明しにくいと思われるかもしれません。
しかし、離婚前に浮気の事実を知らなかったとしても、浮気が行われた時期、夫婦仲が悪化していった時期、配偶者が離婚を切り出した時期、別居や離婚をした時期等の客観的な状況から浮気と婚姻関係の破綻の因果関係を十分に説明できれば、慰謝料請求は認められます。
離婚慰謝料請求する時の注意点
しかし、離婚後に慰謝料請求をするにあたっては、いくつかの注意点があります。次の条件を注意しながら慰謝料請求を進めていくべきです。
慰謝料の消滅時効に気をつける
離婚慰謝料にも時効があります。離婚後、請求せずに放置していると消滅時効により慰謝料の請求が認められなくなります。離婚後の慰謝料請求をいつまでにするべきか説明します。
元配偶者に対する慰謝料は離婚時から3年
元配偶者に対する離婚慰謝料は、離婚した日から3年です。
たとえ、婚姻時に不倫やDVの事実を知っていたとしても、配偶者に対する慰謝料は、その知った時からではなく離婚時から3年となります。
そのため、離婚後に慰謝料請求をすることなく放置していると、消滅時効が完成してしまい慰謝料請求できなくなりますので注意が必要です。
時効完成前に請求することで時効を止める
消滅時効が完成する前に慰謝料請求をします。時効完成前に通知をすることで、時効の完成が6か月間猶予されます。これを「催告」といいます。この6か月間で解決できない場合には、訴訟提起や調停申立てをしなければ、時効が完成してしまいます。
関連記事|不貞行為の消滅時効は何年か?時効を防ぐための方法を弁護士が解説します
離婚時に作成した文書で清算していないこと
離婚時に作成した文書内に慰謝料請求も含めて一切合切を清算する文言を記載している場合には、慰謝料請求できない可能性があるため、注意が必要です。
離婚に際して、夫婦間で合意書や公正証書を作成しているケースがあります。
合意書の目的は、離婚時の合意内容を明確にすると共に、離婚問題を蒸し返さないように終局的に解決させることにあります。そのため、合意書には、夫婦間で互いに名目を問わず金銭の請求をしないことを確認する文言(清算条項)が記載されるのが一般的です。
そうすると、合意書の作成時点で慰謝料も含めて権利関係を清算し、配偶者に対して請求できなくなる場合があります。
そのため、離婚後に慰謝料請求をしたいのであれば、合意書の内容には十分に気を付けるべきです。例えば、清算条項を設けるとしても、「離婚慰謝料は除く。」などの文言を記載しておくべきでしょう。
浮気相手に慰謝料請求する時の注意点
不倫慰謝料は、元配偶者だけでなく不倫関係にあった不倫相手にも請求することができます。
しかし、浮気相手に慰謝料請求する場合には次の点に注意しなければなりません。
浮気相手の氏名や住所を特定できる
浮気相手に慰謝料請求するためには、浮気相手の氏名や住所を知る必要があります。
名前や送達先の住所が分からなければ慰謝料請求をすることができません。
自宅住所が分からないものの、勤務先住所がわかる場合には、勤務先住所に対して慰謝料請求の通知をすることも可能です。ただ、自宅住所ではない以上、通知する内容は慎重になるべきでしょう。
携帯番号が分かれば調査できる
自宅や勤務先も分からない場合でも、浮気相手の携帯番号が分かれば、浮気相手の住所を知ることができる場合があります。
ただ、浮気された被害配偶者が携帯会社に照会をしても個人情報の関係で回答してもらえません。
弁護士が携帯電話会社に対して、弁護士会を通じて照会をすることで、その携帯番号の契約者情報を開示してもらえます。これを弁護士会照会(23条照会)といいます。
既婚者であることの故意や過失があること
浮気相手に対する慰謝料請求が認められるためには、浮気相手が不貞を行った配偶者が既婚者であることを知っていることが必要です。既婚者であることを知っていることを「故意」といいます。
仮に、既婚者であることを知らなかったとしても、既婚者であることを知る機会があったのに、既婚者であるかを調査しなかった場合には、過失があるとして慰謝料請求は認められます。
不倫相手に対する慰謝料請求は知った時から3年
浮気の慰謝料は3年です。つまり、浮気の事実を知った上で、浮気相手の氏名と住所を知った時から3年の経過により、不貞慰謝料は消滅時効となります。
先ほどの元配偶者に対する慰謝料請求の起算点が「離婚した日」であることと異なるため注意が必要です。
二重取りはできない
不倫相手に対する不倫慰謝料の請求が認められるとしても、不倫配偶者と不倫相手の両方から慰謝料の二重取りをすることはできませんので注意が必要です。
不倫慰謝料は、不貞配偶者と不貞相手の共同の不法行為とされています。そのため、不貞当事者のどちか一方が被害配偶者に対して慰謝料を支払うと、その限りで不倫慰謝料は満足を得て消滅します。
よって、仮に元配偶者が既に不貞慰謝料を支払っているのであれば、その限りで不貞相手の責任もなくなるため、さらに不貞相手に対して慰謝料の支払いを求めることは出来なくなります。
関連記事|不貞行為の慰謝料を二重取りできるのか?不貞行為の二重取りできるケースを解説します
離婚後に請求できる慰謝料額の金額
離婚後に請求する慰謝料額は、離婚に至った原因によって異なります。離婚の原因の種類に加えて、それをどの程度まで証拠によって証明できるかによっても慰謝料額は増減します。
以下では、離婚原因の種類に応じて慰謝料額の相場を説明します。
不貞慰謝料額の相場
不貞行為の慰謝料額の相場は50万円から300万円です。不貞慰謝料額の計算は、色々な事情を総合的に考慮して算定していきます。
慰謝料の判断要素 |
・不貞行為の結果(妊娠、出産等) ・別居・離婚の有無 ・不貞行為の期間・回数 ・婚姻期間の長短 ・子供の有無 |
不貞行為により夫婦関係が破綻し、離婚に至っている場合には、慰謝料額は高額になりやすいです。しかし、離婚後に浮気が発覚している場合、浮気が発覚した後に離婚したケースと比べると、慰謝料額は低くなる可能性があります。
【東京地方裁判所平成28年2月18日判決】 婚姻期間は約4年5か月であること,本件不貞行為の期間は約1年にわたること,不貞相手は交際当初から妻がいることを認識していたこと,元妻は離婚の際に元夫と不貞相手が本件不貞行為をしていたことを知らなかったこと,元妻は元夫に損害賠償を請求するつもりがないことを踏まえると、被った精神的苦痛に対する慰謝料額は70万円と認めるのが相当である。 |
関連記事|不倫・浮気の慰謝料の相場とは?不貞慰謝料の計算方法を弁護士が解説します
DV慰謝料の相場
DVの慰謝料額についても、50万円から300万円程が相場といえます。
DVの内容や種類もケースバイケースです。後遺障害が残るような暴力もあれば、暴力を伴わない精神的な虐待もありますので、行為の態様や被害の程度によってDVの慰謝料額は増減します。
- DVの回数
- DVの期間の長短
- DVによる怪我や後遺障害の程度
- DVの態様の悪質さ
- 夫婦の婚姻期間の長さ
- 未成熟の子どもの有無や人数
モラハラの慰謝料の相場
モラハラの慰謝料については、慰謝料として認められないものから300万円まで認められるものまであります。なぜなら、モラハラは、精神的な虐待・DVと言える程の悪質なものから、夫婦の口論の延長にしか過ぎないものまで千差万別だからです。
モラハラの慰謝料額は、次の事情を考慮しながら計算します。
- モラハラの悪質さ
- モラハラの期間の長短
- モラハラを受けた被害者側の責任(夫婦喧嘩、誘発するような言動等)
- 婚姻期間の長短
離婚後に慰謝料を請求するための流れ
離婚後に離婚慰謝料を請求する場合の流れを説明します。
内容証明で通知する
まずは、元配偶者に対して慰謝料の支払いを求める通知をします。不貞慰謝料であれば、浮気相手に対して通知をすることもあります。
請求内容や送達時期を事後的に証明するために、口頭で通知するのではなく内容証明郵便により通知します。
交渉する
通知書を送付後、相手方と話し合いを行います。相手方の反応に応じて、客観的な証拠を提示したり、有責行為の具体的な内容を主張するなどして、金額の交渉を進めていきます。
支払額や支払期限などの合意ができれば、合意書を作成して終結させます。合意額を分割払いにする場合には、公正証書の作成を検討します。
訴訟提起する
相手方との交渉が頓挫する場合には、訴訟提起します。慰謝料請求の内容証明を無視する場合も訴訟提起を検討します。
訴訟では、不貞行為等の離婚原因や慰謝料額について、当事者双方が主張反論を繰り返します。
審理がある程度進めば、裁判官から和解の提案が行われます。離婚慰謝料の事案の多くは、裁判上の和解により解決します。
和解の提案を受けても解決できない場合には、証人尋問を行った上で、判決が下されます。
離婚後の慰謝料請求は弁護士に相談しましょう
離婚後に発覚した浮気問題は、離婚前に発覚した浮気問題と比べて、確認すべき事項が多いです。安易に慰謝料請求をすると、本来認められるべき慰謝料を回収できなくなります。
弁護士に相談することで、慰謝料請求した場合の見通しを判断することができます。
さらに、慰謝料請求の交渉から訴訟手続きまでの各手続きを弁護士に一任することもできます。
初回相談30分を無料で実施しています。
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