仕事中に打撲を負ったとき、「これくらいの軽いケガで労災を使ってもいいのだろうか」「会社に迷惑がかかるのでは」と、申請をためらってしまう方は少なくありません。
業務中・通勤中の打撲であれば、軽傷でも労災保険の対象になります。
ケガの程度の軽重は問われません。治療費の自己負担はゼロ、仕事を休めば収入の約8割が補償されます。会社の許可も同意も不要で、たとえ会社が認めなくても労働者自身で申請できます。
この記事では、多くの方が検索されている次の疑問に、大阪の弁護士が順番にお答えします。判例や専門家の見解も交えながら、申請手続きから補償内容まで分かりやすく解説します。
- 「どの程度の打撲」なら労災になるのか(程度は関係あるのか)
- 打撲の労災で「いくら」もらえるのか
- 打撲で「何日」休めるのか、治るまでの期間の目安
- 「会社が労災を認めてくれない・使わせてくれない」ときの対処法
1. 軽い打撲でも労災は使える|程度は関係ない
「軽い打撲で労災なんて大げさでは」と感じる方が多いのですが、労災保険の適用に、ケガの程度による下限や基準はありません。
労災保険(労働者災害補償保険)は、業務が原因で発生した負傷に対して給付を行う公的な制度です。骨折のような重傷はもちろん、軽い打撲や切り傷といった軽微なものまで、業務上の災害であれば適用対象となります。「机の角に体をぶつけた」「倉庫で荷物に足をぶつけた」といった日常的に起こりうる軽微な打撲であっても、業務中に発生したものであれば労災保険を使うことができます。
つまり、労災になるかどうかを分けるのは「ケガが重いか軽いか」ではなく、そのケガが業務(または通勤)を原因として発生したものかどうかという点です。この判断基準は後述の「労災の対象となるケガの条件」で詳しく解説します。
労働法の体系書でも、軽度な打撲や捻挫などの場合に、労災保険の療養補償給付(様式第5号)を請求せず、事業主の負担で治療を受けるケースが実際にあることが指摘されています。手続きが面倒だという理由によるものですが、これはあくまで被災者本人の自由な意思で選べることであり、本来は労働者に労災を使う正当な権利があります。軽い打撲だからと権利を手放す必要はありません。
参考:水町勇一郎『詳解労働法(第3版)公式読本』Q132「労働災害に労災保険を利用しないこと」
「これくらいなら…」と我慢する3つのリスク
たとえ軽度な打撲だと自己判断しても、放置することには次のようなリスクがあります。
- 実は骨にひびが入っている——打撲だと思っていたら、レントゲンで骨折やひびが判明することは珍しくありません。
- 後から症状が悪化・後遺症が出る——しびれや関節の可動域制限など、時間が経ってから症状が現れることがあります。
- 適切な治療の機会を逃す——早期受診の遅れが治りを長引かせます。
早めに医療機関で診察を受け、労災として申請しておくことは、労働者に認められた正当な権利です。会社に遠慮することなく、ご自身の健康と安全のために、迷わず申請を検討してください。
なお、「これくらいなら」とあえて労災を使わない選択をすると、後から治療費や休業補償の面で不利益を受けることがあります。詳しくは労災を使うデメリットとは?会社・労働者への影響と使わないリスクを徹底解説で解説していますので、あわせてご確認ください。
1人で悩まずに弁護士にご相談ください。
2. 打撲の労災で「いくら」もらえる?補償額の目安
「打撲 労災 いくら」と検索される方が非常に多いため、先に金額の面をまとめます。労災保険を使うと、主に次の給付を受けられます。
① 治療費の自己負担はゼロ円(療養〈補償〉給付)
労災指定病院で治療を受ければ、診察料・検査費用・手術費用・薬代・入院費など、治療に関わる費用が原則として全額補償されます。健康保険では3割の自己負担が発生しますが、労災保険ではこの自己負担が発生しません。万が一、精密検査や高額な治療が必要になっても、費用に悩まされることなく療養に集中できます。
② 休んだ分の収入が補償される(休業〈補償〉給付)
治療のために仕事を休まざるを得ない場合、休んだ分の収入が補償されます。給付基礎日額(おおむね直近3か月の平均賃金の日額)の約8割が支給されます。
| 給付の種類 | 支給額 |
|---|---|
| 休業(補償)給付 | 給付基礎日額の60% × 休業日数 |
| 休業特別支給金 | 給付基礎日額の20% × 休業日数 |
| 合計 | 約80% × 休業日数 |
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なお、休業開始から最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ、労災保険からの給付は行われません。ただし業務災害の場合、この3日間は事業主が平均賃金の6割以上の休業補償を行う義務があります。
③ 後遺症が残った場合の障害補償(障害〈補償〉給付)
軽い打撲でも、治療後に手足のしびれや関節の可動域制限といった後遺症が残るケースはゼロではありません。治療を続けても症状が改善せず「症状固定」と判断されたときに一定の後遺障害が残った場合は、その程度に応じた第1級〜第14級の「障害等級」に基づき障害(補償)給付が支給されます(第1級〜第7級は年金、第8級〜第14級は一時金)。
3. 打撲で「何日」休める?治癒期間と休業補償の関係
「打撲 仕事 何日休む」「労災 打撲 期間」といった、休む日数や治るまでの期間に関する疑問も多く寄せられます。
打撲が治るまでの一般的な期間の目安
治癒期間は程度によって幅があります。あくまで目安であり、実際の期間は必ず医師の診断に従ってください。
| 程度 | 治癒期間の目安 |
|---|---|
| 軽度の打撲 | 数日〜2週間程度 |
| 中等度〜重度 | 腫れや内出血が強い場合、関節周辺など:3週間〜1か月以上 |
打撲だと思っていても、骨のひびや靭帯・筋肉の損傷を伴っていると、さらに長引くことがあります。
休業補償に「日数の上限」はない
労災の休業(補償)給付は、「療養のために働くことができない」状態が続く限り、日数の上限なく支給されます。「何日まで」という打ち切りが最初から決まっているわけではなく、医師が就労可能と判断するまで補償が続くのが原則です。
ただし、前述のとおり休業4日目から支給の対象となります。3日以内で復帰できた軽い打撲の場合、労災保険からの休業給付は受けられませんが(業務災害では事業主が補償)、治療費の療養給付は日数にかかわらず対象です。「たった数日だから」とためらわず、業務中の打撲で通院・休業した事実は会社に報告し、労災申請を検討することが大切です。
4. 会社が労災を認めない・使わせてくれないときの対処法
近年、「仕事中の怪我 労災 使わない」「会社が労災にしてくれない」といった検索が増えています。多くの方がつまずくポイントなので、しっかり押さえてください。
大前提:労災を認めるのは「会社」ではなく「労働基準監督署」
まず知っておいていただきたいのは、労災保険を適用するかどうかを判断するのは会社ではなく労働基準監督署だということです。会社が「労災は使わないでほしい」と言っても、その依頼に応じる義務は労働者にありません。業務中・通勤中のケガに労災保険を申請することは労働者の正当な権利であり、会社の許可や同意は不要です。
会社が協力してくれなくても、労働者自身で申請できる
労災の申請書には事業主が証明する欄がありますが、会社がこの証明を拒否しても、労働者自身で申請手続きを進められます。証明を拒否された事実を労働基準監督署に伝えれば、事業主の証明がなくても申請を受け付けてもらえます。会社が「うちは労災に入っていない」と言うケースでも、労働者を一人でも雇用する事業者は原則として労災保険の加入が義務付けられており、仮に会社が未加入・保険料未納でも労働者は給付を受けられます。
会社による「労災隠し」は犯罪行為
会社が労働災害の発生を認識しながら手続きを怠る「労災隠し」は、犯罪行為にあたります。ただし、その「犯罪」が具体的に何を指すのかは正しく理解しておく必要があります。
労働法の体系書によれば、「労災隠しは犯罪です」というときの「犯罪」とは、「労働者死傷病報告」の提出義務違反を指します。つまり、労働者が死傷する労働災害が起きたのに、事業主が労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」を提出しないことが違法とされ、罰則の対象となります。
裏を返せば、事業主が労働者死傷病報告をきちんと提出し、被災者に労災給付の内容を説明したうえで、被災者自身が自由な意思で労災請求をしないと選ぶこと自体は、それだけで直ちに違法となるわけではありません。だからこそ、「会社に言われたから」ではなく、労働者自身が労災のメリットを正しく理解して判断することが重要になります。
参考:水町勇一郎『詳解労働法(第3版)公式読本』Q132
労災隠しが発覚した場合、事業主には罰金が科せられる可能性があり、企業の社会的信用を大きく損なうことにもつながります。
「健康保険を使って」と言われても使ってはいけない
会社によっては「健康保険を使ってほしい」と言ってくることがありますが、業務中・通勤中のケガに健康保険は原則として使えません。誤って健康保険を使うと、後日その費用を返還するよう求められるなど、かえって複雑な手続きが必要になります。業務上のケガは正しく労災保険で処理することが本人にとっても最善です。
対応に困ったら弁護士へ
会社との間でトラブルになった場合や、労災申請を妨害されている場合、一人で抱え込む必要はありません。弁護士に相談すれば、申請手続きのサポートはもちろん、会社との交渉や、会社に安全配慮義務違反がある場合の損害賠償請求まで見据えた対応が可能です。
5. 労災の対象となるケガの条件【業務災害・通勤災害】
ここからは「そもそもどんなケガが労災になるのか」という基本の考え方を確認します。労災保険が適用されるのは、単に仕事中にケガをしたというだけではなく、そのケガが「業務」または「通勤」を原因として発生したものであることが大前提です。
| 災害の種類 | 定義 |
|---|---|
| 業務災害 | 労働者が事業主の支配下にある状況で、業務が原因で発生した災害 |
| 通勤災害 | 就業のため住居と職場の間を合理的な経路・方法で移動中に発生した災害(業務の性質を有するものを除く) |
業務災害の2つの要件:業務遂行性と業務起因性
業務災害と認定されるためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
労災保険における業務災害とは、労働者が労働契約に基づき使用者の支配下にあり(業務遂行性)、使用者の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験法則上認められる(業務起因性)場合をいうとされています(昭和49年10月25日基収第2950号)。
- 業務遂行性:業務起因性を判断する前提条件。「具体的に作業している最中」という狭い意味ではなく、労働者が事業主の支配ないし管理下にある状態を指し、就業時間中や企業施設内に限らず、一定の時間的・場所的な近接性がある事実関係も含まれます。
- 業務起因性:業務とケガとの間に、経験則上相当な因果関係(相当因果関係)があることが求められます。
参考:中島光孝ほか『弁護士・社労士・税理士が書いたQ&A 労働事件と労働保険・社会保険・税金(第2版)』Q145
ケース別|こんな打撲・転倒は労災になる?
打撲や転倒は状況によって判断が分かれます。代表的なケースを、判例・通達をもとに整理します。
- 就労中に職場内で転倒して打撲:業務上の行為や事業場の施設・設備の管理状況などが原因で発生した災害は、特段の事情のない限り業務災害と認められます。(「特段の事情」とは、私的行為・恣意的行為、故意、私的怨恨による第三者からの暴行、天災地変などです。)
- 作業中に同僚から殴られてケガ:他人の故意による暴行でも、私的な怨恨や自招行為など明らかに業務に起因しないものを除き、業務に起因すると推定されます(平成21年7月23日基発0723第12号、大阪高判平成24年12月25日等)。
- 休憩中に施設内で転倒して打撲:原則として業務起因性は認められませんが、施設自体の構造や管理の瑕疵が原因なら業務災害と認められます。なお、トイレなどの生理的行為は業務に附随する行為として扱われ、休憩中とは扱われず業務災害となります。
- 出張・宿泊中に階段で転倒して打撲:出張中は事業主の管理下を離れていても、命令を受けて仕事をしている限り事業主の支配下にあるとされ、積極的な私的行為など特段の事情がない限り業務災害です(宿泊先での転落死亡を業務災害と認めた裁判例あり)。
参考:Q&A 労働事件と労働保険・社会保険・税金(第2版)Q145、テイクロ九州事件・最二小判平成28年7月8日 ほか
通勤・退勤中に発生した「通勤災害」
通勤災害とは、就業のために住居と就業場所の間を、合理的な経路・方法で移動中に負傷することを指します。具体例は次のとおりです。
- 駅の階段で転倒し、打撲を負った場合
- 最寄り駅から職場へ向かう途中で自転車に衝突され、ケガをした場合
- 自転車通勤中に転倒し、負傷した場合
ただし、通勤経路を逸脱・中断した場合は原則として通勤災害と認められません。もっとも、日用品の購入、病院への通院、職業訓練、親族の介護などの日常生活上必要な行為を、やむを得ない事情により最小限度の範囲で行う場合は例外として認められ、元の経路に復帰すれば再び通勤災害の対象となります。
通勤災害の認定条件や申請の流れについては、通勤途中の事故は労災になる?認定される条件や申請手続きをわかりやすく解説でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
6.【5ステップ】打撲で労災を申請する手続きの流れ
労災申請は、正しい手順を踏まえれば意外とスムーズに進められます。打撲で労災を申請する流れを5つのステップに分けて解説します。
-
会社へケガの発生を報告する
たとえ軽傷でも、まずは直属の上司や人事・総務など社内の窓口へ速やかに報告します。「いつ・どこで・何をしている時に・どのように」を具体的に伝えると、業務との因果関係が明確になり手続きがスムーズです。
-
労災指定病院で診察を受ける【健康保険証は使わない】
原則として「労災指定病院」を受診します。窓口での治療費の立替が不要になります。健康保険証は使用しないでください——労災と健康保険は併用できず、誤用すると後日の返還手続きが必要になります。
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病院へ提出する書類を準備する(様式第5号など)
「療養の給付請求書」を準備します。業務災害は様式第5号、通勤災害は様式第16号の3。厚生労働省サイト等で入手でき、災害の発生状況を具体的に記載します。作成した書類は受診した労災指定病院の窓口に提出します。
-
休業する場合は追加書類を準備する(様式第8号など)
4日以上休む場合は、休業(補償)給付を申請します。業務災害は様式第8号、通勤災害は様式第16号の6。事業主および診療担当医師の証明を受けて所轄の労働基準監督署長に提出します。
-
作成した書類を労働基準監督署へ提出する
各種請求書を会社の所在地を管轄する労働基準監督署へ提出します。監督署が災害の発生状況や業務との因果関係を調査し、労災認定の可否が決定され、結果が申請者へ通知されます。
| 給付 | 業務災害 | 通勤災害 |
|---|---|---|
| 療養(治療費) | 様式第5号 | 様式第16号の3 |
| 休業(収入補償) | 様式第8号 | 様式第16号の6 |
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7. 打撲の労災に関するQ&A
ケガの程度の軽重は関係ありません。労災保険の適用に「これ以上の重さでなければ対象外」といった下限や基準はなく、業務中・通勤中に発生した打撲であれば軽微なものでも対象です。判断されるのは「重いか軽いか」ではなく「業務(通勤)が原因かどうか」です。
その依頼に応じる義務はありません。労災を適用するか判断するのは会社ではなく労働基準監督署です。会社が申請を妨害すれば「労災隠し(労働者死傷病報告の不提出)」として罰則の対象になり得ます。会社が非協力的でも、労働者自身が直接、労働基準監督署へ申請手続きを進められます。
後から労災保険への切り替えが可能です。まず受診した医療機関の窓口に、労働災害であること・健康保険を誤って使ったことを速やかに申し出てください。月をまたぐなどで切り替えが難しい場合は、いったん健康保険の負担分を精算・返還したうえで労災保険に請求する流れになります。いずれも速やかな手続きが重要です。
使えます。パート・アルバイト・派遣といった雇用形態に関わらず、すべての労働者が労災保険の適用対象です。労災保険は労働基準法上の「労働者」を対象としており、雇用形態で区別されることはありません。週1日勤務や短時間勤務でも、業務中・通勤中のケガは補償されます。
あります。給付ごとに「消滅時効」が設けられており、過ぎると原則として請求権が失われます。軽くても速やかに会社へ報告し、申請手続きを始めることが重要です。
| 給付の種類 | 時効 | 起算点 |
|---|---|---|
| 療養(補償)給付 | 2年 | 費用を支払った日の翌日 |
| 休業(補償)給付 | 2年 | 賃金を受けなかった日ごとの翌日 |
| 障害(補償)給付 | 5年 | 症状固定した日の翌日 |
8. 労災の問題は難波みなみ法律事務所へ
仕事中に負った打撲は「これくらいなら大したことはない」と自己判断してしまいがちです。しかし、業務中・通勤中に発生したケガであれば、軽傷の打撲でも労災保険の給付対象となる可能性があり、ケガの程度は関係ありません。治療費の自己負担がなくなるだけでなく、休業中の収入補償や後遺症が残った場合の障害補償など、多くのメリットがある重要な制度です。
万が一、会社が労災申請に非協力的な場合や手続きに不安がある場合は、一人で悩まずに弁護士へご相談ください。当事務所では、労災の申請サポートから会社との交渉まで、被災された労働者の方を親身にサポートします。
難波みなみ法律事務所
- 所在地
- 〒542-0086 大阪府大阪市中央区西心斎橋2-4-2 難波日興ビル403
- 電話
- 06-6786-8103(FAX:06-6786-8104)
- 最寄駅
- Osaka Metro なんば駅/心斎橋駅
- 対応地域
- 大阪府全域・兵庫県・和歌山県・奈良県ほか
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案については結論が異なる場合があります。具体的なご状況については弁護士にご相談ください。
※参考文献:中島光孝ほか『弁護士・社労士・税理士が書いたQ&A 労働事件と労働保険・社会保険・税金(第2版)』(日本加除出版)/水町勇一郎『詳解労働法(第3版)公式読本』(日本法令)




