自分の所有する土地や建物に、見知らぬ第三者が住み着いている。賃貸していた物件に、契約が終わったはずの元借主が居座り続けている──。こうした「不法占拠」のトラブルは、決して珍しいものではありません。
しかも不法占拠への対応には、大きな落とし穴があります。所有者だからといって勝手に鍵を替えたり荷物を運び出したりすれば、逆にこちらが違法行為を問われかねません。一方で、放置し続ければ、最悪の場合「取得時効」によって所有権そのものを失うおそれすらあります。
この記事では、不法占拠の意味と類型、絶対にやってはいけない対応、明渡しを実現するための4つの法的手順、そして占拠者に請求できる損害金まで、不動産トラブルを扱う弁護士がわかりやすく解説します。
不法占拠とは何か?
不法占拠の定義
不法占拠とは、賃借権や地上権といった法律上の正当な根拠(占有権原)がないにもかかわらず、他人の土地や建物を事実上支配し、使用している状態をいいます。
所有権は、法令の範囲内で自分の物を自由に使用・収益・処分できる権利です(民法206条)。そのため、第三者に占有を奪われている所有者は、所有権に基づいてその返還(明渡し)を求めることができます。これは「物権的請求権」のうちの返還請求権と呼ばれるもので、不法占拠に対抗する法的手段の出発点となります。
不法占拠が生じる2つのパターン
不法占拠に至る経緯は、大きく2つに分けられます。
1つ目は、最初から何の権原もなく占拠しているケースです。空き家に無断で住み着いた、隣地との境界を越えて建物や物置を設置した、といった場合がこれにあたります。
2つ目は、かつては正当な権原があったものの、それが失われたケースです。典型例は、家賃滞納により賃貸借契約を解除されたにもかかわらず退去しない元借主です。契約が有効に解除された後の占有は、権原のない占有=不法占拠となります。借主が無断で第三者に転貸していた場合、その転借人も権原のない占有者です。
「不法占拠かどうか」の見極めが最初の分かれ道
対応を誤らないために最も重要なのが、現在の占有者が本当に「無権原」なのかを最初に見極めることです。
書面の契約がなくても、口頭の合意で賃借権や使用借権が成立していることがあります。また、建物を実際に使っている人が借主本人でなくても、借主の家族や、法人借主の代表者・従業員であれば、独立した占有者ではなく「占有補助者」にすぎず、不法占拠にはあたりません。逆に、借主が無断で第三者に又貸ししていれば、その第三者は所有者との関係では不法占拠者となります。
見知らぬ人が使っているからといって直ちに不法占拠と決めつけず、占有者と借主との関係性、権原の有無を確認する作業が欠かせません。
不法占拠の3つの類型と請求の違い
一口に不法占拠といっても、法的には状況に応じて請求の内容が変わります。実務上は次の3つの類型に整理でき、どれにあたるかによって「何を請求すべきか」が異なります。
| 類型 | 状況 | 求める請求 |
|---|---|---|
| ① 土地・建物の直接占拠 | 相手が自分の土地や建物をそのまま占拠している | 土地(建物)明渡請求 |
| ② 他人所有の建物による土地占拠 | 自分の土地の上に、相手が建物を建てて所有している | 建物収去土地明渡請求 |
| ③ 建物占有者による土地占拠 | ②の建物に、建物所有者とは別の人が住んでいる | 建物退去土地明渡請求 |
特に注意が必要なのは②と③です。土地と建物は法律上別個の不動産なので、土地の明渡しを命じる判決だけを得ても、地上建物を取り壊す強制執行はできません。土地上の建物ごと排除したい場合には、「土地の明渡し」とあわせて「建物の収去」まで請求しておく必要があります。さらに、その建物に所有者以外の占有者がいれば、その人に対して建物からの退去も求めなければなりません。
こうした請求の組み立てを誤ると、せっかく勝訴しても執行段階で行き詰まることがあります。類型の見極めは、専門家の関与が特に活きる場面です。
対処の前に必要な2つの「特定」
法的手続に進む前提として、実務では次の2点を固める必要があります。
対象不動産の特定
一筆の土地や登記済みの建物であれば、登記情報によって対象を特定できます。土地の一部だけが占拠されている場合には、図面でその範囲を明示します。未登記建物については、建物の種類・構造・床面積などの情報と配置図面を組み合わせて特定することになります。
占有者の特定
契約関係が全くない占拠の場合、「そもそも誰が占拠しているのか分からない」ことも珍しくありません。その場合は、現地調査で本人に確認する、表札・看板・郵便受けの表示を確認する、近隣住民やマンション管理人から情報を得る、といった方法で占有者を割り出していきます。
また、訴訟で誰を被告とすべきかにも判例上のルールがあります。一世帯の家族が住んでいれば世帯主を、法人名義で占有していればその法人を被告とし、単なる使用人・占有補助者は被告としません。相手方の選定を誤ると訴訟がやり直しになりかねないため、ここは慎重な検討が必要です。
他人の土地上の建物について登記名義を持っている人は、実際には建物を他人に譲渡済みであっても、自らの意思で登記名義を保有し続けている限り、建物収去土地明渡しの義務を免れないとした最高裁判例があります(最判平6・2・8)。「もう自分の建物ではない」という言い分は、登記名義を残している限り通らないということです。


不法占拠の解決で絶対にやってはいけないこと
自力救済は原則禁止
自分の不動産だからといって、裁判手続を経ずに実力で占拠者を追い出す行為は「自力救済」と呼ばれ、日本の法律では原則として許されていません。具体的には、次のような行為は犯罪になり得ます。
- 無断で鍵を交換する ─ 占拠者の立入りを妨げる行為として、住居侵入等の問題が生じる可能性
- 占拠者の荷物を運び出す・処分する ─ 窃盗罪や器物損壊罪に問われる可能性
さらに、こうした行為をきっかけに、占拠者側から損害賠償を請求されるリスクもあります。過去の裁判例には、家賃滞納者への強引な追い出し行為について、所有者や管理会社側に賠償を命じたものが複数あります。「追い出したい一心での行動」が、所有者を加害者の立場に変えてしまうのです。
脅迫・暴力による退去要求
「出ていかないとどうなるか分かっているのか」といった発言は脅迫罪に、身体に触れたり物を投げつけたりする行為は暴行罪に該当するおそれがあります。相手がやり取りを録音・録画していれば、後の裁判で所有者側が著しく不利になるだけでなく、刑事責任を問われるリスクも生じます。
感情的になる気持ちは当然ですが、解決はあくまで法的手続によって進める必要があります。
まずは任意交渉から:話し合いで解決できる場合
訴訟や強制執行には相応の時間と費用がかかります。そのため、交渉での解決が最初から見込めない場合を除き、まずは任意の明渡し交渉を試みるのが一般的です。
実務では、期限を区切って明渡しを求める催告書を書面で送付し、相手から応答があれば話し合いで退去条件を詰めていきます。合意ができた場合には、明渡しの期限を明確にした合意書を作成します。期限までに履行されなかった場合のペナルティ(遅延損害金)や、残された動産を所有者側で処分できる旨をあわせて定めておくと、後のトラブルを防げます。
当事者間で作った合意書だけでは、強制執行の根拠(債務名義)にはなりません。相手が約束を破ったときに直ちに強制執行へ進めるようにするには、簡易裁判所の「訴え提起前の和解(即決和解)」を利用して、合意内容を和解調書にしておく方法があります。なお、明渡義務は金銭債務ではないため、公正証書にしても強制執行はできません。
不法占拠者を退去させる4つの法的ステップ

任意の交渉で解決できない場合、法的手続によって明渡しを実現していくことになります。標準的な流れは次の4段階です。
- 内容証明郵便による明渡請求明渡しを求める意思を証拠に残る形で通知する
- 占有移転禁止の仮処分訴訟中に占有者がすり替わるのを防ぐ保全手続
- 明渡請求訴訟の提起裁判所から明渡しを命じる判決を取得する
- 強制執行執行官により強制的に明渡しを実現する
ステップ1:内容証明郵便で明渡しを請求する
まず、所有者としての明確な意思表示として、内容証明郵便で明渡しを請求します。内容証明郵便は「いつ・誰が・どんな内容の文書を送ったか」を日本郵便が証明する制度で、後の裁判で明渡しを請求した事実の証拠となるほか、法的措置に移る前の最終警告としての意味も持ちます。
記載すべき項目は次のとおりです。
- 対象物件の特定情報(所在地・物件名など)
- 明渡しを求める根拠
- 明渡しの期限(通常は到着後1か月程度)
- 期限内に退去しない場合は法的措置に移行する旨の警告
この段階から弁護士名義で送付すると、相手に事態の重大さが伝わり、訴訟前に任意退去に至る可能性が高まります。
ステップ2:「占有移転禁止の仮処分」で相手を固定する
見落とされがちですが、実務上きわめて重要なのがこの保全手続です。
明渡訴訟はA(現在の占有者)を被告として進めますが、判決前にAが別のBに占有を移してしまうと、Aに対する判決ではBに強制執行ができません。占有の承継者に訴訟を引き受けさせる制度はあるものの、占有の移転を常に把握できるとは限らず、移転のたびに手続を取るのは現実的ではありません。
そこで、占有者が入れ替わるおそれがある場合には、訴訟の前に「占有移転禁止の仮処分」を申し立て、相手方を固定(当事者恒定)しておきます。この仮処分が執行されていれば、口頭弁論終結前に第三者へ占有が移っても、取得した判決に基づいて強制執行が可能になります。
不動産については、執行前に債務者を特定することが困難な特別の事情があるときは、債務者を特定しない仮処分命令を発してもらえる制度があります。この場合、執行官が現地で執行する際に占有者を特定します。占有者不明の空き家占拠などで力を発揮する手続です。
なお、自分の土地上に相手が建物を所有している類型(建物収去土地明渡し)では、建物が第三者に譲渡されてしまうと同様の問題が生じるため、「処分禁止の仮処分」を検討することになります。
ステップ3:明渡請求訴訟を提起する
内容証明による請求にも応じない場合、裁判所に明渡しを求める訴訟を提起します。
原告側は、①自分が所有者であること、②相手が対象不動産を占有していることを主張・立証します。所有権については、自らが所有者として登記された登記事項証明書を提出するのが基本です。登記があれば、登記どおりの権利関係が事実上推定されるため、立証のハードルは高くありません。あわせて、相手に正当な占有権原がないこと(賃貸借契約が存在しない、または解除済みであること等)や、内容証明の控え・交渉経緯の記録が重要な証拠となります。
なお、元借主の居座りのように「契約が終了した」ことが争点になるケースでは、所有権に基づく請求ではなく、契約終了に基づく明渡請求として構成するのが実務上一般的です。事案に応じた法律構成の選択も、弁護士の腕の見せどころです。
訴訟の期間は事案によりますが、争いがある場合には半年から1年以上を要することもあります。
ステップ4:強制執行で明渡しを実現する
勝訴判決が確定してもなお相手が退去しない場合、最終手段が強制執行です。
判決正本(債務名義)と送達証明書などを揃え、物件所在地を管轄する地方裁判所の執行官に申立てを行います。申立てが受理されると、まず執行官が現地で「催告」を行い、退去期限を告知します。期限までに退去しなければ「断行」となり、執行官の指揮のもと、搬出作業員によって家財道具が運び出され、占有が解かれます。
裁判所に納める予納金として6万円程度のほか、作業員の人件費や荷物の運搬・保管費用などがかかり、物件の広さや残置物の量によって総額は変動します。これらの費用は占拠者に請求できますが、相手に資力がなければ回収が困難な場合も少なくありません。
占拠者に請求できるお金:賃料相当損害金
不法占拠されている間、所有者は本来自由にできるはずの不動産を使用・収益できません。この損害について、占拠者に金銭賠償を求めることができます。
法律構成としては不法行為に基づく損害賠償と不当利得の返還の2通りがあり、いずれの場合も、実務上は「その物件を貸していれば得られたはずの賃料相当額」を基準に請求するのが一般的です。損害は占有の開始から明渡しの完了まで発生し続けますので、明渡請求とあわせて「明渡済みまで月額〇円の割合による金員を支払え」という形で請求します。
賃料相当損害金は明渡請求に付随する請求として扱われるため、訴訟費用算定の基礎となる訴額には加算されません。明渡しと損害金をセットで請求しても、印紙代が大きく増えるわけではないということです。
警察は動いてくれる?「民事不介入」の原則と例外

不法占拠に直面したとき、まず警察に相談しようと考える方は多いはずです。しかし、日本の警察には「民事不介入の原則」があり、個人間の権利や契約をめぐる争いには原則として介入しません。不法占拠は不動産の所有権・占有権をめぐる民事上の争いと見られるため、通報しても「当事者間で解決を」「弁護士に相談を」と促されるのが実情です。
もっとも、占拠者の行為が刑法に触れる場合は話が別です。
| 占拠者の行為 | 該当し得る犯罪 |
|---|---|
| 正当な理由なく他人の建物に侵入する | 建造物侵入罪(刑法130条) |
| 他人の不動産を権原なく占有し自己の支配下に置く | 不動産侵奪罪(刑法235条の2) |
| 無断で鍵を変更・破壊する | 器物損壊罪 |
| 退去を求めた所有者を脅す | 脅迫罪 |
これらに該当し得る事情があれば、刑事事件として相談できる可能性があります。被害状況の写真や会話の録音など、具体的な証拠を揃えて相談することが重要です。
放置は危険:所有権を失う「取得時効」
不法占拠への対応を怠り長期間放置することの最大のリスクが、占拠者に所有権を取得されてしまう「取得時効」です。
| 占有開始時の状態 | 必要な期間 |
|---|---|
| 自分の物と信じ、そう信じることに過失がなかった(善意無過失) | 10年 |
| 他人の物と知っていた、または知らないことに過失があった | 20年 |
いずれの場合も、所有の意思をもって平穏かつ公然に占有を継続することが要件です。単に借りて住んでいるだけの占有では所有の意思が認められないため時効取得は成立しませんが、無権原の占拠者が「自分の物」として占有を続けるケースでは現実的なリスクとなります。
- 内容証明郵便による明渡しの催告 ─ 催告から6か月間、時効の完成が猶予されます
- 明渡請求訴訟の提起 ─ 訴訟終了まで完成が猶予され、勝訴判決の確定により時効期間がリセットされます
長期間占拠されている物件ほど、一刻も早い着手が必要です。
不法占拠の問題を弁護士に依頼するメリット
ここまで見てきたとおり、不法占拠の解決には、類型の見極め、被告・請求内容の選択、仮処分の要否判断、訴訟、強制執行と、専門的な判断が連続します。弁護士に依頼するメリットは主に3つです。
第一に、一連の手続をすべて任せられること。内容証明の作成から強制執行まで一任でき、手続の誤りによるやり直し(誤った相手を被告にしてしまう、建物収去の請求を漏らしてしまう等)を防げます。
第二に、占拠者との直接交渉から解放されること。感情的な対立から生じるトラブルや精神的負担を避け、弁護士が代理人として冷静に交渉を進めます。
第三に、事案に応じた最短ルートを選択できること。任意交渉と即決和解で早期に解決すべき事案か、仮処分を先行させて訴訟に進むべき事案かの見極めは、経験がなければ困難です。
相談のタイミングは、不法占拠に気づいた直後がベストです。対応の遅れは、占拠の長期化や取得時効のリスクに直結します。
空き家を不法占拠させないための予防策

不法占拠は、管理の行き届いていない不動産ほど狙われやすくなります。予防のポイントは次のとおりです。
- 定期的な訪問・清掃 ─ 郵便物の整理、庭の手入れ、換気などで「管理されている物件」であることを外部に示す
- 管理委託サービスや警備システムの導入 ─ 遠隔地の物件は、空き家管理サービスによる定期巡回や、監視カメラ・センサーライトの設置が有効
- 売却・賃貸などの活用 ─ 放置された空き家は「特定空家」に指定され固定資産税が増額されるリスクも。売却や賃貸により、管理負担とともに不法占拠のリスク自体を解消するのも有力な選択肢
まとめ:不法占拠の問題は難波みなみ法律事務所へ

- 不法占拠とは、正当な権原なく他人の不動産を占有すること。まず占有者の権原の有無を確認する
- 鍵の交換や荷物の搬出などの自力救済は違法。解決は法的手続で進める
- 明渡しの実現は「内容証明 → 仮処分 → 訴訟 → 強制執行」の4ステップ
- 賃料相当損害金もあわせて請求できる
- 放置すれば取得時効で所有権を失うおそれ。気づいたら直ちに着手を
不法占拠は、自力での実力行使が許されない一方、放置すれば損害が拡大し、最悪の場合は所有権すら失いかねない問題です。解決には、事案の類型に応じた請求の組み立てと、仮処分・訴訟・強制執行という専門的な手続の積み重ねが必要になります。
難波みなみ法律事務所では、不動産の明渡し・不法占拠の問題について初回相談30分を無料で実施しています。ご来所のほか、お電話・zoom等でのご相談も可能です。対応地域は大阪難波(なんば)、大阪市、大阪府全域、奈良県、和歌山県、その他関西エリアです。お一人で悩まず、お気軽にご相談ください。





