コラム
更新日: 2026.08.07

口約束の婚約も有効か?婚約破棄で慰謝料請求できるのか

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

, , , , , , , 離婚問題, 口約束の婚約で慰謝料請求できるか?, 口約束でも婚約となるか?
この記事の結論(先にお伝えします)
  • 口約束だけでも婚約は成立します。婚約指輪の交換や結納がなくても、二人の「結婚しよう」という合意があれば婚約です。
  • ただし、慰謝料を請求するには「婚約があったこと」を客観的に証明できる証拠が必要です。
  • 正当な理由なく一方的に婚約破棄されたら、慰謝料を請求できます(民法に条文はなく、判例で認められた権利です)。
  • 相場は50万円〜200万円。妊娠・中絶や悪質な事案では、400万〜500万円を認めた裁判例もあります。
  • 口約束は「言った・言わない」になりがち。LINE・写真・録音などの証拠確保が最大のカギです。

交際相手からプロポーズを受けて婚約する、というのはよくあることです。むしろ、婚約を契約書や手紙にすることは珍しく、多くの場合、婚約は「口約束」で交わされます。

しかし、口約束だけの婚約は、いざ婚約破棄となったときに「言った・言わない」の水掛け論になりがちで、そもそも婚約が本当に成立していたのか、あいまいになりやすいという弱点があります。それでも、口約束の婚約は法的に有効で、不当に破棄されれば慰謝料を請求できます。

この記事では、口約束の婚約が成立する理由、慰謝料を請求できる条件、相場と高額になるケース、そして最も重要な「証拠の集め方」まで、裁判例を交えて大阪の弁護士がわかりやすく解説します。

1.口約束だけでも婚約は成立する

まず大前提として、婚約は口約束でも成立します。その理由と、注意すべき「拘束力の限界」を確認しましょう。

婚約とは何か?(民法に条文はありません)

婚約とは、将来結婚しようという当事者間の約束(婚姻予約)のことをいいます。実は、民法には婚約について定めた条文はなく、婚約に関するルールは判例の積み重ね(判例法理)によって形づくられてきました。あくまで交際する二人の合意が必要で、一方が「結婚したい」と思っているだけの一方的な申し込みでは、婚約とはいえません。また、親同士が決めたいわゆる「許婚(いいなづけ)」には、婚約としての効力は認められません。

口約束でも婚約になる(儀式は要件ではない)

婚約も契約の一種で、契約は口頭でも成立すると考えられています。慣習上、結納の授受や婚約指輪の交換が行われることもありますが、これらは婚約成立の要件ではありません。また、内縁(事実婚)とは異なり、共同生活をしている実態も必須ではありません。

よくある誤解:「指輪の交換をしていないから婚約は成立していない」 「婚約指輪の交換や結納をしていない段階では婚約は成立しておらず、単なる男女関係の解消に過ぎないから損害賠償はできない」と言われることがありますが、これは誤りです。指輪の交換などの儀式は婚約の要件ではなく、結婚の合意があったのに正当な理由なく破棄されれば、損害賠償を請求できます。

拘束力はあるが、結婚の強制はできない

口約束であっても婚約が成立した以上、当事者には「誠実に交際し、結婚に向けて努力する義務」という法的拘束力が生じます。義務に反した相手には、家庭裁判所に婚約履行の調停を申し立てることもできます。ただし、婚姻は当事者の自由な意思による合意でのみ成立するため、結婚そのものを強制することはできません。だからこそ、正当な理由もないのに一方的に破棄した場合には、「婚約の不当破棄」として慰謝料の対象になるのです。

裁判所は「口約束の婚約」をどう判断してきたか

かつて裁判所は婚約の成立を限定的にとらえる傾向がありましたが、最高裁判決(最判昭和38年9月5日、最判昭和38年12月20日)を機に、比較的ゆるやかに婚約の成立を認めるようになりました。とはいえ、婚約は身分関係を左右する重要な約束ですから、単なる「男女の睦言(むつごと)」では足りず、誠心誠意・確実になされた約束といえるかが問われます。とくに後で不当破棄が争われる場面では、ある程度の公然性・公示性(外部から分かる形になっているか)が立証上とても重要になります。

【チェックリスト】婚約が成立しているかの判断材料

裁判所は、口頭の合意内容だけでなく、次のような諸般の事情を総合して婚約の成立を判断します。当てはまるものが多いほど、婚約が認められやすくなります。

婚約成立の判断チェックリスト
  • 二人の間に「結婚しよう」という明確で真剣な合意があった
  • 結婚時期・新生活など具体的な話を進めていた
  • 婚約指輪・結納・両親の顔合わせなど結婚に向けたイベントがあった
  • 職場・友人・家族など周囲に婚約を公表していた(公然性)
  • 新居の契約や退職など新生活の準備を始めていた

2.口約束の婚約の最大の壁は「証明」

口約束の婚約が実現し、結婚できれば何の問題もありません。問題は、婚約破棄になったときです。口約束の場合、「言った・言わない」の水掛け論になり、婚約の成立を証明するのが難しくなります。慰謝料請求のケースでは、請求する側が「婚約が成立していたこと」を証明する必要があるため、証拠がカギになります。

婚約を証明する証拠になるもの【早見表】

▼ 婚約の証明に使える主な証拠
種類具体例
強い証拠
婚約を直接うかがわせる
両親の顔合わせ・結納の記録、婚約指輪の購入・受け渡し、結婚式場の予約、新居の賃貸借契約、婚姻届へのサイン
補強する証拠
合意や経緯を示す
プロポーズや結婚の約束が分かるLINE・メール、録音、フォトウェディングの写真、双方の家族を含めた食事会、周囲への公表(招待状・SNS等)
LINEも立派な証拠になります LINEでプロポーズを受けたり、婚約後に各イベントの予約・日程調整をしたやりとりは、婚約が成立していたことの証拠になります。トーク履歴を削除する前に、必ずバックアップとスクリーンショットを確保してください。

裁判例に見る「婚約が認められた例・認められなかった例」

実際の裁判例でも、結論は事情の積み重ね次第で分かれています。

婚約を認めた例 成立
真実夫婦として共同生活を営む意思で婚姻を約し、長期間交際を継続していれば、両親らに打ち明けず、結納・同棲がなくても婚姻予約を認める(最判昭和38年9月5日)。長年の精神的な交わり・エンゲージリングの贈与・友人への公示・相手方の母や姉の認容から婚約成立を認めた例もあります(東京高判昭和43年3月5日)。
婚約を認めなかった例 不成立
情交関係や「結婚しよう」という言葉があっても、若い男女にありがちな一時の情熱や「閨房の睦言」にとどまり、真剣・確実な約束とはいえないとして、婚約の成立を否定した例があります(前橋地判昭和25年8月24日、大阪地判昭和26年5月15日ほか)。知り合って4か月余りで、両親に結婚の話もしていなかった事案で否定した例もあります(仙台地判平成11年1月19日)。

3.婚約破棄で慰謝料請求できる条件

口約束の婚約であっても、婚約破棄により慰謝料を請求できます。婚約も合意(契約)ですから、正当な理由もないのに一方的に破棄することは、債務不履行ないし不法行為にあたるからです。慰謝料が認められるには、次の2つがポイントになります。

慰謝料請求が認められる2つの条件
  • 婚約が成立していたこと(=それを示す証拠があること)
  • 正当な理由なく、一方的に破棄されたこと

「正当な理由」があるかどうかで結論が変わる

婚約破棄に正当な理由がある場合は、破棄しても慰謝料は発生しません。反対に、正当な理由がないのに破棄すれば「不当破棄」となり、慰謝料の対象になります。民法に明文がないため、何が正当事由になるかは判例の積み重ねによります。裁判所は、いったん成立した婚約の解消を容易には認めない傾向にあり、実際の裁判例は次のように分かれています。

正当な理由と認められた例
(=慰謝料が発生しにくい)
  • 相手の不貞行為(浮気・不倫)
  • 相手が病弱で夫婦生活を営むのが困難
  • 結婚式直前に家出して行方をくらました
  • 相手からの暴力・重大な侮辱、肉体関係の強要
  • 正常な性生活が難しい重大な肉体的事情
不当破棄とされた例
(=慰謝料を請求できる)
  • 単なる心変わり・気が変わった
  • 占い・姓名判断で相性が悪いなど
  • 年齢差(例:10歳差)を忌む俗信
  • 親・親族の反対だけを理由とする
  • 信仰・改宗を理由とする
  • 出身地・国籍などによる差別

※「性格の不一致」が正当事由になるかはケースバイケースですが、裁判例では容易には正当事由と認められない傾向です。最終的には事情を総合して判断されます。

相手に配偶者がいた場合 すでに配偶者がいる人との婚約は法的に無効で、原則として婚約破棄の責任は追及できません。ただし、相手が独身を装っていた、あるいは夫婦関係が破綻していると偽っていたような場合には、損害賠償が認められることもあります。

4.婚約破棄の慰謝料の相場と算定要素

婚約破棄による慰謝料は、一般的には50万円〜200万円程度になることが多いといえます。口約束だけで結婚に向けたイベントを経ていない場合は成熟度が弱く、慰謝料額は低めになる傾向ですが、悪質な事案では400万〜500万円を認めた裁判例もあります。

実際の裁判例に見る慰謝料額

慰謝料額は、婚姻(交際)期間、肉体関係の有無、婚約を公表していたか、婚約破棄の理由などを総合して決められます。

婚姻前の肉体関係の強要・侮辱的暴言が原因で破談 50万円
1年以上、夫婦同然の生活をしていた事案 100万円
相手の出身・国籍を理由に一方的に結婚を取りやめた事案 150万円
結婚式直前に電話で一方的に婚約破棄を通告した事案 400万円
出身を理由に破棄し、相手が結婚に備えて退職していた事情も考慮 500万円

※上記はいずれも個別の事案に対する裁判例です。同種の事案でも金額は事情により異なります。

慰謝料額を左右する「算定要素」

主な算定要素
  • 交際期間・婚約期間の長さ、肉体関係の有無
  • 婚約を公表していたか(公然性)
  • 結婚準備の進み具合(結納・式場予約・新居契約・指輪など)
  • 婚約破棄の理由・態様(悪質性・相手の誠実さ)
  • 妊娠・出産・中絶の有無(母体への負担・就労への影響)
  • 婚約に伴う退職の有無、双方の経済力、相手の反省の程度

慰謝料以外に請求できる「財産的損害」

婚約が不当に破棄されると、精神的損害(慰謝料)だけでなく、結婚の準備にかけた財産的損害も請求できる場合があります。

▼ 請求を検討できる主な損害
種類内容
結婚準備の費用結婚披露宴の費用、式場・新婚旅行等のキャンセル料、仲人への謝礼など
嫁入り道具等購入した家具・道具の費用(裁判例では購入代金の7割を限度に損害と認めた例あり)
退職による逸失利益結婚のため退職した場合の得られたはずの給与。ただし現在は共働きが一般的で、退職を余儀なくされた事情など因果関係の補強が必要
結納金の返還結婚に至らなければ結納金は不当利得として返還請求可。ただし破棄した側(有責者)からの返還請求は信義則上認められない
法的根拠と請求できる期限(時効) 慰謝料請求の根拠は、債務不履行(民法415条)または不法行為(民法709条)です。請求できる期限(消滅時効)は構成により異なり、不法行為なら原則3年、債務不履行なら権利を行使できると知った時から5年が目安とされます。時間が経つほど証拠も散逸するため、早めのご相談をおすすめします。

5.婚約破棄の慰謝料請求の流れ

慰謝料請求の流れ
  • 1内容証明郵便で通知:相手に、婚約破棄に正当な理由がないこと・慰謝料を請求することなどを通知します。口頭やメールより、本気度と請求内容が正確に伝わります。
  • 2相手方と交渉:慰謝料額や解決金について話し合い、金額だけでなくその他の条件も含めて解決を目指します。
  • 3合意書の作成:交渉がまとまれば合意書を作成します。分割払いのときは、差押えに備えて公正証書の作成も検討します。
  • 4訴訟提起:交渉がまとまらなければ、慰謝料請求の訴訟を提起します。和解勧告を経て、和解または判決で解決します。

6.口約束の婚約破棄を弁護士に依頼するメリット

口約束の婚約破棄は、婚約の証明に加えて、交渉や訴訟にも多くの負担が生じます。弁護士に相談・依頼するメリットは大きく、次の3点に集約されます。

婚約の証明をサポート

口約束の婚約では、婚約を証明できるかが最大のポイントです。結婚に向けたイベントの記録に加え、LINE・録音・プロポーズ時の写真や手紙など、婚約の証明に向けた証拠集めを弁護士がサポートします。

慰謝料の交渉を一任できる

慰謝料の交渉は、多くの時間と精神的な負担を伴います。弁護士に依頼すれば、通知書の作成から相手方との交渉、合意書の作成までを一任できます。

訴訟になっても一任できる

交渉がまとまらず訴訟に移行しても、代理人を立てることで、訴訟提起から解決までを弁護士に任せられ、心理的な負担のクッションにもなります。

7.口約束の婚約破棄の問題は弁護士にご相談ください

口約束の婚約破棄は、証明のハードルが高く、感情的な対立にもなりがちです。ただでさえ婚約破棄は大きな精神的ショックを招きます。お一人で抱え込まず、一度弁護士にご相談ください。

初回相談30分無料

無料相談のご予約はこちら

【電話相談受付中】受付時間 9:00〜22:00

【来所不要・土日祝も対応】電話・LINE・ウェブでの相談可能です。お一人で悩まずにご相談ください。

対応地域:大阪府全域(難波・大阪市ほか)、兵庫県、奈良県、和歌山県、その他関西エリア。「口約束だけの婚約でも慰謝料を請求できるのか」「証拠がなくても大丈夫か」――お気軽にご相談ください。

8.よくある質問(FAQ)

口約束だけでも婚約は成立しますか?
成立します。婚約は二人の「結婚しよう」という合意で成立し、指輪の交換や結納などの儀式は必須ではありません。ただし、慰謝料請求の場面では、婚約があったことを示す客観的な証拠があるほど有利です。
婚約指輪の交換をしていなくても、慰謝料を請求できますか?
できます。指輪の交換や結納は婚約の要件ではありません。結婚の合意があったのに正当な理由なく破棄されれば、指輪の有無に関わらず損害賠償を請求できます。ただし、合意があったことを証拠で示せることが前提になります。
婚約破棄の慰謝料の相場はどのくらいですか?
一般的には50万円〜200万円程度です。口約束だけで成熟度が低いと低めになりやすく、反対に妊娠・中絶や、結婚式直前の一方的な破棄など悪質な事案では、400万〜500万円を認めた裁判例もあります。
婚約破棄しても慰謝料を払わなくてよいのはどんな場合ですか?
相手の不貞、病弱で夫婦生活が困難、暴力・重大な侮辱など「正当な理由」がある場合です。逆に、単なる心変わり、占いや年齢差、親の反対、信仰、出身地・国籍による差別などを理由とする破棄は不当破棄となり、慰謝料の対象になり得ます。
慰謝料以外に請求できるお金はありますか?
結婚準備の費用(披露宴費用、式場・新婚旅行等のキャンセル料、仲人への謝礼)、嫁入り道具の購入費、結婚のための退職による逸失利益などを請求できる場合があります。また、支払った結納金の返還を求められることもあります。

参考文献

  • 『実例 弁護士が悩む家族に関する法律相談』事例5「婚約の成立と効果」
  • 『離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点』(新日本法規出版)
  • 『実務家が陥りやすい 離婚事件の落とし穴』第13章(新日本法規出版・東京弁護士会家族法部)
  • 『夫婦関係モデル文例と実務解説』設問4「婚約」(青林書院)

※本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。婚約の成否や慰謝料額は具体的な事情により異なります。紹介した裁判例は個別事案に対する判断です。具体的なご相談は当事務所までお問い合わせください。

関連記事

「離婚」カテゴリーのピックアップコラム

「遺言・相続」カテゴリーのピックアップコラム

「労働問題」カテゴリーのピックアップコラム

「顧問契約」カテゴリーのピックアップコラム

「債務整理」カテゴリーのピックアップコラム

「不動産」カテゴリーのピックアップコラム

よく読まれている記事
PAGE TOP