コラム
公開日: 2024.09.19

離婚時の財産分与で通帳開示を拒否できるのか?|難波みなみ法律事務所

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

離婚に際して問題となるのが、財産分与です。

財産分与の対象には、自宅不動産や預貯金、生命保険、退職金などの多くの種類の財産が含まれます。

その中でも、預貯金は財産分与において大きな争点を生み出す財産の一つです。例えば、預貯金がそもそも財産分与の対象となるのか、除外されるのかといった問題に加えて、そもそも相手方が預貯金の通帳や口座履歴の開示に応じない問題があります。

特に、相手方が自身の預金口座の情報を任意に開示しないような場合、相手方の意思によらずに預金の情報を得る必要があります。可能であれば、相手方が通帳開示を拒否することを見越して、別居する前に相手方の財産資料を揃えておくことが大切です。

本記事では、財産分与における通帳開示の問題を詳しく解説します。

財産分与の対象となる預貯金とは

婚姻期間中に得た預貯金は、財産分与の対象となる共有財産であると推定されます。ただし、婚姻中に取得した預貯金が特有財産に該当する場合には、例外的に財産分与の対象から外れます。

別居時点の預金残高が対象となる

別記時点の預金残高が、財産分与の対象となります。

財産分与は、夫婦で協力して得た財産を清算する制度です。

夫婦が別居することで経済的な協力関係がなくなりますので、別居時点で持っている財産が財産分与の対象になります。

ただ、別居直前に高額の預金を引き出している場合には、その使途が合理的なものでなければ、その引き出した預金も加味した金額が財産分与の対象となります。

特有財産となる場合には対象外

別居時点で持っている預貯金であっても、その預貯金が特有財産にあたる場合には、財産分与の対象から除外されます。

例えば、婚姻前から持っている預貯金、親族から贈与を受けた預貯金、相続して得た預貯金は、夫婦が協力して得た財産ではないため、財産分与の対象から外れます。

財産分与で通帳の開示が必要な理由

財産分与において、預貯金は全体の財産の大部分を占めることもよくあります。

そのため、預貯金は財産分与の金額を決めるにあたって、非常に重要な役割を果たす資産といえます。その預貯金の通帳を開示する必要性を紹介します。

別居時点の残高を確認するため

相手方が通帳を開示しなければ、別居時点の預貯金の残高を正確に把握することができません。

上記のとおり財産分与の対象は、別居時の預貯金です。別居する直前に相手方の預金残高をチェックしていれば別ですが、これを正確に把握できていないことは多くあります。

そこで、相手方に自身の預貯金の通帳を開示してもらう必要があります。

別居直前の預金の引き出しを確認するため

別居直前の引き出しを確認するために、通帳を提出してもらう必要があります。

財産分与は別居時点の残高を対象とします。しかし、別居直前に大きな預金の引き出しがある場合、その引き出した預金の使徒が合理的でなければ、その引き出した預金も財産分与の対象となります。

そのため、別居前の引き出しの有無や金額を確認するためには、別居時点だけでなく別居前の口座履歴を確認する必要があります。

その他の資産を確認するため

通帳を確認することで、その他の銀行口座や金融資産を発見することができる場合があります。

相手方が自身の財産の全てを開示する場合には問題ありませんが、財産の一部を開示しない場合には、こちらでその財産を突き止める必要があります。相手方が隠している財産に関する資料を保有していれば、問題はありません。しかし、資料がない場合には、その財産の手掛かりを見つける必要があります。

財産を特定する手掛かりの一つとして、特定の金融機関への振り込み、引き落としの履歴があります。例えば、株式や投資信託を有している場合には、定期的に証券会社から配当金等の振込があります。

相手方の財産関係の手掛かりを見つける手段として、通帳の開示を求めることがあります。

通帳の開示を強制することはできない

相手方が通帳の開示を拒否する場合、通帳を強制的に相手方から開示させることは原則できません。

先ほど解説したように相手方に通帳を開示してもらうことは、財産分与を適切に進める上で非常に重要なことです。

しかし、あくまでの通帳の開示は、相手方の任意によるものです。相手方の意思に反して通帳を強制的に開示させる方法は原則ありません。

そのため、相手方が通帳を開示しないのであれば、通帳を開示しない理由を聞き取り、後述する調査嘱託による方法を視野に入れて交渉する他ありません。

開示を拒否する理由

相手方が通帳の開示をしない理由は様々です。

通帳の開示拒否も見越した準備や対応が必要でしょう。

開示を拒否する理由の一つが、預金残高を知られたくない点です。それに加えて、別居直前に大きな引き出しがあったり、その他の金融資産を知る手掛かりが記録されているため、これらの情報を知られたくないことも開示拒否の理由です。

さらに、金融機関の詳細な情報、例えば。銀行の支店名や金融機関名を把握できていない場合、後述の調査嘱託を実施しても調査することができないことがあります。これを見越して通帳の開示を拒否することも考えられます。

相手方が任意に通帳を開示しなければ、後述する調査嘱託などの方法を進めることも検討しましょう。

通帳の開示を拒否する場合の対応

通帳の開示を拒否されても、相手方に通帳を無理やり開示させることは難しいのが現状です。

開示拒否に対して何も対応ができないとなると、通帳の開示拒否をするだけで財産分与の負担から免れることになり財産分与の存在意義が失われてしまいます。

そこで、相手方の意思によらず相手方名義の通帳を開示させる方法として調査嘱託という方法があります。

調査嘱託

調査嘱託とは、裁判所が金融機関等に対して必要な調査を行い回答を求める手続をいいます。

調査嘱託を実施するためには、調停や訴訟手続といった裁判所の手続きが係属していることを要します。

また、調査嘱託により預金残高や口座履歴を調査する場合、金融機関名だけでなく、その支店名まで特定しなければならないのが原則です。調査をする客観的な根拠のない探索的な調査では、裁判所に採用されないことが多いでしょう。

さらに、口座履歴についても、相手方に異存がなければ別ですが、別居直前の口座履歴が分かる範囲でのみ認められることも多くあります。通常、別居前3か月から6か月の範囲となるでしょう。

よって、離婚調停や離婚裁判に至ってもなお、相手が通帳の開示を拒否するのであれば、積極的に調査嘱託を実施するようにしましょう。

弁護士会照会

弁護士会照会とは、弁護士が、委任を受けた案件について、弁護士会を通じて事実を調査し、証拠や資料を収集するための手続きです。

弁護士会照会も、調査嘱託と同様に、相手方の財産関係を調査するための有用な制度の一つです。

また、弁護士会照会は、調査嘱託と異なり、裁判所の手続が係属していなくても利用することが可能です。

ただ、弁護士会照会を通じて銀行等に照会を行ったとしても、相手方の個人情報保護を理由に回答を拒否されることも多くあります。

そこで、弁護士会照会は、調査嘱託と比べると、通帳の開示拒否の対抗策としては実効性に欠ける面もあります。

通帳の開示拒否に対する備え

通帳の開示拒否に対する備えは重要です。

できれば相手方に対して通帳の開示を求める必要がない状況にしめおくことが肝要です。また、仮に十分な準備をせずに別居に至ったとしても、調査嘱託により開示できる程度の情報は得ておくべきでしょう。

以下では、通帳の開示を拒否されることを見越した備えを紹介します。

別居前に通帳の写真を撮っておく

別居する前に、相手名義の通帳を写真撮影しておくことが大切です。

別居してしまうと、相手方が保有する通帳を探したり、見ることが困難となります。

できれば、同居中に相手方の有している銀行口座を調べた上で、通帳の表紙、別居日や別居前数ヶ月の口座履歴を写真撮影しておきましょう。

銀行名と支店名を把握しておく

通帳の写真撮影ができないとしても、どの銀行のどの支店に口座を開設しているかを把握しておくことが重要です。

先ほども解説したように、別居を開始してしまうと、相手方の財産関係を調査することが困難となります。例えば、銀行名は分かっていても支店名まで分からなければ、調査嘱託の申立てが裁判所で採用されません。ただし、ゆうちょ銀行に限っては支店名の特定までしなくても調査嘱託をすることは可能となります。

そのため、同居している間に、相手方が保有する銀行口座に関する情報を得ておきましょう。例えば、通帳の撮影が難しくても、キャッシュカードの写真撮影、銀行から送付されたハガキやDMの写真撮影をするなどしておきましょう。

通帳の開示でよくある相談

通帳の開示に関係するよくある相談を紹介します。

隠し財産の通帳を開示しなければならないのか

配偶者に知られていない通帳を開示しなければならないのかという相談です。

適切な財産分与を実施するためには、互いに全ての財産に関する資料を開示することが必要です。

しかし、夫婦は、全ての財産に関する資料を開示する法律上の義務までは負っていません。ただ、隠し財産の通帳開示を拒否しても、相手方に隠し財産の情報を握られている場合には、調査嘱託を利用されることで、隠し財産の別居時の残高や取引履歴を把握される可能性はあります。

通帳の開示を拒否すると制裁があるのか

通帳の開示を拒否することで、何らかのペナルティを受けるのかという相談です。

通帳の開示をしなければならない法律上の義務を負わない以上、これによる刑事上の責任を負うことは通常ありません。また、単に通帳の開示を拒否しただけで民事上の責任、例えば、不法行為の損害賠償責任を負うことも通常ありません。

子供名義の通帳も開示しなければならないのか

子供名義の通帳であっても、開示する義務はありません。

そもそも、子供名義の銀行預金であっても、預金の内容が夫婦の貯蓄であれば、財産分与の対象となります。他方で、預金の中身が純粋に子供の資産であれば財産分与の対象から外れます。

そして、財産分与の対象となる場合であっても、これまでの解説のとおり通帳の開示を義務付けられません。

預貯金の財産分与の問題は弁護士に相談を

預貯金は、夫婦の共有財産の中でも金額が大きくなることも多いため、相手方の預貯金の残高や口座履歴を把握することは、財産分与を適切に進める上で非常に重要なことです。

当事者間で通帳の開示を求めても、簡単には開示に応じないこともよくあります。調査嘱託の手続についても、調停や裁判手続が係属していることが前提となるため、専門的な知識を求められます。

財産分与が大きな争点となっている場合には、適正な財産分与を実現させるために、早い段階で弁護士に相談しましょう。

まずは、弁護士に速やかに相談しましょう。

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